催眠暗示の原理と作り方

Suggestion 催眠に入れてどうするのか?暗示を与えるのだ
あなたにも暗示文(スクリプト)の作り方を教えましょう。


Home FAQ Model Induction Suggestion Self
Training Therapy
Application
History
Erickson
BookList
OtherEssay
Ethics
WebLinks
Glossary


催眠暗示で何をするか:手段と目的

 世の催眠本の多くが、催眠導入(催眠に入れること)にほとんどのページを割き、その後何をするかについては、ほとんど触れていないのは何故だろう? 催眠(トランス)にさえ入れることができれば、それだけで『催眠ができる』ことになるのだろうか? ある程度の深さの 催眠(トランス)にさえ入れることができれば、相手(被催眠者)は何でも受けて入れてくれるとでもいうのだろうか(そんな馬鹿な話はない)。
 
 催眠暗示 にできるのは、つまるところ「モジュールへの働きかけ」である。たいしたことないとも言えるし、(うまくなるなら)それだけで十分だとも言える。
 そして催眠が目指すのは、ある場合には(催眠療法家の場合)問題の解決・解消であり、またある場合には( ステージ催眠術師の場合)問題の発生・創出である(一時的な知覚異常を引き起こす程度のことだが)。

手段=モジュールへの働きかけ=暗示

目的=問題の解決・解消(時に発生・創出)


 ここでは、暗示による働きかけをどのように使って、目的の達成に結び付けるか? どう組み立てて問題の解決・解消を行うか? 

 最初に「手段」としての暗示=モジュールへの働きかけをどのように行うか、についてまとめよう。
 その次に、「暗示=モジュールへの働きかけ」をどのように用いて、目的の実現=問題の解決(もしくは創出)を行うかに進むことにする。


手段としての暗示:モジュールへの働きかけ

 Induction(催眠誘導)のところで見たように、暗示(のことば)は直接に、あるいは他のモジュールを介して間接に、目標となるモジュールに働きかけることができる。
 簡単な例で、モジュールへの働きかけを行うのに、どのように暗示を行うかを具体的に考えてみよう。

1 バックワード(後ろ向き)に考える

(3)目標と、それに関係したモジュール(とその動き)を、確定する
       ↓
(2)標的モジュールに働きがける中間標的モジュールのいくつかと(その動き)を確定する
       ↓
(1)暗示の効果を上げるために、中間目標以外のモジュールのスイッチを切るプロセス(いわゆる催眠誘導)を加える
 

(例題)……「相手を微笑ませる」暗示

(3)まず目標は、相手を「微笑ませる」ことである。
    これに関係したモジュールは、随意筋モジュールのうちの表情筋モジュールだろう。

(2)表情筋モジュールに働きかけることのできるモジュールにはどんなものがあるだろうか?

  • まず言葉(モジュール)は、意識をバイパスしても、随意筋モジュールに直接、働きかけることができる。
  • 他に、当然のことながら、感情モジュールも、表情筋モジュールに働きかけることができるだろう。楽しいと感じれば、微笑むように筋肉が動く。
  • 間接的に、記憶・イメージモジュールに働きかけることもできる。「楽しい思い出」「おもしろかった出来事」を想起させられれば、ここから感情モジュールを通じて、表情筋モジュールに働きかけることができるだろう。いわゆる間接暗示だ。
(1) どのモジュールのスイッチは切ってもかまわない/切った方がよいだろうか?
  • 感情モジュールのうちでも、恐怖、怒り、不安などのモジュールは切っておいたほうがいい。
  • またあちこち動き回ってもらう必要はないだろうから、大方のには休憩してもらおう。
  • 疑心暗鬼になってもらっては、なかなか笑ってはもらえない。イエスセットなどで、抵抗モジュールにはしばらく休んでもらうに限る。

こんな風にして、暗示でやるべきことのリストができる。

2 暗示文を構成する

「暗示でやるべきこと」リストができれば、あとは考えたのとは逆の順番に、配列していけばいい。

(1)中間目標以外のモジュールのスイッチを切る
       ↓
(2)中間目標モジュールに働きがける
       ↓
(3)標的モジュールに働きがけ、目標を達成する

(例題)……「相手を微笑ませる」暗示

(1)リラクゼーション、イエスセットなどをつかって、中間目標以外のモジュール(恐怖、怒り、不安などのモジュール/表情筋以外の筋肉モジュール/抵抗モジュール)のスイッチを切る

(2)(a)他の筋肉モジュール(b)感情モジュール(c)記憶モジュールを通じて、表情筋モジュールに働きがける

(3)表情筋のモジュール(標的モジュール)に働きがけ、微笑ませる。
 ここでは、「微笑み始めた」という相手の状況を言葉にして伝え(つまりフィードバックして)、反応を強化すること。これによってさらに抵抗モジュールのレベルが低下して、いわゆる被暗示性が高まる(次の、より高次のモジュールへの働きがけへつながる)。

