ところで認知療法の特徴の一つに、面接が構造化されていることがあります。つまり、似たようなパターンで治療面接は進められるということです。
構造化されているからこそ、時間を有効に使うことができ結果として短い時間(回数)で効果を上げることができます。
また構造化されているからこそ、心理療法なのにマニュアルをつくることができます。マニュアルをつくることができると、治療技術の進歩が独り占めされず、
いろんな人の努力(効果研究や過程研究)が治療技術の進歩に繋がります。一人の天才が登場するまで待つのではなく、多くの経験の末にたどり着くのでもな
く、過去の研
究者や臨床家の努力の肩の上に立って、後から来た者は先に進める訳です。
実際、認知行動療法にはたくさんのマニュアルがあり、新しい療法の登場は実質的にはマニュアルが作られることによって生じます(マニュアルができ て、その療法の開発者でない他の治療者たちが、多く の人たち相手に一貫した手続きでもって治療するからこそ、その効果を薬物療法や他の心理療法などと比較することができる訳です)。
また認知行動療法には数多くの技法がありますが、「○○療法」といわれるのは、複数の技法を組み合わせた治療パッケージとでも呼ぶべきものです。
認知行動療法では、コラム法など技法そのものに注目が集まりがちでしたが、複数の技法が、何を目的にどのように組み合わされるのかが分かれば、ある特定の
技法(たとえばコラム法)をイコール認知(行動)療法だと勘違いすることも避けられ、またそれぞれの技法についての理解もより深まるように思います。
もう一つ、もっと事情に明るくない方の中には「心理療法はすべてカウンセラーとおしゃべりすることだ」と思っている人もまだいるそうなので、そう
じゃないという例示になるかなと考えて、このコーナーは書きました。
さすがにマニュアルそのものを示すことはできませんが、だいたいの流れというか「あらすじ」のようなものはお示しできるかな、と考えました。
「あらすじ」であっても、いろんな認知行動療法の技法やTipsが、どんな場面で使われ生かされているのかが示せれば、トータルとして「認知行動療法って
のはいったい何をすることなんだ」というのが少しは分かりやすくなるかもしれません。
よく知られる精神疾患ごとに「あらすじ」を並べてみましたが、あらかじめ言ってしまうと、基本的なところはどれも同じです。
認知を変えることは、行動、感情、生理(状態)を変えることに、
行動を変えることは、認知、感情、生理(状態)を変えることに、
感情を変えることは、行動、認知、生理(状態)を変えることに、
生理(状態)を変えることは、行動、感情、認知を変えることに、
それぞれつながる。
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSDの認知行動療法 | 解離性障害(多重人格障害) の認知行動療法 |
ステップ | やること | コメント |
1−1 | 診断のための質問。 最初に、心理テストでうつの度合いをチェック |
心理テストをいやがるクライアントもいる。そんなときは、気分の悪さを 100点満点で何点?といった主観的得点で代用することもできる。 |
1−2 | うつ病と認知療法の簡単な説明。とくにA(出来事)→B(思考・信念) →C(結果:行動や感情)について、クライエントに理解してもらう | 認知療法の考え方や疾患のモデルについての理解が高いほど、治療効果が
高いことが知られている。 一通りの説明の後、理解を確かめる質問をしたり、クライエントの言葉で認知療法のモデルについて説明してもらうこともできる。 |
1−3 | 全体のテーマ、最終目標の設定。生活上の問題の中から今回の治療の中心 となるものを、話し合って決める | 今後数回(8〜12回)つづく面接を通して、何を達成したいか、何を変
えたいかを、セラピストとクライアントの間で共有しておく。 セッションは時に暗礁に乗り上げそうになることがあるが、そのたびに、ここで決めたテーマや最終目標は導きの灯になる。 |
1−4 | 宿題を決める(初回は軽いものを、次第に手間がかかるがその段階ならク
ライエントになんとかできそうなものをホームワークの課題として出す。 次回 の面接には、できてもできてなくても(途中でも)成果物をもってきてもらう |
たとえば認知療法のパンフレットを読んできてもらう、初回面接を録音し ておいたテープを次回の面接まで毎日聴いてもらうなど。 |
1−5 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 |
このためにクライエントにノートを取ってもらうのもよい。ノートには、 日常で気付いたことなどを書き込むことも勧められる。治療終了後も繰り返し読むことでクライエントを支援できるものになる。 |
ス テップ | やること | コメント |
2〜n−1 | 毎回、最初に、心理テストでうつの度合いをチェック | 1回目からn回目まで、ひとつの表やグラフにBDI等の得点を記録して
いく。 毎回の進度を確かめることは、クライエントの動機づけに大きく関わる。 |
2〜n−2 | 宿題の確認と検討。 | 宿題が途中までしかできていなくても褒め、クライエントが習得しつつあ
るスキルと結びつけて宿題の出来を評価する。 クライエントがあまり(ぜんぜん)宿題をやってこなかった場合には、宿題の設定がまちがっていたことを謝ることが時には必要かもしれない(クライエントが 自分を責めないように)。 ぜんぜんやってない場合を含めて、宿題のどこがどのように難しかったかを尋ねることは、クライエントの理解を確かめ、認知療法のスキルを習得するよい機会 に結びつけることができるかもしれない。それを今日の話し合いのテーマにしてもよい(もちろん宿題の検討はそこそこにして、クライエントの現実の問題を テーマにしてもよい)。 |
2〜n−3 | 今日の話し合うことを決める。 毎回、小さくとも一つ一つ問題を解決できれば、クライエントの動機付けはまし、対処スキルも身に付けられる。 |
一方で具体的な患者の問題を素材にしながら、一方では認知療法の基本的 なスキル(出来事と感情の切り分け、自動思考の発見、合理的思考(かわりの考え)づくり等)を学ぶ機会としても用いる。 |
2〜n−4 | 宿題を決める(初回は軽いものを、次第に手間がかかるがその段階ならク
ライエントになんとかできそうなものをホームワークの課題として出す。 次回の面接には、できてもできてなくても(途中でも)成果物をもってきてもらう |
今日試した認知療法の基本的なスキルを自分一人でやってみる気になれる
ような課題が選ばれる。クライエントに「これならできる」と思ってもらうために、面接中に、一通りセラピストといっしょにやってみる。それから、クライエ
ント
だけでやっ てみてもらう、などの工夫をする。 たとえば7コラムなら、まずは最初の3コラムだけを埋めてみる練習をセッションでしてから3コラムを書 いてみる宿題を出す。 次は最初の5コラムを 埋める、その次は7コラム全部……、と課題は一挙にではなく分割し、クライエントがやり遂げられるような課題の出し方、動機付け、を工夫する。 |
2〜n−5 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
ステップ | やること | コメント |
1−1 | 診断のための質問。 自記式質問表などでアセスメント |
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1−2 | 恐怖症(不安)のメカニズムと エクスポージャーの治療原理の説明。 |
恐怖(不安)を引き起こすものからの回避行動がますます恐怖(不安)
を増大させる、というメカニズムを説明する。 エクスポージャーの原理=逆に恐怖(不安)を引き起こすものに直面(暴露)することは一時的に恐怖(不安)を大きくするが、回避行動をとらずそのままでい ると、やがて恐怖(不安)のレベルは小さくなっていくことについても、説明する。 ここでもクライエントが説明を理解できたかどうか、質問したり、クライエントの言葉で理解したことを説明してもらうことで確かめることが大切。 |
1−3 | 治療の最終目標を設定。生活上の問題の中から今回の治療の中心となるも のを、話し合って決める | 恐怖(不安)に対する回避行動からクライエントの活動範囲や活動量、ま
た活動のレパートリーは強く制限されていると考えられる。 したがって目標は「(今はできない)○○ができるようになりたい」や「(病気になる前にはできていた)○○ができるようになりたい」といった形になる。 |
1ー4 | 恐怖(不安)度階層表を作成する | 恐怖(不安)を引き起こすものに直面していくことになるが、最初はあま
り難しくないものからチャレンジしていくことになる。 そのためにクライエントが恐怖(不安)を感じる場面をリストアップして、それ恐怖(不安)の度合いの低いものから高いものへ並べたものをつくる。これが恐 怖(不安)度階層表である。 恐怖(不安)度階層表はセラピストとクライエントが協力して作成するが、恐怖の場面のリストアップやリストアップされたものを順番に並べ替えることを宿 題としてもよい。 |
1−5 | 不安対処訓練や認知の再構成などを行う。
最初のエクスポージャーで不安症状がさっと霧消すれば言うことは無い
が、なかなかそうもいかない。とくに人間相手の社会恐怖の場合、相手の反応が予想外で、不意に不安/恐怖に襲われることがある。 |
不安対処の訓練としてリラクセーションや呼吸法,気晴らし法、再焦点付
けなどがある。 その場ですぐにできることではないのでセラピスト同伴のエクスポージャーや診察室でのロールプレイの中で、セラピストの助言のもとに対処法を 実際にやってみる(リハーサル)する。 また認知の再構成として、REI法(Rational Emotion Imagery)=不安・恐怖となる場面を想像して、不安・恐怖に浸り切り、「確かで不安・恐怖は感じるがこんなものか」と思えるような自分への 言葉掛け を考え実行する、などの認知再構成法を練習しておくことも不安・恐怖への対処法となる。 自己教示(自分への声かけ)とセットになったストレス免疫法なども同様に使える。 |
1−6 | 課題を決めて宿題を出す。 | 不安対処訓練を身につけるには練習が必要なので、最初のうちはこれを宿題にするとよい。 また途中まで作りかけた恐怖(不安)度階層表を完成させてもらうことのもよい宿題である。 |
1−7 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 このためにクライエントにノートを取ってもらうのもよい。 |
ス テップ | やること | コメント |
2〜n−1 | 前回から今回までの出来事や宿題(不安対処訓練やエクスポージャー)に ついて聞く。 | |
2〜n−2 | セルフ・モニタリング表を確認する。
エクスポージャー課題を出してあった場合は、その結果と治療の効果を評価する。 |
エクスポージャーは恐怖(不安)を減じさせる治療の中心になる。効果は
大きい
が、クライエントにとっては厳しい課題であり、課題ができないことや、エクスポージャーがつらすぎて治療からリタイアする場合もある。 エクスポージャーが実施できた場合には最大限の賞賛で、その行動を強化する。 不完全にしかできなかった場合も励まし、どこに問題があったかについて検討する。 階層表のうちで強すぎる刺激を選んだ場合は、セラピストが謝り、より軽い刺激についてのエクスポージャーからやりなおす必要があるかもしれない。 |
2〜n−3 | 不安対処訓練や認知の再構成などを行う。 | 不安対処訓練の中には、1回の面接での練習では、身につけることが難し いものがある(リラクゼーション法の一部、REIやストレス免疫法)。しかし一度身につけると効果は大きく、今後のクライエントの人 生の中でも役立つスキ ルとなるので、練習の機会を繰り返し持つこともある。また初期の面接では、不安対処訓練の家での練習が宿題になるだろう。 |
2〜n−4 | 課題となるエクスポージャーを話し合って決める(恐怖度階層表のうち
で、今ならなんとかできそうで、それができたらクライエントの生活がいくらか改善するものを選ぶ)。
セルフ・モニタリング表をつけてもらう宿題を出す。 |
日常生活や仕事などで対人場面に接することがあるならば,こうした場面
での不安症状を毎日記録するセルフモニタリングが役立つ。 エクスポージャーの段階が進むと、クライエント自らが日常生活の中で恐怖刺激に向かっていくことが必要になる。この進行状況を日記の形で記録することもセ ルフモニタリングである。 |
2〜n−5 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 |
(1)目を閉じて、職場や学校などで起こりうる一番いやなことを想像する。「入学試験で失敗する」ことはその例である。
(2)最悪の場面がイメージができると、ふつう憂うつになり不安になる。まずその憂うつと不審を十分に感じる。
(3)その感情を変えるようにはたらきかける。すなわち、憂うつや不安(不適切な感情)ではなくて、関心や失望や欲求不満(適切な感情)だけを感じるよう
にする。たとえば、がっかりしているが、気が落ちこんでいるわけではないと感じるようにする。
(4)不適切な感情を適切な感情に変えることができたならば、そのとき、自分に言い聞かせたセリフを書き取る。たとえば、「入学試験で失敗するのはいやな
ことである。でも、それは人生でもっとも恐るべきできごとではない」というセリフを言い聞かせたのなら、それを書き取る。このセリフづくりでは、コラム法の擁護思考(合理的思考)をつくる練習が役に立つ。
(5)このことを(1)〜(4)を毎日少なくとも一カ月つづける。実際に最悪の事態が起こったときでも、また失望したり残念に思ったりしても、けっして不
安になったり憂うつになったりしないようになるまで自分を訓練するのが、論理療法的情動心像法の目標である。
論理療法的情動心像法は、認知、感情、行動のすべてに働きかける技法である。つまり認知的イメージ(1)、強い感情(2)、感情に対する認知的は
たらきかけ(3)(4)、そして行動的宿題(5)からできている。
段階 | やること | コメント |
1 | 広場恐怖のメカニズムと治療法の原理を説明する |
広場恐怖についても、現実エクスポージャが治療の中心になる。効果は大
きい
が、クライエントにとっては厳しい課題であり、課題ができないことや、エクスポージャがつらすぎて治療からリタイアする場合もある。治療の失敗・中断を避
けるためには、 (1)治療メカニズムの説明、(2)治療手順の概説、(3)説明に対するクライエントの理解度チェックが欠かせない。 (1)治療メカニズムの説明:できればクライエントの体験談を糸口に、回避行動がかえって恐怖を増幅させること、恐怖場面へのエクスポージャが大きな効果 を上げる理由などを説明できるとよい。クライエント自身が恐怖と「付き合う」中で自然とエクスポージャしていることもある。最も困難が高いのがファース ト・エクスポージャであること、ひょっとするとあなたはそれをすでに済ませてしまっているかもしれないことを説明し、できればどんな「エクスポージャ」的 体験をしたことがあるか、クライエントが思い出してくれれば望外のプラス要素となる。 (2)治療手順の概説:治療の具体的な手順を、専門的な言葉をつかわずに説明できることが好ましい。エクスポージャの性質上、クライエント自身がおこなう ことが治療の大半であり、また自主的な取組みこそ治療効果を高めることを説明し強調しておくこと。クライエントの中に浮かぶ質問にも丁寧に答える。クライ エントは何をどんな風に行う必要があるのか、セラピストの役割は何なのか、治療によってどんなことがどんな順番でどれくらいの強さで起こるのか、などがよ く質問されるし、しっかりと話し合っておく必要がある。エクスポージャ中の恐怖の変化については、グラフ(横軸を時間の推移、縦軸を恐怖の強さとして)描 いてみせることも理解を促す。またこのグラフ表示は、エクスポージャ中のクライエント自身に書いてもらい、エクスポージャを耐えやすくすることにも使え る。 (3)クライエントの理解度チェック:説明はパンフレットなどの〈書かれたもの〉を使って行った方がよい。治療についての説明は、一部クライエントの恐怖 に触れるものであるし、不安や恐怖の中にいる人は集中力や理解力が低くなりがちである。〈書かれたもの〉は説明で後で読み返せるようにするだけでなく、ク ライエント自身に今の説明をふりかえりながらセラピスト相手に説明し直してもらうことができるようにする。そうするとクライエントの理解度がわかり、また クライエントの記憶の定着もはかれる。クライエントが説明できないのは、セラピストの説明が専門的すぎるか込み入り過ぎているか、とにかく理解されていな いからである。最初に、「あなた(クライエント)に説明し直してもらいますから(わからなくなったら遠慮なくおっしゃって下さい)」と宣言しておくこと で、理解しやすく思い出しやすい説明を行うようセラピストの動機付けにもなる。 |
