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           読 書 猿   Reading Monkey
            第54号 (手術と縫合号)
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■■増尾由太郎『誰も書かなかった ケンカのしかた』(三一書房)=====■amazon.co.jp

 ここでいう「ケンカ」は、強い(強くなる)必要のないものだ。だから、
(たとえば「けんかエレジー」とはちがって)、鍛え方だとかトレーニングな
んかはどこにも出てこない。

 話はかわるが、集団(組織)と個人では、集団(組織)の方が強いに決まっ
てる。放っておいてみんな「自由」になるなら改革も革命もいらないわけで、
強いものだけが好き勝手するというのをルールで抑えて、他大勢にも息をつけ
るスペースを創出しようというのが要するに立憲主義的自由主義(おおざっぱ
にいって民主主義)で、だからフランス革命は王様の首をちょんぎるだけでな
く、憲法(やら人権宣言)をつくった。
 今では不思議に思えるかもしれないが、1789年の人権宣言には「結社の
自由」が出てこない(91年には同業者組合や労働組合の禁止が法制化されて
いる)のは、そういう権力やら利権やらを持っていた(持ち得た)集団を一旦
壊して、ヒラ場に降りた個人から始め直すということだった(これこそ人権宣
言の前提である)。ここではじめて諸個人 対 (集権的)国家という二極構造
が、そしてその構造の下で国家権力(だけ)を憲法で抑えようという立憲主義
が成立する。
 そういう個人の成立抜きにして(つまり集団を温存して)、「基本的に国家
権力だけを抑える憲法」という考えを受け入れたものだから、この国は集団
(組織)が跳梁バッコするようになってしまった。社会的権力をもルールで抑
えて、個人の自由を救うというのが落っこちている。個人の自由と集団(組
織)の自由がぶつかりあったとき、この国の裁判は多くの場合、集団(組織)
の自由の方に軍配をあげるのである。

 この本は、強くない個人がケンカをする際にかなり実践的な(というのはい
ちいち「使用済み」の)ノウハウ集。ケンカ相手ごとに章立てが組まれてい
て、「悪い警察」「悪い税務署」「悪い銀行」「悪い大企業」「悪い公僕」
「悪い弁護士」「悪いマスコミ」「悪い債権者」などが、ケンカ相手である。
警察からイヤガラセを受けたり、別件逮捕されたり、節税したかったり、マン
ションの反対運動をやりたかったり、株式総会に乗り込みたかったり、オンブ
ズマンしたかったり、サラ金に追われていたり、恐い債権者が来たりしている
人にはすぐにでも役立つ。ただ強くなりたい人(偉くなりたい人)には役に立
たない。
 なお、イラストは赤塚不二夫。

