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           読 書 猿   Reading Monkey
            第42号 (ひるのおつとめ号)
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■■宮武外骨原著、八切止夫校注『明治密偵史』(日本シェル出版)=====■

 宮武外骨はこの際おいておこう。問題は八切止夫の方である。
 編者、訳者、校注者、また時には著者として、『野史辞典』『日本奴隷史』
『旧約聖書日本史』『天皇アラブ渡来説』『八切裏がえ史』など数々の奇書を
天下に送り出す八切止夫の「八切史観」といえば知る人も少なくないだろう。
それぞれの内容は実際に当たっていただくよりないが(そんなのは些細な問題
であることは、すぐにわかるだろう)、それよりも今回紹介したいのは、八切
止夫がらみの本には必ず添えられる次の一文である。全文を引用する。

 ◇無料本50冊謹贈呈内訳◇……………………………………八切止夫

 …只より安いものはありません荷作りと運賃のみです。大荷物ゆえ送先の電
話番号附記して下さい。
 在庫整理しませんと身の処置がつきませんので運送費値上りしてますが、
23キロダンボール一箱4、980円(離島北海道九州300円増)の荷作運
賃を当社へ御送金。定価では50冊で4万5千円ゆえ遠慮なさる向きもありま
すが知人や図書館へ、何口でも御下命下さい。
<天正美少年記戦国のバラ><アラブの戦い><明智光秀の槍は紅かった><
雲霧仁左ヱ門><上杉謙信は女だった血戦川中島><柳沢吉保><怨念戦国武
将裏め史><大地震大避難><浪花捕物帖麻田剛立事件帖><柳生一族><遊
女論考><柳生十兵衛><おんな太閤記><大英雄実説織田信長><信長殺し
光秀ではない><信長受胎・英雄誕生><信長殺人事件><信長殺し秀吉><
信長殺し家康><若き日の光秀戦国仕置人><木下籐吉郎十二人衆><謀殺・
天海僧正が光秀か・徳川家康><憎しみこめて振り返れ明智光秀><武家意外
史><道三殺しは織田信長か・戦国悪党伝><戦国名将参謀サラリーマン時代
><大江戸意外史><獅子の時代とは松平容保><戦国意外史武将列伝、石川
五右衛門><考証・江戸侠客伝><清水港に枯れ葉が舞った清水次郎長><任
侠意外史><死にざまぶざま生き><男のからだ><若き日の勝海舟、幕末奇
人伝><幕末おんな唄・爆烈お玉><革命青少年隊関東奇兵隊><望郷・ナイ
チンゲールはカラユキさん><悪女列伝・魔女審判><ぐうたら海外武勇列
伝・山田長政><斉藤道三の子が光秀・乱世仕置人><実説まむしの道三><
ゴルフ殺人事件><天下一大物伝・銭儲け太閤記><高杉晋作><桂小五郎>
<大村益次郎><萩の乱・神風連><沖田総司><吉田松陰><西郷隆盛><
秩父事件>以上から50冊であります。(入替不能)

 これは、全読書家への挑戦状であると思う(「入替不能」というのが-----な
にと入れ替えするのか全然わからないが-----、さらにキモだめしである)。我
と思わん方は、連絡してみてはいかがだろうか。
 23キロダンボールが届いた方は、ぜひご一報を。

■■H・A・ウィルマー『プラクティカル・ユング』(鳥影社)=======■amazon.co.jp

 詩人のコールリッジという人は、「幽霊を信じますか?」と聞かれて、「信
じてはいないよ」と答えました。もちろん彼は、信じてなんかいませんでし
た。「信じていた」のでなく、あまりによく、幽霊のことを「知っていた」の
です。

 ユングは、現代人が、悪魔や妖精の存在を頭から「信じて」いないことに気
付いていました。そしてまた、鬼や悪魔や妖精が、人にどんなことをしかける
か、人に対してどんなことをしでかすか(心をとらえ、あるいは翻弄し、ある
いはとり憑き、あるいは・・・)について、とてもよく「知って」いました。

 その「現代人」の信念というのは、次のようなものでした。すなわち「スピ
リッチャルなものは、(よくてせいぜい)我々の内側だけにある」のだと。こ
の手の粗雑な信念は、唱えらえてはいつもすぐに批判されるのですが(バリバ
リの唯物論者のカール・マルクスだって批判しました)、結局はなんどもよみ
がえるのです。