2 | 治療の最終目標を設定する | クライエントとセラピストの間で、治療の目標を話し合い設定する。単
純で具体的なものは「電車に乗れるようになる」といったものになるかもしれないし、複雑で抽象的なものでは「自立する」といったものもあり得る。 大切なことは、この治療で達成を目指す目標は、できるかぎり具体的である必要があることである。たとえば「(満員の快速電車は無理でも)通勤時間の各駅 停車の列車に乗れる程度に不安を小さくする」といったものである。 ひとつの目標が達成できると、今度は次の(しばしば複数の)目標が持ち上がる。しかし治療時間は有限である。おそらく(広場恐怖によって生じている)日 常生活の支障がなくなることが治療の最終目標として妥当なところである。スケーリング・クエスチョンをつかって「これまで最悪の状態を0、完全に病気から 解放されて最高の状態を10としたら、いまの状態は数字で表すとどれくらいですか? この治療で到達したい目標は数字で表すとどれくらいですか?」「(目 標が7だとして)その状態が達成できたら、どんなことをしたいですか(またどんなことができるようになってると思いますか?)」と尋ねていく方法もよい。 |
3 | 恐怖度階層表を作成する |
恐怖(不安)階層表は、治療の第一歩であり、注意深く行う必要があ
る。 同じ人でも場面や環境が変われば、恐怖や不安の度合いは異なることがある。このことをクライエントにも思い出してもらい、0から100までの目盛りをつ けた〈恐怖尺度〉を作って、その上にひとつずつ恐怖を引き起こす場面を当てはめていく(0は恐怖も回避衝動もまったくない状態を、100は恐怖と回避衝動 が最高潮に達した状態を指す)。クライエントが体験しそうも無い、日常生活と関連性の低い場面や偶発正の高い場面は省く方がよい。多くの社会恐怖のクライ エントが人混みを嫌うが、クライエントにとって恐怖を喚起するものはさまざまである。水辺を怖がる人も入れば、見知らぬ場所に強い恐怖を感じる人もいる。 大切なことは、個々のクライエントにとって恐怖を呼びよこす刺激が何であるかを正確に知ることである。 |
4 | エクスポージャ課題を作成する | 恐怖階層表が完成したら、エクスポージャする課題を作成する。課題は
階層表から一場面を抜き出して作るが、完成した課題は極めて具体的である必要がある。5W1H、すなわちWhenいつ、Whereどこで、Whatなに
を、Whoだれと、Howどのようにしてといった点について熟考しなければならない。自然と地図を広げ、クライエントの生活圏を確認することになる。 例えば「混雑した店へ行く」という課題は具体性に欠けまずい課題である。クライエントの家からどれくらいの距離にあるどの場所が何時くらいにどの程度混 雑しているか、といったデータが必要になることが理解できるだろう。よい課題はこんな具合になる。「平日(水曜日以外)の午後3時、自宅から歩いてA商店 街へ行き、北の端から南の端まで一人出歩いて行き、同じ道を逆の順序で帰ってくる(水曜日を除くのは、その日安売りの店が多く、人通りがいつもより5割増 になるから)。予想される恐怖60」。 こうして作った課題がクライエントにとって難しすぎる場合は、信頼できる人をつきそいに頼む。つまり「つきそい」のある/なしで、ひとつの階層項目から 2つの課題が作れる。恐怖の強いクライエントはしばしば、一人での課題に強いためらいを示す。まずは「つきそいあり」でやってみることで、課題に中間段階 を設けることができる。 エクスポージャ課題は、必然的に診察室の外で行われる。このため必要となるのが、課題を記録するセルフ・モニタリングのための用紙(フォーム)である。 日付、時間(○○時○分〜○○時○分)、恐怖(不安)の度合い、行動(課題の)内容、同伴者(ある/なし、「ある」の場合は誰と言ったか)、使った交通機 関(徒歩、自転車、バス、電車、など)が記録できるものを用意する。この用紙(フォーム)への記入を宿題とすれば、クライエントは課題の実践経過を評価し 忘れることがなくて済む。恐怖や不安の度合いがどのように下降したのか、記録することもできる(グラフ法を使うこともできる)。 課題をやり終え、この記録が増えていくことで、クライエントもセラピストも、恐怖・不安が克服され、障害が改善されていく様子を実感でき、またそれを阻 むものの存在をはっきりした形で把握できる。 課題をやるのを怠れば、白紙の用紙を提出しなければならなくなるので、クライエントによっては、この用紙自体が、課題実施の動機付けになることもある。 |
5 | エクスポージャ課題に取り組む | エクスポージャでは、クライエントが十分に恐怖・不安感が低下したと
感じるまで、特定の課題を1時間半から2時間かけて行う必要がある。治療の初期には、課題が短すぎてエクスポージャの時間が短すぎたということも、あるか
もしれない。このような場合でも、不安が消失するまでひとつの恐怖場面にとどまっていなければならないという指示が徹底していれば、思うように不安が低下
しないという事態は避けられる。逆に言えば、〈避けたり逃げたりせず不安誘発場面に長く身をさらすことが絶対に必要なことなのだ〉というエクスポージャの
原理を心底クライエントが理解するには、時にかなりの時間がかかるということでもある。 宿題として出されるエクスポージャ課題は、セラピストといっしょに診察室でおこなうエクスポージャに対して、多くの利点がある。まずクライエント一人で 実施するので、安くつく。さらに自宅やクライエントの生活圏で行われるので、治療効果が般化していく可能性が期待できる。 クライエントは最初の内はつきそいを(それもセラピストのつきそいを)求めるだろう。可能なら、最初のうちはセラピストがつきそってもよい。その後、次 第につきそいを減らし(たとえば課題をはじめる前に電話でセラピストからの激励を受けるなど)、一人で取り組めるようにすることができる。いずれにせよ、 現実場面でのエクスポージャは訓練内容を次第にきつくするためにも、つきそいは次第に手を引くようにすべきである。広場恐怖のクライエントの場合、セラピ スト等がそばにいることがわかっていると、本当の意味でのエクスポージャになかなかならないからである。 |
6 | 課題の結果と治療の効果を評価する | 課題の後のセッションでは、セラピストはクライエントに(1)うまく
達成できたことは何か、(2)逆にどのような障害に出会ったか、をまず聴取する。この成功の側面と失敗の側面の両方について、前向きな態度で話し合うこと
が大切である。課題がうまく達成できたことは広場恐怖の回避行動が減少したこと(つまり治療が進んだこと)を意味するし、課題中に生じた問題は、恐怖場面
における予想外の、あるいはクライエントもセラピストも予期してなかった難題を浮き彫りにしてくれる。 問題点を明らかにし(指示の仕方がまずかったのか、複雑な事情があったのか、予想以上に困難な場面があったのか)、恐怖場面をより明確にすることで、課 題を組み立て直し、あるいは別の課題に切り替えることもできる。問題点についての話し合いが有効であれば、クライエントの納得の上で(より調整された)同 じ課題に再度チャレンジしてもらうこともできる。 エクスポージャ課題を繰り返し、恐怖階層表に書き出したすべての場面をクリアーしたら、治療結果をトータルに評価する段階である。階層表を複数用意した 場合には、1つの階層表が終わるごとにこの評価の機会を持つ。セラピストは最初に決めおいた目標が達成できたかをチェックする。 達成できた場合にも、何か新しい問題が生じていないかをチェックすべきである。広場恐怖が消失した後、しばしば人間関係の面や社会的な面での問題が表に 現れてくる場合がある。つらい広場恐怖から解放されて、どのようにいきていけばよいのかと途方に暮れるクライエントもいる。広場恐怖がそれほど深く広範に クライエントの人生に影響を与えていたのである。このような場合は、引き続きセラピストの支援(たとえば生活上のスキルを高める生活技能訓練や問題解決訓 練など)が必要になるかもしれない。 |
段階 | セッション |
やること | コメント |
1 | 1 |
治療の方法と目的を示す。 認知療法の理論的モデルが導入される。 |
セッションの最初にその日のセッションの予定をたてる。 第1回目のセッションでは、治療の〈ルール〉についてクライエントと話し合い、合意を結ぶ。〈ルール〉には、セッションの頻度、セッションの回数と評価、 ホームワークの必要性、セラピストとクライエントの協力関係などが含まれる。 治療の背景を説明し、理論的なモデルを提示する。〈出来事ー解釈ー情緒ー行動〉といった簡単なモデルを黒板に書き、これを使って治療の側面を話し合ってい く。思考と情緒のちがい、機能的な思考と非機能的な思考のちがいなどをセラピストは説明していく。重要な点は、ひとつの事実についても、複数の解釈があり 得ることである。このことはセッションを通じて繰り返し登場する。 最初は社会恐怖と関係ない例で、つづいて社会恐怖に関係した例を用いて、セラピストは思考(解釈)が感情(不安)に与える影響について説明する。更にクラ イエントに対しても、不安を喚起させるような否定的な考え(認知)の具体例を、自分の生活の中から何か挙げることができるかと質問する。 自動思考を確認することの大切さ、また自動思考を追求して変容させることは困難ではあるが可能であることの説明をセラピストは行う。自動思考を確認するた めには、思考と感情を区別し、出来事と(それが引き起こしたように思える)感情との間を媒介している思考を見つけようとすることが必要であると、セラピス トは説明する。先ほど思考(解釈)が感情(不安)に与える影響について、クライエント自身があげた例について、非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラ ム)の左端の3つの欄を使い書き入れる練習をする。できない場合は、3つの欄を埋めてくることが宿題となる。 最後に、クライエントは今日の説明された事項の中で、〈出来事ー解釈ー情緒ー行動〉という簡単なモデルについて、自分なりの言葉で説明することを求められ る。できない場合は、説明を考えてくることが宿題となる。 宿題には、認知療法について簡単に説明したパンフレットを読んでくること(これは他の宿題の助けになるだろう)が付け加えられる。 |
2 | 2 |
自動思考を確認する。 自動思考に挑戦し、できれば合理的思考を生み出す。 |
セッションの予定を立て、宿題としていたことについて、クライエント
とともに詳しく検討していく。 とくに非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)の書き方について、最初のうちセラピストは、状況を客観的に記入すること、状況の説明と思考とは別の 欄にかき込むことを注意して説明する必要がある。 出来事に対する認知がどのようなものであっても、それをどの程度正しいと信じるか、セラピストはクライエントに確認し、(0〜100%といった数字で) 用紙の思考の欄に書き入れてもらう。 このセッションでは、自動思考への挑戦が説明される。説明のために、比較的簡単に挑戦できる自動思考をセラピストが選ぶ。多くの自動思考に挑戦するより も、ひとつの自動思考について、さまざまな側面から挑戦することの方がより学ぶところが大きい(一つの事実は様々に解釈できることをが強調される)。 自動思考への挑戦を容易にする方法の一つに、自動思考を次の二つのうちのどちらかに分類するやり方がある。(a)正確に状況を見ていなかった(事実と相 違する)場合、(b)論理的に正しいといえない場合。例えば「私がぶるぶる震えると、みんなが私を見る」は(a)に分類されるだろうし、「震えてしまった りしたら、私は劣っていて意味の無い人間であることになる」は(b)に分類されるだろう。(a)に分類される自動思考に挑戦するには、事実はほんとうのと ころどうなのか、もっとよく観察することで反駁が可能となるだろう。(b)に分類される自動思考には、その根拠(たとえばこの例の場合なら「人の値打ちや 存在意義を損なわせるものって何だろう?」)をよく調べることで、兆戦することができる。 次のステップは、自動思考をよく調べて、それらをより合理的で現実的な思考に変容させることである。そのために使える質問のリストとして
クライエントがそうして作り出していく(自動思考に対する)別の考えのひとつひとつ、とくにより合理的で現実的な考えについては誉め、強化して、そうし た思考をしていくことをセラピストは勧めていく。これにも質問をつかうことができる。
自動思考について、どの程度信じるかを数字で示したように、つくりだした合理的思考についても、どの程度信じるかを数字で表し、非機能的思考記録用紙 (6コラム、7コラム)にかき込んだそれぞれの合理的思考のところに書き入れる。この用紙では、新しい合理的思考に基づいた感情についても評価できるよう になっている。 これで非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)の使い方については一通り学んだことになる。新しい宿題をセラピストは用意する。ここまでの説明と練 習で、うまく自動思考に挑戦できるようであれば、非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)をつかうどんな機会でも利用して、コラム法を試してみること をクライエントは勧められる。たとえば社会不安のクライエントの多くは電話をかけることが苦手であるが、〈電話をかけること〉についての自動思考を同定 し、それに対して合理的思考を作ることが、次回までの宿題となる(もちろん、他の社会的不安についての自動思考を課題としてもよい)。 もうひとつの宿題は、どのような状況でもいい、日常に起こる感情的問題について、非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)をつかった思考日誌を書く ことを1日30分、毎日つづけることである。 |
3 | 3 |
コラム法の検討を通じた合理的思考を生み出す練習。 行動実験の導入。 |
前回の宿題について、十分な時間(セッションの前半)かけて、クライ
エントとともに詳しく検討する。前回のセッションのなかでそうしたように、必要な質問を使ってクライエントがやってきた自動思考への挑戦を補足し、また必
要な質問を使ってクライエントが作り出した合理的思考への傾向を育て、強化を行う。 非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)を使った自動思考への挑戦と合理的思考を創出を、クライエントが身に付いてきたことを確認し、次に行うべき 行動実験についてセラピストは説明を行う。これについても、説明用のパンフレットを渡し、次回までに読んでくることを宿題とする。 加えて、日常に起こる問題について、非機能的思考記録用紙(6コラム、7コラム)をつかった思考日誌を書くことを1日30分、毎日つづける宿題も続け る。 |
4 | 4 |
行動実験を開始し、自動思考に挑戦し、合理的思考を生み出す。 |
