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           読 書 猿   Reading Monkey
            第73号 (貧乏物語号)
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■■前川つかさ『大東京ビンボー生活マニュアル』(講談社漫画文庫)=====■amazon.co.jp

 「マニュアル」とは名ばかり(最初の数回だけ)、あとは極めてノスタル
ジックな魅力をたたえる漫画である。
 何がノスタルジックかというに、要するに「ビンボー」がノスタルジックな
のである。

主人公のコースケは、
 ・ビンボーなのに彼女がいる
 ・ビンボーなのに友達が多い
 ・ビンボーなのに健康だ
 ・ビンボーなのに読書家である
 ・ビンボーなのに映画好きだ
 ・ビンボーなのに蓮實重彦を読んで小津安二郎を見に行ったりする
 ・ビンボーなのに人好きがする
 ・ビンボーなのになまけものである
 ・ビンボーなのに働きもしない
 ・ビンボーなのに欲深くない
 ・ビンボーなのにがっつかない
 ・ビンボーなのに憤りがない
 ・ビンボーなのに世をひがんでない
 ・ビンボーなのに明日の心配をしない
 ・ビンボーなのに酒に弱い
 ・ビンボーなのにその割にはよく飲みに行ってる
 ・ビンボーなのに「一度でいいから〜したい」などと言わない
 ・ビンボーなのにハングリー精神がない
 ・ビンボーなのに食べてる物がおいしそうである
 ・ビンボーなのに行き詰まってない
 ・ビンボーなのに幸せそうだ

いいかえると、この「ビンボー」はあまりにも豊かなのだ。


■■水島慎二『ドカベン』(秋田書房)==================■amazon.co.jp

 あの温厚な山田太郎ですら、「サンマ入りの弁当」(畳職人のじいちゃんが
一生懸命働いてくれたのである)を、岩鬼(彼は金持ちである)にバカにされ
て烈火の如く怒るのである。


■■江口英一『現代の「低所得層」---「貧困」研究の方法』(未来社)====■ amazon.co.jp

 現代日本の「貧困」研究は、世界に(発展途上国に)目が行ってしまってい
て、まるで日本が豊かで貧乏などとは無縁のごとくである。
 ところが高度経済成長期とその前駆期間を通じて、日本の「低所得層」は増
大し続けた。むしろその増大が、高度経済成長を準備し支えたとすら考えられ
るのである。

 この上中下巻の3巻物で、合計で1500ページはあるというシロモノ。内
容はまたすごいものだった。この豊かなニッポンで、貧困を研究するというの
がまずすごい。日本中を敵に回すようなものである。だから江口氏はそれを徹
底的に実証的にやる。分厚い本の大部分が実証に用いられるデータと、加えて
その分析法である。結論を読まなくても、時間さえ有れば読者が自分で確かめ
ることができるようにだ。自分が調査に関わったデータ以外に、国勢調査など
誰でも手に入れることができるデータを----これはこのままつかっても「貧
困」など出てこないように調整されている----いかに、他の統計データとつき
合わせて必要なデータを抽出するか、その具体的作業もまたこの本のかなりの
部分を占める。
 要するに分厚いのには理由があるのである。

 貧困は「ない」のではなく「見えない」のである。たとえば交際にはいくら
かなりとも金が費用がかかり、低所得なほど交際範囲・行動範囲が縮小する。
逆の立場からすれば「目にふれなくなる」。加えて低所得者ほど、転居が頻繁
である(住宅供給と都市構造)。おかげでますます「目にふれなくなる」。

 もっともっと知られていい本だと思うが(実際、触れられないだけで彼の方
法はあちこちで用いられている節がある)、「貧困」をないことにしようとす
る人たちは、この本ごと「ない」ことにしようとでもしているのだろうか。あ
るいはただ単に未来社だからか。


■■白土三平『カムイの食卓』(小学館)==================■amazon.co.jp

 著者は忍者のマンガを書いてた人である。
 この人自身がただものではないことは、Be-PALという雑誌あたりで、かなり
知られてきた。近代化された、文明化されたアウトドア情報の中では、この人
は本当に忍者みたいだった。
 しかし考えると、やっぱり彼は普通の人なのかもしれない。たとえば、生き
物を殺して食うことは、本当はごく普通のことだからだ。生きるためには食わ
ねばならない。そして食うためには殺さねばならない。あらかじめ殺されてい
ようと、いま口の中で息絶えようと、そのことは変わらない。自分でなくて
も、誰かが殺さなければ、なにも食卓には上らない。
 白土三平は、カジカをとってワラに刺して焼き、茸をとってスス飯を炊く、
魚をおろして干物を作り、皮をはいで狸汁を喰らう。時に慣れぬ手つきを地元
の人にどやされる時があっても、老漫画家はかつての手の感触を思い出すよう
に、食うために命をその手で奪っていく。
 かつて、子供たちが「遊び」でつかまえた川魚すら、家族の食卓を支える貴
重な蛋白質源だった。飢えを知るということは「貧しい」ということでもあっ
たが、今と違って消費だけでなく生産も、日々の生活の中にあった。生きるこ
とが手の届くところにあった。三平少年が本当に貧しさを味わったのは、家族
が都会へと移り住み、挌闘相手だった厳しい自然から遠ざかった時だった。


