=== Reading Monkey ======================================
   読 書 猿   Reading Monkey
    第131号 (小さい挑戦号)
======================================================
■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。

■■竹内 俊彦『はじめてのS‐PLUS/R言語プログラミング―例題で学ぶS‐
PLUS/R言語の基本』(オーム社)===================amazon.co.jp

 S言語は、グラフはいろいろかけるし細かい指示もできるし、統計手法も基
礎的なのから新しいのまでいろいろあって、なくても(誰かが)ライブラリに
追加してくれる。オープンソースのRにいたっては無料(フリー)で使える。
自分の研究環境は自前で用意しなければならないフリーの研究者には、願った
りかなったりである(統計ソフトってどれもすごく高いのよ。「発行部数」の
関係?使う人が限られてるから?)。
 けれど、S(R)言語が何故こうまですごいかというと、一番底の部分にあた
る、ベクトルや行列データのあしらいが秀逸なのだ。実に自然にかつ実に短く、
やりたいことが書き表わせる。この本は、そこのところに焦点を絞って、たく
さんのパズル的な例題で、これでもかという具合に、プログラミング言語とし
てのS (R)の底力を示してくれる。
 お急ぎでない方(あさってまでに実験データをまとめないといけないとかそ
ういうので無い人)は、一度この本を手にとってごらんあれ。一皮も二皮もむ
けた、データ処理(あしらい)の道具だったとS(R)を見直すはず。他の詳し
いS(R)本の理解の深さも深まる。そして作業効率も数割増しは保証できる。
 (実は S‐PLUSを買うと、この本とか、W.N. ヴェナブルズ『S‐PLUSによる
統計解析』とか、ついてくる(正確に言うとついてくるセットがある)んです
が)。ということで、小売りの場合は実はRユーザー向けです。


■■安徽中医学院/上海中医学院編著『鍼灸学辞典』(上海科学技術出版社)=■

 経穴(ツボ)が日常的に使えるようになったのは灸の導入もあるけれど(指
圧は疲れるしね)、『経穴マップ』(医歯薬出版株式会社)で経穴をきっちり
見つけられるようになったのが大きい。この本は、経穴の位置を、昔ながらの
骨度法だけでなく、骨やら筋肉やら神経と、解剖的にもきっちり押えてる。流
派や国で微妙に異なるツボの位置もそれぞれに触れていて、取穴のテクニック
に詳しい(最近WHOで経穴の位置を揃えようとしているけれども)。
 けれども、これは位置はわかるけど、「この経穴が何に効くか」については
実に簡単に触れてあるだけなので、自分の症状や不具合をなんとかしようと思
えば、症状なりで別の本なりサイトなりを検索しないといけない。
 鍼灸は伝統医学なので流派というか諸説というかがある。たくさんある。一
般書は何に依拠しているか、詳しく書いてないので(読者が注を嫌がるらしい。
私は注が大好きだが)、いろいろあるばかりでは決め手にかける。名著で便利
と名高い『鍼灸学辞典』がネット古書店に出ていたので買ってみた(中国本を
買える本屋から買った方が、あるいは安く手に入るかもしれない)。
 この本はインデックスが充実していて実に便利。分類順インデックスとして
基礎理論、経穴(ツボ)、鍼灸方法と器具、治療法則と配穴法、人物関係、書
物関係のインデックスに加えて、主治内容(病名)索引、人物索引、書名索引、
経穴名(ピンイン)引きなどから引ける。本文も、インデックスも漢字の画数
順(正確には、総画検字法と江山千古法(=書き出しの第1筆画の形で分ける
方法。名称は、書き出しの江「丶」山「|」千「丿」古「一」から。総画数だ
けだとまだ字が多すぎるので、同じ画数の中で使われる))なので、ピンイン
を知らなくても(その字が中国語でなんと発音するかわからなくても)引くこ
とができる。近年の中国本ではけっこう多い配列・検字法。
 経穴の項目には、その経穴を含んだ選方(病気に対して使う経穴の組合せ)
が書いてあって、古典から最近の本(1987年刊だからその前まで)まですべて
出典付で、治療の変遷もわかる。辞典だけに必要最小限の記述なので、中国語
素人でも何とかわかる。
 もっと新しい治療法を知りたい向きには、鍼灸が爆発的発展をとげた20世紀
最後の20年間に中国で発表された論文の中から選りすぐりの治療法を収集し
た張仁の『165種病症・最新鍼灸治療』(もうすぐ日本語訳が出るらしい)な
どを見るとよろし(プロ用だけど)。目次はここで見ることが出来る。
http://www.dushu.com/book/10061319/


