催眠療法/臨床催眠の種類とその解説



Therapy 催眠療法の「真実」という程のことでもありませんが
催眠暗示」と「退行催眠でトラウマに直面」
という以外にも、いろいろあるみたいです。


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行動療法:症状悪化/維持ループの切断

 行動療法には数多くの手法がある。というよりむしろ、行動療法はこれら(行動主義心理学の)学習理論に基づいた心理介入手法のパッケージであるといえ る。
 行動療法は、精神分析のように過去の体験に焦点を合わせるのではなく、「現在」に焦点をあてる。患者の問題は、現在の状況によって悪化/維持されている と仮定し、現在の状況を分析することで、悪化/維持の働きを切断することで問題解決の方策を探る。この原因論から維持論への転換は、精神分析を批判して登 場した行動療法の特徴であると同時に、その後の様々な心理療法(たとえばシステムズアプローチや解決指向ブリーフセラピーなど)へと受け継がれることにな る新しいパラダイムだった。「問題がなぜ生じたのか」ではなく「問題がなぜ今続いているのか」の視点の移動は重要である。なんとなれば、実のところ「原因 さがし」が功を奏するのは次の場合に限られるからだ。
  1. 原因が特定できる。(原因と問題の因果関係が証明できる。)
  2. もし原因が取り除くことができれば解決に至ることが証明できる。
  3. 実際に原因を取り除くことができる。
医学の中でも感染症(治療)は、この問題解決手法にうまく当てはまった。しかしいうまでもなく、ほとんどの心理的問題においては、問題の原因は1つとは限 らない。そして複数の問題をすべて潰すのは多くの場合不可能であり、かつ原因同士が絡み合っていて見えにくい(時には、ある原因を消すことが別の原因から 生じる問題を強化することさえある)。また過去に生じた原因は、今となっては、どうしようもないことも多い。


@強化のパターン

 「先行条件→問題事象→事後結果」で、事後結果が「よいこと」ばかりであれば、「問題事象」は別に問題ではない。また事後結果が「わるいこと・いやなこ と」ばかりであれば、この事象生起のパターンは早晩なくなってしまうだろう。大抵の場合、事後結果には「よいこと」と「わるいこと」が混合している。しか も、「よいこと」は短期的に生じ、「わるいこと」は長期的に生じるケースがある。多くのアディクト、喫煙や太りすぎにつながる食事なんかがそうだ。短期的 な「よいこと・楽しいこと」「わるいこと・いやなこと」は強力で、(問題)事象の生起を強化する/持続させる。長期的な「よいこと・楽しいこと」「わるい こと・いやなこと」は、ほとんど事象の生起や持続には効果がない。大抵の「問題」とされるものは、手近の快楽・得と長期的な苦痛・損を併せ持っている。逆 にいわゆる「努力」が難しいのは、手近の苦痛・損と長期的な快楽・得を併せ持っているからである。

 したがって「悪い習慣」を変えたり、「よい努力」を続けるには、このパターンに働きかけをしなくてはならない。

 一般に行われる事後結果への介入(働きかけ)・・・・良いことをしたらごほうび、悪いことをしたら罰、というのは、思ったほど効果があがらない。ひとつ には十分に短い時間に(行動心理学は1秒以内といっている)ごほうびや罰を与えるのが難しいからというのがひとつある。「悪いこと」は楽しい。それを罰し ても、それより手前で快楽が味わえる。さっきも言ったとおり、手近のごほうび・罰は強力であり、間があいたごほうび・罰はあまり効果がない。
 逆に先行条件となる状況や環境は持続するものが多いので、実践的には、先行条件を変える方がやりやすいケースが多い。問題行動が起こってから慌てて対処 しなくても、あらかじめ準備しておけるからだ。

@ループのパターン

 「先行条件→問題事象→事後結果」の、アタマとシッポ、つまり 「先行条件」と「事後結果」が重なっている場合がある。へびのシッポをアタマが飲み込む がごとく、当然のごとくループができる。
 ループにはいくつかやっかいな特徴がある。(1)ぐるぐるとまわり事象はより強化され、持続すること、容易にループから抜け出せないこと。(2)「問題 解決の努力」がループの一部を構成することがあること、つまり解決しようと頑張ることで、ぐるぐるループに閉じ込められ、ますます脱出が困難になること。 (3)あちこちで、めたらやったら見られること(ほとんどの長引く問題は、ループを構成していることが多い)。
 