3 暗示のことば

 ここまでで、「何を」「どんな順番で」並べればよいかが明らかになった。つぎに、具体的にどんなことばを使うかを考えよう。

 最初のうちは、暗示文(スクリプト)は、実際に紙に書いてみることをお勧めする。あとで細かいところをチェックすることができるからだ。同じ内容を伝えているつもりでも、ちょっとした言い回しで、ずいぶんとちがった結果が出ることがある。できれば、用いる前に暗示文(スクリプト)を書き留めておけば、その後の反応と照らし合わせることもできる。こうした努力は、上達を早めるだろう。

 暗示の言い回し(文体)については「肯定文で」「現在形で」とか「具体的に」「くりかえせ」とか、いろんな本に書いてる。

(1) 何回繰り返せばいいか?

 各モジュールは、働きがけが始まってから、反応するまで、結構な時間がかかる。そしてこの時間は、個人差がある。
 繰り返しや言い換えは、まず必要な反応時間をかせぐために必要である。したがって「何回繰り返すか?」は、相手によって、そして反応に応じて、ということになる(古典催眠では、3〜4回繰り返せ、なんてことをいう)。
 もちろん繰り返されたメッセージはより強く入っていくということもある。しかし、暗示の目的は「メッセージ」の刷り込みではない。必要な変化を引き起こすことだ。同じ言葉の繰り返しが「スイッチを切る」ことにも使われたことを思い起こそう。不要なメッセージの強化は、結局ははじき出される恐れがある。

(2)どうやって繰り返せばいいか?

 同じメッセージを伝える複数(2、3個でもかまわない)の言い回しを用意しておくとよい。相手の反応を見て、いくつかの言い回しを循環させていく。
 しかし、我々は同じモジュールへの違ったアプローチがあることを知っている。ある程度、続けたら、別の働きかけに移行する。

(3)「具体的」とはどういうことか?

 事物を豊かに形容すること。しかし形容詞は用いるのに注意が必要だ。「赤い」などはまだましだが、「大きい」や「すばらしい」は使用者の判断が強く含まれる。この判断に相手が同意しない可能性もある。
 この危険を避けるには、相手の言葉やイメージを活用すること、そのためには相手から質問や事前面接を通じて、より多くの情報を引き出しておくことである。

(4)なぜ「肯定文」「現在形」を使うのか?

 「否定形」や「過去形」は、複雑なメッセージの伝え方だ。とくに日本語の場合は「否定形」「過去形」が語尾で決まる。最後にきて、思い浮かべていたものが覆されることもある。暗示には情報処理によけいな負担を要しない直裁な言い回しが好ましい(もちろん抵抗を回避するために真の意味を隠した隠喩的表現も用いられる)。

(5)なぜ「許容語」「政治家ことば」を使うのか?

 「許容語」とは、英語で言えばcan(〜できる)やmay, might(〜かもしれない)、「過去形」は、複雑なメッセージの伝え方だ。とくに日本語の場合は「否定形」「過去形」が語尾で決まる。最後にきて、思い浮かべていたものが覆されることもある。暗示には情報処理によけいな負担を要しない直裁な言い回しが好ましい(逆に催眠導入には処理に負担をかける表現や真の意味を隠した隠喩的表現も用いられる)。


4 暗示の原則

 この節の最後に、暗示をつくり、そして使うのに、気をつけるべき事項を、「原則」の形で列挙しておこう。

(1)ラポールと協働関係の樹立 Establish Rapport and a cooperative relationship

 催眠 は、術者の「働きかけ」だけでは成立しない(その意味では「催眠者」という言い方、あるいはOperator(施術者)との言い方には、誤解を招く可能性がある)。催眠 は、術者と被術者の協働作業である。
 暗示も一方的な働きかけでは完結しない(催眠 テープやCDの利き目がいまいちな理由である)。相手の反応を引き出すこと、少なくとも相手の反応を待つこと、相手の反応に応じて、スピードや口調を、あるいは暗示のことば自体を変えていくこと、相手の体験やボキャブラリーを暗示に組み入れていくことなどが、大切になる。
 なにより暗示の文言ばかりに注意を払って、目の前の相手を見ていないようなのは失格である。「クライエントは、天井にではなく、前にいますよ」。

