=== Reading Monkey =====================================================
           読 書 猿   Reading Monkey
            第109号 (銅庫番号)
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■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。
  姉妹品に、『読書鼠』『読書牛』『読書虎』『読書兎』『読書馬』『読書羊』
  『読書龍』『読書蛇』『読書鳥』『読書犬』『読書猪』などがあります。
 ■読書猿は、本についての投稿をお待ちしていました。


■■ホーマンズ『ヒューマングループ』(誠信書房)==============■

 図書館で古い本(原著1950年刊、翻訳昭和34年7月出版)を借りたら、B5
版の紙が二つ折りで挟まっていた。文字は手書き、これをジアゾ感光紙(今も図
面などの複製に用いる。PPCコピー機が普及する前はよく用いられた)で複写して
ある。なお、原文は縦書きである。

>  《書店の皆様に》1/1 栗田書店
> 誠信書房”ヒューマングループ”
>   御販売のポイントについて
>  +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
>  + 一、大学の社会学・心理学・経営学専攻者及び +
>  +    その研究室、図書館 +
>  +  二、会社・銀行、官庁等の企画・労務管理、 +
>  +    人事関係者及びその資料室 +
>  +  三、公民館、中学・高校図書館、一般市民図 +
>  +    書館 +
>  +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
> いろんな人間集団を具体的実例にもとづいて分析
> 解説した、米国における名著として既に定評ある書
> 籍です。自信をもってお勧め下さい。とくに、前記の処
> に現品をお見せになれば必ず売り込めます。
> 今すぐに是非ともお願いします。
> 
> ・・・・・・・・・・切り取り線・・・・・・・・・・・・
(以下に、書籍の追加注文書が、手書きでついている)

 いくつか思うところがあったが、書くまでもないかと思った。


■■苅谷剛彦『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)==============■amazon.co.jp

@:前から聞きたかったんだけど、なんでπ(円周率)が「およそ3」だといけ
ない訳?そんなの、森毅なんか(笑)ずっと前から言ってるじゃない。
#:「ゆとり教育」のシンボルらしいんだけど、3.14を3にして、いったい
どれだけの「ゆとり」が生まれるんだかわかんない(笑)。
@:だいたい、ひらがなの官庁用語ってデタラメなことを言うときの必須アイテ
ムだよね。「ふれあい」とか「こころの」とか「いやし」とか。
#:教える量を減らすとその分「ゆとり」が生まれるってのはさ、「学校で習わ
ないことまで教えないでください」っていうバカ親にのみフィットする発想だ
よ。「余計なこと」を教えると、ただでさえ少ない自分の子供の脳がパンクす
るっていうイメージなんでしょ。脳科学の進歩をなんだと思ってるんだよ(笑)。
@:人間はその脳のごく一部しか使ってないっていう、空想科学小説(笑)の常
套句を知らないんだ(笑)。ほんとは「余計なこと」(周辺情報)を教えた方が、
記憶しやすい訳でしょ。
#:っていうか、学校で習ったことなんて「余計なこと」以外、何一つ覚えてない
よ(笑)。たぶん、その親にとっては「勉強」なんてのは苦痛以外の何ものでもな
かったんでしょ。だからほんとは、あらゆる「勉強」が「余計なこと」なんだけど、
「人並み」とか「必要最低限」ってのもあるから、件の発言になる。
@:あんまり笑えないのは、こういう「知識に対する親のスタンス」が、確実に
その子供の偏差値を20は引き下げていて、さらには生涯所得まで決定してるって
ことに、その親が気付いてない訳。
#:いや、それはどうかと思うけど(笑)。っていうか、その理論だと、「知識に対
する親のスタンス」が親の所得自体を決定してる話になるはずでしょ。しかし、
それは当然、当人たちにとって認めがたい(笑)。
@:だいたい子供の勉強時間って、親の学歴で「決まる」んでしょ(笑)。
#:まあ、その一方で東大卒でも6割は課長にすらなれない。どこの銀行かは言
わないけど(どこの銀行も、ともいわないけど)、東大卒の男を窓口の外(待合
いロビー)でうろうろさせて、CD機に使えないおばあちゃんのサポートさせた
りしてるけど、あれを窓口カウンターの内側から他の行員が眺めてさせて「がん
ばらないと、東大卒でもああなるんだ」っていう《見せしめ》にして「労働意欲」
をかきたてるんだって。何の話だっけ?