子供が泣く→親が怒る→子供が泣く→親が怒る→ (以下くりかえし)。・・・・エスカレーションするループ

外出恐怖→外出しない→外出恐怖→外出しない→ (以下くりかえし)。・・・・エスカレーションするループ

ループとなれば、どれが原因でどれが結果かを区別するのは無意味である。ループのどこでもいい、どこかで切れば(前後のつながりを変えられれば)、ループ は終わる。少なくとも変化する。エスカレーションするループであれば、変化もまた、最初は小さくとも次第に拡大していくだろう。
 

たとえば(もっと一般的な)社会恐怖(悪循環もの)

 (でていかない)→恐怖→出て行かない→ますます恐怖→(ループ)


 長期化している問題は、何らかのループに入っている。
 行動療法はしばしば「症状を取り除くだけで、根本的な問題は治さない」と言われてきたが、たとえば「恐怖」や「外出しない」といった問題に介入すること で、こうしたループを一端を切り、ループという「根本的な問題」を解決しようとしているのである。


 また行動療法では、問題について話すことではなく、その問題を解消/解決するための方策を患者自身も実行することが治療者によって求められる(これは言 語が通じない相手にも、行動療法が適用可能であることでもある)。患者/クライアントの言葉・態度を受容せよを旨としてきた精神分析やカウンセリングとは 反対に、ここでは治療者も患者に対して積極的に指示を行うことになる。この「受容から指示へ」の転換もまたその後の心理療法へと受け継がれることになる。

 さて、ハルやアイゼンクなどの行動主義の流れに位置する心理学者は、その実験的アプローチによって催眠現象の解明に大きく寄与したが、臨床面でも行動療 法と催眠は関係が深い。
 『催眠面接の臨床』(1995)の中で栗山一八は、「アイゼンク著『行動療法』とウォルピー『系統的減感作法』を買い求めて、勉強を始めた。読んでいく と、この中に書いてある大部分のものは、既に私達が催眠療法の中で行っていることである。それを、もう少しきちんと整理したり、理論付けしたりしているよ うに思われた」と記している。

 条件づけ (conditioning=条件反応が学習される過程)には、古典的(レスポンデントまたはパブロフ型)条件付けと、ソーンダイクが着目しスキナーが定 式化した道具的(オペラント)条件付けがある。
 古典的条件付けは、条件刺激(例えば「ベルを鳴らす」)と無条件刺激(例えば「肉を与える」)を対提示する(同時に示す)ことによって本来、無条件刺激 (ここでは「肉を与える」)に対応していた条件反応(唾液の分泌)を条件刺激(「ベルを鳴らす」)が誘発するようにする手続きである。いわゆる「嫌悪療 法」は、この古典的条件付けを用いたものである。
 オペラント条件付けについては、「おすわり」ができたら犬にエサをやるという例があげられる。つまり「おすわり」という自発的行動に対してエサという報 酬を与えることで、その自発的行動が行われる頻度が増加する。これを強化という。直前の行動の頻度を高める刺激を「好子」(または正の強化刺激)と呼ぶ。 逆に直前の行動の頻度を低める刺激を「嫌子」(または負の強化刺激)と呼ぶ。こうしたオペラント条件付けを用いたものには、たとえば「消去」がある。消去 とは、行動を維持する好子を取り去ったり、保留することによって不適応行動を減らすことである。消去は、比較的ゆっくりと進み、初めの段階では時々目標行 動が増加することもあるが、成功率は嫌悪療法のそれよりも高い。



再条件付け

 ある種の恐怖症は、単純な(かつ「間違った」)古典的条件付けによるものと考えられる。これに対して、別の行動や状況を対提示することで、古い間違った 行動パターン等を取り除くことを再条件付けと呼ぶ。
 たとえばウサギに噛み付かれて以来、「ウサギ恐怖症」に陥った少年に対して、空腹になったときおいしい食事を与えながら、ウサギを少しずつ見せることを 繰り返す。やがて、ウサギに結びついていた不快な感じは、食事の快感に変えられ、恐怖症はなくすことができる。このような偶然による間違った古典的条件付 けによる恐怖症は、比較的容易に取り除くことができる。
 催眠は、この再条件付けのプロセスを容易に運ばせるので、提示の繰り返しが少なくて済む。「催眠療法」による恐怖・不安治療のいくらかは、この再条件付 けが行われていると思われる。