(2)前向きの期待を創造する Creative positive expectancy

 手だれの催眠術師は、おそらくどんなに才能豊かな新人であってもかなわない。被術者からの信頼が違うし、術者自身の自信も段違いだから、だ。「この人なら治る」「この暗示なら効く」という被術者側の期待こそ、最大の暗示である。
 ここから引き出せるのは、自信を持って暗示を行うこと、である。しかし権威催眠の時代ならいざ知らず、今は現代催眠の時代である。「〜できるかもしれません」「たぶん〜なっていくでしょう」と言い切らない(相手から抵抗を受けにくい)表現が使われやすい。しかし、こうした表現をむやみに使うと、単なる「自信のない催眠家」と受け取られてしまう(エリクソンや現代催眠をかじった初心者が犯しやすい)。
 自信をもつ(Confident)ことと権威づける(Authoriative)ことは違う。

(3)反作用の法則 The law of reversed effect 

 意志の力や意識的な努力は、目標実現に役に立たない(!)、それどころかしばしば目標の実現を邪魔してしまう(!!)、というのがこの原則(法則)の主旨である。インポテンツやオルガスム、それに不眠などがよくその例としてあげられる。だからこそ、暗示の出る幕がある、とも言える。
 この原則は、暗示をつくるとき、「意志」や「意識」に働きかけるよりも、「想像力」に働きかけた方がいいことを教えてくれる。たとえば、「手がかじかんできます」というよりも、「手を雪(か氷水)の中に入っていることを思い浮かべてください」の方がよい、ということ。

(4)繰り返しの原則:注意集中の原則 The law of concentrated attention: repetition of  suggestions 

 催眠の古典時代には、暗示のことばは3〜4回そのまま繰り返されるのが普通だった。
 やがて同義語や同義フレーズ(言い換え)で繰り返しを行うように工夫されるようになった。繰り返すにしろ、まったく同じ言葉ではなしに、ちがった言葉や違った言い回しを使う、ということである。
 さて、エリクソン以後、 現代催眠の時代に入ると、繰り返しそのものがあまり行われなくなったかのように見える。じつは、これは前段階の「違った言い回し」での繰り返しの発展形である。違ったやり方でのくりかえし、つまり、たとえばメタファーやお話で間接的に伝えたものを(種まきしたものを)、さらに直接的な暗示のことばで伝える、といったことが行われる。

(5)連続的接近の原理 The principle of successive approximations

 催眠者も、そして被催眠者も、しばしば急ぎ過ぎる。今すぐトランスに入れ/入りたい、今すぐ暗示が効いてほしい/今すぐ効かないならダメだといった性急さは、どちらのものであっても益なし。高い山を、数歩で登り切ろうとする無茶にも等しい(しかし被催眠者クライアント、初心者の催眠者は、しばしば、その無茶をしようとする)。
 大切なのは時間をかけることだ。暗示への反応がすぐに得られないならば十分に待つこと。変化がゆっくりすぎるというなら、ステップをさらに細分化して試みること。
 催眠者のペースでなく、被催眠者のペースで事を進めること。そのためには素人催眠術士やステージ催眠家を彷佛させる「権威暗示」は避けた方がいい。「あなたはすぐに〜なるだろう」「5分以内に〜なるでしょう」「あなたが目覚めるまでに、痛みは消えているでしょう」などなど。暗示に対する反応は、被催眠者それぞれであって、早い人も入れば、遅い人もいるだろう。エリクソニアン風の「許容的な言い方」なら、こんな風に言い換える。「あなたはすぐに〜になるかもしれませんし、もっとゆっくりそうなるかもしれないし、もっとはやくなるかもしれません」などなど。
  

(6)優勢の原則 The law of dominant effect

 暗示と強い感情を同時に体験すると暗示の効果が高まる。また、それ以前に暗示があったとしても、感情と結びついた暗示は古い暗示を帳消しにする。
 たとえば、新しい技術を学習しているときは、目的達成への熱意が強いので、集中の法則よりもそちらが優先する。ここにバスケット・ボールをはじめたばかりの少年がいるとしよう。彼はシュートの練習をしているが、 ボールがはいる回数よりもはずれる回数のほうが多い。同じことのくりかえしが定着するのなら、この少年はボールをはずす達人になるはずだ。しかし彼は練習を重ね、やがて成功する回数のほうが多くなる。それはなぜだろう。 「ボールを入れたい」という意気ごみや熱意は強い感情である。強い感情と結びついた目的は優勢となつて、潜在意識はこちらの命令を遂行しょうと努める。そして肉体はうまくシュートした体験をコピーして、失敗のほうを忘れる。

(7)「鼻先のニンジン」の原則 The carrot principle

 いやがるロバを無理やり引っ張って小屋に入れることはできない。けれど、鼻先にニンジンをぶらさげれば、彼は自然と前へ前へと進んで行くだろう。
 この原則は、被術者の動機と、暗示が目指すゴールとを、結びつけるべきだと教えてくれる。

