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           読 書 猿   Reading Monkey
            第104号 (ガイドビッグ号)
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■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。
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 ■読書猿は、本についての投稿をお待ちしていました。



■■アドルノ,他『権威主義的パーソナリティ』(青木書店)========■amazon.co.jp

ローカルネタ。
阪急沿線の郊外に住む人が、学生時代に集団でキセルした経験を話した。
普通なら「良心の呵責」と呼ぶべきものに耐えきれなくなったひとりの告白か
ら、事が露見した訳だが、当人はその思い出を語りながら
「そんな人って迷惑ですよね」
と言い添えた。事が大きくなったのは、その告白者のせいだというのである。
ひょっとしたら、とっても「日本的な共同体的心情」を漏らしただけなのかも
しれない。こんな話を聞いて、思わず「進歩的知識人」してしまって、川島武
宜『日本人の法意識』(岩波新書)なんかを思い出してしまう人もいるかもし
れない。まあまあ、落ち着いて。
この阪急沿線の郊外に住む人は、「えーっ、御堂筋線なんて怖くて乗れない」
とも言っていた。偏見に関する、申し訳ないくらい古典的な命題みたいな人で
ある。

閑話休題。
次の問に、[大いに賛成  賛成  どちらでもない  反対  大いに反対]の
5段階で回答してください。

[1] 権威に対する尊敬と従属は、子供たちが学ぶべき最も重要な美徳である。
[21] 若者たちは、時として反抗的な考えを抱くものだ。しかし、彼らも大人に
なるにつれて、そうした考えを乗り越えて自己を確立しなければならない。
[27] 自分の両親に対して、心からの尊敬、感謝、愛を感じないような人間はほ
とんど最下等の人間である。
[34] 現代の社会問題の大部分は、われわれが何とかして非道徳的で精神の歪ん
だ意志の弱い人々を取り除くことさえできるならば、解決されてしまうであろ
う。
[37] もし人々がもう少し口を慎み、もう少しよく働くならば、すべての人々の
暮らし向きがよくなるであろう。
[9] 人が何か悩み事や問題を抱えているときには、そのことばかり考えずに、
もっと愉快なことで気を紛らせるのが一番だ。
[8] どんな人でも自分が文句なしにその決定に従うようなある種の超自然的な
力に対しては、完全な信頼をおくべきである。
[26] 人間は、弱者と強者という二つの種類に分けられる。
[29] いつの日か占星術によってきわめて多くのことがらが説明をつけられると
いうことが明らかになるであろう。
[13] 若者に最も必要とされているのは、厳しい紀律であり、断固とした決断で
あり、そして家族と祖国のために働き、闘おうとする意志である。
[19] われわれの名誉に対するいかなる侮辱も決して看過されるべきではない。
[6] 人間の本質が今日のようなものである限り、常に戦争と対立は存在しつづ
けるであろう。
[18] 今日では、あまりにも多種多様な人々が動き回り、きわめて深く混交して
いるので、人は彼らから感染させられたり、病気をうつされたりしないよう
に、特に注意深く自分を守らなければならない。
[31] 現代では、本来、個人的で内密のこととされていなければならない事柄へ
の部外者たちの干渉がますます強まっている。
[25] 強姦や小児暴行のような性的犯罪は、単なる禁錮刑以上のものに値する。
これらの犯罪は、公衆の面前で処罰されるか、あるいはそれ以上の刑を課され
るべきである。
[39] 同性愛は、犯罪と同じくらい害悪をもたらすものであり、厳しく処罰され
なければならない。

いわずとしれた、アドルノのFスケール(尺度)。
このテストは、以下のurlで受けられる。
あの人にも、またあの人にも受けさせたいと思うかも知れないが、まずはご自分
から。
サーバーに記録は残らないそうなので、ご安心あれ。
http://qmss.t.u-tokyo.ac.jp/qmss/ASPs/Adorno.asp



■■宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)==============■amazon.co.jp
「対馬にて」一 寄り合い から