前回の宿題について、クライエントとともに詳しく検討する。 前回に続いて、行動実験についてセラピストは説明を行う(クライエントは前回の説明、パンフレットを読んでくる宿題を通じて、行動実験についてすでにい くらかの知識を得てきている)。 行動実験の目標は、クライエント自身が予測を立て、それについて実際に行動することで、自動思考やその前提となっている信念やスキーマに挑戦することで ある。 行動実験についての説明のポイントとしては、(1)自動思考を科学実験における〈仮説〉とみなすこと。従って一般的な科学実験のように、あらかじめ実験 結果と比較される予測を立てておくことが必要になる。例えば、帰無仮説=もしこの自動思考が正しいならば、Aである(Aが生じる、など);対立仮説=もし この自動思考が正しくないならば、Aではない。(2)行動実験を信頼できるものとみなす態度が重要である。でなければ、実験もその結果も、クライエントに とってまったく無意味な遊びになってしまう。(3)実験を行う前に、明確で観察可能な基準を用意しておく必要がある。でなければ、実験の結果によって自動 思考の正否を判断することができない(実験後に基準を都合良く設定しては、後出しのジャンケンのように、あらゆる帰無仮説が生き残ることも不可能でなくな る)。 〈行動実験の具体例:レストランでコーヒーカップを引っくり返すことについての行動実験〉
したがって今回の宿題は、思考日誌を毎日つづけることと、行動実験を実施すること、および行動実験の結果をレポートにまとめてくることである。 |
5 | 5〜7 |
思考日誌と行動実験を続けることで、非機能的な自動思考に挑戦して変容 させる。 | 毎回、セッションの予定を立て、宿題だった思考日誌と行動実験の報告
について話し合う。 思考日誌にもとづいて、自分で行う自動思考への挑戦について話し合う。ある種の非機能的思考には適切に合理的思考をつくることができるようになっていて も、別の種類の非機能的思考(とくに恐怖を感じさせる状況での思考)について、実際の状況で自動思考に対抗することが難しい場合は、カードをつかうテク ニックを教える。カードの表には、思考日誌から破滅的な自動思考を、そして裏にはそれに対する挑戦と合理的思考を書いておく。実際の状況で、クライエント はそのカードを見ることで、破滅的な自動思考に対抗する援助を得ることができる。 行動実験の報告について話し合い、次の行動実験の計画をクライエントとともに作る。クライエントは、宿題として計画された行動実験にチャレンジし、その 結果を報告できるようにまとめることになる。 セッション5からしばらくは、上記のようなものとなる。 したがって宿題も、思考日誌を毎日つづけることと、行動実験を実施すること、および行動実験の結果をレポートにまとめてくることになる。 |
6 | 8〜12 |
非機能的なスキーマ・信念を発見する。 治療の効果を評価し、再発予防を行う |
毎回、セッションの予定を立て、宿題だった思考日誌と行動実験の報告
について検討する。 治療の最後の段階に入り、自動思考の根底にある前提(条件付き信念やスキーマ)に焦点が向けられる。 [スキーマの例:私は愛されない。/私は値打ちが無い] [条件付き信念の例:みんなに愛されるためには、いつでも親切でなければならない。/値打ちのある人間であるためには、あらゆる点について完璧でなければ ならない] この段階では、これまでのセッションで出された問題(非機能的な自動思考やそれを喚起する状況)を、クライエントとセラピストで再び検討する作業が大半 を占めるようになる。検討すべきテーマは、クライエントの行動実験の報告や思考日誌、それらを検討する中で出てくるクライアントの考えから、取り出される ことが多い。
前提が明らかにされた後は、前提に挑戦することになる。前提への挑戦は、まずは共感的に行われる必要がある。「ふたりで検討してきた結果、何故あなたが 社会的に自信を持てないのかわかりました。もしあなたが[前提AならばB]という風に考えているなら……」。 ひとたび、クライエントが前提の存在を受けいれば、セッションにおいても、あるいは(この段階まで自動思考に対抗する訓練を積んできた)クライエント一 人でも、前提に挑戦することができる。だがこの仮定で、その前提が誤りであることを証明できるかどうかはセラピスト次第である。前提やそれに代わる原則の 根拠をクライエントは提示するよう求められる(これらは自動思考への挑戦と同じである)。さらに次の方法を用いることができる。(1)前提における論理の 誤りを示す。(2)前提の独断的な性質を明らかにする。前提は変わることのない真理、誰もが従わなければならない自然の法則の一種と、クライエントには思 われているが、別の人は異なる前提を抱いているという事実によって、前提の必然性は疑問視される。(3)前提を維持することの利益と不利益を比較する。 前提を行動実験をつかって検証することができる。仮説が正しいかどうか確かめるためには、数多くの実験が必要かもしれない。たとえば「まちがった意見を 表明すれば、破滅的だ」という前提を検証するには、ただ会議で発言するだけではなく(その発言は、たまたま「正しい意見」だったかもしれない!)、10種 類の異なる発言を用意して会議で発言する必要があるかもしれない。 宿題は、古い前提とそれに代わる新しい前提とを検討することである。 最後にこれまでのセッションを評価する。 12回のセッションでは治療の進行は明白であっても、その後のセッションでは治療の進行はそれほど明らかなものでなくなる。 あるクライエント(おそらく少数の)は、ほぼ完全に恐怖を克服しているだろう。こうしたクライエントには1〜2回のフォローアップを行うことを約束して 治療を終結する。 大半のクライエントは顕著な改善を示すけれども、多かれ少なかれ不安がまだ残っている。こうしたクライエントには毎週設けていたセッションの間隔を徐々 に長くしながら(2週に1回→3週に1回→4週に1回→……)、治療をさらに続けていく。 12回のセッションで何ら改善が見られない場合は、治療を続けていく理由は無い。他の治療法に切り替えるべきである。 |
追加 |
ソーシャル・スキル・トレーニングを行う |
社会恐怖のクライエントは話下手、聞き下手であることが多く、日常の何
気ない挨拶や会釈も苦手であることが少なくない。不安症状がなくなったとしても、これまでの社会不安のために、人と接する機会やコミュニケーション・スキ
ルを磨く機会を逸してきた(回避してきた)場合も多い。そして不安症状が消えても、コミュニケーション・スキルは自然に上達するものではなく、スキルの欠
如や不足から対人関係やコミュニケーション上のトラブルに遭遇する機会が多いと、再び症状も再発しかねない。 コミュニケーションを含む社会的スキルの不足・欠如が、治療終了後も問題となりそうな場合には、SST(ソーシャル・スキ ル・トレーニング)を行う機会を設け、生活や仕事上でとくに必要になるスキルや対処しなければならない場面について、系統的な練習を行うことが望 ましい。 |
セッション |
やること | コメント |
1 | クライエントの不安について聴取。 不安のメカニズムと治療の原理、治療の方法を説明 |
不安のメカニズムと治療の原理の説明については、ほかの不安障害と同
様。 治療方法については、とくにセルフ・モニタリングと宿題、そして定期的な受診の重要性が強調される。 セルフ・モニタリングの宿題は、初回以降ずっと出される。 |
2 | 不安を維持しているものについての話し合い |
セルフ・モニタリングの宿題を検討するところからセッションは始まる。 不安のメカニズムと治療の原理についての復習。 不安がもたらすもの、そして不安を維持している要因についての話し合いが行われる。 セルフ・モニタリング用紙にしたがってセルフ・モニタリングを行うことが宿題。 |
3 | PMR(Progressive Muscle Relaxation:漸進的筋弛緩法)の導入 | セルフ・モニタリングの宿題を検討するところからセッションは始まる。 PMR(Progressive Muscle Relaxation:漸進的筋弛緩法)※に ついての説明。 診療室でのPMRの練習。家庭で練習できるようにPMRのインストラクションが入った録音テープをもらう。 宿題は、セルフ・モニタリングにPMRの練習が加わる。 |
4 | 認知療法(認知的再編成)の導入 |
セルフ・モニタリングの宿題とPMRの練習がどうだったかを尋ねるとこ
ろからセッションは始まる。 全身を16の部分に分けて、ひとつずつPMRの練習を行う。 不安が維持されることについての認知が果たす役割について説明。クライエントの場合を例にとって自動思考についての説明。とくにほとんど起こりえないこと について非常に高い確率で生じると信じる信念・認知の問題について焦点があてられる。 認知的セルフモニタリング表(不安、自動思考、それへの反論等を記入できるコラム)が導入。 今回の宿題からセルフ・モニタリングはこの表を使ったものになる+家庭でのPMRの練習。 |
5 | 認知療法(認知的再編成)とPMRの練習 | セルフ・モニタリングの宿題とPMRの練習のチェックからセッションは
始まる。 とくに発生確率について高く見積もる自動思考とそれへの反論が検討される。 診療室でのPMRの練習。全身を8つの部分に分けて、ひとつずつPMRの練習を行う。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+家庭でのPMRの練習。 |
6 | 認知療法(認知的再編成)2とPMRの練習 | セルフ・モニタリングの宿題とPMRの練習のチェックからセッションは
始まる。 とくに発生確率について高く見積もる自動思考や破局的予想についての自動思考とそれへの反論が検討される。 診療室でのPMRの練習。全身を8つの部分に分けて、ひとつずつPMRの練習を行う。全身を通した練習も行われる。 不安を生む認知の歪みと、それに反論する方法についての復習。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+家庭でのPMRの練習。 |
7 |
認知療法(認知的再編成)3とPMRの練習 エクスポージャの導入 |
セルフ・モニタリングの宿題とPMRの練習のチェックからセッションは
始まる。とくに自動思考とそれへの反論が検討される。 診療室でのPMRの練習。全身を4つの部分に分けて、ひとつずつPMRの練習を行う。 不安に対するエクスポージャの導入(イメージによる練習。不安階層表の作成。診察室内でエクスポージャ)。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+家庭でのPMRの練習+日常でのエクスポージャ。 |
8 |
リラクゼーションの導入 |
セルフ・モニタリングの宿題とPMRの練習、日常でのセクスポージャの
実施状況のチェックからセッションは始まる。 リラクゼーションの導入(リラックスした状態を思い出すことで不安を制止する)。 不安に対するエクスポージャについて復習。 診察室内でエクスポージャ。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+家庭でのPMRの練習+日常でのエクスポージャ+リラクゼーションの練習。 |
9 |
不安反応行動妨害について導入 | セルフ・モニタリングの宿題、日常でのセクスポージャの実施状況、リラ
クゼーション練習のチェックからセッションは始まる。 リラクゼーションの練習。 不安反応行動妨害について導入(不安への反応行動を妨害することで不安が減少する原理を説明/不安への反応行動(回避など)がかえって不安を維持している ことを説明+エクスポージャを不安な時にしてしまう行動のリスト作成+不安反応を妨害する練習) 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+日常でのエクスポージャ+リラクゼーションの練習+不安反応妨害の実施 |
10 |
キュー・コントロール・リラクゼーションの導入 | セルフ・モニタリングの宿題、日常でのセクスポージャの実施状況、リラ
クゼーション練習、不安反応妨害の実施状況のチェックからセッションは始まる。 キュー・コントロール・リラクゼーションの導入(不安を呼びよこすきっかけ(キュー)を提示されて、リラクゼーションで不安を制止する練習) 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+日常でのエクスポージャ+不安反応妨害+キュー・コントロール・リラクゼーションの練習 |
11 |
時間管理か問題解決法の導入 | セルフ・モニタリングの宿題、日常でのセクスポージャと不安反応妨害の
実施状況、キュー・コントロール・リラクゼーションの練習のチェックからセッションは始まる。 キュー・コントロール・リラクゼーションの練習 まもまく治療期間が終了するので、終了後にクライエントがストレスの多い状況を改善できるスキルとして時間管理か問題解決法の導入する。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+日常でのエクスポージャ+不安反応妨害+キュー・コントロール・リラクゼーションの練習 |
12 |
リラクゼーション・テクニックの般化 時間管理か問題解決法の練習 |
セルフ・モニタリングの宿題、日常でのセクスポージャと不安反応妨害の
実施状況、キュー・コントロール・リラクゼーションの練習のチェックからセッションは始まる。 リラクゼーション・テクニックの般化(総復習し、どのような状況でも使えるようにする) 終了後に役立つスキルとして時間管理か問題解決法の練習。 宿題は認知的セルフモニタリング表を使ったモニタリング+日常でのエクスポージャ+不安反応妨害+キュー・コントロール・リラクゼーションの練習+時間管 理か問題解決法の練習。 |
13 |
学んだスキルやテクニックの総復習 今後スキルやテクニックをどう使っていくかについての話し合い |
セルフ・モニタリングの宿題、日常でのセクスポージャと不安反応妨害の
実施状況、キュー・コントロール・リラクゼーションの練習、時間管理か問題解決法の練習のチェックからセッションは始まる。 キュー・コントロール・リラクゼーションの練習 学んだスキルやテクニックの総復習 今後、身に付けたスキルやテクニックをどう使っていくかについて話し合う。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
ステップ | やること | コメント |
1−1 | 診断のための質問。 身体状態の聴取と身体症状のそれぞれに対応した解釈を確認 |
パニック発作の前や発作中にどのような症状が出るかを質問する。
加えて、それぞれの症状をどのように解釈(例えば「めまい」は「失神」に、「胸痛」は「心臓発作」に結び付けて考えられることがある)しているかをリスト アップしていく。 |
1−2 | 過呼吸テストのあと、パニック発作との類似点、相違点を話し合う。 | パニック発作の実際の状況は言葉では表しがたい。 過呼吸テスト※は、「自然発生的」なパニック発作によく似た状態をつくりだすが、その類似点と相違点をクライアントに述べてもら う。過呼吸テストによって作り出された状態は、パニック発作と実に良く似ているのだが、ここ“診察室”で、“セラピストや医者の指示によって”作り出され たものであるために、クライエントは過呼吸テストが作り出す状態を「ずっと安全なもの」と考える。この事実についての話し合いで、「パニック発作」が(あ る)認知に導かれたものであることが理解しやすくなる。 このあと普段のパニック発作がどのようにして起こるか、すなわち(1)どんな前兆があり、(2)どのような発作が起こり、(3)その際にどのような考えや イメージが浮かぶか、(4)そしてその考えやイメージにはどの程度の現実性があるか、などをクライエントに尋ねていく。普通、クライエントはパニック発作 に圧倒されていて、これらのことに注意を払っていないことが多いし、セラピストの質問に答えられないかもしれない。そこで過呼吸テストでの体験との類似と 相違を手がかりに、問いかけていく。この時点では、クライエントはすべての問いに答えられないかもしれない。今後も、セラピストといっしょに考えていくこ とを確認し、日常生活でパニック発作に陥った際、これら質問の答えを見つけることが、セルフ・モニタリングとして宿題となる。 |