(8)プラス暗示の原則 The principle of positive suggestion

(9)プラスの再強化の原則 The principle of positive reinforcement

(10)受容とyes-setを創造する Creating an acceptance or yes-set

(11)相互的トランスと、暗示の受容の確認 Interactive trance and confirming the acceptability of  suggestions

(12)トランス承認の原理 The principle of trance ratification

(13)暗示のタイミングとトランスの深さ Timing of suggestions and depth of trance

(14)散りばめと埋め込み暗示の原理 The principle of interspersing and embedding suggestions

(15)個人化と利用についてのエリクソンの原理 Erickson's principles of individualization and utilization

(16)節約の法則 The law of parsimony


目的の実現=問題の解決(創出)のための暗示

 モジュールへの働きかけとしての「暗示」を把握したことで、我々はいわば「武器」「ツール」を手に入れた。
 次は、目的の実現に向けて、この「武器」「ツール」をどう使っていくか、だ。無闇に刃もの(武器)やトンカチ(ツール)を振り回しても、破壊的な結果は得られるかもしれないが、問題解決には覚束ない。
 では、問題解決には、どうすれば(どのように働きかけを組み立てれば)よいのだろうか?
 

1 嫌悪暗示の限界

 よくあるタイプの暗示を用いた嫌悪療法(禁煙したい人に 「タバコが吸えなくなる」 「タバコが不味くなる」 といった暗示を与えるもの)は、現在の問題行動(ここでは喫煙)は抑制できても、別の問題行動(禁煙には成功もののストレスがたまって過食症になるなどの症状の転移)が生じる可能性がある。
 症状をめぐる状況(ここでは「ストレス」)がそのままであり、「ストレス解消」が必要となれば、喫煙という行動が抑えられても、その代わりとなる行動(ここでは「過食」)が求められ、やがて置き換わることは必定である。

2 問題構造の分析

 そこで問題(=改善したい行動・信念)と、それぞれの先行条件、事後結果を見極めよう。

  先行条件→問題→事後結果

 我々が注目する問題(行動や症状)は、長く連なる系列の中の、ひとつの事象である。かならず何か(ひとつとは限らない)が先んじて起こり、また何か(ひとつとは限らない)がその後に起こる。

 「問題」となる行動や思考パターンも、それ単独では生じないし、持続しない。
 「問題」が確定できたら、それに先行する事象(先行条件)やその後に生じる事象(事後結果)も含めて確認すること。それによって「問題」のコントロールがより容易かつ効果的なものになる。必ずしも因果関係がつかめなくてもよい(つかめることは多くないし、動かしがたい事象なら他を探せばいい)。
 たとえば喫煙の場合なら、「イライラ→喫煙→イライラおさまる」だから、先行条件の「イライラ」を減らせば喫煙自体も減らすことができるかもしれない。また吸っても「イライラ」がおさまらないなら、これまた喫煙自体が減るかもしれない。」の

 催眠 暗示にとっては、先行条件や事後結果にも視野を広げることで、ターゲットが増える(つまり標的にできるモジュールが増える)。これは暗示に使える素材(ネタ)が増えることを意味する。
  1. 先行条件(ここではストレス)自体の生起回数(確率)を減らす。あるいはコントロールできる自信・能力をつける。
  2. 問題行動(ここでは喫煙)を、望ましくないものにする(たとえば「タバコをまずく感じる」など)。
  3. 事後結果の中の望ましい結果(ここではストレス解消)をより小さく・弱くし、一方事後結果の中の望ましくない結果(健康の低下=息切れ、肺ガンの可能性情報)を大きく・強くする。
 また先の症状転移についても、一定の対策が取れる。喫煙から過食症になるなどの症状の転移を「先行条件→問題行動→事後結果」の図式で書けば、以下の通りとなる。

問題の転移
 
 症状の転移を避けるための戦略が、いくつか考えられる。
  1. わるい転移ではなく、よい転移を目指す。たとえば問題行動(ここでは喫煙)を、ストレス解消に結びつくがよりよい代替行動(たとえばスポーツ)へと転移させる(行動に焦点)。
  2. 明示的に禁煙以外のストレス対処法を示さなくとも、「ストレスに対処できている自分」を暗示する(事後結果に焦点)。
  3. ストレス耐性を上げる暗示を合わせて行う(先行条件に焦点)
  4. 複合的な成功をしている事後結果(禁煙に成功して健康になり、かつストレスもない自分)を暗示する。

こうして、より多様/多面的な働きかけが可能となり、相手や状況によって切り替えたり、いろんな働きかけを重ね合わせて効果を増強することができるわけである。 実際には、上記の多くの働きがけ・暗示候補の中から、事前インタビューやテストで、反応の高かったモジュールやアプローチを勘案して、関連があり効果がありそうな「働きかけ」から選んでいく。