■■『アンデルセン童話集』(岩波文庫)==================■amazon.co.jp

 アンデルセンに、日本の「わらしべ長者」とちょうど反対の物語がある。
「お父さんのすることはいつも正しい」という、ブラックなユーモアをたたえ
た、そのうち青年漫画誌で連載がはじまりそうなタイトルをもつこの童話のあら
すじはこうである。
 ある農夫が、自分のもつ馬を何かと交換するために市場へ出かける。彼は、
「希少なもの」に魅力を感じる、我々にも似た効用関数を持っている。彼ははじ
めに、雌牛をつれた男と出会う。農夫はその雌牛がとても気に入り、自分の馬と
それを取り替える。自分の持っていない者に魅力を感じる農夫は、次にその牛を
羊と取り替える。そして次には羊をガチョウに、ガチョウをメンドリに、ついに
はメンドリを腐ったリンゴに取り替える。一回一回の交換において、彼は得をし
たと思っている。もちろんこの交換の系列は滅びへの道である。
 さて、腐ったリンゴを家に持ち帰ったお父さんの運命はいかに?本屋へ急げ。


■■レイブ&マーチ『社会科学のためのモデル入門』(ハーベスト社)======■amazon.co.jp

 言い古されたことであるが、○○では「(誰かがつくった)理論」は教えて
も、「理論の作り方」は教えない。試験にも「(誰かがつくった)理論」は出題
されるが、「理論をつくりなさい」なんてお題は出ない。シモーヌ・ヴェイユの
性格の悪い兄(数学者、初期ブルバキのメンバー)だったか、その相棒だったか
は、「理論をつくるのが一流、あとの学者は一流の学者の演奏(理論)の共鳴箱
にすぎない」と言っていた。
 そうした話とは別に、読書猿では「つくり系」の書物を取り立てて推奨してき
た。さて、この本の「本書の目的」にはこうある。

>  本書は、人間行動を考察する快楽を少し知ってもらうための入門書である。
>  快楽について語ることは、誤解されやすいし、はばかられる。快楽を社会科学
> だけに求める人は、ほとんどいない。またある程度のエクスタシーを社会科学で
> 得るためには、残念ながら労力が必要だ。このことは確かに困ったことだが、簡
> 単な問題は神が物理学者に与えてしまったのだ。しかし快楽を社会科学だけに求
> める人はほとんどいないという問題に関しては、われわれは残念に思っていな
> い。詩もセックスも放棄せよと言うつもりはない。いやむしろ、バイロンの詩を
> 楽しんだ後、わくわくしながらベッドに向かうまでの間に、ちょっと人間につい
> て推論してみないか、と誘っているだけだ。

 なんというか、全編こんな調子である。
 この本はトレーニングブックであるので、もちろん練習問題がついている。一
番最初の練習問題には、「教師の方々へ」という一節がある。

>  本書で扱う題材は、考える時間をできるだけ取れるように、わざと表現を簡潔
> にしてある。要するに、学習におけるグレシャムの法則を仮定しているのだ。つ
> まり何かを読むか、それともそのことを考えるか、という選択に直面したとき、
> 人は読む方を選ぶだろう。読書が思考を追い出してしまう。たいていの人は読書
> の方法を身につけている。しかも簡単に進み具合がわかり読後感が味わえる。そ
> して予定した期間内に確実に終えることができる。

 この書には、なぜ社会科学にはろくな学生がこないのか、なぜスポーツ選手は
バカなのか、なぜ民主主義国家は老人を優遇して赤ん坊を差別するのか、なぜ独
創性は頑固者や教育のない両親の子供や社会の片隅に押しやられた人々のところ
に舞い降りるのか等々、盛りだくさんなモデル(理論)が例として示されてい
る。なるだけ素敵なモデル(理論)を自力で作れるようになることが、この書の
めざすところである。
 というわけで、この書は社会科学の『アマチュア科学者』(読書猿第10号を
参照)である。もちろん、これは賛辞である。



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