催眠についてのFAQ(よくある質問と答え)

催眠についてのよくある質問とその答え
入門者向けの章をつくり忘れたので、この章を活用して下さい。
催眠初体験の方の不安を取り除くのにも有用です。


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  1. 催眠にかかるとどうなるの?
    1.  たいしたことは何も起こりません。しかも、多くの人が催眠に入っていると言ってあげても信じてくれません。20世紀最大の催眠家にして心理療法家であったミルトン・H・エリクソンが、自覚のない被催眠者にも確認できるようにと、腕浮揚というテクニックを開発したぐらいです(これはちょっと言い過ぎです)。 
       催眠にかかったからといって、意識を失う訳ではありません。催眠は、睡眠でも無意識の出現でも別人格への切り替えでもありません。「私は催眠にかかっていませんでした。だってあなたの言うことが全部聞こえましたから」と言う人がいますが、催眠にかかったからといってなじみのない不思議な世界へ行けたり、不思議な気分(トリップ状態)になるわけではありません。被催眠者は、催眠中に身のまわりで起こつていることすべてに気づいているものです。むしろふだんよりも感覚が鋭くなるくらいです。集中力が高まっているという人もいます。多くの人が感じる感覚があるとすれば、体や心がリラックスした感覚でしょう。

  2. 催眠で人を自由に操れるの?
    1.  できません。
       催眠を恐れる人の中には「人にあやつられたくない」と思っている人がいます。これは催眠に対する典型的な怖れであり、迷信です。でも、この迷信こそ、少なくない人を催眠に引き付ける原因だと思われます。そんなおいしい話はないのよ。
       催眠にかかっていても、やりたくない指示には従わないことは早くから(それこそ「催眠術」という呼び名もないころから)知られていました。催眠中であっても、主導権はつねに本人の手にあります。先に述べたように周囲で何が起きているかも完全に気づいていますし、意志決定の力も奪われることはありません。その人が平常の意識状態でいるときに同意できない内容は、催眠状態でも、やはり同意させられません。そんな指示を出したとしても、被催眠者は即座に拒否するか、催眠から目覚めてしまうかのどちらかになります。


  3. 催眠から目覚めなかったらどうしよう?
    1.  だいじょうぶです。
       催眠は睡眠とは別物で、だから「目覚める」という言い方はほんとは正しくありません。また「催眠にかかったまま」になる人はいません。ときどき催眠中のリラックスした状態がとても気持ちよくて、ふつうの意識状態に戻りたくないと思う人はいます。「3、2、1……さあ、目覚めてください」といっても被催眠者がすぐに応じない場合は、本人がなんらかの理由で目ざめない選択をしているのです。そんなときは、相手に理由を聞くとよいでしょう。それから再び解催眠暗示を与えます。また放っておいても、大抵は「ふつうの睡眠状態になったあとに自然に目ざめる」か「催眠から覚めたくなったら勝手に自分から目覚める」のどちらかになるので心配はいりません。でも余計な後催眠暗示が残らないように、解催眠はちゃんとするのがエチケットです。

  4. 私も催眠にかかりますか?
    1.  かかります。
       催眠のかかりやすさ(=被催眠性)は、かつては「かけられる人による」と考えられていました。
       現在では、受ける人の動機付けや術者との信頼関係、催眠にかかって何かいいことがあるかどうか、術者が感情転移や抵抗を処理するやり方等々によって、かなり左右されることがわかっています。これらは、他の心理療法の効き目を左右する要因と同じです。要するに、大切なのは術者の(催眠術の腕というよりは)心理療法家としての信頼と実績(笑)、その基盤になる経験とトレーニングであるという訳です。
       もちろん、受ける側の個人差はあります。おおざっぱに言うと半分くらいの人が中程度の深さの催眠に入ることができて、あとの1/4ずつが、もっと深い催眠に入るか、もっと軽い催眠までしか入らないかのいずれか、だと考えられています(10%の人しかかからない、子供しかかからないなどとほざいているサイトがありますが、大嘘です)。未だに「催眠にかかる人間は、心の弱い人間だ」と考えている人がいるそうですが、こっぱ恥ずかしい迷信です。そういう「心の強い」人ほど、催眠商法にコロっと引っ掛かってしまいます。
       もっとも昔と違って、催眠の深さは、それほど催眠療法の重要なファクターではなくなってきています。さらに言うと。このおおざっぱな結果は、実のところ被催眠性が直線的には計れない多元的なものだということから来ています。従来の被催眠性の研究は、客観性を高めるために(というか、1次元の量で割り出すために)催眠導入の方法を一定に決めて行っていました。どの催眠導入が効くかは、その人も持っている記憶や体験、脳の配線具合などによって様々です。そのあたり柔軟な対応ができる催眠療法家に当たられるのが、成功を高めるコツかもしれません。
       エリクソンは、「催眠がかからないクライアントがいるのではない。頭のかたいセラピストがいるだけだ」というようなことを言いました。肝に銘じたいものです。