 さまざまな働きかけを表にまとめると以下のようになろう。


先行条件→
問題事象(行動・思考)→
事後結果
喫煙の場合
イライラ
眠気など
喫煙
イライラおさまる
眠気おさまる
(息切れ、健康悪化)
ターゲットとなるモジュール
感情モジュール
覚醒モジュールなど
味覚モジュール
呼吸モジュール
など
感情モジュール
覚醒モジュール
呼吸モジュール
など
関連モジュール
(と「働きがけ」)
・イライラを減らすためには、感情モジュールへ働きかけるために
(a)イメージモジュール(楽しげなイメージ、ストレスにうまく対処しているイメージなど)
(b)問題解決モジュール(実際にうまく対処できるとの暗示など)
(c)筋肉モジュールへのリラックス(ストレスの結果、筋肉が緊張し、よけいイライラするので、そのループを切る)
など
・タバコを吸いたくなくするために
(a)味覚モジュールに働きがけてタバコの味をまずく変える
(b)習慣モジュールに働きかけて、喫煙から別の好ましい習慣へ転移させる
(c)ニコチンが果たしていたリラクゼーション効果を大体できるイメージや自己催眠方法を教授する
など
(a)喫煙で健康が害するイメージ
(b)禁煙で健康が回復し、さまざまなよい面がでてくる具体的イメージの体験(こっちの方がよい)
など


生活の中の逆=暗示

 問題解決の暗示は催眠中に行うことができるが、我々の生活の中には、それを無効にする強力な逆=暗示が存在することが多い。
 当人のマイナスの自己暗示がそれだ。
 しかしマイナスの自己暗示も、理由なく生じる訳ではない。

 悪い自己暗示は悪い行動を動機付け、悪い行動は悪い出来事が生じる可能性を高め、悪い出来事は悪く解釈されがちであり、悪い解釈は悪い自己暗示として定着することが多い。

自己暗示の悪循環

 すなわち、自己暗示ー行動ー出来事ー解釈ー自己暗示……の連なりは、悪循環を形成している。自己暗示は、自らを実現する予言のようなものである。このループに捕われたが最後、「ほら、やっぱり悪くなる」と暗示の「証拠」を自らがつくり出すことで、暗示を強化してしまう。多数の失敗例の中に、ほんのわずかな数の成功例が差し挟まれても、「そんなものは例外だ」とスルーされてしまっては、自己暗示は持続し覆されないだろう。このループこそが自己暗示が強固な理由である。


 しかし悪循環をつくるループであればこそ、どこかに「裂け目」を入れることができれば、ループを回す強い力が、逆にループを解いていってくれる。ループはどこで切ってもいい。切り方は4通りある。
  1. 出来事→解釈→自己暗示→行動→
  2. 解釈→自己暗示→行動→出来事→
  3. 自己暗示→行動→出来事→解釈→
  4. 行動→出来事→解釈→自己暗示→
暗示の働きかけ

まとめると以下のようになるだろう。

 もっとも的確かつ効果的な暗示は、問題構造(ビリアードなら玉のそれぞれの位置関係)を見極めた上で、狙いやすいターゲット(モジュール)に対して、連鎖反応が最終的な目標に到達できるように、働きかけが構成されたものである。これにはクライアントとの面接等が必要であり、まったくレディ・メイド=既製品向きではない(たとえば催眠テープやCDなど)。
 



メタファーの使い方・考え方


 具体的に誰かの問題を催眠で解決しようとすると、すぐさまメタファーの必要性を痛感する。

 というのは、問題を抱えた当人はすでにいろいろ手を尽くしていることが多いので、正面突破的なアプローチは、意識的にも無意識的にも「そんなのもうやってるよ」という拒絶に合いやすいからだ。

 たとえばダイエットの暗示に、「やせた自分をイメージしてください」「運動している自分をいめーじしてください」「食べ物がまずく感じられます」とやっても、大抵のことは 催眠なしでも可能なため、すでに近いことを実施済みの場合は「ああ、またか」とならないとも限らない。長年のチャレンジと失敗の繰り返しに、ダイエット暗示には不可欠に見える「体重」「やせる」「食べない」などのキーワードに過敏に反応する人もいる。

 こうした意識の抵抗を潜り抜けるために、一見わけがわからないメタファーが有効です。しかし「わけのわからない」メタファーをどう使えばいいのでしょう?達人たちの使用例を見ると、関心すること半分、なんでこれで効くのかわからないこと半分、ではだろうか?