1−3 | パニック障害のメカニズムの説明と認知の修正。 | ここでいよいよ、パニック障害のメカニズムについて説明する段である。
過呼吸テストの後の話し合いで、クライエントはこの説明をずっと理解しやすくなっている。身体感覚に対する破局的解釈が不安を引き起こし、不安が身体感覚
を引き起こし、その身体感覚について破局的解釈が……という悪循環がパニック障害を生み出している。 とくにクライエントの破局的思考が取り上げられる。最初の「身体状態とその解釈」の聞き取りが、認知を検討する材料になる。「胸痛」はほんとうに「心臓発 作」に結びつくのか?どれくらいの確信度でそう信じているのか?すべての「胸痛」は、心臓発作と関係あるのだろうか?他の人、例えば知り合いや専門家(医 者)なら、どんな風に考えるだろうか? これらの問いに最初の時点でクライエントは答えられないかもしれない。今後、セラピストといっしょに考えていくこ とを確認し、認知の修正についても宿題にしてもよい。 |
1ー4 | 治療の最終目標を設定。生活上の問題の中から今回の治療の中心となるも のを、話し合って決める | パニック障害もまた、クライエントの活動範囲や活動レパートリーを制限
する。 したがって目標は「(今はできない)○○ができるようになりたい」や「(病気になる前にはできていた)○○ができるようになりたい」といった形になる。 |
1−5 | 腹式呼吸の教示と練習 | 過呼吸テストからわかることは、緊張度の低い規則的な呼吸のやり方(過呼吸の反対の方法)を身に付けることが、直接クライエントの役
に立つことである。後でパニック発作が起こりそうな場面での行動実験が予定されるが、そうした時にも腹式呼吸のスキルをマスターしていることは危機を乗り
越える手立てと自信に繋がる。 腹式呼吸の方法は、毎分8〜12回、吸う時におなかを膨らませ、吐く時におなかをへこます。まずはセラピストが自分の胸と腹に手を置いて、吸うときと吐く とき、どのように胸と腹が動くかをやってみせる。その後クライエントにも同じように手を胸と腹にそえて動きを確認しながらやってもらう。 |
1−6 | 宿題:腹式呼吸法の練習とセルフ・モニタリング | 宿題となりうるのは、(1)パニック発作に陥った際にあたまに浮かぶ考
えやイメージ(自動思考)を同定し記録すること、 (2)身体症状を深刻な事態と結びつける解釈について別の考えがないかどうかに取り組む認知の修正、(3)パニック発作に有効な腹式呼吸の練習、などがあ る。 宿題は多すぎてはいけないし、難しすぎると課題が行われないだけでなく、クライエントの自己嫌悪や自信喪失に繋がるかもしれない。 宿題は無理のない範囲にとどめるべきである。自動思考の同定や認知の修正は比較的難しい課題であることから、2回目以降に回して、身につければすぐに役に 立ち、また練習自体が気持ちを落ち着かせる腹式呼吸の練習が、第1回目の宿題としてはふさわしいかもしれない(もちろんもっとチャレンジしたがり、また課 題遂行が可能だと思えるクライエントには、自動思考の同定や認知の修正もプラスしてもよい。 腹式呼吸の練習としては、毎日に3回くらい、20分間ほどの腹式呼吸をやってもらう。「吸っ て……吐いて……」と8〜12回/分のリズムで唱えるテープを渡すとよい。 またパニックに陥った際の記録をつけるセルフ・モニタリングの用紙も渡しておく。 |
1−7 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 このためにクライエントにノートを取ってもらうのもよい。 |
ス テップ | やること | コメント |
2〜n−1 | 身体状態と前回からの様子を聴取。 セルフ・モニタリング表を確認する。 |
|
2〜n−2 | セルフ・モニタリング表を確認する。
行動実験の課題を出してあった場合は、その結果と効果を評価する。 |
セルフ・モニタリングとしては、パニック発作が起きた場合の記録と、そ
れ以外の日常活動の記録がある。 パニック発作が起こった場合の記録については、初回でも問われた質問、(1)どんな前兆があり、(2)どのような発作が起こり、(3)その際にどのような 考えやイメージが浮かぶか、(4)そしてその考えやイメージにはどの程度の現実性があるか、についての記録を確認していく。すべてを記録できなくても、パ ニック発作のなかで冷静に発作を観察し、記録してきたことを賞賛する。 後期には、行動実験を宿題として課すことから、その成果を確認し、今日の話し合いのきっかけにすることが多い。行動実験が失敗したり不十分であった場合 は、セラピストとクライエントはその原因を話し合い、より改良された行動実験を計画する。しばしば計画があいまいだったことが失敗の原因となることがあ る。 行動実験が「成功」した場合も、「失敗」した場合も、得られるものは小さくない。クライエント自身の身体に関する、自分の考えに関する、周囲の反応に関す る、新しい発見や変化はすべて取り上げるに足りる。よい発見や結果には賞賛を送り、ネガティブな発見や結果についても、明らかになったことや実験に取り組 めたこと自体に焦点を合わせて治療への動機付けとする。治療の進度は直線的ではなく、二歩進んで一歩下がる、といった前進後退の繰り返しであることを、あ らかじめクライエントに示しておくのもよい。 |
2〜n−3 | 認知の修正。パニック発作を構成する悪循環を構成する「身体の焦点化」 や「破局的思考」などの自動思考を同定し、かわりとなる合理的思考をつくる練習をする。 | 初回と同様、パニック発作にかかわるクライエントの破局的思考が取り上
げられる。 セルフ・モニタリングで記録されたものが、検討の材料になる。 発作の前兆がどのようなものであったか?それをどのように自分は解釈したか?からはじまり、どれくらいの確信度でそう信じているのか?すべての「胸痛」 は、心臓発作と関係あるのだろうか?他の人、例えば知り合いや専門家(医者)なら、どんな風に考えるだろうか? といったことが質問され、話し合われる。 クライエントはセルフ・モニタリングに記録したほかに、クライエントとの話し合いのなかで、新たな事実を思い出すかもしれない。 これらの問いに最初の時点でクライエントは答えられないかもしれない。今後、セラピストといっしょに考えていくことを確認し、認知の修正について宿題にし ていく。 |
2〜n−4 | 腹式呼吸の教示と練習。 | 2回目以降は、わざと過呼吸を15秒ほどやり、 そのあとクライエントが身に付けた腹式呼吸で回復する、という練習をする。パニックに陥っても、自力で復帰できるという手立てと自信と与える。 |
2〜n−5 | 課題として、行動実験を宿題とする。クライエントが破局的思考をし、セ
ラピスト側がそうではない解釈をする場面・行動を体験し、どちらの思考が正しいか確かめる行動実験を実施してもらう。行動実験は、コラム法やソクラテス的
問答などとくらべても、認知を変える大きな力がある。
他にセルフ・モニタリング表をつけてもらう宿題を出す。 |
セルフ・モニタリングがすすみ、自動思考の同定や認知の修正について
も、ある程度進むようになれば、課題として行動実験を宿題にすることができるかもしれない。 クライエントは、認知を変化させてきているが、まだ心の底から、身体的症状や兆候についての新しい考えを信用し切ってないかもしれない。こういった場合 に、行動実験は、破局的思考とそれに変わる新しい考えのどちらが信じるに足りるか、クライエント自身の行動で確かめることができる。 行動実験の効果は大きいものであるが、しかし一回の実験で、認知がまったく変わってしまうわけではない。行動実験は繰り返す必要があるかもしれない。しか しまた、行動実験の成功で、クライエントの活動範囲や活動の種類が増え、大きな生活改善につながることもある。 |
2〜n−6 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
ステップ | やること | コメント |
1−1 | 強迫症状についての詳細な聴取 強迫行為・強迫観念のメカニズムの説明。 |
どのような場合に、どのような強迫観念が起こり、そのときどのような感
情を覚え、どういう行動を取ってしまうのか、その行動はどれくらい続くのかを、丁寧に聴いていく。一人のクライアントが襲われる強迫観念や、とくに恐怖か
ら回避するための行動(儀礼行為=強迫行為)は多岐に及ぶことが普通である。この聴取には、数時間かかる場合もある。 クライアントから上記のことについて聞き出しながら、クライエントの話を素材として使いながら、強迫観念と強迫行動についての関係について説明する。すな わち何かをきっかけに強迫観念が起こり、強迫観念が引き起こす恐怖(不安)を避けるために決まった行動(儀式行動)が行われるが、これは恐怖からの回避行 動に他ならず、ますます恐怖を増加させ、強迫行為を続けさせるという悪循環について解説していく。 クライエントの理解を確かめることも必要であるが、1回だけの説明では、十分に納得できないこともあり得ることである。また、できるかぎり詳しく聞きだそ うとしても、クライアントが自覚している強迫観念、強迫行為はすべてでない可能性が高い。したがって初回の宿題は、強迫症状についてのデータ収集のつづき となる。 |
1−6 | 強迫観念・強迫行為についてのセルフ・モニタリングを宿題を出す。 | 次のような項目をもつ表を渡して、次の診察面談までの強迫観念・強迫行為について、できれはすべてを記録してもらう。
月日、時刻(30分刻み)、儀式的に行われる行動や思考、その儀式(行動・思考)の意味、そのときの不安・不快感の度合い(0〜100)、儀式をつづけた 時間(分単位)。 |
ス テップ | やること | コメント |
2〜n−1 | セルフ・モニタリングの記録表を検討する。 | セルフ・モニタリングの記録表を元に、引き続き、どのような場合に、ど のような強迫観念が起こり、そのときどのような感情を覚え、どういう行動を取ってしまうのか、その行動はどれくらい続くのかを、丁寧に聴いていく。すべて の強迫観念と強迫行動を列挙することが必要である。セラピスト、クライアントともに見逃していた強迫観念、強迫行動が後で見つかった場合は、エクスポー ジャーの計画は立て直しになる。 |
2〜n−2 | エクスポージャー課題を出してあった場合は、その結果と治療の効果を評価する。 | エクスポージャーは恐怖(不安)を減じさせる中心になる。効果は大きい
が、クライエントにとっては厳しい課題であり、課題ができないことや、エクスポージャーがつらすぎて治療からリタイアする場合もある。 エクスポージャーが実施できた場合には最大限の賞賛で、その行動を強化する。 不完全にしかできなかった場合も励まし、どこに問題があったかについて検討する。 階層表のうちで強すぎる刺激を選んだ場合は、セラピストが謝り、より軽い刺激についてのエクスポージャーからやりなおす必要があるかもしれない。 |
2〜n−3 | エクスポージャーの計画を立てる。 エクスポージャーの取り掛かりは、今ならなんとかできそうで、それができたらクライエントの生活がいくらか改善するものを選ぶ。 |
エクスポージャー(暴露法)&反応妨害の原理=逆に恐怖(不安)を引き
起こすものに直面(暴露)することは一時的に恐怖(不安)を大きくするが、強迫(儀礼)行為や回避行動をとらずそのままでい
ると、やがて恐怖(不安)のレベルは小さくなっていくことについて説明する。 ここでもクライエントが説明を理解できたかどうか、質問したり、クライエントの言葉で理解したことを説明してもらうことで確かめることが大切。 暴露ー反応妨害法の登場は古く(1966年)、現在もこれを上回る効果を上げる方法はないが、クライエントにかける負担は小さくない。かつての治療 者ー患者関係の中では、治療者の権威でそれを乗り越えさせることがままあったが(閉鎖病等での完全監視下での暴露ー反応妨害法ならばそれも可能だったろ う)、現在ではむしろクライエントに主体的に参加してもらうことで、暴露ー反応妨害法からの回避を抑制することが望ましいし、クライエントの生活の中で実 施してもらうことが可能となり実効性が高い。 |
2〜n−4 | 課題となるエクスポージャーについて、診察室でのイメージ・エクスポー
ジャーを行う。この機会を利用して、エクスポージャーについての細かい注意事項をクライエントに指示する。 また宿題となるエクスポージャーが難しい場合には、リハーサルを行う。 宿題となる実地でのエクスポージャーについては、生活の中で事細かに制限事項を設けることになる。最初のうちはセラピストが指示を書いて渡してもいい。 エクスポージャーが進んだら、そうした指示書や指示なしに、クライエント自身でエクスポージャーに挑むことになる。 |
たとえば洗浄強迫の場合、シャワーは1日1回10分以内、手洗いは1日
5回まで、1回にかける時間は30秒まで。また明らかに手が目で見て汚れているとき以外の手洗いは禁止、など厳しい指示が与えられる。 また、この段階で明らかでない強迫行為や回避行為がある場合を想定して、(1)不安なものに出会ったら、それへのエクスポージャーを最低週2回追加して行 う。(2)回避行動を取ってしまったら、その対象についてのエクスポージャーを最低週2回追加して行う、という指示を与えておく。 診察室でのエクスポージャーを除いて、ほとんどのエクスポージャーの成否は(つまり強迫性障害の認知行動療法の成否は)、クライエントの理解とやる気にか かっている。最初はもちろん、容易い課題にチャレンジし、小さな成功を次のチャレンジへとつなげていくべきである。 いわゆる認知の修正を行う認知療法を取り入れることで、暴露法や反応妨害法を容易にするかもしれない。つまり、強迫観念に伴う抑うつや自己無力感を軽減 し、また強迫性障害のクライエントが持ちがちな責任の回避と保証を執拗に求める態度を修正できる可能性がある。 他にエクスポージャー&反応妨害を成功させるものに、強迫行為と拮抗する行為を行わせることで反応妨害をす る方法(ハビットリバーサル)や取り決めをポスターにして良く見えるところに張り出す方法(パブリックポスティング),治療行動を強化するための随伴性マ ネージメントなどの工夫が患者や問題に応じて用いられる。 稀だが強迫観念だけがある場合は、侵入的な思考に「慣れる」ためには,そうした思考を予期する形で生じさせて,それに対応させる。一つの方法として,その 思考内容を録音し,そのテープを繰り返し聞くことがある。最初はそれに伴って生じる不安が少ない場面で練習し,やがて少しずつ 困難を覚えている場面に進むようにするのである。(テープによる慣れと反応妨害法)。目標は、脳裏に侵入してくる思考(intrusive thoughts)が存在したとしても,そこにそれ以上の意味がないことを患者が認識できることである。認知の修正を行う認知療法も役立つかもしれない。 |
2〜n−5 | クライエントからのフィードバック。 今日のセッションを振り返ってもらう。 |
振り返ってもらうことで、今日やったことを、クライエントのアタマの中
で整理できる。 不満や注文も言ってもらう。治療の軌道修正にも役立つ。 ただしエクスポージャーについての議論は不毛であり避けたほうがいい。強迫行動についてクライエントはこれまで周囲の人たちと何度もそうした議論を行って きており、それらが役に立たなかったことは明らかであるから。 |
※
強迫性障害と同様に習慣や行為が反復されることが主な症状になっている精神障害
に,物質関連障害
(いわゆる依存症)と神経性大食症がある。これらの精神障
害に対しても暴露(エクスポージャー)&反応妨害法と類似した治療が試みられている。アルコール依存症や嗜癖性薬物に対する渇望や過食の衝動を引
き起こす刺激に対してエクスポーズし,続いて起こる飲酒や過食を妨害することが行われる。Cue
exposureと反応妨害と呼ばれることもある。