催眠による条件付け 

 催眠を用いた条件付けは、間違った条件付けをなくすためだけでなく、もちろん新しい条件付けをつくるためにも用いられる。
古典的条件付けをつかった「夜尿症(おねしょ)」の治療は有名だが(おねしょを感知するセンサーがブザーや電気ショックを働かし、本人を起こすという嫌悪 刺激を与えるもの)、成瀬が示す例(『催眠面接法』p.201〜202)は、「おねしょをすると目が覚める」という暗示を与えて、おねしょセンサーの代わ りを本人にさせる条件付けをつくるものである。すなわち、条件付け療法のための別の条件付けを催眠暗示で設けるもので、症状とそれを巡る連関を分析してこ うした「玉突き効果」を狙えるようになると、催眠の応用はぐんと広がる。催眠療法の良き古典的事例として、その発想・構成からも学びたいものである。


系統的脱感作法

 系統的脱感作法(systematic desensitization method:系統的減感作法も同じ)は、行動療法の手法の中でも、最も初期に実用化され、現在でも恐怖や不安の除去によく用いられる代表的な手法であ る。またこの系統的脱感作は、行動療法手法の中心を構成する数々の暴露療法(現実暴露(エクスポージャー)、現実フラッディング、イメージフラッディン グ、インプローシブセラピー)の原型ともなった。いずれも古典的条件付けの「制止」を用いたものである。

 系統的脱感作法では、患者は恐怖・不安と競合する反応を使いながら、連続的により不安を惹起する状況へと想像上でさらされる(暴露)。ネガティブな結果 を体験せずに不安を惹起する状況への暴露を繰返すことで、患者の抱える恐怖や不安は次第に取り除かれる(脱感作)。しかし、いきなり患者が恐怖・不安と感 じる状況そのものに直面させては、患者に耐えきれぬ苦痛を与えるかもしれず、しばしば無用な混乱を与えかねない。したがって、恐怖・不安レベルの低いもの から高いものへ順に並べた階層表(ヒエラルキー)をつくり、低いレベルの恐怖・不安から徐々に脱感作を行っていき(系統的)、次第により高いレベルの恐 怖・不安に対処していく。
系統的脱感作法をまとめたウォルピは、当初この方法を催眠下で行っていた。つまり恐怖・不安と競合・制止する状況として、催眠状態がもたらすリラクセー ションを用いていたのである。
やがて被催眠性の低い患者にもこの方法を普遍化するために、ウォルピは恐怖・不安と競合し制止する方法としてジェイコブソンの筋弛緩法を利用するように なった。

系統的脱感作法は注目されて10年しないうちにさまざま批判を浴びた。系統的脱感作法を構成している要素に分解し「この部分だけでも効果があがる」と要素 が取り出されて新たな手法となったり、イメージよりも現実の場面に直面させた方がより効果的だという意見があったり、リラクセーションなしでも不安は消え るという研究結果が次々と提示されていった。そうして、この批判の中で、さまざまな手法が前述の通り派生していった。

催眠を用いた原=系統的脱感作法ともいうべき手法も、もちろん有効であり今でも用いられている。催眠によって、イメージ化の促進(よりリアルにイメージを 体験できる)と、競合・制止反応としてのリラクゼーションの両方が得られるなどの利点もある。
この手法は、患者の外的・現実的な恐怖・不安だけでなく、また過去のいやな記憶や劣等感などの内的な問題についても、用いることができる。たとえば催眠中 に、治療者が安全を保証しながら、ネガティブな記憶や感情を想起するように誘導し、催眠下で直面することを繰り返すと、覚醒時にもそうした記憶や感情に耐 えられるようになっていく。
また喘息などの疾患についても、喘息発作を予感して恐怖が起こる状況、あるいは日常生活の中で不安・恐怖を感じるような対象を特定し、それらの状況/対象 について系統的脱感作法を行うことで、症状を抑制することもできる。

 

