催眠には、古典催眠、セミ古典/科学的催眠、エリクソン催眠(現代催眠)がある。日本の術者が、ほとんど古臭
い古典催眠の域。ビジネス向け改悪でしかないNLP野郎が、恐れ多くも、エリクソン催眠を自称している始末。
これは、ほんとのエリクソン催眠を本だけで学べる奇特な一冊。
もう少しお金がある人は、ビデオ『エリクソン催眠・心理療法トレ−ニング・プログラム/初級 全3巻』,1997,亀田ブックサービスを
(催眠関係の馬鹿だかいDVDやらを考えると、この値段は破格!)。講師のギアリー氏、すごい髪型です。
合間のジョークもすごいです。
Robert Anue『Zebu: The Hypnotic
Language Card
Game』(Robert
Anue, 1992)
Jamie Smart 『Ericksonian Hypnosis Cards』(Wordsalad
Publications, 2006)
Jamie Smart 『Nlp Coaching Cards』(Wordsalad Publications, 2006)
Jamie Smart 『Irresistible Influence Cards』(Wordsalad
Publications, 2006)
Jamie Smart 『Instant Wealth Cards』(Wordsalad
Publications, 2007)
Jamie Smart 『Instant Happiness Cards』(Wordsalad
Publications, 2007)
エリクソン催眠を教えていた人が、クラスルームで使うように作った、「遊びながらエリクソン催眠が見につい
ちゃう」カードゲーム。
何でもないアイデアなのですが、こういうのを実際に作って売ってしまうのがイイです。
Zebuの方はずっと品切れでアマゾン高値のせいで、ほとんど似たようなカードがもっと分かりやすいタイトルで出てました。リーズナブルな値段です。と
いうか、その程度の値段が相当のシロモノだと思います。他にもこの人、Nlp Coaching Cardだとか、いろんなものを出してますね(笑)。
成瀬悟策『催眠面接法 POD版』,2007, 誠信書房
「催眠の全てがあるといっても過言ではない」本書が、POD(Print On
Demand)版として出版されました。少し時間はかかりますが、本書のような良書が確実に手に入るようになったことは喜ばしいことです。
この本を読むと、あとの日本の催眠本のほとんどすべてが、曖昧で頼り無く思えてくるのはホントです。
臨床系で催眠を使おうという人は、まず絶対読んでいます。読んでない人はとんでもなく駄目か不遜な催眠家です(たとえばメアドをたくさん取得してたの
か、何人もになりすまして、自著のカスタマレビューを何本も書き込んでいる催眠家などの本はうっちゃっておいてかまいません)。
ジェイ・ヘイリー『アンコモンセラピー—
ミルトン・エリクソンのひらいた世界』,2000 , 二瓶社
20世紀最大の催眠家(多くの催眠現象について莫大な研究を行った科学者(研究者)であり、また数多くの技法
を開発した実践家であり、全米中を実演して回った普及者でもあった)、かつ最高の心理療法家であるミルトン・H・エリクソンの名を、世に知らしめた書物。
著者ヘイリーはベイトソンらとともにエリクソン相手に行った長時間のインタビューを下に、この書をまとめた。
いわゆる催眠についての本ではないが、催眠家としてしかエリクソンを知らない人は、この案内書によって、エリクソンがそれを遥かに越えた存在であること
を知るだろう。心理療法にたずさわる者は、この書から多くの謎と問いを手にするだろう。そのたったひとつを解くことでも、得られるものは測り知れない。
読みにくい部類の本ではないが、容易に読み解ける書ではない。ある時はヒントを探して、ある時は次の段階へと至る階梯を得るために、いずれにせよ繰り返
し読むことになるだろう。
蔵内宏和,前田重治『現代催眠学 : 暗示と催眠の実際』,1965,
慶応通信
日本ではとてもめずらしい精神医学者による催眠学書。数少ない、日本産催眠本でお勧めできる浮ついたところの
ない手堅い一冊。古いけど必読(古書店で、わりと簡単に見つかる)。
栗山一八『催眠面接の臨床』,1995, 九州大学出版会
人間心理および心理療法について「ずぶの素人」だった著者が、「日本一の名医」とまで言われるまでになったそ
の経緯を、自らの手で書き記したもの。催眠療法がうまくいかず(難しい患者がつづいて)落ち込み、あるいは全快を伝えに最訪してくれた患者に感動し、さら
に勉強への熱意をたぎらせる。
その文章の手は素朴だが、よき先達やよき患者に、ひとりの町医者が文字どおり育てられていく様に、深く感動する。いや、ほんといい話なんだ、これが。
悩みながら成長しようとしているすべての臨床家に捧げたい名著。
ウォルバーグ『催眠分析』,1996,新興医学出版社
翻訳は新しいが、原書は古い(1940年代)。この本のように訳されてない催眠の名著は数知れずある。つまり
英語を避けると、ハルもギリガンもデ
イブ・エルマンもウァ