【主要命題】
 「村の伝承」は組織の意志決定のための大事なリソースだった。

【少し詳しい説明】
1 まずメンバーが、意志決定に参加するためのルートになる。反対にせよ賛
成にせよ、直接主張するのでなく、誰もが心当たりのある「伝承=エピソー
ド」でもって話せば、差し障りがすくない。意志決定後も、密接な関係のうち
に暮らしていかなければならない村人としては、洗練された意思表明の方法で
ある。
2 組織の意志決定を通じて組織の維持・再生産を行うためのリソースでも
あった。意志決定のために参照された「伝承=エピソード」は繰り返し再利用
され、そのことが組織文化を形成していく。「伝承=エピソード」の解釈は多
様であるから、くわえて相矛盾する「伝承」が存在するから、さまざまな場面
に適用可能である(まるでことわざのように)。一般の「ことわざ」と違い、
その組織に固有のものであるから、活用されればされるほど、組織のアイデン
ティティを固めることにもなる(つまりそうした「伝承」を理解し、活用でき
るかどうかが、組織の意志決定への参加を左右するからだ)。
3 たくさんの時間をつかうことも特徴的である。(日本の組織の、会議時間
が長い/そのくせ何も決まらないし、誰が決めたのかもわからない、というの
は、この伝統によっているのかも)。ここでは合理的で明確な評価基準も、そ
れによる複数代替案の評価も明示的には行われていない。しかし多くの「伝
承」に突き合わせられることで、問題はさまざまな面から検討されている。

【補助命題】
 話し合いは時間がかかる。
 (しかし眠たくなり、言うことがなくなれば帰っていいのである)

【事例紹介】

p13「……村でとりきめをおこなう場合には、みんなの納得のいくまで何日でも
はなしあう。はじめには一同があつまって口調からの話をきくと、それぞれの
地域組でいろいろに話し合って区長のところへその結論をもっていく。もし折
り合いがつかねばまた自分のグループへ戻って話し合う。用事のあるものは家
に帰ることもある。ただ区長・総代は聞き役・まとめ役としてそこにいなけれ
ばならない。とにかくこうして二日も協議がつづけられている。この人たちに
とっては夜もなく昼もない、ゆうべも明け方近くまで話し合っていたそうであ
るが、眠たくなり、言うことがなくなれば帰っていいのである」

p16「私にはこの寄り合いの情景が目の底にしみついた。この寄り合い方式は近
頃はじまったものではない。村の申し合わせ記録の古いものは二百年近いまえ
のものもある。それはのこっているものだけれどもそれ以前からも寄り合いは
あったはずである。70をこした老人の話ではその老人の子どもの頃もやはり
今と同じようになされていたという。ただちがうところは、昔は腹がへったら
家へ食べにかえるというのでなく、家から誰かが弁当を持ってきたものだそう
で、それをたべて話をつづけ、夜になって話が切れないとその場へ寝るものも
あり、おきて話して夜を明かす者もあり、結論がでるまでそれが続いたそうで
ある。といっても三日でたいていのむずかしい話もかたがついたという。気の
長い話だが、とにかく無理はしなかった。みんなが納得のいくまではなしあっ
た。だから結論が出ると、それはキチンと守らねばならなかった。話といって
も理屈をいうのではない。一つの事例について自分の知っている限りの関係の
ある事例をあげていくのである。話に花が咲くとはこういう事なのであろ
う。」


■■沢村貞子『わたしの茶の間』(光文社)================■amazon.co.jp

 これまた誰もが知る有名本で申し訳ない。
 「(読書猿は)手に入らないような本ばかり紹介される」という人がいるの
で、(まあ、いろいろ言う人はいる。インテリジェンスが売り物らしいメディ
ア商売の人に多い)、少しそういうことしてみたいと思ったのだ。しかしバッ
クナンバーを読み返すと、そういうことしかしていないことに改めて気づい
た。
 有名だからといって、手に入るとは限らないのである。

 さて本題。これも有名な箇所、120ページから。
「近所となりで互いに手を貸し合うのは下町の暮らしの中で、ごく当たり前の
ことだった。世慣れた年増たちは横町の出来ごとにそれとなく気を配ってい
た。
(裏のうちで、赤ん坊が妙な泣きかたをしている----熱があるようだ、あすこ
のご亭主はちょっと訳があって、ずっと留守のはず)
 そう気がついたトタンに洗濯ものを放り出して飛んでゆき、若いおかみさん
に病気の児(こ)の手当てを教え、ついでに自分の巾着(きんちゃく)をはた
いて薬代おかず代をおいてくる。あとで他の人が心配して、
「あすこのうち、大丈夫かね」
ときいても、
「ああ、もうすんだよ」
と言うだけで、
「ここだけの話だけれど、実はあすこの亭主はこうだから、私はこうしてやっ
て……」
などと、言わずもがななおしゃべりは決してしない」

今回の読書猿は、何かテーマみたいなものがあった。


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