潜在感作法と「嫌悪療法」

  コウテラは想像で提示された刺激は、現実の外的刺激と同様に人の行動に等しく作用しうるという基本的仮説を立て、従来の手続きが現実の強化刺激や嫌悪刺激 を用いていたのに対し、想像を用いて提示することによって不適応行動を減少させようとした。これを潜在(カバート)条件づけという。潜在条件づけ法の中の ひとつに潜在感作法がある。潜在感作法では、不適応行動が生起するたびに患者に深い刺激を与え、その行動に嫌悪を条件づけることでその反応生起を抑制する か、その反応を回避する治療法のことである。たとえば患者は、解消したい問題行動をしている状況と嫌悪刺激(吐き気など)の両方をイメージする。
具体的には、他の行動療法と同様に、事前に患者の問題行動についての行動分析を行なう。例えば、アルコール中毒の患者では、飲酒歴、飲酒の程度、飲酒場 所、飲酒の内容、飲酒行動に先行する条件などを明らかにする。その後、治療者が次のようなイメージ条件づけ場面を語る。まず望ましくない行動を行なってい る患者が、それによって嫌悪的結果を体験している場面をイメージ化する。たとえば治療者が胸がむかつくようにありありと描写する。そして今度は、望ましく ない行動が終了して穏やかで快適な感情を体験している場面をイメージ化できるよう描写する。コウテラが喫煙者に対して与えた言葉が次にある。
「私はあなたができうる限り鮮明に想像するよう要求します。私はこれらの状況であなた自身を見ていることを想像するのを望むのではありません。あなたが実 際にその状況にいることを想像するのを望むのです。状況を映像化するだけでなく、例えばあなたが何かをもっていること、イスに座っていることなどを感じる ようにしてください。すべての状況をあなたがそこにいるかのように使ってください。私の選んだ状況はあなたがタバコを吸う状況と関連しています。あなたが その状況にいることを鮮明に映像化し、実際の感覚になろうとすることがとても重要です。」

行動修正のためにイメージを用いる利点としてコウテラは、次の5つをあげている。これらは催眠を臨床で用いるときにも参考になるだろう。
  1. 望ましくない行動を減らそうとするために外的で嫌悪的な刺激を用いると患者が治療からドロップアウトしてしまうことがあるが、イメージを用い た場合には脱落する率が非常に低い。
  2. 行動修正のためにイメージによる強い嫌悪刺激を用いた時、日常場面におけるより強い一般化が起こることがある。
  3. ほとんどどのような状況においても準備と手続きが適用されうる。
  4. イメージは実際の現実によって制限されない。患者が行うことが難しかったり、非現実的である(例:女性をデートに誘う、飛行機が墜落するのを 見る)出来事を起こすことができる。
  5. イメージはセルフ・コントロール手続きとして使うことができる。患者は不適応行動につながる状況に直面した時、いつでも必要なイメージを思い 浮かべることができる。このように、ある行動を変えようと試みる場合について、イメージを用いることの有用性が指摘されている。
 潜在感作法は、(事前の行動分析は省略されがちであるが)ほとんどそのまま(「嫌悪療法」等と呼ばれながら)催眠療法の中で行われている。催眠は、イ メージ化を促進するので、潜在感作法のプロセスを短縮できるかもしれない。


行動を増やす


 これまでは、主として「すでにある(問題)行動」をなくす処方について述べてきたが、いままでにない(あるいは少ない)行動を増やす必要のある場合があ る。というよりむしろ「問題行動の減らすこと」と「望ましい行動を増やすこと」は、多くの場合、互いに結びついており両方が必要なことが多い。臨床的に は、(いわゆる《問題解決》に近く見える「問題行動の減らすこと」よりも)「望ましい行動を増やすこと」に先に手をつけた方がよい場合が多い。「望ましい 行動を増やすこと」に取り組むことで、連鎖的に「問題行動の減らすこと」も少なくない。
 
