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           読 書 猿   Reading Monkey
           第15号 (ひびわれにワセリン号)
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■■河上肇『貧乏物語』(岩波文庫)===================■amazon.co.jp

 このあいだアメリカの若い奴がテレビカメラに向かって「ぼくたちはアメリ
カ史上はじめて、親よりも貧しいジュネレーションになるかもしれない」とほ
ざいてた。

 「餓えは人間にとって通常の経験ですが、中産階級のアメリカ人にとっては
そうだとはいえません」(K.ヴォネガット)。

 近代の政治や経済の思想は「貧困の解消」を(こっそりにしろ)お題目にあ
げていた。少なくとも「貧困」を前提にそれを留保しようなんてものは、思想
とは呼べなかった。
 人間がいつも努力していて、そのことが彼らに幸運や進歩をもたらしたと考
えているけど、そんな楽天的な思考こそ、たまたま発見されここ150年ほど
は大量に供給し続けられている地下石化燃料のおかげだ。
 人類が経済学を始めてから150年間、つまり1830年頃まで、人が1時
間働いて手に入れられる食糧の量(単位労働時間当たりの食糧生産)は、減少
し続けていた。
 つまりカーライルのような経済学者は勿論、そうでないひとも、いつもハラ
ペコだったし、これからはますます一層ハラペコだろうと考えていた。

 1950年には、日本の給与の国際価格(ドル建て)は、(たとえば初任給
で比較してみると)、インドやパキスタン以下だった。

 ぼくらはほどなく間違いなく貧乏になる。欧州の青年層の高い失業率は希望
のない世代を増殖させている。1970年には、日本と一人当たり同じくらい
の国民所得があったメキシコは通貨危機を引き起こす、赤貧の南米諸国のひと
つになった。インフレなき経済成長を続けるアメリカは国内に分厚い貧困層を
「内的植民地」として拡大させている。アジアはスパイラルな経済崩落の過程
にある。ぼくらはほどなく間違いなく貧乏になる。

以下は、目録からの抜粋。

| 第一次世界大戦下の日本で、社会問題化しはじめた、「貧乏」の問題を直
|視した河上肇(一八七九-一九四六)は、なぜ多数の人が貧乏しているのか、
|そしていかにして貧乏を根治しうるかを古今東西の典籍を駆使しながら説き明
|かす、富者の奢侈廃止こそ貧乏退治の第一策であると。大正五年『大阪朝日新
|聞』に連載、大きな衝撃を与えた書。

■■西川如見『華夷通商考』===================■amazon.co.jp

 元禄時代の地理書・博物書『華夷通商考(かいつうしょうこう)』は、通商
すべき外国とその物産を列記したもので、世界55カ国を網羅していて江戸時
代の海外情報事典の感がある。多数の国を列挙するのだから、当然、その分類
というものがあって、江戸っ子の国際感覚がほのみえる。

 『華夷通商考』において、朝鮮は「外国」である。
 『華夷通商考』において、琉球は「外国」である。
 『華夷通商考』において、占城(チャンパ)は「外国」である。
 『華夷通商考』において、日本も「外国」である。
 『華夷通商考』において、オランダは「外夷」である。
 『華夷通商考』において、スペインは「外夷」以下である。
 『華夷通商考』において、フィリピンも「外夷」以下である。
 『華夷通商考』において、中国は「外国」以上である。

『華夷通商考』におけるヒエラルキーはだいたい、こんな感じになっている。

 中国 > 「外国」 > 「外夷」 > カトリック圏

バテレンは「許されざるもの」だから最低なのである。

『華夷通商考』における「外国」は、支那(清)=中国をその名の通り中心に
すえた、その下に位置する国々、おおざっぱにいえば漢字文化圏のことであ
り、「外国」とは支那=中国にとっての外国なのである。これは日本にとって
スタンダートな「外交」範囲を意味し(たとえば朝鮮通信使や琉球使節など
)、当然のことながら日本を含む。日本は「外国」の一部なのである。

 「外国」=漢字文化圏の外に位置する国々、たとえばヨーロッパの一国であ
るオランダなどが「外夷」となる。これも、同じく支那=中国を中心にすえ
た、同心円的ヒエラルキーの上の名称である。