 たとえばある人は「神様なんていないんだ。いるとしても、人のこころの中
にしかいないんだ」(オバケや妖精についてもおなじことだ)と、大いばりで
いいました(この粗雑な信念!)。要するに、「思いこみ」なんだと。けれど
も、たとえそれが「思いこみ」であったとしても、それを到底「思いこみ」と
思えない人が(そりゃもうたくさん)存在して、そしてその人は自分でそんな
風に思いこもうとした訳ではないのに、いつのまにか(それと知らずに)思い
こんでる。それも大勢の人がそんな目にあっている。
 現にこの世界では、ただの「思いこみ」がとんでもない力をもっているとい
うのに、ただ「おまえ、それは思いこみなんだから、目を覚ませ」といったっ
て、それではやっぱり「自分だけ分かってる知識人」の域を出ることができな
い。ようするにその人(知識人)は、「思いこみ」の元をただ本人の心に求め
たのだけど、そして自分の心は自分で好きなようにできる(だから「思いこ
み」も心がけ次第で取り除ける)と考えたのだけど、それはやっぱり甘いので
はないか。だって現に、自分の心でさえ自分の好きなようにはできないこと
を、我々はよく知ってるのですから。

 ユングにとって「無意識」というのは、世界最初の精神分析の患者さんO.
アンナが後にTALKING CAREと呼んだ(彼女がいったように、「精神分析」は畢
竟「会話」TALKINGです)過程に見いだされ、やがて概念上のジュネレーターに
仕立てられたものであるだけでなく、それ以上に、「私でないもの」の総称で
した。もちろん「私でないもの」が「内側」にあるかどうかは、この場合たい
して重要ではありません(「内側」だの「外側」だの、述べ立てることは、
まったく重要ではありません)。「私でない」ものを(私の魂=精神の座にお
いて)見いだすことが、ユングにとって重要であり必要だったのです。

 ユングのいう原型(アーキタイプ)は、彼がよく知っている、鬼や妖精達に
つけた名前でした。
 
 「鬼は人の心が生み出したものだ」という人がいます。それはまったく正し
いのですが、「勝手に生み出した」ものでは全然ありません。それどころか、
我々は「鬼」を(我々が生み出したものなのに)、好き勝手に操ることもでき
ません。「生み出す」ことも、いいえ「生まれ出る」ことをとどめることさえ
もできません。
 鬼に出会うにはどうしたらいいのでしょう。わざわざ出向かなければならな
いくらいなら、実のところ「鬼」について考えることはありません。「私でな
いもの」について考えることもないのです。たとえば「我を失った」とき、鬼
は即座に現れます。そして我々は、しょっちゅう我を失っているのです。たと
えば、たわいもない口ケンカの最中。
 「すまない、こんなこと言うつもりはなかったんだ」。言った後で、こんな
風に「我にかえる」なら、その人は「たった今、鬼が現れたんだ」と言ってい
るのです。もっとも鬼にはいろんな種類があります。

 痴話ケンカに、一対の鬼が現れる場合があります。ここで相手を罵っている
のは、アニマでありアニムスです。罵られ傷つけられるのは、当人達ですが。
 アニマやアニムスについて一番ポピュラーな理解は、内側に抱えた「理想の
異性像」というものです。もちろん、アーキタイプは、像(イメージ)ではあ
りません。像(イメージ)として姿を現しても、それは「鬼」のしでかすこと
のひとつに過ぎません。
 今日では、ユング派もユニセクシャル化しているので、アニマは必ずしも男
性に巣くうとは限らないし、アニムスは必ずしも女性に巣くうとは限りませ
ん。ただこれら二つの「鬼」は一対であるは避けれません。アニムスの作動原
理は、ロゴス。ロゴスは分かつ原理。分割し、分析し、分類し、分断する。ア
ニマの作動原理は、エロス。エロスは結ぶ原理。親和し、結合し、結託し、融
解する。
 ロゴス的な人間(意識の上でロゴスの強い人)にはアニマが巣くうし、エロ
ス的な人間(意識の上でエロスの強い人)にはアニムスが巣くう、とアーキタ
イプ論は教えます。これは我々には、事実である以上に(あるいは事実である
というより)、智恵に属するなにものかでしょう。そしてユングは、このこと
を鬼がどこで顔を出し、どんなことをしでかすかという「事実」として知って
いました。

 「自分自身のアニマの犠牲にならずに、否定的なアニムスと5分以上言い争
うことができる男性はいない。ありふれた激しい言い争いは、自分からやめれ
ばすぐ終わるということに彼は気付かない。アニマとアニムスは無意識の中に
あるので、二人の男女は口論しているのは自分たちだけではなく、元型(アー
キタイプ)同士なのだいうことに、まったく気付かない」
(ユング)