最近では強迫性障害の生物学的モデルの成功をきっかけに強迫性障害の概念を広げる動きが活発で、OCSD(Obsessive-
Compulsive spectrum disorder;強迫性セペクトラム障害)という概念が提起され、境界性人
格、反社会性人格、いわゆる病的賭博や自傷行為などの行動制御障害、
あるいは摂食障害、身体醜形障害、こういった一連の疾患を含めた広い概念として提唱されている。より具体的には、身体表現性障害(例:身体醜形障害,心気
症)や,解離性障害(例:離人症性障害),摂食障害(例:神経性無食欲症,神経性大食症),
衝動制御の障害(例:抜毛症,病的賭博,病的買い物,性的衝動強迫),神経疾患(例:トゥレット障害,シデナム舞踏病,パーキンソン病,てんかん,自閉性
障害)などが強迫性障害の類縁であると考えられるようになって来ている。その根拠として、
などがあげられる。この中には有効な(薬物)療法がなかったり、長期投薬が必要だったり
、時間がかかる精神療法の適応とだけされてきたものもある。しかし、こうした疾患にも、exposure & ritual
prevention(暴露−反 応妨害法)などの行動療法が有効だという治験が積み重ねられきている。
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解
離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
段階 | やること | コメント | ||||
1 | 治療への動機付けと治療関係の構築 目標の明確化 |
摂食障害のクライエントは、拒食や体重減少を自分にとって好ましいも
のと考えており、治療
への動機付けに乏しいことが少なくない。また体型(ボディ・イメージ)に対する認知の歪みから自己評価が低く、治療の場に現れること自体を躊躇することも
少なくな
い。 摂食障害の認知行動療法は、幾人もの手を経て改訂を重ねて来ているが、上記のような理由から、特に当初の治療への動機付けに工夫が重ねられてきた。 ここでも初回から数回の面接は、動機付けのために費やす。クライエントの来室を「変化したいという意思の現れ」と肯定的に捉え、逆に医療的な質問や説明 (おそ らくクライエントがこれまで家族や内科医から繰り返し聞かされてきた拒食、過食の危険性の説明)は、最初のうち避ける。 TreasureとWardは「動機付け」としてすべきもの/すべきでないものを次のようにまとめている(これ以降に紹介する、治療関係の構築が最初の 関門となる統合失調症や境界性人格障害の、動機付けや治療関係の構築においても重要な項目である)。
動機付けのための宿題には、今の自分を過去の(もっとひどかった時の)自分と比較してくる、過去とくらべて現在は何点かスケーリングするなどが考えられ る。 クライエントとセラピストの間で共同の目標を話し合い、決めることも、動機付け/治療関係の形成につながる。クライエントを、治療の一方的受益者でな く、セラピストと恊働作業を進めるチームの一員として遇すること、目標達成のための役割分担(クライエントは、そしてセラピストは、互いに相手に何を求め ることができ、また何を行う責任があるのか)を決めておく。 |
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2 | セルフ・モニタリングによる行動的介入 | 動機付け・治療関係が確立できれば、食事日記などの簡単なセルフ・モ
ニタリングを始めることができる。 動機付けを経て行われるセルフ・モニタリングはそれだけでも、食習慣や食事内容を改善する効果がいくらかある。また、今後の治療やクライエントとセラピ ストの話し合いに、豊富な素材を提供してくれる。この時期の面談は、セルフ・モニタリングをクライエントとセラピストとで検討すること、セルフ・モニタリ ングをしていてクライエントが感じたり考えたりしたこと、セラピストからはモニタリングを続けていることへの肯定とはげまし、そしてクライエントの疑問へ の返答や困難に関するアドバイス等で構成される。 摂食障害についての説明・情報提供は必要であるが、セルフ・モニタリングを行う中で、クライエントの疑問や困難と感じること(例:食事の後、すぐに嘔吐 してしまう)に対する、アドバイスや行動変容のためのアイデア(例:食べた後30分間はこれをする、といった代替行動を、食事する前から決めておく/代替 行動に使えそうな行動のリストをそこで渡すなど)として提示できるなら理想的である。どのような代替行為を行うかは次回までにクライエントに考えてきても らうことを宿題にすると良い。 |
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3 | 認知療法の説明と認知行動的介入 |
ABC図式(A:きっかけ→B:思考、信念→C:結果)などを使っ
て、認知療法の原理を簡単に説明する。加えて摂食障害に多いB:不合理な思考、信念の例として、「私は食事のコントロールもできない」「スマートにならな
ければ嫌われる」「みんなに好かれるには完璧でなければ」などを紹介していく。クライエントによっては、本人の抱いている信念やスキーマを詳しく検討しな
くても、その非機能性に気付く人もいる。認知療法についてのパンフレットや今日の説明の記録(録音テープやクライエント自身のノート)を読んでくること
が、この時期の初期の宿題となる。 次第にセルフ・モニタリングの記録などを素材に、A:きっかけ→B:思考、信念→C:結果(過食、嘔吐、拒食など)をクライエントとセラピストで構成す る場を導入していく。難しい課題であることを先に説明し、「お手伝いしますから、この図式で行動パターンを整理してみませんか」と促す。摂食障害の場合、 B:思考、信念とC:結果については、比較的あきらかである。クライエントの気付きが必要なのは、A:きっかけの部分であるが、これについてはセルフ・モ ニタリングの経験がそのまま役立つ。そして、きっかけが同定できれば、きっかけを調整することで行動的介入が行える(「テレビの料理番組」「雑誌のグルメ 特集」がきっかけとして同定できれば、そうした刺激を減らすことで問題行動を減らすことができる)。また「きっかけ」に対する反応を変えることを目標に、 (1)待てるようにする(きっかけ刺激があっても、すぐに何かを食べるのではなく、5分あるいは15分待ってみる)、(2)代替行為を行う(3)暴露と予 防(過食の衝動を引 き起こす刺激に対して直面させ(暴露)、続いて起こる過食を妨害すること。Cue exposureと反応妨害と呼ばれることもある。)、などの対処法があることをパンフレットなどを使い説明する(つかったパンフ レットは 持ち帰ってもらい読んできてもらうことが宿題になる)。 また結果を変えることが出来た場合は、「自分をほめる」など、新しいパターンを強化することを勧める。こうした「きっかけ」や「結果」の調整が成功すれ ば、B:思考、信念(そしてC:結果のうちでも「感情」)を調整する意義も、クライアントが入りやすい。 コラム法や非機能思考記録用紙をつかう前に、もういちどABC図式などで認知療法の原理について説明し、「結果」の調整がうまくいかなかった事項をとり あげながら、そのときの「思考」を同定し、クライエントとセラピストで評価する。そして、「思考を変えてみたら(結果は/たとえば過食は)どのようになる か」と問いかけ、いろんな思考(非機能的なものから機能的なものまで)についてセラピストが助けながらクライエントに予想(思考実験)してもらう。同様に 「思考を変えてみたら、感情は、どうなるか」についてもクライエントとセラピストで検討していく。行動の結果についても同様にする(この中には肯定的な結 果を生む思考も登場する)。こうした検討を経て、どのように思考を変えるのがよいか、押し付けずにクライエントに考えてもらう。この時の宿題には、同じよ うに問題につながった「きっかけ」について、「そのときの思考」を突き止め、「代わりの思考」をいくつか考えてみて、そして「代わりの思考」が生み出すと 予想される感情、行動、行動の結果について考えてくることをやってもらう。 こうしたセッションを数回繰り返し、クライエントの生活によい影響を与えているかを、セルフ・モニタリング記録やクライエントの話などからチェックして いく。 |
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4 | ボディ・イメージについてのエクスポージャと脱感作 | ボディ・イメージについての認知を修正する必要がある場合に、エクス
ポージャ(暴露)を用いる。 これに先立って(1)ボディ・イメージについて、身体的外見についての心理学、社会学の知見(どのような文化的・社会的メッセージが、ボディ・イメージ の形成に関わっているか)、そして外見が人生に与える影響についての神話と真実(統計データ)などの情報提供を行ない、(2)ボディ・イメージに関する感 情についてのコラム法を宿題にし、(3)クライエントのボディ・イメージについての認知が、クライエントの活動や人生にどのような影響を与えているか(ま た与えてきたか)について、セラピストと話し合うことなどが必要である。 そして自分にとっていやな、(a)身体の部位と(b)ボディ・イメージに関してストレスを感じる状況を、それぞれについて階層表を作成する(ボディ・イ メージについてクライエントがやってきたコラム法の記録が参考になる)。そして暴露と脱感作を計画したときから、リラクゼーション法の練習を行う。 ここまでの準備ができれば、 (1)まず身体の部位についてのイメージによる暴露を行う。階層表の低い方からイメージしながらリラクゼーション法を実施し、不快感を落ち着けていく。ク ライエントはセッション中にこの練習をはじめ、イメージする時間も15秒から30秒、1分とのばしていき、不快感をある程度コントロールできるようになっ た ら、階層表の次の段階に進む。 (2)イメージによる暴露ができたら、次は着衣のまま、鏡に自分を写して、階層表の一番下から一番上までイメージ暴露を行う。これはセッション中に練習を 行ない、宿題として家で取り組んでも良い。 (3)最後に、(もちろん家で/一人になれる部屋で)、服を脱いだ自分を鏡に映して、階層表の一番下から一番上まで暴露を行う。これは大きな効果がある が、通常プライバシーが守られたとしても、少なくないクライエントが抵抗を示す訓練である。実施するかどうかについては、セラピストには慎重な判断が要求 されるし、最終的にはクライエントの意向が尊重されるべきである。 ボディ・イメージに関してストレスを感じる状況については、ボディ・イメージの誤った認知に由来する不安からクライエントは、ストレスがかかる状況では 何らかの回避的儀式を行っていることがある。したがって、これらの行動を変えることを試みる前に、クライエントにはス トレス免疫訓練の技法が教えられる。 それはPACE(自分のペースで)という4つのステップからなる。P(=Prepare:準備する)回避に対抗し たり儀式を我慢したりするためのプランを準備しリハーサルをしておく。A(=Act:実行する)プランを実行する。C(=Cope:対処する)不快感をコ ントロールするためにリラクゼーション法やイメージやコラム法でつくった合理的思考を書いたコーピング・カードを読むなど。E(=Enjoy:享受する) 対処がうまく行ったら、あらかじめ決めておいた自分へのご褒美を与える。 PACEを身に付けた、クライエントは、ボディ・イメージに関してストレスを感じる状況を、階層表の一番下から順にチャレンジし、不快な感情がなくなる ま で我慢することで、ストレス状況を1段ずつ克服していく。ストレス状況の克服については、第3段階の認知行動的介入と同時に行うこともできるし、エクス ポージャを通じての認知の修正も期待できる(「人々は私が思っているほど、私の体型を気にしていない」という認知の獲得など)。 |
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5 | 身体に関する自己効力感の向上 満足をもたらす行動をふやす |
これまでの治療介入は、主として否定的な認知や行動をターゲットにし
たものだったが、この段階ではクライエントの身体に対する肯定的な経験を進めるためのサポートと練習が行われる。 (1)まず身体的活動のリストを見せて、クライエントに過去1年間でやったことのあるものを抜き出してもらう。その上で、それぞれの活動から得られた満足 度と楽しさを数字(0〜10)で表してもらう。また、それぞれの活動を(ア)外見に関するもの、(イ)健康に関するもの、(ウ)五感に関するものの3つに 分類してもらう。セラピストは、それぞれの活動の分類について、他の見方があり得ることを示唆する。たとえばウォーキングについて、クライエントはダイ エット法(体重を減らす方法)と考えて「(ア)外見に関するもの」に分類するかもしれない。それに対してセラピストは、ウォーキングが健康に関係すること や、「朝の涼しさの中を歩いていく気持ち良さ」について話し、クライエントの分類を拡充していく。こうしてクライエントとセラピストには、実行可能で、 (ア)〜(ウ)にかんして3つともに関わる身体的活動、またうち2つに関わる身体的活動を抽出することができる。そうした活動の中から1〜2つ選んで、毎 日実行することを宿題とする。日記には、それぞれの活動から得られた達成感と喜びが記録され、これが次回のセッションで話し合われる。 (2)この身体的活動日記についての話し合いの中で、こうした体にとってよい活動をもっと増やすためにはどうしたらしいかが議論される。望ましい候補があ り(たとえばエアロビクス教室に通う)、その実行には練習やトレーニングが必要ならば、その手配をするように促す。話し合いの中で、クライエントの抵抗 (たとえば、「エアロビクスはいいけれど、皆の中で、あんな体型がはっきりわかるような格好をするのは嫌だ」)が見つかれば、それについて認知的介入(認 知の修正)や行動的介入を行い、あるいはこれまでの治療を振り返らせるなどして、クライエントを励まし支援する。 (3)さらに直接に肯定的なボディ・イメージをつくっていくための介入を行う。
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6 | 再発予防 | (1)クライエントとセラピストはこれまでの恊働作業を振り返り、これ
まで達成してきたことを評価して、互いの協力に感謝し合う。また問題が残っている部分についても明らかにし、今後新たな行動やボディ・イメージの構築を目
標にする。 (2)ボディイメージに関して問題となる、やっかいな対人関係については、その対処法をセラピストを相手にしたロールプレイなどを通じて対策しておく。 ロールプレイでは、まずセラピストが相手役をやり、その後クライエントが「問題の相手」を逆に演じて、最後に二人で感想を述べ合い、もっとよい対処がない か話し合う。この問題が、治療の初期に発見されていれば、もちろんその段階でロールプレイを導入しても良い。クライエントの環境を改善できる介入は、いつ 取り入れても、治療にプラスに働く。 (3)今後、問題になりそうな事態をクライエントは、セラピストの助言を得ながら予測し、それについての対処法をあらかじめ作っておく。つまりPACEの戦略を用いることで、ハイリスクな状況に対応するプランをつくっておくことで、再発は防止され、よきボ ディ・イメージの構築と、正しい食習慣などが維持されていく。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
段階 | やること | コメント |
1 | 治療関係の形成と問題のアセスメント | 統合失調症の患者は、一般に精神医療に対してよい印象・期待を持って