 それには、遠回りのようだが、それにはシステムで考えるのが、役に立つ。

 最初のシステム論者だったライプニッツは、アナロジーよりもむしろメタファーで考えた。アナロジーでは、二つのものが互いに似ているから関係があると考える(牛と牛のような顔をした人)。メタファーでは、もの同士は似ても似つかないのに、(ものとものの間の)関係同士が似ているがゆえに関係付けられると考える。たとえばライプニッツは、微積分法の記号の発明者だが、数学の記号は、それが表す内容と少しも似ていない。むしろ、数学記号同士の関係が、記号がそれぞれ表す量同士の関係と対応しているのである。これはメタファーの本質からの素直な推論の先にあるものだ。

 メタファーを操るには、メタファーと、メタファーであらわしたいものを対応づけるのではなく、メタファー同士の関係と、あらわしたいもの同士の関係を対応づけるべきだ。先のダイエットの例なら、ダイエットにまつわるさまざまな要素の関係(たとえばストレスと過食の関係、活動量とエネルギー消費の関係、そして体重「超過」という認識と気分との関係などなど)と、我々が使うメタファー同士の関係を対応させればよい。しかし関係全てがぴったり重なり合うものを探すのは難しい。そのときは関係の一部を取り出してみる。太ることとストレスと過食は、それぞれ強め合うポジティブフィードバックのループを作っている。3つの項(登場人物)をもつ、フィードバックループなら探すのはたやすい。たとえば、リラクゼーションと血行と温感はどうか?リラクゼーションが進むほど、血行がよくなり、温感を感じる。そして温感自体がリラクゼーションを進めるように、これらもまたポジティブフィードバック・ループを形成している。

 文字で起こすと面倒くさいが、普段から物事の間にループを発見しておけば(それは単純極まりない直線的因果関係で物事を捉えること=「犯人探しの思考」に対する、有力な免疫になる)、たったいまクライアントが話したことの中にも、使えるループを発見することができる。



暗示スクリプトを分析する


 暗示スクリプト作成の上達の近道は、既存のスクリプトを分析/分解(リバース・エンジニアリング)することだ。
 この練習は実践的でもある。「あまり利き目がなかった」スクリプトを、あなたや誰か向けに書き換える(チューニングする)ことにもつながるからだ。
 
 ここではハートランド(Hartland, J.;1971)の自我強化暗示を例に分析/分解(リバース・エンジニアリング)をやってみよう。
 今回は、とくに暗示の構成に焦点を合わせてみたい。

 とりあえず軽い催眠トランスに相手を入れたら、次のように暗示する。(1)〜(57)の数字は区切りである。そこで一呼吸おくこと。

ハートランドの自我強化暗示


(1)あなたはとてもリラックスし眠いので (2)私が述べることはすべて (3)とても深く無意識の中に沈んでゆき (4)深〜く長〜く続く印象をあなたに与えるでしょう (5)すると、私が無意識に語りかけることは (6)あなたの考え方や行動のしかたに大きな影響を与え始めるでしょう (7)私の言葉は、あなたの無意識にしっかりと組み込まれるので (8)この部屋 から出た後 (9)私がいなくても (10)家庭や職場で (11)力強くかつ確実に (12)あなたの思考、感情、行動に (13)大きな影響を及ぼし続けるでしょう。 (14)あなたはとても深く眠っているので (15)私があなたに「こうなってゆきます」と言ったことはすべて (16)私の言う通りに実現するでしょう (17)そして、「こう感じます」といった感情もすべて (18)その通りに体験できるでしょう (19)この深い眠りの間に (20)身体は強く、良好になってゆくでしょう (21)あなたは、もっと、もっと鋭く、敏感になり (22)物事によく気づきエネルギッシュになるでしょう (23)疲れてしまったり、ぐったりすることはなくなり (24)また、落ち込んだり、くよくよすることもなくなるでしょう (25)毎日毎日あなたは自分のことや、身の回りで起こっていることにとても興味、関心を持ちはじめるので (26)自分の性格や容姿について思いわずらうことから完全に自由になるでしょう (27)自分のことで、くよくよ考えたり、悩んだりすることが、ますます少なくなり (28)困難に出会ってもすいすいと乗り越えてゆくことができるでしょう (29)日に日に、あなたは強くなってゆき (30)心は安らかで、穏やかで、落ち着いてゆくでしょう (31)動揺したり、恐れたり、不安になったりすることもなくなり (32)うろたえることもないでしょう (33)あなたは、よりいっそう明晰になり、集中力もついてきて (34)やっていることに没頭することができるようになり (35)他のことに気を散らされなくなるでしょう (36)その結果、あなたの記憶力は飛躍的に高まり (37)物事をありのままに見ることができるので (38)本質をしっかりとつかむことができるでしょう (39)日に日に、あたなの気持ちは乱れることがなくなり (40)かつ落ち着いた状態で、平静な状態になってゆくでしょう (41)そして (42)肉体的にも、精神的にもリラックスし (43)緊張が全く消えてなくなってしまうでしょう (44)すると (45)自信があふれてきて、自分の能力を信頼でき、失敗を恐れることなく (46)不必要な不安を感じることもなく (47)物事にうまく対処できるでしょう (48)そして (49)日ごと、あなたは、ますます自律した人間になってゆき (50)やりたいことがいかに困難であっても (51)自力で (52)やり遂げることができるでしょう (53)そして (54)日ごとに、あなたは、今までよりずっと幸せで、安心感に満たされた気分を感じることができるでしょう (55)これら全てのことが、私が述べた通りに (56)すぐに、確実に、完全に実現するので (57)あなたは、なおいっそう幸福になり、充実して、ますます世界がばら色になるでしょう。


