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           読 書 猿   Reading Monkey
            第91号 (口語訳号)
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■■鏑木繁『先物罫線 相場奥の細道』(投資日報社)==========■

 要約し難い本だが、存在を紹介するだけで十分だろう。先物取引の罫線を取り
扱った、相場の「奥の細道」をエッセイ風に紹介したもの。著者の鏑木繁は、投
資日報社の創立者にして代表取締役。つかみは太平洋戦争の戦勢曲線(罫線)を
描いてみせ、「自分の運勢も読めないで、相場の罫線など読めるわけがない」
と、気学をつかった自分の罫線の書き方へと進む(その際、参考するのは『左脳
と右脳の複合経営』の著者である、大自然の法則研究会の中川昌蔵氏である)。
つづいて江戸米相場の秘伝書『本間宗久伝』の中に頻出する「七月甲(きの
え)」でもって、大阪絹糸先物の大正狂乱相場を読みとき、返す刀で1984年の
12球団の罫線を描く。江戸時代の「御蔭参り」が60年周期であったことな
ど、旅篭(はたご)の泊まり客数の数値から罫線でもって読み解く。ここまでで
まだ45ページにすぎない。
 買い線(買うタイミングを示す罫線のパターン)には、「明けの明星」「日本
揃い一ツ星」「抱きの一本立ち」「切り返し立ち込み」「投げの二点底」「小燕
包み」「三兵後進」「三空叩き込み」「恋燕返し」「ふるい落としロケット」な
どがあり、売り線には、「三発花火」「大花火一点星」「なだれ三羽烏」「鮎の
友釣り」「五手戻し小鳥」「小石崩れ」「差し込み違い」「鷹返し」などがあ
る。
 アメリカ罫線のP&F(ポイント&フィギュア)を紹介し、時空上昇アングル
を紹介し、フィボナッチ級数に触れ、パラボリック・タイム/プライス・システ
ムやディレクション・ムーブメント・インデクス、逆ウッォチ曲線にも目配りを
忘れない。その筋で有名なエリオット波動やガン・チャート、ファイナンシャ
ル・アストロロージを解説し、最後は易経「序卦伝」から自由引用でしめる。
 なんというか、まあ、こういう本なのである。


■■平尾誠二『勝者のシステム』(講談社α文庫)==========■amazon.co.jp

 単行本が出たとき、ラグビーのことしか書いてない、と評した人がいた。一
体、何が書いてあると期待したのだろう。
 これは逆に言えば、この手の本の多くが(スポーツの種類はラグビーに限らな
いが)、ちっともラグビーのことを書いてなかったということではないか。時に
不合理なものだったりする激しい鍛錬を「合理化」するために注入されたスポー
ツ観や人生観(要するに「精神論」と呼ばれるもの)が、著者である元スポーツ
選手によってオウム返しのごとく繰り返され、本全体を埋めてしまってる類のも
のすら少なくなかった。まるで「犠牲になった貴重な青春時代」の代償を求め
て、(必ずしも自分のものとは限らない)人生や社会をその「犠牲」の中で培っ
た「精神(論)」で占拠せんがごとく、特に自伝めいた形で書かれるものに(誰
だって自分の経験を自分の本の中で全否定したくはないだろう)その傾向が強
かった。
 著者は言う。

>  チームづくりの過程では、日本の体育会的な考え方を否定してきた。それはな
> ぜか?「体育会的発想」は、選手全員をある枠組みの中にはめ込むことが教育で
> あり指導であると考えられているからである。それは、スポーツの世界で最も重
> 要な「想像力」や「判断力」「自由な発想」を選手から奪ってしまっている
> (1991年1月15日)。

 今でこそスポーツ関係でも耳にするようになった、「イマジネーション」や
「クリエイティビティ」といった言葉を聞いたのはそう昔のことではない。まし
てそれらと対峙させて、社会に出て(つまりスポーツをやめてから)何らかの
「組織」の人間になった際にも絶対に役に立つ(だから身につけるべき)とされ
た「体育会的な考え方」を、スポーツにおける組織論(チームづくり)の上で
はっきりと否定した第一級の選手や指導者は、それまでほとんどいなかった(少
なくとも活字にならなかった)。
 では何故活字になるようになったか(一方で、世の中ますますマッチョになっ
てきてるのに)。その理由のひとつは、著者も自覚しているとおり、かつての日
本経済発展の源泉、稼ぐより少なくしか貰わなくても会社に忠誠心を持つ「社
畜」はずしの時流のためだ。