  5. 私も催眠をかけることができますか?
    1.  できます。勘のいい人は、1000円台の催眠入門書に書いてあるとおりにやってみるだけですぐできてしまうし、そうでない人もある程度あきらめずに練習すればできるようになります。
       催眠誘導(人を催眠状態に入れること)は、はっきりいって簡単なスキルです。だもんで「催眠誘導についてだけ書いた催眠本」が市場に溢れかえることになります(こうした事情は、日本にかぎらないようですが)。
       大切なのは、催眠にかけてから何をするか、なのですが。そのあたりについて書いた本は(すくなくとも日本語では)あまり出回ってません。
       「練習してもできない」という人は、多くは「自分がやること」に手いっぱいで、「あいてのことを見ていない/考えていない」ことが多いです。催眠は実は、「誰かにかけてもらうもの」「誰かにかけるもの」というよりも、「催眠状態に入るのを誰かに助けてもらうもの」「助けてあげるもの」と言った方がいいくらいです。そのあたりに気をつけるとよいと思います。くわしくは、トレーニングのページを参考にして下さい。


  6. 催眠は危険では?副作用が心配です
    1. 催眠にもリスク・副作用が確かに存在します。よく言われるのは次の8つです。
      1. 催眠状態が、目的以外のこと(例えばセラピストを信頼している女性クライアントを誘惑するためなど)に意図的に悪用される危険性
      2. 催眠下で生じる関係が、クライアントを催眠家に依存させてしまう危険性(逆に催眠家がクライアントにぞっこんになる危険性)
      3. 忘れていた記憶が催眠中に呼び起こされ、トラウマ的に直面してしまう危険性
      4. 潜在していた精神病が出現する危険性
      5. ある症状が別の症状に転移してしまう可能性
      6. パニック反応が生じたり、精神的外傷(トラウマ)を残すイメージが生じたりする可能性
      7. 誤解のために生ずる混乱
      8. クライアントを覚醒させる困難や不完全な覚醒によって生ずる問題
        (よくいわれるのは、トランスにいれた催眠術師が催眠中に突然死んでしまったりしたら、被術者はずっと目がさめないのでは、というもの。実際にはそんなことはないのだが)

       完全に誤解である最後のものを除いて、a.〜g.は、実のところ、すべての心理療法で起こり得る副作用ないし危険性です。心理療法の目的は、クライアントの(行動や感情や感覚などの)変容ですが、この目的を遂げられる程度に強力なテクニックは、相手をぐどき落としたり、相手の行動をある程度方向付けたり、また精神を危機におとしいれたりすることに使えます。相手をほれさせるのに(あるいは堕落させるのに)催眠は不要です。逆にトレーニングを受けた心理療法家は、これらの副作用をさけ、危険性をきちんと認識し正しく対処できるはずです。
       実際のところ、催眠のリスクは、すべての心理療法のリスクと、質においても、また量においても、ほぼ同じであると言えます。問題が生じたほとんどは、心理療法のトレーニングが不十分な人が、手のつけられない感情転移や抵抗にあってしまってオタオタといったもので、大抵はそれ以前に催眠に入らなかったり「何の効果もない」ということの方が多いです。
       素人カウンセラーが少なくないように、素人催眠家も少なくありません(何しろ催眠に入れること自体は、至極簡単なことですから)。日本のように、催眠についての偏見が強い場合、さまざまな病院やクリニックを巡ってきた人が「最後の砦」「治るんだったらなんでもいい」「これが駄目だったら、祈祷か宗教しかない」と切羽詰まってかかる人も少なくないので問題が生じやすいかもしれません。また、アメリカだったら訴訟され負けて散々な目に遭うところを、日本だと相手が泣き寝入りというケースが多いので、大馬鹿ものたちが安易に他人のこころをいじることがなくならない、とも言えます。もうひとつ、「催眠に入らないと話にならない」と術者も被術者も催眠トランスに固執するケースも少なくないので、けい動脈圧迫法など、危険な催眠導入が用いられている場合がないではないのもリスク要因です。
       催眠療法は無免許でできるうえ、催眠自体が「いかがわしい」イメージがあるせいか、いかがわしい療法家でも及第点を与えてしまう人たちが多いのは困ったことです。自分の心身は自分で守りましょう。数少ないですが、ちゃんとした心理療法家で「催眠も使える」まともな人を探した方が無難です。

       