 行動がない(少ない)のは、(1)わからない(2)できない(3)やる気がない(4)障害がある、からである。この順にチェックするとよい。

(1)わからない→情報を提供する

 目標を達成するのに、何をすればいいか、なぜそれをしなければならないか、どんな場合にやればいいか、どうすれば それができるか等についての情報が欠けているならば、望ましい行動は増えにくい。以上の論点について話し合いを行い、情報提供や説得を行う。
(2)できない→行動を教える
 どんな行動をすればいいかわかっているが、その行動をすることができない(行動レパートリーがない)ならば、当 然、望ましい行動は増えにくい。当該の行動について、見本を示したり、トレーニングする必要がある。
(3)やる気がない→動機付けする
 どんな行動をすればいいかわかっていて、その行動をすることができるのに、行動が増えないなら、動機付けが欠けて いるのかもしれない。行動を行っても、当人にとって「よいこと」(好子)がすぐに起こらないと動機付けとなりにくい。たとえばダイエットの場合、長期には 目標達成(体重減少)ができて「よいこ と」が生じるが、短期には食事を制限することが苦痛をもたらすため、動機付けの点で困難を来しやすい。こうした場合は、短期にも「よいこと」(好子)を追 加してやれば(たとえば、1回の食事制限につき、なんらかの「ごほうび」。目標達成という内的な「ごほうび」も可)、動機付けを補強することができるかも しれない。
(4)障害がある→障害を取り除く
 どんな行動をすればいいかわかっていて、その行動をすることもできるし、動機付けも十分、なのに行動が増えないな ら、外的または内的に障害があるのかもしれない。外的な障害を取り除くためには何らかの作戦/方略を考える必要があるかもしれない。内的な障害(たとえば 恐怖や不安)があるなら、心理療法は力 になれるかもしれない。これには、これまで触れてきた「すでにある(問題)行動」をなくす処方を用いることもできる。


潜在強化法とイメージ・リハーサル

 想像で提示された刺激は現実の外的刺激と同様に人の行動に等しく作用する仮定に基づいて、潜在(カバート)条件づけには、イメージの中でその行動を行っ た時に好子を与える潜在強化法がある。
またイメージの中で行動をやってみる(リハーサルする)ことは、スポーツその他の分野で広く取り入れられているように、トレーニングにとって有用である。 こうしたイメージ・トレーニングやイメージ・リハーサルは、クライアント当人に「行動の結果」を想像的に体験させることで、行動の目的を納得させたり(説 得のツール)、またイメージの中のリハーサルにおいて、当人の内にある内的障害(不安・恐怖)が浮かんでくるのと発見するのにも使える。
 
 イメージ法には、催眠は必ずしも必要でない。しかし(繰り返しになるが)催眠は、イメージの力を促進し、イメージ法のプロセスをスムーズにする。
 

認知行動療法

 1970年前後から行動療法の中にも認知革命と呼ばれる動きが出てきた。目に見えない認知(的行動)をその他の見える行動と同じように考え、行動理論と して統合していこうとする動きである。バンデューラの社会的学習理論に代表されるように、個人が刺激を「どう解釈しているか」の重要性が論じられた。
 同時に行動療法の理論とは別のところでも認知革命の胎動が始まっていた。いずれも精神分析を学び、それに飽き足らなかったベックの「認知療法」やエリス の「論理療法」が、臨床現場から登場した。主として行動療法を行っていたマイケンバウムもストレス免疫訓練という認知的要素を取り入れた治療モジュールを 発展させていた。かれら3人は、三大認知療法家とも呼ばれる。
 そういう動きの中で1970年代後半には古典的な行動療法と認知という発想を取り上げた各種療法が認知行動療法として結びついて来た。もともとベックの 「認知療法」やエリスの「論理療法」は、行動療法の主たる技法を積極的に取り上げていた。セリグマンやラザルスといった行動療法家も積極的に認知的手法を 取り入れていった。「認知行動療法」という表現は、マイケンバウムがその著作のタイトルに用いたのが最初であるが、その頃には、こうした統合についての認 識は心理療法家のなかに広がりつつあった。積極的に治療効果についての実証を積み重ねてきたこともあり、現在では(少なくとも欧米では)最もスタンダード な心理療法となっている。

