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           読 書 猿   Reading Monkey
            第68号 (ボラギノールA号)
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■本村凌二『ポンペイ・グラフィティ』(中公新書)============■amazon.co.jp

 紀元79年8月24日のその朝以降、ポンペイは時間の止まった町である。
ヴェスヴィオ火山の噴火が「生き埋め」にしてしまった古代ローマの地方都
市。考古学者たちによって厚さ6mの溶岩と火山灰を取り除かれたとき現れた
のは、都市の建物、町並みは無論のこと、まるで昨日までそこで営まれたかの
ような人々の生活だった。たとえば、円形競技場の剣闘士控え室で、高貴な身
分の女性と思われる遺体が剣闘士のそれと共に発見された。古代ローマの「道
ならぬ恋」のひとつが、二千年の時を経て、無粋な考古学者の目の前に引き出
された。
 遺跡や遺体ばかりではない。再び太陽の下に現れた古代都市の街角には、今
も一万を超える落書きが残っている。古代ローマの文明の偉大さを示す公共施
設や都市遺跡に、当時の人々の嘆きやつぶやき、ささやかな野心や怒りといっ
た、ポンペイ市民の「肉声」が書き込まれている。それも、ついさっき書かれ
でもしたように。
 たとえば友人や自分たちの代表を議員にしようという「落書きによる選挙ポ
スター」。新しい興業の広告の落書き。居酒屋の壁に書かれた大酒のみの落書
き。女の家の壁に書かれた、何人もの違った男の名前。来ぬ人を待つ間、街角
に書かれた相手の名前。それから愛にやぶれたものの漏らすため息。「私は大
理石でできたヴィーナスなんて欲しくない」。「恋をするものはみな死んでし
まえ」。
 ポンペイの町中に、壁という壁が落書きで埋めつくされている。中にはこん
な落書きもある。それも同じ文句が、それぞれ違った人によって4箇所も書か
れている。「おお壁よ! こんなに多くの落書き人の愚行に力を貸して、お前
は崩れてしまわぬのだろうか」


■■『細胞の分子生物学 第3版』(Newton Press)============■amazon.co.jp

 アメリカの教科書はおしなべてデカイ。豊富な写真やイラスト、図表データ
や本筋とはあまり関係ないエピソードなんかもつめ込んであって、おそろしく
情報豊富である。日本のぺらぺら教科書とえらい違いだ。
 何も初等教育(小学校)にかぎったことではない。大学のテキストも、日本
ではコンパクトにまとめるのが美徳だと考えている節がある。何もかもごてご
て詰め込むのは美しくない、第一教師の出番がなくなるじゃないか、とでも考
えているのだろうか。
 はっきりいって独習につかえないものなど、教科書の名に値しない。教科書
は他の文献や資料への参照を(とりあえず)必要としないように、完結したテ
キストとして登場した。これはつまり、「前提とする知識」も(とりあえず)
不必要である、ということでもある。
 何も分からない人が、1から読み始め、学んでいくのにつきあってくれる。
それが教科書である。
 ノーベル賞医学賞をとった生物学者利根川進は、大学にはいるまで、生物が
細胞でできていることを知らなかった(19世紀未満の人みたいである)。て
んで生物学を学んだことのない人とでもこの本は、生物のメカニズムについて、
1からはじめ、その研究の最前線まで、ほとんど何も省かずに連れていってく
れる。豊富な写真やイラスト、図表データやいろんなエピソードなんかもつめ
込んであって、おそろしく情報豊富である。教科書の名に値する本だろう。
 それにしてもデカイ。体重計で図ったら3キロくらいあった。書棚から取り
出すのに、右手の筋を痛めてしまった。


■■野口靖夫『自己紹介の方法(1分間で自分を出しきる)』(日本実業出版社)
                             ========■amazon.co.jp