 例えばユングは、シャドウ(「影」)という、「鬼」について書いていま
す。けれど、どうやってこの「鬼」を退治したらいいかは、どこにも書いてい
ません。彼はシャドウという「鬼」がいることは述べましたが、そしてそれが
どんな風な「鬼」であり、どんなことをしでかすかについては書きましたが、
シャドウに効くおまじないも呪文もひとつも残してはくれませんでした。

 「鬼」は、退治したり、やりこめたり、追放したり、封印したりするもので
はないことも、ユングはよく知っていたからです。

 「無意識は悪魔のような怪物ではなく、自然の存在である。道徳観念や審美
眼、知的判断から離れれば、それは完全に中立なものである。それに対する意
識的態度が救いようのないほど誤ってしまったときには、無意識は危険なもの
になる。そして、抑圧の程度が強くなるほど、その危険性は増大する」
(ユング)

■■糸井重里『糸井重里の萬流コピー塾』(文春文庫)===========■amazon.co.jp
■■赤瀬川原平『超芸術トマソン』(ちくま文庫)=============■amazon.co.jp

 文化的な不毛の極点であった80年代、例外的に活力のあった文学芸術の二大
ムーヴメントとして、「超芸術トマソン」と「萬流コピー塾」を挙げることが
できる。しかし、この二つは非常に対照的である。
 まず舞台そのものが違っている。一方が写真雑誌というマイナーな存在であ
るに対して、他方は非常にメジャーな週刊雑誌である。当然、それぞれを始め
た人間の資質の相違もある。つまり、赤瀬川と糸井の違いである。糸井は自ら
を「家元」と称し、雑誌に投稿してくる読者を師範から門前の小僧までに階層
化することによって運動を組織し、文学の大衆運動を繰り広げた。糸井はこの
点で、俳句川柳の伝統に対して非常に意識的である。このように糸井が非常に
制度的であるに対して、前衛運動出身の赤瀬川は制度そのものの否定ないし止
揚(超芸術)から始めている。同じく投稿によりながら、赤瀬川は糸井のよう
な審判者ではなかった。
 ただ、実は二人のうちでより前衛的なのは糸井の方であることは忘れてはな
らない。糸井は赤瀬川に比べてはるかに真摯であり、大衆運動によって芸術を
否定しながら、同時にその中に一点の超越を見い出そうとしている。赤瀬川の
試みはそうした観念性を免れており、いわばエピクロス的な具体性の科学を目
指している。しかし、その果てに見い出されたものが、「自然」であったこと
は、この試みのイデオロギー的な側面を照射するものであったかどうか、その
判定は歴史家の重要な仕事となるだろう。
 方法そのものにも差異がある。萬流は勿論作者がいる、それに対してトマソ
ンはそもそも作るものではない、そこには作者はいない。作るのには「作法」
が必要である。それに対して、作るのではないトマソンにおいては「見る」こ
とに力点があり、そこで重要なのは「観点」である。作法は「方法」である
が、観点は「方法」化されない。
 このことは当然主唱者の資質の差異にも/をも反映する。赤瀬川は「教え
る」ことはないし、そもそも教えることができない。それは彼の個人的な資質
としてもそうであるし、対象そのものの性質としてそうである。
 したがって、糸井は家元でありうるが、赤瀬川は家元にならないし、なれな
いのである。
 ただ、両方ともこれでお金もちになった。

■■大島義夫『エスペラント4週間』(大学書林)=============■amazon.co.jp

 大学書林の語学4週間シリーズには、『ギリシャ語4週間』というのがある
が、簡単だ、習得しやすいといわれるエスペラント語が、古代ギリシャ語とお
なじではやりきれまい(もっとも他の4週間シリーズにも増して、『ギリシャ
語4週間』を1カ月で終えるのは非常に困難であるが)。『エスペラント4週
間』は、大量のテキストを読ませることで成り立ってる。そういえば、『ギリ
シャ語4週間』の方も、とにかく読ませようという姿勢が、最近のギリシャ語
教科書と大きく違っていた。

 ところが、このあいだ『4時間で覚える地球語エスペラント』(小林司・萩
原洋子著、白水社)という本を見つけた(笑)。その本の序文によると、トル
ストイは2時間でマスターしたらしい。ぎゃふん。マスターかどうかわからな
いが、1時間ほど読んでみると、辞書さえ引けば何とかエスペラント語を読む
だけはできるようになってしまった(ほんとう)。
 しかし、上には上がある。なんでも沼津エスペラント会というところが出し
ているものに、「3分間でわかるエスペラント講座」というのがあるのだそう
だ(そのあと「3分間エスペラント会話」という本も見つけた(泉 幸男 著、
リブロテーコ東京))。

 なお、この著者(大島さん)には、半年以上(24週間!)かかるが無敵の
エスペランティストになれるという計3冊で完成の独習本もある。


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