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           読 書 猿   Reading Monkey
            第67号 (夏の大三角形号)
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■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。
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 ■読書猿は、本についての投稿をお待ちしています。


■■ブラッドベリ『10月はたそがれの国』(創元文庫)==========■amazon.co.jp

>「理由はまだある!殺人事件というやつは、華氏九十二度のときに起こるのが
>いちばん多い。百度を越えると、暑すぎて、動くのがいやになる。九十度以下
>なら、生きていくのに、それほど暑すぎるというわけでもない。ちょうど九十
>二度のところに、刺激感受性の頂点がある。この温度になると、あらゆるもの
>がいらだちのタネになり、髪まで汗にべとつくくらいで、頭のなかで、ネズミ
>が一匹、まっかに焼けた迷路を走りまわっている気持になる。とるにも足らん
>事実 ---- たとえば、ちょっとした言葉ひとつ、顔つき、髪の毛がひとつ落ち
>た程度のことで ---- 発作的に殺人を起こすに充分なんだ。発作的殺人!これ
>はあんたにとっても、相当におそろしい言葉のはずだ。廊下の寒暖計を見ろ
>よ。八十九度だ。だんだんと九十度に近づいている。九十一度になりたくて、
>うずうずしているところだ。あと一時間もあれば、九十二度になることまちが
>いない。せいぜいが、あと、二時間。ここが最初の階段だ。一階ごとに、休み
>ながらあがれぱいい。さあ、のぼるとしよう!」
(ブラッドベリ『10月はたそがれの国』 熱気の中で)


■■『キース・ジャレット 音楽のすべてを語る』(立東社)==========■

 もちろんキースジャレットなんて一枚しか聴いてないよ(笑)
 しかし、特別にキースジャレット本人があなたにレコードを薦めてくれます
(笑)。

>「たとえば「今晩はどんな音楽が聴けるのかな。楽しんで帰りたいな。あんま
>りお金ないのに、チケットけっこう高かったぜ。キース・ジャレットの古いア
>ルバムの「ケルンコンサート」が好きなんだけれど、あんなのやらないかなあ」
>ぼくの役目はそれを疑問としてとらえることにある。ひょっとすると彼は
>「これだけのお金を払ったのにぼくは「ケルンコンサート」と同じものをまた
>聴きたいのかな?」と自問している。期待はあまり裏切られたくないけど、本
>心は「あの他にもっとあるんじゃないかな・・」とかね。そんなことは考えて
>いないかも知れない。でも僕が実際に言葉で「きみ、その疑問はあたってない
>んじゃない?」と言うのは失礼だろう。彼は音楽を聴きにきたのだから、ぼく
>は音楽で対処する」

>「忘れるまえにもう一つ言っておきたいことがある。時々、ぼくは同時に三つ
>か四っつのラインを弾いてしまっていることがあるんだ。たとえば「サンベ
>ア・コンサート」なんかで三声、四声のラインを同時に動かしながら弾いてい
>る箇所がある。

>「たとえばコードをすごくゆっくり弾いているとしよう。「ダーク・インター
>ヴァル」の一曲目のように。きみはこの曲をもうおそらくこ聴いたでしょう?
>あの曲には空間、スペースがある。そしてこの空間は、きみがある特定の聴き
>方をすれば、その空間自体の中に、パルスを感じることができるだろう。空間
>というものを単純に休みとして考えると、こう聞こえる。コード、スー、コー
>ド、スー。でもこの空間の中に音楽が存在している。たしかにコードは音楽を
>支えている。コードは骨格だ。でもビルの中にある空間こそが大切なものだろ
>う?」

>エレクトリックキーボードは弾きたくなかったけれど、マイルスはそのサウン
>ドを求めていたからね。オルガンがいいかエレクトリックピアノがいいかとマ
>イルスがぼくに聞いたので、「両方」と答えた。それで二台をL字形において
>右手でフェンダーローズを、左手でオルガンを弾いた。
>マイルス「キースは、あまりにもすごいんで、オレは奴に二台もキーボードを
>やらなきゃならなかった。あいつのはこんな風だったからね・・・あいつには
>よく言ってやったお「おいキース、天才になった気分はどうだい?」ってね」

>(彼のバンドに入ったのは、1970年の五月ですよね。「LIVE 
>EVIL」のセッションに加わったわけですが、最初にマイルスと一緒にやっ
>たときにどんなことを感じられましたか?)
>それは質問の範囲が広すぎるよ。何についてどう感じたか・・。世界の全ての
>ことについてかい?(笑)