■■ロレーヌ・ベル『自傷行為とつらい感情に悩む人のために―ボーダーライ
ンパーソナリティ障害(BPD)のためのセルフヘルプ・マニュアル』(誠信書房)
                              ====■amazon.co.jp
 128号、130号で紹介したボーダー(境界性人格障害)や自殺祈念への
高い治療率で注目を集めている弁証法的行動療法ですが、セルプヘルプ本(当
事者本人が自分で使う本)で翻訳があるものがあったので、紹介しときます。 
書き込み式のワークブック形式のものですが、300ページくらいあって、説
明もやさしく丁寧です。また治療者向けの章もあります。
 「ボーダーライン問題群をもつ人たちは、ともすれば一つのサービス期間だ
けに全幅の信頼を置いて、そこでニーズが満たされないと裏切られたような気
持ちなってその他のサービスを受ける気がしなくなってしまうという傾向があ
るようです。本書のプログラムはむしろ、いろんなサービスを積極的に利用す
ることをお薦めするものです」
と訳者あとがきにあるように、いろんなスキルを紹介し、スキルを身につける
ためのエクセサイズを提供するだけでなく、セルプヘルプだけに固執してない
ところもよいと思います。弁証法的行動療法は、チームで治療を行い、治療者
が巻き込まれてボロボロにならないための治療枠組みでもあるので。


■■『佩文韻府』(台湾商務印書館)=================■

 遠縁というか親類というか、漢学者が亡くなり、蔵書の整理に困っていると
いう話だったので、見るだけでも眼福と出かけていった。99歳の大往生だっ
たから、書斎も書庫も現役バリバリの学者のそれではなく、すでに人生の楽し
みに生きる人が、手放しがたいものを残したといった感じになっていた。全集
書、辞書もののそろった奴は、古書店でも値がつくだろうから手をつけまいと
思っていたのだけれど(だからダイカンワ、国書総目録などはスルーした)、
それでも、1冊1冊引き抜くうちに、スチール本棚の奥にならんだものに、佩
文韻府(はいぶんいんぷ)を見つけて(それも台湾商務印書館の7巻本であ
る)、思わず「これ、かまいませんか?」と頼んでもらってきてしまった。 
 これは清の康熙帝の敕撰のひとつで(他に有名なのは、近代以前に作られた
最大の字書であり、字書の集大成である『康熙字典』、奇字、僻字を極力収載
し漢字の悉皆的なリストとなっている。また字の配列規則を同部首内の文字の
画数順としたが、「康熙字典順」という呼称が使われているように、これがの
ちの部首別漢字辞典の規範となった)、韻字ごとに二字、三字、四字の熟語を
配列し、熟語ごとに古典における豊富な用例を集めたもの。韻順の分類という
点からも分かるように、元来は作詩のために作られたものである。膨大な古今
の文献を参照して作詩しなければならない支那の文人が、それぞれアタマでやっ
てた作業を、皇帝が権力でパブリックな仕事として完成させてしまったのであ
る。
 現在では、「膨大な古今の文献を参照して作詩しなければならない支那の文
人」なんてものはいないので、主に熟語辞典として利用されている。
 我々日本の素人は、中国の古典で分からない言葉が出てくると、まず諸橋大
漢和を引くのであるが(ほんとは、今なら語彙の収録範囲、出典の正確さ等は
るかに上回ってる『漢語大詞典』全12巻+索引1を引いた方がいいのだが、
これには2万円台でかえる全3巻縮刷本もある/おちゃめな欠点は用例に中国
の古典だけでなく人民日報なんかも使っているところである)、それでも分か
らないときに(めずらしいことではない)、ちょっとした奥の手として使うの
が、この佩文韻府である。
  熟語収録数は抜群で、大抵はこれで見つかる。出典名と熟語を使ってる箇
所を引用してあるので、あとは書名と引用してある一節をたよりにオリジナル
を探すのである(昔は1ページずつめくって探したらしいが、今はインターネッ
トで寒泉(台湾の故宮博物院で公開してる中国古典テキストデータベース)や
同じく台湾の国立中央研究院が公開してる漢籍電子文献で検索できる。
 だったら、最初からネットで検索すれば熟語集なんていらないという話にな
るけれど、すべての文献がネットに載っている訳ではないので、


↑目次    ←前の号    次の号→

inserted by FC2 system