>結合通信(2回生配当)10:

ハロー おじさま。
ただいま海洋実習中。私たちは歌を覚えるのに一生懸命。
何の歌だと思う? 「星の歌」といって、私たちがカヌーで外洋に出たときの「海図」になる大切な歌なの。先生はカロリン諸島の出身で、島一番の航海士だったおじいさん。「島一番」ってことは、こと太平洋(これは世界の1/3をおおう、一番大きくて手ごわい海だってことは御存知のとおり)に関しては、世界一ってことです。老ポニマール先生が教えてくれる「星の歌」は、島では男の子にしか教えないものだそうです。というのは、島で航海士になれるのは男の子だけだからです。
 先生の授業は、海に浮かべたアウトリンガー・カヌーの船底に寝っころがることから始まります。実際、カヌーの船旅では、昼間はこうしてごろごろ横になるのです。ひとつはもちろん身体を休めるためと、そしてもうひとつ大切な役目は、カヌーのゆれに身を任せて身体中で波のうねりを感じとることです。広い太平洋でも、それぞれの場所で波の大きさ・速さ・形、海流の速さ、塩分濃度や水温、みんな違います。目にはまるで同じように見える大海原も、耳や鼻や皮膚、身体全体を使って感じたことから、それぞれ異なる特徴がつかめます。あと数時間で大時化(シケ)がくるとか、凪になって何日も風がない日が続くのか、そういったことまで知ることができるのです。
 ここまでできるのはもちろん一人前の航海士ですが、私たちも海で寝ころんで得た感じを、陸に戻っても反芻してみます。繰り返すこの経験が、海での知恵と勇気に繋がるのだそうです。
 さて、カヌーの旅で、実際に船を進めるのは夜です。風の急激な変化がないことと、なによりも星が行く先を導いてくれるのが強みです(太陽の位置を頼りにするなら精密なクロノメーター航海時計が必要ですから)。カヌーの上で、私たちは覚えたばかりの「星の歌」を歌います。歌は行き先別に何百曲もあり、たとえば「グアム島への星の歌」は、グアム島へ向かって何日も船を進めるための方向の導き方を私たちに教えてくれます。どんな配置(conformation)の星座がどんな方向に見えるように船を進めるべきか、星の見かけ・高さがどのようになったら今度はどちらへ船の方向を変えるか、みんな歌になっているのです。航海士は「星の歌」を記録法として、何千年もの蓄積としてあらゆる場所への道程を記憶しています。「星の歌」は航海日誌であり、また時折カヌーを襲う嵐をおさめてくれるよう神をなだめる歌でもあります。カヌーのナビゲーション(航法)は、こうして海を読み、空を読み、星を読んで、行なわれるのです。







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