 暗示の内容は、それだけ見れば、時に荒唐無稽である。もちろん、何もしてない中学生に「来週、ノーベル賞をもらえる」というのは、暗示でなくホラである。しかし何十回もダイエットに失敗した人に「あなたは理想的な体重になれる」といきなり言っても、おそらく信じてはもらえないだろう。催眠 暗示として、適当なレベルの目標であっても、被暗示者にとっては「そりゃ無理だ」と思う内容であることが多い。でなければ、催眠 なんかなくとも、当人は自力でとっとと目標に向かって突き進んでいるだろう。

 では、どうやってその「荒唐無稽」な暗示を行うのか。一歩一歩進むしかないが、その「進み方」が暗示の構成の仕方になる。

暗示の構成

基本パターン:

(すでに承認された)前提
  ↓
接続詞(そして/〜ので…/すると…)
  ↓
次の暗示




……これを積み重ねる。

  1. 前の暗示を「事実=実現したもの」として、前提に使って、さらに飛躍する。
  2. 最初は納得しやすく、控えめな暗示(必要なら、さらに当たり前Truismのレベルからはじめる)。
  3. 次第にエスカレート(催眠抜きでは、荒唐無稽なまでに=これが速さと効き目の秘密)。

(スタートとなる事実=前提)(多くの場合)「あなたはリラックスしている」
  ↓↓
 前提+暗示の積み重ね × 繰り返し
  ↓↓
(ゴール=暗示の目標)(複数のルートで攻め上る)ちらばって、絡み合いながら


ハートランドの自我強化暗示の場合
 (スタート)リラックス
 (ゴール)自信増加、不安・悩み減少、社会適応能力向上
である。
 複数のゴールに向けて、互いにからみ合いながら、複数のルートで攻め上ることになる。いくつかを例示しよう。
(矢印「→」のところで、「そして」「〜なので」「〜すると」などの接続詞が使われていることを確認しよう)。



(ルート1)リラックス→私の言葉が深く入っていく→無意識に組み込まれる→大きな影響を及ぼしつづける→言うとおりに実現する→感じるとおりに体験する……暗示を強化する暗示

(ルート2)深い眠り→身体は強く良好に→エネルギッシュ→疲れない、ぐったりしない→困難をすいすい越えていく→肉体的にもリラックス→自信があふれてきて自分の能力を信頼

(ルート3)深い眠り→鋭く、敏感に→物事によく気づく→いっそう明瞭→集中力もつく→記憶力も飛躍的に高まる→自分の能力に自信→物事にうまく対処

(ルート3b)物事によく気づく→身の回りで起こっていることに興味・関心を持ち始める→自分の性格・容姿を思い煩わない→やってることに没頭、他のことに気を散らされなくなる→ありのままに見ることができる→本質をしっかりとつかむ→気持ちは乱れることない、落ち着いた状態→精神的にもリラックス→自信あふれる

(ルート4)自信あふれる→自分の能力に信頼→失敗恐れない→不必要に不安にならない→困難であっても自力でやりとげる→幸せで、安心感を感じる→いっそう幸せで充実

すべての暗示文のつながりを示したのが、次の図である(クリックすると拡大する)。

自己強化暗示の構造図


受容とずらし—変化の作法


 外的条件(環境)や行動課題や認知の変容を経て、上記のような問題の強化パターンやループ・パターンは改善され得る。
 しかし、ここでは、催眠暗示をつかってこれらを変えていく(改善していく)方法について考えていこう。