>  そうした「想像力」や「判断力」を奪われたスポーツ選手に何が残るかといえ
> ば、頑丈な体と厳しい上下関係のなかで鍛えられた、いわゆる「体育会系のノ
> リ」だけだ。
>  「体が元気で健康だから、ハードな仕事もできまっせ。無茶できまっせ」とい
> うだけである。
>  たしかにこうした「体育会系の人間」は、一昔前は企業の重要な戦力だった。
> 会社や上司の命令は何があっても遂行する、という社員を作るためには、先輩の
> 言うことには絶対服従という社会で育った、体育会系の人間がまさにぴったり
> だったのだ。
>  ところが最近は、日本の産業構造が大きく変わったことで、そうした人間は必
> 要とされなくなった。


■■丸山武夫『ノヴァーリス』(世界評論社)===============■

 「彼[フリードリッヒ・シュレーゲル]が1791年ライプツィッヒに来たと
きは、ノヴァーリスと相年の19歳、はげしい革命的な気性に加えるに性格の分
裂から来るデカダンス的傾向に悩む、しかも新しい時代を熱望する野心的な青年
であった。彼は1722年3月10日ハノーヴェルに生まれた。はじめ遅鈍のゆ
えをもって商家に奉公に出されたが、のち法律の勉強をはじめた。しかし、その
いずれにも安住できず、ライプツィッヒに来た当時には物質的にも精神的にも窮
乏していた。不安定なおのれの性質を統御する力はなく、あてもない生活のうち
に、勢力と時間を浪費し、よい意味の世間人になつるもりで書斎と世間の間をさ
まよい、ただそういううちにも読書欲は盛んで、それは歴史、政治、古代文学、
現代文学および哲学など多方面にわかっていた。要するにどっちづかずのインテ
リゲンチャで、自己解剖をこととし、「俗物の世界」を白眼視し、「無限への野
心」にふれあがり、いま感激したかと思うと急に嫌気がさし、自分をなにかユ
ニークな存在と思いこみ、だれも分かってくれるものはない、俺はひとから好意
をもたれるたちではないのだと考えながら、一方では、深い利己主義者であり、
かさかさしたこころの持ち主であったにもかかわらず、人からは愛情と友情を求
め渇え、のしかかってくる孤独感に追われ、真剣に自殺を考えたこともあり、し
かも、すぐれた人間にとってはおのれ自身が神である、というような考えを標榜
していたのであった。彼の理想の人間はハムレットであった。」

 ま、シュレーゲル自身も、これだけ書いて貰えれば満足だろう(笑)。


■■加藤周一『読書術』(光文社カッパブックス)============■amazon.co.jp

 最近、岩波の同時代ライブラリーに入った。カッパブックスの初版は昭和37
年。ライブラリー版の後書きで、カッパブックスで読書をハウツウものを書くこ
とになった理由を言い訳をしてる。みっともない。
 さて、カッパブックスといえば、裏表紙は写真入りの著者紹介である。40年
近く前とあって、今のジジイぶりとは雲泥の差の男ぶりである。問題は紹介文の
方である。この「日本を代表する知識人」(笑)、というか、「知識人」なる言
葉で呼ばれ得た最後の世代、「知識人」が何かを代表すると思われていた時代の
最後の生き証人は、そこでは何と紹介されているのか。

>  著者・加藤周一について
> 
>  東大出身、医学博士、専門は血液学。“秀才”である。小学五年で東京府立一
> 中(現代の日比谷高校)へ、中学四年(当時は五年制)で一高理科(現在の東大
> 教養学部)へと、日本一の“秀才コース”を突っ走ってきた。
>  ところが、世のいわゆる秀才型とはケタちがいだ。彼にはド根性があった。一
> 高時代になると、とたんに、教室へは顔を出さなくなり、好きな本を読みふけっ
> たり、テニスに夢中になる、といった激変ぶりである。むろん、学校の成績のよ
> いはずがない。仲間の連中が心配しているのに、当のご本人はケロリとして、
> 「遊びと勉強が、いっぺんにできるかい。」とうそぶいていた。案の定、落第で
> ある。とはいえ、思いこんだら、食いついて放さぬ貪婪さで、手当たりしだいに
> 本をむさぼり読んだ。とうとう、いつのまにか、自然科学も、社会科学も、人文
> 科学も、とあらゆる分野に通じてしまった。今日、その読書範囲の広さと「読書
> 術」の秀抜さでは、並ぶ者がないとさえいわれている。
>  英語、ドイツ語、フランス語、いずれも本国人はだしの彼である。
>  1919年、東京生まれ。奥さんは、ドイツ語を話す、美しいオーストリア女
> 性である。

 こんなの、誰が書いたんだ(笑)?



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