いない。そのため定期的に治療に来ることが必ずしも期待できない。リタイアの可能性も小さくない。 したがってまず、セラピスト(治療者)とクライエント(患者)の間に、しっかりとした治療関係を作り上げることが最初の段階になる。そのためにはクライ エントの問題をセラピストが真剣に受け止め、それを今後の治療で扱って行くのだということをクライエントに理解してもらう。前回の面談をすっぽかした場合 も、批判的にならず、これなかった理由がクライエントが抱えている多くの困難のいずれかにあると考え、共同でその解決について考えていく。 丁寧に主訴を聞いてゆき、これまでの精神病体験についても聞いていく。また(同時に行われている)薬物療法やこの認知行動療法、そしてセラピストについ てどう感じどう考えているかも聞いていく。他に心理テストや構造化面接法なども用いて、アセスメントを進めて行く。 クライエントによっては、最初から主訴や精神病体験について話してくれない場合も多い。最初のうちは時間中ずっとなき続けたり、だまり続けるクライエン トもいる。時にはしんぼう強く待つことも必要となる。そうした場合も、話をしてくれるテーマから面談を進め、共同で問題について話し合い、セラピストから の提案を受け入れ、クライエントの状況が一部であっても好転することで、治療関係の形成が進み、問題についてのより詳しいアセスメントが可能となる。その ため、第1段階と第2段階は、行きつ戻りつ、進められていく。 |
2 | ストレス対処法と症状の対処方法について教える | ストレスとなる出来事への対処法を一緒に考えていく。統合失調症の場
合、症状(幻聴や妄想)自体がストレスの元になっていることも多い。そのため、そうした症状への対処法も同時に考える必要がある。このため、第2段階〜第
4段階もまた、行きつ戻りつ、進められることになる。 この段階では特に、最も苦痛を生んでいる症状は何かを明らかにし、その症状がどんな場合に(どんな先行条件があって)起こっているかを分析する。その症 状の引き金、きっかけとなるのはどんなことか、また症状の結果クライエントはどんな状態に陥るのか、いままではどのように対処してきたのか、どうすること が症状を持続させてしまうのか等を明らかにしていく。そしていままでとは違った対処法や、症状の先行条件となるものを避ける方策などを考え、クライエント が納得して「行動実験」してもらうようにする。これまでと違った対処法は、症状とクライエントの窮状との悪循環を切り替え、症状を減らしたり、クライエン トのストレスを減らせるかもしれない(もちろん、変わらない場合もある。そうした場合はまた、違う手を考えていく)。 ストレスと症状への対処法がうまくいくことで、クライエントの生活が改善し、余裕と治療への動機つけが生まれ、また治療関係も強化される。 |
3 | 症状のフォーミュレーション(定式化)を行う | 症状を生み出しているたくさんの要因の関係図式を、セラピストとクラ
イエントが協力して作り上げることを、フォーミュレーション(定式化)という。 その元になるのは、統合失調症についての研究が提示している心理学的モデルだが、クライエントから精神病体験(はじめて症状(幻聴・妄想)が出たのはい つか、どんな状況だったか)や生活史(過去にさかのぼって、幻聴や妄想の素材となったものを突き止めていく)を詳しく聴き、関係図式のそれぞれの項目を埋 めながら、クライエントが納得できる「症状の説明モデル」として完成させていく。 この「症状の説明モデル」は、クライエントがこれまで考えていた病気についての考え方の代わりになるべきものである。つまりクライエント自身が考える 「病気についての見方」と比較して、よりましな(納得できる、自分や他人を不必要に責めなくて済む、苦痛なく受け入れられる)病気について解釈として「症 状の説明モデル」はクライエントに受け入れられるものであるべきである。 つまりフォーミュレーションがつくる「症状の説明モデル」は、複雑さの度合いはずいぶん違うが、役割としては、うつ病の認知療法におけ る「合理的思考」にあたるものである。 |
4 | 妄想や幻覚への介入 | しっかりした治療関係ができたら、症状のフォーミュレーションを進め
ながら、ようやく陽性症状(妄想や幻覚)への介入を行う。 陽性症状は、周りの人間にとっては無意味でも、クライエント自身にとっては意味があり、しばしば症状がなくなると「何かよくないことが起こる」と信じて いるクライエントもいる。そのため、セラピストは、ある症状(最近になって出てきた「若い症状」が変えることが容易であるのでよく選ばれる)をターゲット にして、(1)症状が最初に出てきたときの状況、(2)症状(妄想・幻聴)がいまでも正しいと思うかどうか(その信用度)、(3)症状(妄想・幻聴)に よって生じる感情、(4)症状(妄想・幻聴)に伴う行動、(5)症状(妄想・幻聴)を正しくないと認めたとき、何が起こると思うか、などをクライアントに 尋ねていく。また(6)どのような状態になると症状が出てくるのか、(7)最初にその症状が生じてから、今まで症状がどのように変化してきたか、について も聴いていく。 クライエントは症状(妄想・幻覚)について周囲から長年から否定され続けたことから、症状について触れることを避けることが多い。したがって水を向けて みて、クライエントが乗り気になったときにのみ、症状についての話し合いを行う。また、最終的な目標は症状(妄想・幻覚)の変化であるが、症状を変えよう とあせったり、症状の内容を言下に否定してはいけない。あくまでクライエントの側に立ちつつ、妄想について、もう少し別の考え方ができないかどうかを、 いっしょに探っていくというプロセスであるべきである。 フォーミュレーションをつくっていくと明らかになることであるが、症状(妄想・幻聴)の内容は、患者の経験から生まれたものである、患者の経験や感情を 話題にしながら、症状(妄想・幻聴)について話し合いを続けていく。こうしたプロセスを通じて、クライエントは症状(妄想・幻聴)に圧倒されるのではな く、症状(妄想・幻聴)を対象として客観的にながめ取り扱えるようになっていく。その後、症状(妄想・幻聴)について、別の見方や考え方があることにクラ イエントは気付いていく。クライエントが症状を取り扱えるようになり理解できるようになる一方で、症状(妄想・幻聴)は力を弱めていく。 |
5 | 通常の認知療法を用いて、低い自尊心を高め、抑うつや不安症状を改善す る | 抑うつや不安症状を生み出す自動思考を同定し、それに対して別の考え
ができないかをクライエントと一緒に考えていく。長い時間をかけて、第1段階〜第4段階をセラピストと共同作業してきたクライエントは、この段階では認知
療法の意義を理解し、セラピストの支援を受けながらであれば認知療法を使いこなせる。 「私は愛されない」「私は無用な人間だ」といったスキーマについても修正し、クライエントの自尊心が高まるよう、支援していく。 |
6 | 再発予防の方法を教える | これまで統合失調症の再発を繰り返しているクライエントは多い。 これまでの治療歴を、セラピストとクライエントは検討し、(1)再発のきっかけになったのは何か? (2)再発の前兆としてどんなことがあったか?を明 らかにし、これまでの経験を振り返りながら、再発予防のための方略を考えていく(PACEの戦略)。このとき も、フォーミュレーションでつくった、クライエントも理解し納得し ている「症状の説明モデル」が役に立つ。 「再発は避けられない」という信念をもっているクライエントも多い。上記のように実際的な方策を考えるのと同時に、そうした信念について、認知療法的な アプ ローチで「再発は避けることが出来る」という信念をクライエントが持てるようにする。 |
ステップ | やること | コメント |
0 |
新しいメンバーの紹介 SSTのルールのおさらい |
SSTは普通、集団を対象に行われる。メンバーは固定されていないの
で、今回から新しく参加するメンバーがいる場合は、リーダー(指導者)や新メンバーを含む全メンバーが自己紹介するところからはじめる。 またSSTグループには、簡単なルールがあるし、進行の順序も最初に理解してもらえた方がよい。これらはなるべくリーダーが説明してしまわずに、「先輩」 メンバー から手短に説明してもらえるよう(また他のメンバーにも思い出してもらえるよう)にしたい。そのためにリーダーはメンバーに、ヒントや質問を投げかけてい く。 (SSTグループのルール……ポスターなどにして貼り出しておくと良い) 1 グループ全員の話題にしたがいましょう 2 一度の一人だけが話しましょう 3 悪口を言ったり、どなったりしないこと 4 欠点を言ったり、からかったりしないこと 5 グループでは飲み食いしないこと |
1 | 前回の宿題についての報告とフィードバック |
SSTでは、ひとつの技能(スキル)を修得するのに、2〜3回のセッ
ション、ク
ライエントによってはそれ以上の回数が費やされる。 セッションの終わりには宿題が出され、初回以外は、前回出された宿題についてのふりかえりから、セッションは始まる。 参加メンバーからひとりずつ、宿題として実行したことを報告してもらう。どんな小さなことでも、すべての努力をほめること(正のフィードバック)が、メ ンバーの重要な動機付け につながる。 うまくいかなかった事例を取り上げて、ロールプレイをしてもらって、前回と同じ技能(スキル)を学ぶとっかかりとしてもよい。 |
2 |
技能を学ぶ意義を明確にする |
前回の続きとして同じ技能を学ぶ場合もあれば、新しい技能を学ぶ場合
もある。どの技能を学ぶかは、メンバーからリクエストを募るのが好ましいが、初心者が多く出て来ない場合は、リーダーが提案しても良い。 いずれにせよ参加者には、なぜその技能を学ぶのかを理解してもらいたい。これもリーダーが一方的に説明するよりも、「この技能がうまくできるようになっ たら、(あなたの生活は)どうなるだろう?」と問いかけていくことで、メンバーから意見を引き出していくことが好ましい。参加者の意見で、技能を学ぶ意義 と関係があるものはすべてほめる(正のフィードバック)。必要な補足や、参加者からあがらなかった意義については、まとめとしてリーダーが最後の話す。 |
3 |
技能のステップについて話し合う |
SSTで学ぶ技能は、ポイントが理解しやすいように、小さなステップ
に分けられている。 技能のステップごとに、なぜそのステップが必要か、メンバーで話し合ってもらう。リーダーは出された意見をまとめ、またメンバー全員が、それぞれのス テップがなぜ必要か理解できたかを確かめて、次へ進む。 |
4 |
ロールプレイを用いて技能をモデリング。 |
SSTでは、新しい技能を学ぶときはまず、リーダーが「見本」を実演
してみせる。 リーダーは「ロールプレイで技能を実演してみせます」と言ってから、場所を変えて(これでメンバーに、リーダーが説明しているのか、技能を演じているの か、が区別しやすくなる)、コ・リーダー(副指導者)を相手に技能の見本をやってみせる。この見本から学ぶことをモデリングという。 モデリングには、他にビデオなどを用いることもある。 モデリングは、手短かで簡潔なものが好ましい。複雑で長くなると、このあとメンバーにロールプレイしてもらうことが難しくなる。 |
5 |
モデリングを参加者と振り返る |
最初に話し合った技能の各ステップが、モデリングのためのリーダーの実
演の中でちゃんと使用されたかどうか、メンバーで話し合ってもらう。また使われたステップが想定された場面で有効かについても、メンバーから意見を出して
もらう。 |
6 |
グループの参加者に同じ場面でロールプレイしてもらう |
いよいよメンバーに実際にロールプレイしてもらう。場面はモデリング
のときと同じである。 技能を持っている(いそうな)メンバーか、やってみたいというメンバーからはじめる。そのメンバーに『リーダーと一緒にロールプレイでいまの技能をやっ てみてほしい」と頼む。 OKが得られれば、簡単な質問をして、ロールプレイの目的を理解しているか確かめる。 残りのメンバーには、ロールプレイをやってくれるメンバーがやることを、よく見ているように言う。その技能のステップごとに、メンバーの中から担当をき めて、とくにそのステップを観察のポイントとしてもらうのもよい。 |
7 |
正(プラス)のフィードバックを行う |
ロールプレイしてくれたメンバーに対して、皆からよいところを誉めて
もらう(正のフィードバック)。 まず、各ステップを担当して観察していたメンバーに、リーダーが質問をして、正のフィードバックを引き出す。その際、具体的なフィードバックが出てくる ように励ます。 負のフィードバック(けなす、直した方がいいと言う)や批判は、この段階ではすべてさえぎる。たとえば(メンバー)「もっと〜した方がいいと思いまし た」(リーダー)「△△は良かったけれど(メンバー自身は指摘してないが関連する部分でよかったところをリーダーが追加する)、それができているので、そ の先の〜〜についてのアドバイスをしてくれたのですね」といった話の持っていき方を使う。コ・リーダーが正のフィードバックをホワイトボードに書き出して いる場合も、負のフィードバックや批判は記録しない。 最後にリーダーが、メンバーからのフィードバックで抜けていた点について、正のフィードバックを行う。すべての努力を拾い上げてほめるようにする。 |
8 |
修正のフィードバックを行う。 |
つづいて修正のフィードバックを求める。その技能をよりうまくやる方
法の提案をメンバーから募る。 あまり修正の提案が多くなっても、取り入れることは難しくなる。せいぜい1〜2つの提案でよい。 提案は、建設的で気楽な言い方で伝えるよう努力する。 |
9 |
同じ場面で、同じ人にもう一度ロールプレイしてもらう |
さっきと同じメンバーに2度目のロールプレイをやってもらう。 「次のロールプレイでは、1つの行動だけを変えてやって欲しい」とリーダーから頼む。 本人が提案を理解しているかどうか、簡単な質問で確かめる。 変化させる行動は、他の人が見ても明確で、かつロールプレイするメンバーが変えることができるものにする。 |
10 |
さらに正(プラス)のフィードバックを行う |
変化させた行動に焦点をあてて、正(プラス)のフィードバックを行
う。正(プラス)のフィードバックは多いほど良いが、具体的なものであることが好ましい。 本人の行動改善のために、(1)耳打ち促しや(2)身ぶり促し、(3)補足モデリングなどを用いてもよい。 |
11 |
5〜10の手順に従って、他の参加者もロールプレイを行ない、フィード
バックを行う |
ロールプレイ→正(プラス)のフィードバック→修正のフィードバック
→再ロールプレイ→再び正(プラス)のフィードバック(+おまけ)を、他の参加者も行っていく。参加者全員が練習する機会を設けること。 ただし、途中で席を立ったり、今日は見ているだけ、といったこともSSTの参加者には許される。SSTは参加者の自主性と主体性の上に組み立てられる。 |
12 |
今回学んだ技法を、クライエントがそれぞれの生活の場面で実施すること
を宿題に出す |
今日学んだ技法を練習できる宿題を設定する。 参加者に「今日練習した技能を使えそうな場面を考えて、みつけてほしい」と話す。SSTは繰り返しやることが大切であること、練習の機会はあればあるほ ど良いことを、強調する。 できれば、宿題を各参加者の技能のレベルに合わせるように、リーダーが修正するとよい。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
段階 | やること | コメント |
0 | オリエンテーションと治療関係の形成 | これまで境界性人格障害のクライエントとは、一貫した治療関係を作り
上げるのが難しいとされてきた。そのため、病態に応じて精神療法と薬物療法が行われるるものの、治療中断になりやすく、また別の医療機関で同じことの繰り
返しという悪循環に陥る場合が少なくなかった。古い医療情報には「人格障害は人格の病的に偏った状態であり、医療で根本的な問題解決をはかることは困難と
考えられている。実際に、神経症や精神病に比べて、治療的効果は乏しい」
などとされてきたが、むしろ「なおらない」のではなく「なおせなかった」というのが実態であり、これらは医療介入の失敗を「病気の本質」に投影してきたに
過ぎない(境界性人格障害の特徴のいくつかは「医原性」であったことが今日では知られている)。近年では、境界性人格障害に対して弁証法的行動療法を開発