 支那=中国は、日本の外(よそ)の国であるが、このヒエラルキー自体を成
り立たせる中心なので、「外国」とは呼ばれない。

■■田川健三『思想的行動への接近−イエスと現代−』(呉指の会)=====■

 やはり田川健三は面白い。

 ほとんど自費出版に近い形のようだ。本人がお金を出しているというのでは
ないから、自主出版というべきか。支援者たちが自分たちで出している本のよ
うだ。

 多分、もっとも基本的な主張をテーゼ化すれば、「抽象化、観念論化への批
判」ということになろう。パウロ批判でもそうだし、ガロディ批判、赤岩批判
でもそうだが、田川は、「さまざまな非本質的な部分をそぎ落して、本質的
な、重要な問題を大事にしましょう」という方向を批判する。そこで落される
非本質的なもの、それを田川は色々な場面で取り上げていると言える。例え
ば、「1.イエスと現代」や「2.イエスの思想の特質」では、イエスの発言の
歴史的社会的状況が取り上げられ、「3.民族主義と普遍性」では文字通り宗教
的、文化的、社会的民族主義、「5.パウロ批判の視点」では、パウロの置か
れていて状況、パウロからすれば「夾雑物」であるもの、つまり、「現実」が
取り上げられるというように。
 例えば「3.民族主義と普遍性」で田川は、勿論民族主義を評価するのではな
いが、民族主義を超えたと自称する普遍主義が「どうでもいいじゃないか」と
看做して切り捨てていってしまうもののために、逆に民族主義と同水準に留ま
って民族主義を補完したり逆接的に繋がったりすることを指摘している。

■■『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』(岩波文庫)==========■amazon.co.jp

ダ・ヴィンチが残したメモ(同名の雑誌、ありゃ書いてる奴と読んでる奴は
文盲か?)。

|克己 ------ ラクダはもっとも好色な動物で、何マイルの道をもいとわず牝駱
|駝の尻を追う。だが万一、母や姉妹と交わされるようなことがあっても、絶対
|にふれない、それほど自制する力がある。
|
|平和 ------ イルカは、自分の睾丸が薬用として効能あることを承知している
|ので、追いかけられてせっぱ詰まると、ぴたと立ち止まって、狩人と講和を結
|ぶために、自分の鋭い歯で睾丸を噛みきり、これを敵に渡すという話である。
|
|吝嗇 ------ ヒキガエルは土を食って生きているが、いつも満腹しないがゆえ
|に痩せている。ヒキガエルは土がなくなりはしないかと恐れているのである。
|
|短気 ------ 熊について次のような話がある。熊が蜜をとろうと蜜蜂の巣のと
|ころへ行くと、蜜蜂は熊を刺し始める。熊は蜜を捨てて復讐に突進する。自分
|を刺した蜜蜂全部に復讐しようとするがどの一匹にも復讐できない。そこで熊
|の怒りは狂乱に変わり、大地にあおむけにひっくり返って、手足を空にもがき
|にもがいて蜂の攻撃を防ごうとするが甲斐がない。

■■浅田彰・島田雅彦『天使が通る』(新潮文庫)============■amazon.co.jp

 まったくどうでもいい本だが、対談するふたりは自分で注をつけているので
ある。わたしにとって、浅田彰の注を読むことは(時として)喜びだ。ちくま
文庫に、タイトル変更の上、おそらく政治的理由からいくつかの対談が削除さ
れた上で収録された、森毅『さろんのわだいにすうがくはいかが』は、学生時
代の浅田のアルバイトによって作られたが故、森毅の著作の内、ベスト3に入
る。

|「ところで、三島由紀夫が、「絶対を垣間見んとして」死んだのだという紋切
|り型は、澁澤龍彦のこのエッセイに始まる。信じがたく単純なこのエッセイを読
|んで感じるのは、澁澤龍彦というのがたかだか高度成長期までの文学者だった
|ということだ。近代社会のタテマエがそれなりにしっかりしていたから、それ
|にちょっと背をむけてみせれば、「異端の文学者」を気取ることができた。そ
|れに、ヨーロッパがまだまだ遠く、洋書を手に入れるのも難しかったから、あ
|の程度でも素人は眩惑できたという事情もある。だが、さすがに僕の世代
|ともなると、澁澤龍彦が面白いというのはよほどナイーブな人間ということに
|なった」(浅田彰)

 「たかだか高度成長期までの〜」「近代社会のタテマエ」(笑)。この信じ
がたい紋切り型、ナイーブさ! ただものじゃないな、浅田(笑)!
 世の中には「死語」というものがあるが、これは「切り口」が死んでる、と
は友人の弁。

 同じ友人の、もう少しだけマニアックなコメントには、「ここで浅田は吉本
(隆明)になってる(笑)」というのがある。これに注をつけると、吉本隆明
とは、懐かしい人は懐かしい(らしい)、このあいだ海で溺れたこともある詩
人・評論家である。吉本ばななとは血縁関係にある。


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