>(「スピリッツ」の前後であなたの中に起こった変化について聴かせて下さい)
>人間がかわったんだ。


■■島袋光年『世紀末リーダー伝たけし!』(集英社ジャンプコミックス)===■amazon.co.jp

@:最近、リーダーのたけしとかいうのが、好きになりかけてる(笑)
#:週ジャンの?(笑)
@:そうそ(笑)
*:えええ。あ、まんが?
#:ジャンプというか、コロコロのノリを感じるんですけど、あれ(笑)
@:そうなんだ(笑)
#:で、なんでまた好きになるですか、あんなの(笑)
@:攻略本買いに行こうとかいうんだよ、たけしが(笑)
*:あああああもー
#:攻略本(笑)
@:相手投手を打ち崩すのに(笑)。で「ないよ」って言われるの(笑)>た
けし
@:そしたら「大きい本屋行ったらきっとあるよ」って言うの(笑)
#:しょうもない(笑)
@:泣いたよ(笑)
*:くく〜
@:あるわけ無いじゃん(笑)
*:あるわけないのか(笑)
@:何度泣かされたかわかりゃしない(笑)>大きい本屋
#:シアワセになる本とかは売ってるけど(笑)
*:ああそう(笑)
#:そういうタイトルの(笑)
@:そんな本しか売ってないんだよ(笑)>シアワセになる本
*:ああそう(笑)
@:シアワセなんて、もういいじゃないか(笑)


■■吉田健一『三文紳士』(講談社文芸文庫)================■amazon.co.jp

> 「もう余り枚数が残っていないから、この辺から少し話を急がなければなら
>ない。最初に選んだ仕事は、本多さんに貰った煙草から思いついて、モク拾い
>だった。これには、吸い殻を拾い上げるのに使う、先の方に針を一本植えた棒
>と、吸い殻を入れるずた袋がありさえすればよくて、ずた袋が一杯になっても
>大して重くはないから、その点でも担ぎ屋よりは仕事がやり易くて、それに煙
>草の吸い殻を拾いながら東京の街をぶらぶら歩いて行くのは、決して一般に考
>えられているような感じのするものではない。店の窓を覗くのはただだし、女
>の子が通るのを眺めても、料金は取られない。仕事中に友達に出会うと、モク
>の味をよくする為に二、三本恵んで貰った。中には、こっちがやって来るのを
>見掛けると、煙草を取られるのがいやさに横町に逃げ込むようになったのもい
>たが、けちな奴もあったものである。今頃は罰が当たって、貧乏していること
>だろうと思う。
> こうして集めた吸い殻はどうするかと言うと、全部ほぐして、新しい紙に巻
>き換えるのである。その頃は政府もモク拾いを奨励していたのかどうか知らな
>いが、煙草の粉を簡単に紙に巻ける機械を専売局が作って、煙草屋で売ってい
>た。紙も専売局のを売っていた。併しそんなのを買っては高く付くから、紙は
>その時々の手に入り具合で各種のものを使用した。極上は、昔の三省堂の英和
>辞典を破いたものであるが、字引き一冊分の紙は直ぐになくなる。白水社の仏
>和辞典は、これに較べれば少し質が落ちる。併し何もなければ、古い障子の紙
>を使っても、その客は文句を言わなかった。」


■■寺島良安『和漢三才図会』(東洋文庫 他)===============■amazon.co.jp

 日本初の、絵入り百科事典。書いた人は大坂(江戸時代)のお医者さんであ
る。医者たるもの、なんでも知ってなくちゃいけないとかで、百科事典を作っ
てしまったのだ。英語の超有名なシソーラスをつくったロジェさんも、生業は
医者だった。
 
 南方熊楠が「履歴書」に書いていることを信じるなら、彼が8、9歳のこ
ろ、立ち読みして(ほんとうは「借覧して」とあるが)、覚えて帰り、反古紙
に覚えてきた部分を書く、これを繰り返して全105巻を「写した」というの
が、この本である。熊楠少年はこれを皮切りに、「本草綱目」「諸国名所図
絵」「大和本草」などを次々と写していく。東洋文庫では、ちゃんと現代日本
語に訳してあるけど、オリジナルは日本漢文だから、熊楠少年はそれを写した
のである。いや、それよりも、彼は「覚えて帰って」きて、その絵までも、思
い起こして書いたのである。
 熊楠のこの「写す」癖は生涯続き、全部読んだ人もそんなにいないと思われ
る(数人かもしれない)大蔵経を、読破するだけでなく、書き写している。大
英図書館の誰も読めなかった資料をばんばん写し、膨大な「抜き書き」を作っ
たりした。

 「履歴書」の続きを読んでいくと、オランダ一のシナ学者、シュレッゲルを
やっつけて「ついに降参せしめ謝状をとり今も保管せり」。なんでも学者を
やっつけて、謝状をとっちゃっているのである(今ももってるっていうのであ
る)。で、シュレッゲルがいつももったいぶって使ってる[秘密の種本]がこ
の「和漢三才図絵」で、日本じゃこんなもの誰でも知ってると、熊楠は鼻で
笑っているわけだが、そうすると、「8、9歳の時に写した」というのも、こ
の「嘲笑い」の伏線だったかもしれないと思うのである。さらには熊楠は、そ
の「和漢三才図絵」に、「オランダ人は小便をするとき片足をあげてすること
犬のごとし」とある、と引用してる。ちょっとあんまりひどいので、このへん
で(罵倒はまだまだ続くのだけど)。なんか、熊楠の話ばっかりになってし
まった。


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