し高い治療効果を上げているリネハンらによって、感情衝動のコントロール障害と
捉え直されている。 弁証法的行動療法では、セラピスト(治療者)とクライエント(患者)の間に治療協力関係を作り上げるために、共同での目標設定とともに、それに対して行 われる段階的支援がどのようなものかが説明される。目標設定は1〜3セッションをかけて、クライエントが先攻、セラピストが後攻といった形で行われる。ま ずクライエントが治療に求めるもの(期待・希望)が出され、それに対してセラピストとはどのような支援ができるかが応じる。セラピストが行うべき「診断面 接」や「問診」、行動的介入のための「行動分析」は表面に出ず、目標設定のための対話のあちこちにうまく織り込まれる。 そうしたやり取りのあとに、クライエントとセラピストは、治療の共有目標をどこに置くかを話し合う。クライエントとセラピストは互いに相手に何を期待す るか(してよいか)が話し合われ、双方によって合意される。弁証法的行動療法のセラピーは双務的でなのである。 もちろんセラピストは、クライエントが抱いている治療や「人格障害」についての偏見や誤解を修正しておかねばらない。治療が引き起こすだろう変化の速度 や大きさも重要なテーマとして取り扱われる。クライエントは変化を求めているが、また同じぐらい強く変化を恐れてもいるからである。 次のこともまた説明される。(1)弁証法的行動療法は、クライエントとセラピストとの強い恊働関係を必要とする支持的療法である。自殺防止プログラムで はなく、クライエントとセラピストがチームとして機能することで、クライエントの人生を強化するプログラムである。(2)弁証法的行動療法はまた、認知行 動療法でもある。問題行動を分析して適当なスキルに置き換えることを目指し、非機能的な信念や凝り固まった考えを変えることにつとめる。(3)そして弁証 法的行動療法は、スキル志向の療法でもあり、行動的スキルのトレーニングを重視する。 「弁証法」の名にふさわしく、普通は互いに相容れないと考えられる要素が、弁証法的行動療法にはうまくバランスをとって盛り込まれている。「弁証法」は また、クライエントの、一方で激変する感情と相変わらず続く病態、変わりたいという意志とかわりたくないという恐れという状態といったアンビヴァレントな 状態を表す言葉でもあり、そんなクライエントをありのまま受け止めつつ、一方で強力なトレーニングと治療的介入をも辞さないセラピストの取るべき態度を示 す言葉でもある。 |
1 | 基本的能力の習得 |
セラピーの第1段階ではまず、「ある程度機能し安定している生活パ
ターン」をクライアントが身に付けることに焦点があてられる。このために重要となるのは、自殺行動や治療中断行動、生活の質(QOL)を台無しにする行動
を減らすこと、そして行動的スキルを増やすことである。重篤なクライエントや自殺を繰り返してきたクライエントの場合には、この段階に1年以上かかること
もある。しかし「死んだクライエントはどんな療法でも救えない」(Mintz,1968)ために、第一の目標がここに置かれる。 同時に「弁証法的」な行動を増やすことも、処置のあらゆる面において、追求される。セラピーにおけるほとんどあらゆる目標が、クライエントと話し合われ るのに対して、この目標が議論されることは稀である。なにより抽象的だし、話だけでは理解が難しいからだ。しかし「弁証法的」な思考は、極端な「全てか無 か」思考や行動様式をとる境界性人格障害のクライエントにとって恐ろしく困難である、つぎのような作業を助ける。つまりクライエントが(1)複雑で重層的 なものとして現実を理解すること、(2)矛盾していて同時には両立しない考えの両方を持ち続け、また統合すること、(3)そして一貫性を欠いたことや矛盾 といったもの(それは境界性人格障害の病態の性質でもある)に苦しめられないようにすること。 「弁証法」の強調は、クライエントの行動パターンにも適用され、相反する二つのもの、たとえば感情的反応と表に現れた行動的反応を統合するのを助ける。 加えて、「スキルを強化すること」対「いまの自分を受け入れること」、「問題を解決すること」対「問題を受け入れること」、「感情を整えること」対「感情 に寛容になること」、などの「相反する二つのもの」についても同様である。行動の極端さについても、それが感情的なものであれ、認知的なものであれ、表面 に出たものであれ、その行動をつづけることと同時に、よりバラ ンスのとれた反応をとること(極端な反応とは、もちろん両立しない)が教えられる。 [自殺行動] クライエントを死なせないことは、どんな心理療法においても、すべてに優先されなければならない(繰り返すが「死んだクライエントはどんな療法でも救え ない」)。したがって自殺につながり得る行動(高い場所やすぐに死に至る危険のそばにクライエントが行くこと、自殺するぞという脅し、自殺の計画・準備、 かくれて自殺手段を入手すること、強い自殺念慮など)はすべて、弁証法的行動療法でも、何を置いても対処しなければならない第一の優先順位をもつ。他の心 理療法のマニュアルではむしろこの点について明示的には触れていないが、弁証法的行動療法 では明記されている。なぜなら自殺とそのリスクは境界性人格障害のクライエントにとっても第一の関心ごとであるからである。自傷行為などの準自殺行動につ いても自殺と同様の優先順位で対処する。準自殺行動自体が自殺行動の出現を予見させるし、また弁証法的行動療法の恊働的セルフヘルプの立場と自傷行為を無 視することは相反するからでもある。 [治療中断] クライアントとセラピストの恊働関係を維持することは、弁証法的行動療法にとって、自殺行動への対処の次に優先される(二番目の優先順位を持つ)事項で ある(他の心理療法にとっても、明示的でないにせよ、同様だろう)。しかし境界性人格障害のクライエントが抱える問題の多くが長期的なものであるのに対し て、彼等クライアントは治療の終了をあまりに性急に期待する。一方、境界性人格障害に取り組んだセラピスト(治療者)のバーンアウトはめずらしくない。境 界性人格障害のクライエントには自殺防止その他必要から治療者たちから多くの注意が注がれるが、その結果治療者たちが医原性の問題行動を作り出してしまう こともよくある話である。つまるところクライエント側にもセラピスト側にも、治療関係や治療プロセスを台無しにしてしまうものがたくさんある。その結果、 治療介入は、直接的に/即座に/一貫して/切れ間なく、行われる必要があるのにそうされない。しかし、もっとも重要なのは、クライエントかセラピストのど ちらかが、あるいはその両方が、たとえ治療を続けたくなくなったとしても、治療介入は続けられる必要があるということである。 クライエントが行う治療妨害には、クライエント自身が治療を受けようとしないことから、他のクライエントがうける治療効果を台無しにするものまである。 セラピストが行う治療を損なう行為には、セラピスト自身が燃え尽き(バーンアウト)してしまうことから、セラピストとクライエントとの関係で「一線を越え てしまう」ものまである。セラピストが行うどんな医原性の問題も、クライエントが引き起こす妨害と同様に、治療の進行を妨げる。こうした治療妨害は、クラ イエントが起こしたものならセッションの中で処理されるが、またコンサルテーションやスーパービジョンにおいても取り扱われる。 [生活の質を台無しにする行動] 第1段階で取り扱われる3つめの目標は、クライエントの生活の質の向上を妨げている行動や環境への介入である。これには、深刻なの薬物依存や摂食障害、 高リスクで制御不能な性行動、金銭に関わる危機(買い物やギャンブルが止められない、財産を管理できないなど)、投獄されるような犯罪行為、職場や学校に 関する問題行動(退職や退学を繰り返したり、どんな生産的活動にも取り組まないなど)、家庭に関する問題(虐待者と同居している、決まった住居がないな ど)、健康に関する問題(入退院を繰り返す、必要な医療処置を受けない/受けられない、深刻な精神疾患を治療しないなど)。ここでの目標は、安全で十分に うまく行っている生活ができるよう、クライエントが安定したライフスタイルを確立することである。 [行動的スキル] 第1段階での4つめの目標は、つぎのような行動的スキルを身に付けることである。(1)苦痛に耐えるスキル、(2)感情を調整するスキル、(3)対人関 係を有効に保つスキル、(4)自己管理(セルフ・マネジメント)のスキル、そして(5)マインドフルネス・スキル。 このうち中心(コア・スキル)となるのが、価値判断抜きに心や身体の状態を受け止めるマインドフルネス・スキルである。このスキルは禅を含む瞑想法に由 来する。このスキルには、心や身体の状態を観察しコトバにすること、(避けるのでなく)自然に事態と関わること、判断を留保すること、気付き (awareness)に焦点 を合わせること、実効感=「できる」という感覚(effectiveness)に焦点を合わせること、などが含まれる。 普通の認知行動療法と異なり、苦痛を与える感情や出来事(それらをもたらす認知)を取り除くことに焦点を合わせるのではなく、弁証法的行動療法ではこう したスキルを通じて苦痛に耐えることを学ぶ。 マインドフルネスのスキルが上達すると、それについれて苦痛に耐えるスキルも上達する。つまりマインドフルネスのスキルは、善悪の判断をすることや、苦 痛な感情やその原因となった事態を避けたり、変えようとしたりコントロールしようと することをやめて、いま現在の思考や感情や行動を受けとめ、そしてそれを観察する能力であるからである。 感情調整のスキルもまた、判断抜きに感情を直面するという一種 のエクスポージャー(暴露法)を通じて、感情に由来する苦痛を減らすことで磨かれる。感情調整スキルは、今の感情を同定し名前をつけ、そして善悪の判断抜 きにそれを受け止める(マインドフルネス)こと、また感情を変えるのに邪魔をしているものを同定し、プラスの感情につながる出来事をふやし、マイナス感情 とは反対の 行動的表現をふやすことなどを含んでいる。 対人関係スキルのトレーニングは、他人との肯定的な関係、それに自分の自尊心を維持しながら、対立的な状況の中でも目標を決めたり目標に優先順位をつけ る能力を発展させるし、他者との関係を損なったり自尊心を傷つけたりせずに、それら目標を達成する様々な方法についても教える。他の行動的スキルと結び付 けて教えられる、自己管理(セルフ・マネジメント)のスキルには、学習や行動変容についての基本原則についての知識、現実的な目標を定める能力、自分自身 で行動分析を行う能力、随伴性管理の計画を実行する能力などを含んでいる。 |
2 | 外傷(トラウマ)からくるストレスの低減 | 弁証法的行動療法の第1段階では、上記のように「いま・ここ」のアプ
ローチがとられ、非機能的な現在の行動や感情のパターンが取り扱われる。現在の行動と過去のトラウマ的出来事の関係はときに探られ記録されるが、治療の焦
点はあ
くまで現在の思考、感情、行動の間の関係に、そして受け入れられ変わりつつある現在のパターンにあわせられる。 弁証法的認知療法の第2段階ではその逆に、過去のトラウマ的出来事の感情処理がターゲットとなる。そのため診察室でという治療的セッティングに守られた 状態で、合図によって引き起こされるトラウマとなった出来事の暴露(エクスポージャ)が行なわれる。第2段階の第一の目標は、トラウマ性のストレスを減ら すことである。精神力動派のことばでいえば、第1段階が「封じ込めcontainment」段階であるならば、第2段階は「暴き出し uncovering」の段階である。 この段階では特に4つの目標が重要である。(1)トラウマを引き起こした過去の出来事を事実として思い出し受け入れること。(2)ある種のトラウマによ くあるスティグマ化と自責化/自己非難を減らすこと。(3)強いトラウマに苦しめられる人に良くある、ぶり返す否定的で侵入的な諸反応を減らすこと。 (4)トラウ マを非難する拠点となっている弁証法的な緊張を解きほぐすこと。 この第2段階への以降は、第1段階で対処にした問題行動がはっきりと管理されている場合にのみ行われる。弁証法的行動療法のセラピストが、Cue exposure(トラウマ感情やフラッシュバックを引き起こすきっかけ(Cue)を用いておこなうエクスポージャ)を(あるいは段階的な 「暴き出し」を)行なうの は、クライエントが第1段階を 乗り越えてからである。これはPTSDと子供時代の虐待のトラウマを同時に扱う専門家が行うことと同じである。 第2段階に進むにあたってクライエントは、(1)自殺や自殺未遂への衝動に抵抗できるようになっていなければならない。(2)薬物依存や制御不能な性行 動や浪費などの、深刻な非機能的行動をやらないようになっていなければならない。(3)住む場所をみつけ、毎日何かしらの活動を行なって、ある程度安定し た生活を維持できるようになっていなければならない。(4)少なくとも最低限の対人関係スキル、感情調整スキル、苦痛に耐えるスキルを身に付けていなくて はならない。(5)恊働的治療関係を守ることができなくてはならない。つまるところ、クライアントが治療的暴露(エクスポージャー)によって生じる諸感情 に対処できるようになっていることが必要なのである。 |
3 | 生活上の問題解決と自尊心の向上 |
第3段階では、弁証法的行動療法は、クライエントの日常生活上の受け
入れがたい不幸や問題への介入を目標とする。 この段階にいるのは、第1、2段階で問題解決の必須科目をこなしてきたクライアントか、病態がそれほどひどくなかったため、そこまでする必要がなかった クライアントである。 この段階で取り扱う問題は、いまだ手強いものだが、日常生活の主要な場面で個々人が十分こなしている程度のものである。ここでの目標は、したがって、ク ライアントが独立した自尊心を持つとともに、ありきたりな幸福と不幸を体験できるレベルに達することである。この目的を達成するために、クライエントは自 分 自身を価値あるものと認め、信用し、信頼し、ありのままに受け止めることができるよう、支援される。 ここでの目標は、防衛的にならずに自分の行動を評価できること、自分自身の反応を信頼できること、他人の意見について自分自身で評価できること、であ る。 セラピストはクライエントが、自分を受け入れる、自分の世話をする、問題を解決する、といった自己を独立させることへのチャレンジに何度 もスタート地点に立たせ、くりかえし励まさなければならない。クライエントが全ての人から独立することは目的ではないが、クライエントが自分を受け入れ ながら他者と関係を結び、頼ることができるようになるために必要な自己信頼を勝ち取ることは重要である。 |
4 | 持続的な喜びを獲得する | 弁証法的行動療法の最後の段階は、不完全さの感覚を克服し、ずっと続
いていく喜びを生み出す力を発展させることを目標とする。 ここでのゴールは、拡張された気付き、スピリッチャルな充実、経験的な流れへの移行である。個人個人にとって、この第4段階においては、長期にわたる洞 察 志向の精神療法や、スピリッチャルな指示とトレーニング、他の経験的な心理治療、あるいは人生の経験そのものが、もっとも多くを与えてくれるだろう。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
段階 |
やること |
コメント |
0 |
インテーク面接とアセスメント |
PTSDの診断 |
1 |
オリエンテーションと治療関係の形成 トラウマの元となった事件についての想起 |
セラピストはPTSDの病態について説明し、クライエントが自分の苦痛