 認知行動療法とは、出来事に対するクライエントの否定的な考え方(認知)に焦点を当て、そう言った認知(ものの見方、考え方)を再検討し、変えていくこ とを主眼とする。
 否定的な考え方(認知)の内容としては、(1)過度の自責感や罪悪感といった自己に対する否定的な見方、(2)ペシミズムを代表とする自己を取り巻く世 界に対する否定的な見方、(3)絶望感を中心とした将来に対する否定的な見方等がある。
否定的な考え方(認知)のレベルとしては、たとえばベックは、「自動思考」と「背景の仮定」「スキーマ」という風に分けている。後ろにいくほど、より深い レベルにあり、変えることがより難しい。臨床では、より浅いレベルの「自動思考」から変更に取り組んでいく。

  • 自動的思考(automatic thought)
    • ある場面に直面した時「自動的」に頭の中に思い浮かんでくる考えのこと。これは場面特有のものであり、日常生活の中で出くわ す問題となる場面の数だけ多様な自動的思考がある
  • 背景の仮定(underlying assumption)
    • 多様な自動的思考に対して、場面を越えて共通して認められる考え方で、「〜すべきである」、「〜しなければならない」と表現 される思考内容のこと。
  • スキーマ(schema)
    •  個人の中にある、かなり一貫した近く・認知の構えのこと。多様な自動的思考に共通してみられる思考内容で、背景にある思い 込みの背後にあるのがスキーマ。

認知の再構成における催眠の活用

 認知行動療法では、行動療法の技法が、クライアントの考え(認知)を変えるためにも用いられる。行動と認知は互いに結びついているからである。
 行動療法になかった認知行動療法の技法としては、「認知の再構成」と総称される様々な認知的技法がある。

出来事についての認知をかえる

(1)出来事についての認知(自動思考)をかえる、もっともシンプルな認知的手法は、以下のダブル・コラム法である。左右に分けた左の欄に、ある場面に直 面した時「自動的」に頭の中に思い浮かんできた否定的な考え方(認知)=自動思考を書き出す(これは思い浮かんでからできるだけすぐに書き留める方がよ い)。次に、それぞれの認知に対応させて、より現実適応的な考えを右の欄に書いていく。最初のうちは、「自分の考え」が自然なものに思えるので、クライア ント自身で現実適応的な考え(認知)をつくり出すのは、難しい。セラピストからの支援が必要である場合が多い。この段階で、もっと別の手法(たとえば日常 思考記録紙DTR)を使うこともできる。
(2)問題に直結する否定的な考え方(認知)と、それに対応する現実適応的な考え(認知)を特定できるだけでも、症状が改善することも多い。しかし現実適 応的な考え(認知)が「理屈(アタマ)ではわかるが、納得できない」といった状態に留まることも、また少なくない。認知的手法を繰り返したり、新しい考え を現実に試してみる「行動実験」などの手法を合わせて用いることもあるが、ここでは催眠を用いたアプローチを考えてみる。まずクライアントに軽い催眠に 入ってもらう(この場合、中程度の催眠も必要ない)。
(3)そして、まずセラピストが、問題に直結する否定的な考え方(認知)と、それに対応する現実適応的な考え(認知)を、催眠中のクライアントに話して聞 かせる。これを何度か繰り返したら、今度はセラピストが否定的な考え方(認知)を読み上げ、クライアントにそれに対応する現実適応的な考え(認知)を言っ てもらう(最初は、セラピストが口添えしてサポートする)。これを何度か繰り返したら、今度はセラピストだけで、否定的な考え方(認知)を現実適応的な考 え(認知)に置き換えるように(大声で)話してもらう。これを何度か繰り返したら、否定的な考え方(認知)が浮かんだ出来事をイメージしてもらい、そこで (声を出さずに)現実適応的な考え(認知)に置き換えるられるか、イメージリハーサルする。その後、催眠を解く。そして後の面接で、現実の場面でも現実適 応的な考え(認知)に置き換えることができたかを確認する。

根っこにある認知をかえる

(1)出来事に応じて浮かぶ自動思考ではなく、それらに共通する背景の仮定やスキーマを変えることはより難しい。クライアント当人も直接アクセスすること ができないし、抵抗も強い。これには催眠手法のうちでも、エリクソン派が用いる間接技法が有効である。まず面接を何度か行う中で、標的とする背景の仮定や スキーマを特定する。
(2)次にクライアントを催眠に入れる。この段階でエリクソン派の会話による催眠導入を用いるとよい。
(3)説話(エピソード)やメタファーを用いた介入を標的となった背景の仮定やスキーマに対して行う。

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