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           読 書 猿   Reading Monkey
            第80号 (老人1号)
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■■丘沢静也『からだの教養』(晶文社)==================■amazon.co.jp

筆者は「中年になってからからだを動かすよろこびにめざめた」ドイツ文学の研究
者である。彼はかつて、ドロだらけの息子の洋服をブラシでゴシゴシあらいなが
ら、こう語りかけたそうである。

> 「どんなにドロンコにしてきてもいいぞ。お父さんが洗ってやる。その代わりに、
> お父さんが寝たきり老人になったら、紙オムツより布オムツのほうがいいな。」そ
> して追い打ち。「おまえが赤ん坊のときも、布オムツだったんだ」。ときにはまた
> 正義感ぶって、こうつけ加えた。「ゴミ処理上、紙オムツはいろいろ問題があ
> る。」
> これは、とてもずるい教育だ。暴力的な刷り込みではないか。子どもに老後の面倒
> を期待するだけでも、虫のいい話なのに、そのうえ細かく注文までつけている。あ
> われな息子よ。

といっていた筆者が、妻の買ってきた『サーロインステーキ症候群』というタイト
ルの本を読んで一変する。

> ぼくの気持ちは、動いた。そうだ、成人病のすえに寝たきり老人となったぼくのお
> 尻に、息子はやさしく布オムツをあててくれるかもしれない。けれども、そんなこ
> とを期待するのはやめよう。オムツなしで颯爽と死ねる方法が、ここに書かれてい
> るではないか。親孝行を要求するより、子孝行を考えよう。

かくて筆者は「テキストの快楽」よりも「からだの教養」を身につけることに夢中
になり、日に2時間の運動をこなしているそうである。


■■清水義範「やっとかめ探偵団危うし」(光文社文庫)===========■amazon.co.jp

>「吉川さんも行くきゃ」
>と早坂千代がきくと、飲み終えたジュースの缶をおがんでいた婆ちゃんは
>首を横に振った。
>「わしここにおるわ。足が痛あでなも」

いや別にどうというコトもなくて、こーゆー年寄りいなくなったなあと(笑)


■■世阿弥『風姿花伝』(岩波文庫)====================■amazon.co.jp

ちょっと思うところあって(笑)、岩波文庫の「風姿花伝」を読んでいる。まだ最初
の1/3くらいしか読んでいないが、最初の方の物學(ものまね)の段に次のよう
なくだりがあったのでちょっと引用。

> 老人の物まね、この道の奥義なり。能の位、やがて外目(よそめ)に現はるる事な
> れば、これ、第一の大事なり

ようは老人に扮したときに、その演者の力量を問われるのであり、よほど能を極め
た演者でも老人らしく振る舞うことは会得できない。しかも背も腰もちぢめて、動
きに面白みに欠け、役者としての華やかさが失われる。そこで観客を惹きつけてこ
そ、すばらしい役者である、ってことですねぇ。会得するには年功を積んで稽古に
励みなさい、と続く。老い木に花が咲かんが如し。役者魂ですねぇ。

#ああ、耳が痛いっす(笑)。わたし稽古嫌いだから(^^;


■■赤瀬川原平『老人力』(筑摩書房)=================■amazon.co.jp

 昔なら、エッセイのネタ一本分でしかない本を書くようになって、俄然赤瀬
川原平は売れ始めた。『新解さん』とかいうのがそうだ。この本もそうだ。
 ずっと待っているのは、『正論』あたりに書いてる連中が、『老人力で国が
滅ぶ』なんて本を書かないかということだ。
 そしたら、我らが原平さんは俄然張り切って『最後の老人力』なる本で猛烈
に反論するのである。そしたら、それをまた「天声人語」はとりあげるだろ
う。
 アカイ アカイ  アサヒ アサヒ。


■■「2039年元旦の毎日新聞」=====================■

 毎日新聞には、正月ごとにここ数年、21世紀のニュースを予想して記事を組
むというどうしようもない別刷りが入っている。今年は2039年の新聞という感
じで作ってあった。