や(しばしば自覚のない)回避行動などをPTSDの症状として理解できるようにする。 また今後の治療について説明し、クライエントに宿題(ホームワーク)の大切さやセラピーへの協力が重要であることを理解してもらう。 そして今回の目標であるが、クライエントにトラウマの元になった事件について話してもらう。無理強いすることなく、辛い経験について話してもらうには、セ ラピストとのラポールの形成はもちろん、クライエントの苦しみが異常なものではなく多くの人が経験しているものであること、そして多くの人が治療を経て、 苦しみを乗り越えていること等を理解・納得してもらうこと、安全で安心できる雰囲気、最大限の受容を伴った真摯で誠実なセラピストの聴く姿勢などが必要と なる。クライエントが事件や関連事項(周囲の人間の反応など)について部分的にしか(あるいは不完全にしか)話すことができなくても、受容し、その勇気に 肯定的な反応を返す。 宿題(ホームワーク)としても、トラウマの元になった事件について、できる限り詳しく書いてきてもらう課題を出す。 |
2 | エクスポージャ開始 認知的再編成についての説明 |
記憶と感情、脳の情報処理とPTSDについての説明を行う。恐怖など
の悪い感情を伴う記憶は定着しやすい。自然の中で外敵に襲われた恐怖の体験こそ,生き残り遺伝子を残すために有効であったことからこうした性質を我々の記
憶と感情は持っているのかもしれない。ともかく記憶に
よって意思に反して苦しめられる状態は、記録についてのネットワークをさらに活性化するため、記憶と感情の悪循環から、症状を強化・持続させかねない。こ
れに対して、これまでの記録—感情のネットワークとは相反する新しい情報を処
理させることで、苦痛を生み出している記憶ー感情のネットワークを書き変え、改善されるとCPTでは考える。古い記憶ネットワークの活性化と同時に
新しい情報処理を行なうため、CPTでは以下のような、認知的なエクスポージャを行う。事件について想起し書くこと、そして事件について書いたものを声を
出して読み上げることがCPTでのエクスポージャである。事件についての記憶に対して、新しい安心できる環境の下で、(いつものように侵入的・受動的に想
起するのでなく)自ら能動的に想起し、いつもとちがった情報処理を行なう(書く、声に出す)のである。 セッションではトラウマの元となった事件について書いてきてもらった宿題をクライエントに大声で読み上げてもらう。事件について想起し書いてもらった内 容から、クライエントが現在も《何に足を取られれているか》が、明らかになる。また読み上げる中で、これまで抑圧されてきた怒りその他の感情が表出される ことも少なくない。感情の矛先は事件の関係者だけでなく、より広い範囲へ過剰に一般化されることもある。感情表出は、治療段階が1段進んだことを意味する が、そのままでは非機能的なものとしてクライエントを逆に苦しめる。 そのため、今後そうした感情をクライエント自身が取り扱っていけるように認知療法(認知的再編成)が導入される。 まずはABC図式(A:出来事「〜が起こった」→B:思考、信念「〜であると考えた」→C:感情・行動「〜と感じて〜をした」)を使って、出来事と思 考・信念と感情・行動との関係について説明する。そして事件や関連事項(周囲の人間の反応など)の“意味”について話し合い、(事件そのものよりも)関連 事項の何かについてリフレーミング(別の解釈)を例にとり、意味付け(解釈)と感情について理解してもらう。 今回の宿題(ホームワーク)は、ABC図式のシートを渡して、次回までに書いてきてもらう。 |
3 |
認知的再編成についての練習 | 前回に出た宿題(ホームワーク)は、クライエントが出来事、思考、感
情などを切り分けて、同定することに目的があるので、提出された宿題は完全なものである必要はないし、セラピストもそのことを指摘してきしなくてもよい。
むしろ思考や感情の同定が難しいこと、困難な宿題をやってきたことを賞賛し、正の強化子(好子)をあたえて強化する。 セッションは、宿題として提出された、ABC図式を例にとりながら、極端な思考や過度の一般化など認知の歪みのわかりやすいものを取り上げて、他の見方 ができない、クライエントと話し合う。話し合いの結果、異なる解釈が登場した場合は、ABC図式のどの部分をどう書き換えるかを議論し、クライエントの手 で、納得がいったものについて書き換えてもらう。 宿題としては再び、トラウマの元になった事件について(一連の経験の場合は、もっとも強いトラウマとなっているものについて)、できる限り詳しく書いて きてもらう課題を出す。 |
4 |
エクスポージャ | 宿題として書いてきてもらったトラウマの元となった事件についてクライ
エントに大声で読み上げてもらう。前回のものよりも長く、また詳細なものとなっている事件についての叙述をクライエントが読み終えた後(クライエントの感
情はまだ激しく波打っている)、セラピストはクライエントに今どう感じているかを尋ね、事件の“意味”について尋ねていく。クライエントは時に激しい感情
をセラピストにぶつけてくる。それらを受容しながら、クライエントの感情がおさまったのを確認し、今日はクライエントが行なったことは非常に困難なこと
だったがクラエントはそれを見事にやりとげたことをセラピストはクライエントに伝え、セッションを終了する。 今日書いてきてもらった宿題の紙はセラピストが預かり、また新しい紙に、もういちどトラウマとなった事件について書いてきてもらう(新たな要素を付け加え てもらう)ことを今回の宿題とする。加えて、日常の感情や行動についての記録をつけること、とくに事件に関わる人物についての感情や考えがどうであるかを 記録してもらうことを宿題にする。 |
5〜8 |
認知的再編成による残った問題解決 | 前回のエクスポージャが成功していれば、クライエントの状態は一変して いる。トラウマとなった事件について書いてきてもらった宿題を読み上げてもらっても、前回と異なり、叙述はより客観的になり、トラウマのために抑圧されて いた事実も新たに想起され書き加えられている。それを読むクライエントもかつてのような激情に見舞われていない。このように多くが変わっているが、すべて の問題が解決したわけではない。長年のPTSDのために、クライエントの行動レパートリーや人間関係は影響を被っていて、それらが古いトラウマから抜け出 そうとするクライエントを足留めし、足をすくおうとするかもしれない。クライエントの脆弱性は、クライエントが現在も《何に足を取られれているか》に左右 される。認知療法の技法が用いられ、歪んだ認知やスキーマの修正を通じて、残った問題についてクライエントは支援される。 |
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広 場恐怖のCBT 社 会恐怖のCBT 全 般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |
段階 |
やること |
コメント |
0 |
インテーク面接とアセスメント |
解離性障害の診断 |
1 |
不調の改善とと治療関係の形成 |
クライエント(また、それぞれの交代人格)が抱えるいま・ここの不調
(うつや不安、心因性の身体症状など)を改善することは、大きな意味がある。ひとつはクライエントのQOL(生活の質)が改善する。解離症状は、しばしば
ストレスを引き金とする。元々、解離症状じたいが、クライエントにとって耐えがたいストレスに対する対処方法であった。不調を改善すれば、解離症状の頻度
を下げることにつながる。ごく軽度の場合、これだけで解離症状がなくなることもある。 また認知療法の手法は、クライエントが学習することができ、手法を身につけることでストレス耐性を高めることにもつながる。つまり認知療法の手法は、解 離症状に代わる、より望ましいストレス対処のオルタナティブ(代替的)手段となることで、解離症状の役割を部分的に引き受け「置き換わる」ことができる。 さらに、小さなものであってもクライエントの不調が現実に改善することは、セラピストとクライエントの間の治療関係をより強く確かなものにする。このこ とは、変換人格に対しても同様である。交代人格の抱える不安や恐怖といった「不調」を改善することは治療のポイントである。交代人格は主人格が知らない歴 史や時間を持っており、それはしばしば治療の鍵となる。交代人格の中にはトラウマ体験などのため時間が止まっており、精神年齢が主人格よりもずっと幼く、 認知療法の手法を用いるのが難しい場合は、相手の存在と苦痛の受容、そして虐待などのトラウマ体験は遠い昔にあったことであり、今は危険がないこと、セラ ピストは味方だと教えるなどといった対応をとる。 改善の成功は、その変換人格とセラピストの間に一種の治療関係が生まれ強化される。交換人格の表出、そして交換人格とのやり取りのなかで、主人格には隠 された(それにより主人格は守られている)トラウマ体験が表出されると、その分主人格の記憶が復帰する。そのため人格統合は最終目標であるが、治療の過程 では交換人格は受容される必要があり、ときには治療への協働作業に参加してもらうこともある(後述)。 |
2 | 衝動コントロールのための認知療法スキル |
認知療法の技法を習得することは、感情の爆発やその元になる歪んだ認
知を、受け止め取り扱う手段を提供する。これはクライエントに、衝動に対して間合いを取り、「客観的」に取り扱う余裕と手段を与える。うつや不安といった
不調への対処が成功していれば、認知療法のスキルを学ぶ動機付けが得られる。 クライエントの衝動的行動は、周囲との関係に悪循環をもたらし、ストレスを増やすことで解離症状を生じさせ、このことでクライエントから自己コントロー ルの力と自信を失わせ、更に衝動的行動を増加させる。認知療法は、この悪循環のつながりを断ち切る手段となる。 クライエントが衝動的行動を踏みとどまり、自己コントロール感を高めていくほど、解離症状は軽減する。 |
3 |
現実検討能力を高める認知療法スキル | 認知療法の手法は、クライエントの現実検討能力を高める。これは人格
統合のよき準備となる。 たとえば活動記録表は、セルフ・モニタリングに用いられるが、解離性障害の場合、解離性健忘や人格交代で切れ切れになった時間の連続性の「縫合」の基盤 となる。時間の流れに沿って記録を取ることで(一定時間ごとに気分を○×△で記録する程度の簡単なものでもよい)、「途切れた時間」が発見(確定)され る。「途切れた時間」の前後の出来事や気分に焦点を合わせてクライエントとセラピストは話し合う。「途切れた時間」は交代人格の間接的証拠であり、これに ついての話し合いは、時に交代人格の出現や意識化につながることもある。 コラム法などの認知再構成のトレーニングは、まずはひとつの事実について、複数の解釈を生み出すことから始められる。クライエントはこのトレーニングを 通して、現実が複数の観点から見ることができること、異なった解釈をする人(者)があり得ることを知る。これはまた交代人格を受け入れる基礎となる認識で ある。 認知再構成のトレーニングは次の段階、つまり自己否定的な自動思考に対して、より自己擁護的な考えを生み出す段階へと進む。これはしばしば自己否定的で 他者依存的な信念を持っている(植えつけられてきた)クライエントに、自己受容的な考えを自ら見つけ受け入れさせるものである。自己受容的態度が強まるほ ど、ストレス耐性は上がり、「失われた記憶」(多くは過去のトラウマ体験の記憶)との対決(エクスポージャー)においてもクライエントを守り支える杖とな る。 認知再構成のトレーニングではしばしば、ある事態を無関係な第3者が外から眺めた場合、その人はどう考えるか解釈するだろうかとセラピストはクライエン トに質問する。長期に渡って虐待を受けてきたクライエントの場合、しばしばこの「客観的な視点」は、クライエントに虐待を加えてきた者の視点である。この ため、認知再構成自体が、トラウマ体験のエクスポージャーの予行演習ともなっている。ここでは、クライエントはこの視点に拘泥せず、更に他の「客観的な」 視点を提示する。科学者が見たら、宇宙人がみたら、医者が見たら、・・・。 |
4 |
諸人格マッピング | 交代人格の存在が顕著な場合、活動記録や面談中の人格転換の経験を下
に、クライエントとセラピストは協力して、でき得るかぎりすべての人格(パーソナリティ)のマッピングを行う。これは活動記録が蓄積され、認知再構成のト
レーニングの成果が上がってきた段階、そして交代人格の存在自体をクライエントが受け入れられるようになった段階で行うことが望ましい。大き目の紙を用意
して、主人格を中央に書き(名前を書いて丸く囲む)、これまでの面談で存在が推定される交代人格はすべて紙の上に書き込む。それぞれの交代人格に「あだ
名」をつけ、どの場所に配置するかはクライエントとセラピストがよく話し合って決める。 可能なら交代人格にも、このマッピングは参加してもらう。主人格がつくったマップには遺漏も多く、交代人格にとってまったく不満足なものかもしれない が、主人格がつくったマップを「修正ないし追記」する形で、交代人格にはマッピングに参加してもらう。人格によって、「ものの見方」が異なり、どの人格を どう配置するかについても意見が異なるだろう。しかしできるだけ多くの人格の意見を受け入れ、マッピングを行っていくと、「近い」人格同士は近くに配置さ れ、「まとまり」や「集まり」が生まれてくる。と同時に、相容れない人格同士や「まとまり」「集まり」同士の関係も次第に明らかになる。この「諸人格マッ プ」は、統合失調症の認知療法における「症状の説明モデル」と似た役割を果たすものである。クライエントが持っている自分の苦痛や症状についての考え(信 念)に対して、より妥当的でより受容的な説明モデルであると同時に、人格統合に向けた重要なルート・マップにもなる。「まとまり」や「集まり」をなしてい た諸人格は妥協と了解を重ねながら、ひとつの人格に統合されていく。対立し合っていた諸人格や「集まり」「まとまり」の間では、争点(しばしばトラウマ体 験についての見方、解釈の違いを根に持っている)を取り扱うことで、ここでも一定の妥協と了解が重ねられていく。こうして「諸人格マップ」は、その後のク ライエントとセラピストの話し合いの中心的素材となり、受け入れ(承認)の土台として改訂が重ねられていく。 |
4 |
記憶の復帰とエクスポージャー | 過去の「失われた記憶」の復帰には、トラウマ体験の想起というクライ
エントにとって耐え難い苦痛が伴う。かつて、ある心理療法家は、これを麻酔なしの外科手術にたとえた。その苦痛にリタイヤするクライエントも少なくない。
現代の心理療法においても無痛化されてはいないが、トラウマ体験への接近法を変えることでいくらかは「よわい麻酔ありの外科手術」に変えることができる。
これには、トラウマ体験を追体験・再体験するのでなく、違った形・違った状況で想起することが基本になる。過去を映像としてTVや映画を眺めるように「見
る」ことや、催眠やEMDRの活用も考えられる(EMDRは単一の外傷的体験では極めて有効だが、慢性的に外傷的体験が繰り返された場合や解離症状を伴う
ケースでは、その効果を発揮することは難しいとされる)。 重要なのは、ここに至るまでの間に、認知療法がどれだけの(時に複数の交代人格に渡る)不調を改善できているか、認知療法を受け学ぶプロセスの中でクラ イエントがどれだけ衝動をコントロールし現実を検討できる能力を蓄積しているか、である。いかなる心理療法においてもその面談はサポートされたものであ り、クライエントがたった一人でトラウマ体験の苦痛を味合うのとは異なる。しかし認知療法を通じて、自分や自分と周囲の関係を変える体験を積んできたクラ イエントは、適切なサポートがあれば、トラウマ体験という事実に対しても、より自己擁護的な解釈や受け止め方を行うことが可能となる。認知療法は、緩衝材 を提供するだけでなく、つらい事態・体験に対してどう向き合い、どうやり過ごすのか、その「体さばき」を身につける機会をも提供する。 |
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広場恐怖のCBT 社会恐怖のCBT 全般的不安障害のCBT |
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SST(Social Skills Training) |
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PTSD の 認知行動療法 | 解 離性障害(多重人格障害)の認知行動療法 |