イゼンホッファーも読めないままになる、ということ(ヒ
ルガードやバー
バーはかろうじて「催眠名著シリーズ」(誠信書房)で邦訳があったが、どちらも入手困難。シリーズもこの2冊を出したきりで中断)。催眠の鎖国に
陥らないためにも、もっとちゃんと訳されてほしい。もっとがんばってほしい>研
究者のみなさん。
ヒルガード『催眠感受性』,1973, 誠信書房
こちらは翻訳されたのは決して新しくないが、「催眠名著シリーズ」の
第1冊目にふさわしいセレクション。『ヒルガードの心理学』の、あのヒルガードが、アメリカ心理学会の会長もつとめたアメリカを代表する心理学者のひとり
が、スタンフォード大学に催眠研究の拠点を設け、研究に打ち込んだのは忘れてはならない事実である。この著は、それまでの科学的催眠研究を一冊にまとめあ
げた充実の一冊。自称催眠家があれこれ疑問に思ったり、怪しげな自説でごまかしていたりするようなことは、この本に紹介される研究のなかで、ほとんどすべ
て解決済みである。逆にこの本を知らずに、催眠をやったり催眠について語ったりすることは、せっかく先人たちが明らかにしてくれた知見を全然知らずに、そ
うしていることに等しい。
バーバー『催眠』,1975, 誠信書房
こちらは「催眠名著シリーズ」の第2冊目を飾るセレクション。催眠
にできるようなことは、すべて、催眠なしでできるということを、卓越したアイデアに富む実験と、執拗な追求心でもって実証した「非状態派」の記念碑的著
作。四半世紀以上前に、こうした著作が出され、しかも翻訳されていることをまるでしらずに「催眠の素晴しさ」を解く連中のおめでたさに、軽く驚愕しておこ
う。
催眠を「殺した」バーバーの数々の実験のアイデアは、実のところ、催眠でないような催眠として、エリクソンが駆使したテクニックに類似するものも少なく
ない。エリクソンの死後、ヴァイゼンホッファーは「エリクソンは催眠でないものも、催眠に見せる天才だった」と非難めいたコメントをしているけれど、「催
眠殺し」のバーバーをも飲み込んで、「それも私に言わせれば催眠だよ」と快活にいうであろうエリクソンが想像できる。
バーバーを知ることは、催眠のくだらなさと、その向こうに広がる(伝統的催眠では到達できなかったであろう)可能性を知ることである。
エレンベルガー『無意識の発見:力動精神医学発達史』,1980,弘文堂;
¥5,600(上)
¥6,600(下)
催眠の歴史は押さえておくべき。そうすれば、なんで催眠がこんな扱いを受けるのか、よくわかる。
精神分析の歴史の本と思われているきらいがあるが、前半はほぼ催眠の歴史である。
また、フロイトの影に隠れてあまり知られていなかった、はやりの乖離性障害に関してはこちらの方が重要になる「もうひとつの無意識論」を展開したジャネ
について,詳しく紹介した最初の本でもある。
一柳廣孝『催眠術の日本近代』,1997,青弓社;¥2,400
催眠の歴史は押さえておくべき。そうすれば、なんで催眠がこんな扱いを受けるのか、よくわかる。こっちは日本
について。
催眠がどのように、「いかがわしく、かつ、エロティックに受け取られていったのか」や医学の国家制度化が進む中で、催眠の本籍を医学と心理学が奪い合っ
たり、医学に取り込まれず在野に残ることになった催眠がどのように弾圧していったか、それに対してどのように催眠が「宗教」などに身をやつしていったかな
ど、催眠の「今」につながる話が満載。
催眠の過去と現在、表と裏を知るために一読したい。
吉永進一編『日本人の身・心・霊 : 近代民間精神療法叢書』全8巻, 2004,
クレス出版;\99,750(税込)
吉永進一編『日本人の身・心・霊 : 近代民間精神療法叢書II』全7巻, 2004,
クレス出版;\96,600(税込)
吉永進一編『催眠術の黎明:近代日本臨床心理の誕生』全7巻, 2006,
クレス出版;\94,500(税込)
これらは、『催眠術の日本近代』に登場するような黎明期の催眠文献
を採
録したもの。
『日本人の身・心・霊』には、村上辰午郎『精神統一 心理実験』から高橋五郎『幽明の霊的交通』や桑原俊郎『精神霊動』など、
『日本人の身・心・霊II』には、メスマー著、鈴木万次郎訳の『動物電気概論』から佐々木九平『催眠術に於ける
精神の現象』、木村駒子『観自在術』など、
『催眠術の黎明』には、はじめて催眠記事が載った『哲学会雑誌』催眠関係記事(第1巻)から、「国会医学会雑誌」に掲載された医学者、心理学者、法学者
らの論文をまとめた『催
眠術及ズッゲスチオン論集』(第4巻)、また大日本催眠術奨励会長であった小野福平の著作(第6巻;実は彼の『
催
眠術治療精義』は国会図書館の「
近代デジタル・ライブラリー」
で読めます。さらに 福来友吉『催眠心理学概論』(明38.6)や
竹内楠三(訳編)『実用催眠学』『催眠術矯癖自在』や『千里眼』『近世天眼通実験研究』などなど50点あまりの文献が見れます。)や、村上辰午郎『最新式
実験催眠術講義』(第7巻)まで、催眠の日本近代史に輝く文献を収録。こんな企画が実現するなんてすごい。みなさん、図書館に入れてもらいましょう。