  7. 催眠でどんなすごいことができるの?
    1.  まずはっきりしていることは、催眠にかかっても、その当人が元々できること以外の/以上のことは、何一つできません。
       甘い甘い夢を打ち砕いて申し訳ありませんが、事実です。バーバーら研究者の周到な実験、および他の研究者による度重なる追試によって、催眠は、他の動機付けが引き出す以外/以上のことは何一つできないことが確かめられました。
       催眠の有用性は「何ができるようになるか」よりも「いつできるようになるか」にあります。「元々できること」と言っても、緊張したり不安になったりして「いつもの力」を出し切れない場合はいくらもあります。催眠はむしろ、その人が元々持っている力(できること)をより容易にコントロールするのに役立つものだと言えます。
       「わかっちゃいるけどやめられない」「こんなのこといつもならできるのにできない」ことが人間には山のようにあります。そうしたことには催眠は役に立つかもしれません。これって、十分すごいことではないでしょうか。


  8. 何をいまさら催眠なんですか?
    1.  確かに、心の薬が発達し、心理療法もずいぶんマシなものになってきた昨今、「不思議大好き」な人に媚びる以外に、催眠をつかう必要なんてなさそうに思えます。
       しかし、催眠はまだいくつかのアドバンテージを持っていると思います。ひとつは、勝負が早いことです。たとえばまともな精神分析は(日本ではあんまりやられてませんが)通常、何年も(何百回もの)セッションが必要です。最近の心理療法は、10回セッションで3ヶ月といった具合にずいぶん短期化しましたが、それでも1/4年です。うまくいけばそれでもいいのですが、うまくいくかいかないかが3ヶ月後というのは、試行錯誤とすれば、ずいぶん迂遠に思います。実際、結果がでるのが早ければ、それだけ試行錯誤が進んで、療法自体の改良も進むはずです(長期療法は、進化しづらいのです)。
       もうひとつは、催眠の適応が、いわゆる「心の病」にかぎらないことです。それぞれの心理療法は、「心の病」に対処するのに急で、それ以外の心のニーズには対応しようとしていません(そんな暇があったら、もっとeffect sizeを上げるように頑張るのが先です)。催眠は(とくにこのホームページで採用した催眠のモジュール・モデルでは)、心身の各部分に対する働きがけスキルの総称に近いものになります。
       もうひとつは、催眠は、他のほとんどの心理療法や心理テクニックと併用可能であることです。すごく時間がかかる精神分析を催眠の活用でスピードアップしようとした催眠分析はすでに1940年代に取り組まれていました。あとで見ますが、認知療法で自動思考に対して擁護思考がなかなかなじんでいかないときに、催眠で後押しといった利用する催眠認知療法なんてのもあります。脱感作法は、行動療法と催眠の伝統的かつ有名ななカップリングです。暗示療法は、催眠なしでも可能ですが、通常はこれこそ催眠療法とでもいった風に、催眠と組み合わせて用いられています。
       最後に催眠を学ぶことは、あらゆる臨床家に人の心についての理解と洞察、面接のスキルとセンスを格段にアップさせると思います。個人的な希望をいえば、催眠についての情報や学習機会がもっともっと普及して、あらゆる医師、心理士、カウンセラー、ソーシャル・ワーカーなどが当たり前に修得してるもの、「心のプロ」のたしなみのひとつ、になることを私は期待してます(もちろんほとんど医者がまともな医者に、ある程度の心理士が「心のプロ」といえるくらいに、なってもらう方が先かもしれませんが)。


  9. 結局、催眠とはなんなんだ?
    1. いろんな定義があります。ほんと、千差万別。


      なお、このホームページでの「催眠」の考え方については、Modelの項で説明しています。



おまけ:催眠理解度テスト


1.催眠は、超常現象である。(はい/いいえ)

2.催眠は、睡眠の一種である。(はい/いいえ)

3.催眠にかかるのは、意志の弱い人である。(はい/いいえ)

4.催眠にかかった人は、明かしたくない秘密もしゃべってしまう。(はい/いいえ)

5.リラックスすることは、催眠にかならずしも必要ではない。(はい/いいえ)

6.絶対に覚醒しないような催眠はない。(はい/いいえ)

7.催眠にかかった人は、催眠中の出来事を覚えていない。(はい/いいえ)

8.催眠にかかりやすいタイプの人がいる。(はい/いいえ)

9.催眠にかかった人は、ふつうなら不可能なことでもやってのける。(はい/いいえ)

10.催眠には危険はない。(はい/いいえ)

11.催眠にかかりやすい人は、プラセボ(有効成分のない偽薬、思い込みで効く)も効きやすい。(はい/いいえ)

12.催眠にかかる人は、全体の3分の1程度である。(はい/いいえ)

13.催眠にかかるかどうかは、催眠家の腕次第。(はい/いいえ)

14.電球を1個かえるのに、何人の催眠家が必要か?(____人)


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