 大好きなこと、長年続けた習慣に対して、いくら被暗示性が高まっているとはいえ「やめろ」「よくない」とだけ暗示しても、反発される公算が大きい。いまでも「たばこをまずく感じる」「食べ物を食べてもおいしく思えない」というベタな暗示を使う人もいるらしいが、困ったものである(効いたとしても喫煙が過食に、過食が別の依存にすりかわるだけのことも多い)。また、心のどこかで「こいつ、わかってない」と拒絶が働くことも少なくない。
 問題をより広い枠組みでみるために、問題構造の分析をやったが、ここではよりミクロなレベルでの対策を考えよう。

 もっとも有効なのは、当人が持っているものを活用することである。そのために催眠療法として使えるのが「受容とずらし」の手法である。

 ある行動や思考パターンを「問題」とみなすのはひとつの見方であって、ひょっとすると別の見方もあるかもしれない。とくに、その行動・思考が続いているなら、何か「よいこと」を引き起こしている可能性だってある。消極的なものかもしれないが、それがあるおかげでさらなる悪化が避けられているのかもしれない。
 しかし、そのままでいい、というわけではない。
 その存在(理由)を「受容」し、しかし機能(働き)の向きを少しだけ変えてもらう(「ずらし」)、のが現実的である。当人にとっても、働きかける側にとっても、より小さい力ですみ、ダメージも少ない。
 「受容とずらし」は、先行条件、問題事象自体、事後結果のいずれを変化させるのにも使える。

スプリッティングとリンキング

 
 受容とずらしには、いくつものやり方があるが、(1)既存の要素を分割する(スプリッティング) (2)既存の要素に新しい要素を結びつける(リンキング)と、大きく二つに分けると考えやすいかもしれない。もちろんスプリッティングとリンキングは多くの場合、同時に用いられる。何かを新しい要素と結びつけるためには、古い結びつきを切り離す必要があるだろうし、逆もまた真であるから。
 
 
既存の要素を分割する(スプリッティング)
既存の要素に新しい要素を結びつける(リンキング)
・問題事象を「よき意図」と「悪しき結果」に分ける→その意図を生かす別の行動・思考へと移行させる
・悪い事象(先行条件)に、よい事象を結合する→イライラをリラックスの引き金として暗示
・良い事象(事後結果)に、悪い事象を結合する。→喫煙のリラックスに、イライラ感を結びつける(あまりすすめられない=まずいタバコ暗示と同じ)

 結合(リンキング)は、いろんなレベルで行うことができる。
 被暗示性が高まっている状態では、結合するもの同士の間には、密接な関係がなくともよい。催眠暗示ではよく「腕があがると、もっと催眠が深まります」「呼吸に意識が集中してくるにつれて、リラックスしていきます」といった表現をよく使うが、これも結合である。「腕があがること」と「催眠が深まること」の間には、どんな因果関係もない(それどころか、本来的にはほとんど無関係である)が、これが被暗示性が高い状態では受け入れられる。こうした無関係なものを結びつけることが「結合」である。
 たとえば、初心者の催眠施術者は自信がないものであり、その不安が声や表情、身振りに現れて被術者を不安にさせることがある。この不安(悪い事象)を、自信(よい事象)に結びつけることができる。もちろん「あなたが不安になればなるほど、自信が生まれます」というのは無理やりだ。しかし、適当な中間項をはさんでいけばどうだろうか? 私は不安である→不安が相手に伝わって、相手も不安にさせてしまっている→不安という面では、私は相手に影響力を持っている→影響力は、技術や自信の有無とは無関係である。→自分の不安をコントロールできれば、相手の不安もコントロールできるだろう→私はうまくやれば、相手に必要十分な影響力を行使できる=自信。。。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な、詐欺師的屁理屈かもしれないが、こうしたシーケンスは利用できる(そして今のはかなりの部分、真実である)。リハーサルをイメージさせて、その中で感じる不安を、自信に結び付けていく暗示が考えられる。
 当人が持っているもの(うまくやった経験といったポジティブなものから、逃げ腰であったり不安であるというネガティブなものまで)結合の素材にすることができる。
 

分割(スプリッティング)もまた、さまざまなレベルで行われる。たとえば「意識」と「無意識」、「顕在意識」と「潜在意識」といったものも、この分割のひとつである。「意識は気づいていませんが、無意識はこれを覚えています」といった風に使われる。
「過去」と「現在」、「現在」と「未来」の分割もよく使われる。「遊びに行きたいあなた(私)」と「いまは勉強すべきであると思うあなた(私)」といった分割もよく使う(悪魔と天使)。痛みを感じる部分とそれ以外といった空間的分割や、痛みがひどい時とそれほどでもない時といった分割もある。人間の注意は一方的に傾きがちだ。分割のテクニックは、偏りのない方向へ注意を調整する力も持っている。


Home FAQ Model Induction Suggestion Self
Training Therapy
Application
History
Erickson
BookList
OtherEssay
Ethics
WebLinks
Glossary




























inserted by FC2 system