「高校の時、へんな先生がいて、『君らも、どこの馬の骨かわからんやつに教
わるのはイヤやろ』って、みっちり自己紹介をはじめてね(笑)」
「いやでも、論理はまちがってないよ。初対面の相手には、とにかく挨拶、自
己紹介するというのは。市民社会の論理としては(笑)、その先生は正しい訳
よ(笑)」
「ただやりすぎてる(笑)」
「あの、森毅がね、社会主義が崩壊したから、これからは社交主義だと(笑)。
浅田彰に聞いたら、どちらもソーシャリズムだって言われた(笑)」
「社交ダンスって、ソーシャルダンスだしね(笑)」
「社交ダンスの場合、そんな濃い自己紹介は必要ないよね(笑)。かえって失
礼にあたる(笑)」
「ああ、そうか。つまり、濃い自己紹介を避けるために、社交ってもんがある
のね(笑)」
「みんな、いやだもんね、そんな自己紹介(笑)」
「社交って、形式だから。自己紹介の内容なんて、みんな聞きたくないんだよ
(笑)。だから、軽く会釈するとか、そういう形式さえあれば、安心できる。
そこに、いきなり履歴書もってくるやつはさ(笑)」


■■Perseus 2.0,Yale University Press==================■

 Perseus2.0はTufts大学のPerseus Projectが推進する、ホメロスから古典期
に至る古代ギリシアのテキストと視覚素材の総合データベースで、アレクサン
ドロスの死に至るまでの時代のギリシア語の著作の三分の二が英訳つきで収録
され、リデル・スコット中辞典、ギリシア世界のカラー地図、かなりの量の二
次文献が収録されて、相互リンクで結ばれている(テクストの出所は、ギリ
シャ語、英訳とも、Loeb文庫のみたいだ)。

 この相互リンクというのは、言葉で聞くよりかなり強力だ。
 屈折(変化)が激しい言語は、辞書を引けるようになるだけでも大変であ
る。それで、語形変化については、とりあえずコンピュータにおまかせできる
よう、PerseusにはMorphological Analysesというツールがついている。これは
時制・人称その他の屈折(変化)を分析してくれるだけでなく、テキストと辞
書や検索ツールとの「仲介者」ともなってくれる。すなわち原文をクリックす
るだけでMorphological Analysesが呼び出され、そこ経由でもちろん辞書へも
飛べる。あと、「この言葉は、誰の著作のどこにあらわれているか」を検索す
る場合にも、どんな屈折(変化)していても見つけだしてくれる。

 たとえばσωκρατεωというギリシャ語が、誰のどの作品に現れるか調
べてみよう。

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Author Words Max. Inst. Freq./10K Min. Inst. Freq./10K
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Aristophanes 94658 1 0.11 1 0.11
Totals in Perseus 3392479 1 0.00 1 0.00
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Full Form Grammatical Form Dialects Other
Info
εσωκρατουν imperf ind act 3rd pl attic epic doric
contr
εσωκρατουν imperf ind act 1st sg attic epic doric
contr

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アレクサンドロスの死に至るまでの時代のギリシア語の著作の三分の二を収録
するペルセウスでも、たった一回しか現れないこの言葉。
未完了過去(imperf)・直説法(ind)・能動相(act)・3人称複数(3rd
pl)あるいは一人称単数(1st sg)の動詞、辞書の見出し語(現在直説法能動
相)は、σωκρατεω(ソークラテオー)だという。
 ここから辞書へ飛べる。
 意味は、「顔は醜く,身体は頑健で,裸足で歩き,髭ぼうぼうで,埃まみれ
の,ひどい服をまとった,粗食の,なりふりかまわぬ,胡散臭い,変人である
(ようにふるまう)」である。

 「ソクラテスする」というアリストファネスの造語で『鳥』という作品に登
場することがわかった。
 英訳がついていて、そこへもリンクで飛べる。下線がσωκρατεωに
あたる部分である。

Aristophanes Birds

Herald
Oh you, who have founded so illustrious a city in the air, you know notin
what esteem men hold you and how many there are who burn with desire to
dwell in it. [1280] Before your city was built, all men had a mania for
Sparta; long hair and fasting were held in honor, men went dirty like
^^^^^^^^^^^^^^^^
Socrates and carried staves. Now all is changed.
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