> 政府、老人ホーム個室化を約束 団塊の反乱、終止符
>     「名誉ある降伏」きょう調印
> 
>  1日午前10時、ついに「名誉ある降伏協定」が調印される。5年間の奇妙な
> "反乱"にとうとう終止符が打たれるわけだ。政府側全権の高齢者福祉大臣と反
> 乱連合委員会の代表は、すでに東京都青梅市の「第三パラダイス・ロスト」に
> 到着している。
>  反乱の予兆は15年も前からあちこちの老人ホームで起こっていた。主役はや
> はり団塊の世代だった。まず最初の衝突は「もっと自由を」だった。それまで
> の"従順な"老人と違い、団塊世代の老人たちにとって、規則ずくめのホームの
> 生活は我慢ならないものだった。やがて要求に「個室を」も加わった。
>  慢性的な財政難に苦しむ政府は「年寄りの言うことなんて」と有効な対策を
> とらなかった。そして5年以上前のあの朝、全国300余りの老人ホームで、入
> 居者たちが一斉に職員を追い出し、施設の閉鎖を宣言した。もう70年前の戦
> 術、ロックアウトだった。ひそかに全国を結びつけ反乱を指導したのは元全共
> 闘の闘士と警察官僚だった東大法学部の先輩後輩コンビだった。抵抗と言って
> も施設封鎖だけ。不法占拠と施設側が警察を導入しようとすると「年寄りにな
> んてことを」と世論が反発、交渉だけが長引いた。
>  団塊世代は外側でも見事な連係プレーをみせた。群れること、公的機関の世
> 話になるのを生理的に嫌った人たちは、自分たちでグループホームを作って生
> 活していた。老人ホーム組を「日和見」派と呼んでいたが、反権力の血が騒い
> だのか、その彼らがマスコミを動かし、世論を反乱側有利にリードした。5年
> の間に多くの施設が説得を受け入れ脱落したが、73の施設が最後まで反乱を貫
> いた。今や政財官とも中枢にいた団塊ジュニアが仲裁に動いた。政府側は5年
> 以内の原則個室化を約束したのだった。

 新聞記者が作ったのだろうが「勉強」が足りないと思う。


■■早川和男『居住福祉』(岩波新書)==================■amazon.co.jp

 高齢者、それも「一人暮らしの老人」はなかなか家を貸してもらえない。彼
らは障害者や在日外国人と同様、居住差別にさらされていて、他に選びようが
ないために老朽化した危険な貸しアパートなどに、相対的には決して安いとは
言えない家賃を払ってすむことになる。
 この国では、憲法25条に生存権はうたわれていても、その中には「居住
権」は含まれていない。第2回国連人間居住会議(ハビタットII)で、「居住
の権利」を人権として認めるとした宣言に、日本はよその国の人権にケチをつ
けたがるアメリカとともに最後まで反対した。
 そんなことを薄々感づいているので、人は「持ち家」を手に入れるのに生涯
所得の大半をつぎ込み、なおも老後の不安を抱えて金を貯め込む。その不安
は、ちゃんと見据えることはなくとも、いつも目の端に映っている現在の老人
たちの姿に他ならない。おかげでこの不景気に(金を使って欲しい時に)、個
人資産は膨れ上がり、消費性向は高くならない。ポール・クルーグマンに言わ
れるまでもなく、日本経済の一番の問題点は「個人が金を使わないこと」だ
が、これは国民のこの国に対する(低い)評価に他ならない。
 住むところなく、老人ホームなどに「逃げ込んで」いた高齢者たちは、ここ
でもまもなく始まろうとしている介護保険制度によって立ち退きをせまられ
る。国は、「在宅介護」をうたっているが、「在宅」とは「在施設でない」と
いうことだけで、人がちゃんと暮らせる居住がどういったものかは、議論しな
い。
 この国には、人間にふさわしい住宅がいかなるものかを定めた「住宅法」も
「住居基準」も存在しない。居室の最低面積基準もなく、共用の台所、便所、
入口があればそれだけで「住宅」として数える。こうして「住宅統計」は、
「住宅戸数」が世帯数を1割も上回る、もはや我々は住宅に困っていないと説
く。だから公営住宅も全住宅の5%もあれば十分だとする。まともな基準を設
定すれば、おそらくは「住宅」に値するものはその半数に達しないだろうとい
うのに。


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