■■赤瀬川源平・ねじめ正一・南伸坊『こいつらが日本語をダメにした』
                       (ちくま文庫)======■
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@: 俺は、最近、力持ちに興味があるんだが(笑)
#: 力持ちってなんだよ(笑)
@: 「縁の下の力持ち」って故事成語だってしってた(笑)?
@: ちゃんと、物語があるんだよ(笑)
#: なに、力持ちが居たの?中国?(笑)
@: 日本だよ(笑)力持ち
@: 江戸は坂が多いじゃんか(笑)。で、坂の下にまってて、大八車とか手
伝う力持ちの仕事があったの。
#: ほう
@: おじいさんとか、娘さんとか助けるんだ
#: もういいはなしじゃないか(笑)
@: でも、交通機関の発達で(笑)、失業しちゃうんだね(笑)
#: (笑)
@: で、お得意さんだった富豪さんが、うちへきて働かないか、と(笑)。
#: 力持ちに(笑)
@: で、富豪だから、小判とか蔵にどっさりあるわけよ(笑)。で、床が抜
けそうだから、それを支える仕事をね。(笑)
#: (笑)
@: で、力持ちは、喜んでその仕事をするの。そしたら、泥棒がはいってさ
(笑)
#: なんか展開してるな(笑)
@: 縁の下にいた力持ちは、物音に気付いて、泥棒をやっつけちゃうの。な
にしろ、力持ちだからさ(笑)
#: (笑)
@: でも、泥棒と挌闘してるあいだは、誰が床を支えてたか、とおもうでし
ょ(笑)
#: (笑)ささえながら退治したっての?(笑)
@: いや、じつは力持ちは何人もいたんだ(笑)。
#: (爆笑)
@: 交代しながら支えてたの(笑)。で、非番の力持ちが泥棒をね(笑)
#: なんか、絵的にやだな(笑)何人も
@: だって、坂の下で働いてたのは何人もいた訳よ。困った人も何人も通る
からさ(笑)
@: で、みんなで富豪の家にきちゃってるのね(笑)
#: それで、縁の下の力持ちっていうのは、じゃあちょっと意味合いがちが
うんですね(笑)
@: ま、とにかく、力持ちはお手柄だから、富豪さんは、これからは縁の上
に出て暮らしたらどうだと聞くんだけど(笑)
#: (笑)
@: 「いや、あっしらには、縁の下が似合いでさあ」
#: いいはなしだねえ(笑)
@: で、縁の下で祝言あげて、縁の下で子供を育てるのね(笑)
#: まさに城下の奴隷だね(笑)
@: だから、縁の下には力持ち一族がうじゃうじゃ(笑)
#: まるで虫けらだね(笑)うじゃうじゃ
#: やだねえ(笑)力持ちの子は、力持ちなんだろうねえ(笑)
@: で、最後は、力持ちは、力を持ったまま縁の下で死んでた。おしまい
(笑)
@: 「兵隊さんは、死んでもラッパをはなしませんでした」(笑)
#: つくろうか(笑)
@: つくろう(笑)
#: じゃ、おれ家系図と年表つくるよ(笑)
#: 先祖は、船大工ね(笑)
@: タイトルは「強力伝」(笑)
#: 強力伝いいね(笑)
@: いや、あんがいタイトルは「ちからもち」でもいいかも(笑)
#: いいね、ちからもち
@: アリは、自分の体より大きいものも運ぶぞ(笑)
#: そうそう、いいよね、あり(笑)
#: 燃費いいよね(笑)経済的だよ
#: あんた、書けよ(笑) 虫文学(笑)
@: でも、親とか恩師にさ「お前は、日本一の蟻になれ」とかいわれても、
こまるよね、青少年(笑)
#: いやあ、働き者でいいじゃないの(笑)甘いものが好き(笑)
@: 甘いものには目がない(笑)。でも複眼(笑)

「縁の下の力持ち縁起」は31ページ辺りにある。
 なお、赤瀬川源平氏は「親の七光」という話題に対して、「うちは紫外線で
す」と答えている。

■■ヘーゲル『歴史哲学講義』(岩波文庫)================■amazon.co.jp

 放火魔のたとえ。

「一般的な理念と個人の行動のつながりについていえば、世界史のうちに個人
の行動としてあらわれてくるものは、個人が達成しようとしたねらいや、個人
が直接に知っていたり意思したりしたことと、かならずしも一致しません。個
人の利害を実現する行動には、個人が意識も意図もしなかったようなものが、
内面のふくみとしてあらわれてきます。例として、不当な侵害行為に復讐しよ
うという正当な意図のもとに、相手の家に放火する人のことを考えてみましょ
う。放火という直接の行為のには、行為の直接の意図をはみだす外的な事情が
あれこれとからんでくる。直接の行為としては、梁の一部に小さく火をつける
だけのことですが、放火者の意図をこえて行為の結果は増幅される。梁の一部
は梁の他の部分とつながり、それはさらに家の全体とつながり、家の全体は他
の家とつながり、こうして、火災が大きく広がると、復讐すべき相手以外の多
くの人の財産や所有物がうしなわれ、ときには、多くの人命すらうしなわれ
る。そんなことは直接の行為のふくまれることでも、行為者の意図していたこ
とでもなかった。その上、その行為はさらなる一般的意味をもたされてしま
う。行為者のねらいは、財産の破壊による個人的復讐という点にあるにすぎな
いが、結果としてそれは放火という犯罪行為となり、刑罰の対象となる。そん
なことは行為者の意識や意図のうちにはなかったことだが、それが行為そのも
のの一般的な内実であって、行為はその内実を実現したのです。−−この例で
はっきりしめされるのは、直接の行動のうちには行為者の意思と意識をこえた
ものがふくまれうる、という事実にほかなりません。もっとも、この例には、
行為の実体や行為そのものが、行為の実行者のほうにはねかえって、その反動
で、実行者がたたきのめされる、という面もふくまれますが。」

 有名なひどい箇所だが(ヘーゲルというのはこんなのばっかりだが)、ひど
い長谷川訳でますますひどい(笑)。

■■高野文子『るきさん』(ちくま文庫他)================■amazon.co.jp

 高野文子の漫画は、どれも完成度が高いのは確かだが、そのなかでも『るき
さん』が一番好きな私は、そんな自分が正しいと思う今日この頃である。


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