■■楠本槙郎『赤い旗』童謡集(紅玉堂 1930年)============■

 以下、序文から引用。もう言うことはない(笑)。

  プロレタリアの少年少女へ

 貧しい子供たちよ。
 おぢさんは、みんなが大へん可愛い。この本は君たちに読んでもらひ、歌
つてもらうために書いたのだ。金持の子供なんか読まなくたつていい。
 おぢさんは君たちのお父さんお母さんと同じやうに貧乏だ。そして君たち
のやうな元気な可愛い子供を持つてゐる。去年は六つになるスミレといふ女
の子を一人亡くした。それはおぢさんが貧乏なために、金持の子のやうに大
切にしてやられなかつたからだ。だがおぢさんにはまだ二人の子供がある。
もしこの二人が死んでしまつても、おぢさんはまだまだ気を落しはしまい。
それは元気な君たちが大勢ゐてくれるからだ。それほどおぢさんは君たち
を、自分の子のやうに思つてゐる。
 おぢさんは永いこと、いつも、君たちにいい本をこしらへてあげたいと思
つてゐた。けれど貧乏では本も書けない。今度やつとのことで、この本をつ
くることができた。けれどこれは手はじめで、そんなにいいものとは云へな
い。第一、本が高すぎる。それに童謡だつて、まだほんとうに君たちに好か
れないかも知れない。けれど君たちは金持の子や、金持の味方の詩人やまた
そいつらと一しよに貧乏人を馬鹿にしてゐる奴らのやうに、このおぢさんの
童謡を一も二もなく、頭からバカにし、悪口なんか云はないだらう。きつ
と、おぢさんの子供やおぢさんを好いてくれる子供たちと同じやうに、よろ
こんで読んでくれ、よろこんで歌つてくれるにちがひない。
 そこで、わたしの好きな子供たちよ。おぢさんはみんなとお約束しよう。
この次に出すおぢさんの本は、きつといい本で、もつと安くすること、を。
 で、今度は君たちから、おぢさんにお約束をしてもらひたい。と云ふの
は、おぢさんに前の約束をきつと守らすためには、君たちはこの本をよく読
んで、そいてその中の一番好きな歌とか、嫌ひな歌とか、この歌はこんな時
に使つたらどうだつたとか、今度はこんな時に歌ふこんな歌を作つてほしい
とか、そう云つたことをドシドシ手紙かハガキかで、云つてよこしてもらひ
たい。また君たちの作つた歌もぜひおくつて見せてほしい。も一つ。この本
は自分ひとりでは読まないで、なるべくお友だちみんなに見せ、読ませ、貸
してやるやうにしてもらひたい。そしてみんな仲よく、元気に、大勢で歌ふ
ことだ。――これを是非お約束してもらひたい。
 ではみんなよ、早く大きくなつて、君たちも勇敢なプロレタリアの闘士と
なつて、君たちや君たちのお父さんお母さんを苦しめてゐる奴らを叩きのめ
してくれ!
    一千九百三十年四月 東京府下吉祥寺四八〇 槙本楠郎

 おまけで、載っている童謡(笑):

   飴ちよこブルジョア
 飴屋のぢいさん プープと吹けば あれあれふくれる 大蛸入道
 いやいや狸に よく似たおやぢ  こいつ、たしかによくないやつだ。
 お尻の竹からプープと吹けば おやおやふくれるでツかいお腹
 飴ちよこブルジョア でツかいお腹
 プープと吹く間に あら、あら、パチン。

   赤い旗
 起てよ 起てよ 集まれ、子供 われ等の旗は われ等で守らう
 なびけ はためけ ×い旗
 進め 進め 手を組め、子供 われ等の道は われ等で開かう
 うねれ 波打て ×い旗

 (×は検閲だと思われるが、タイトルの「赤」に×はない(笑))

   おんまコツコ
 おんまコツコ ハイドード おんまはマルクス エンゲルス
 リイプクネヒトも四つん這ひ 乗りては赤毛のチビのジャン
 おんまコツコ ハイドード それ行けおんま ハイドード
 おやぢのマルクス エンゲルス リイプクネヒトも這ひまはる
 おんまコツコ ハイドード 赤毛のチビはぶツ叩く
 おんまは三匹 大急ぎ スタコラサツサと這ひまはる


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