結合通信(2回生配当)9:

 ゲリラ戦教程の先生は謎の人です。いつも覆面を着けていて名前も仮名です。
 私たちが知っているのは、先生は熱帯地方の出身で、主にジャングルでの戦い方は教授できるけど、有効な市街戦の方法を教えることができなくてすまなく思うと、仰ったことだけです。
 「ゲリラ戦士は、戦争におけるジェスイット派である」とまず最初に先生は云いました。ゲリラ戦は、私たちがいつのまにか教え込まれてきた戦争についての観念、ロマンチックでスポーツ的な戦闘の仕方とは違った方法で、行動することを要求します。
 「近代戦で指揮官が戦闘の度に兵士の目の前で死んで見せることがないように、ゲリラ戦においては、自分自身が指揮官であるゲリラ戦士もまた、戦闘の度に死ぬ必要はない」。ゲリラ戦の基本はヒット・アンド・アウェイ(撃ったら逃げる)です。卑怯者になること、卑怯者となるくらいに頭を冷たくすることがゲリラ戦士には必要なのです。
 ゲリラは大きな集団では行動しません。せいぜいが12~14人の小集団です。ゲリラ部隊の行動能力は、一番足の遅い人のそれと同じになりますし、大きな部隊は敵方にとってそれだけ大きな(狙い易い)「的」になるからです。
 この二つの原則から、すべてのゲリラ戦術が導き出せます。包囲戦もゲイラ戦士は次のように行ないます。まず敵の四方に数人ずつを配置して、散発的に遮断物の影から敵を狙撃します。敵は後ろから、次は左から右からと攻撃を受けることになります。これは次々に別の方向から、全体としては絶え間なく行なわなくてはなりません。敵が堪りかね撃って出るなら思うつぼです。敵の進行路にあらかじめ伏兵を配置しておき、通りすぎる敵兵を後ろから攻撃します。敵が反転攻撃してきたら、その伏兵は退却し、敵がさらに進行すれば別の伏兵が攻撃します。
 近代戦は、スウェーデンのグスタフ・アドルフによる兵器・戦術革命から始まりました。これはスウェーデンの鉄工業と兵器産業を背景にした、大量の銃火器を使用したもので、小銃の横隊射撃(横並びになって一斉に射撃する)とそれを支援する砲兵部隊の一斉射撃とで、従来の槍兵や騎兵に対して十二分に対抗できるようになったばかりでなく、短時間で広い範囲の戦場を「制圧」することをも可能としたのです。
 これを打ち破ったのがアメリカ独立戦争で非正規軍(当初アメリカには正規兵は60人くらいしかいませんでした)が用いた「散兵戦法」でした。「散兵戦法」は、少ない銃弾と十分に組織されていない兵士(彼らは猟銃や鍬や鍬をもって集まってきた市民でした)しかない独立軍が止むに止まれずとった戦法です。広い戦場を一斉射撃で満たすだけの銃弾はありません。号令にもとずいて一斉射撃できる訓練された兵隊もいません。そのかわり、敵の一斉射撃のほとんどが無駄になるように、彼らは互いにばらばらになり、そして一人でもいいから正確に敵に狙いをつけて倒す方を選びました。少ない弾薬を有効に使うのはそれしかなかったのです。しかし敵にとってはこのやり方は厄介でした。相手はもはや大勢が束になって銃の前に飛び出してくれません。それどころかどこか物陰にかくれて、我々の内の誰かに狙いをつけているのです。この戦法は有効でした。フランス総裁政府の首脳カルノーは(これは実はカルノー先生のお父さんです)この新戦法を採用し、さらに徴兵制度を導入しました。銃さえ撃てれば特別な訓練を必要としないこの戦法なら、市井の人々をわずかな訓練で兵隊にすることが可能だからです。こうした一連の仕方はナポレオンにも大幅に取り入れられ、「国民戦争」のスタンダートになりました。ゲリラ戦は、この古くて新しい「散兵戦法」にルーツを持ちます。

 「モトロフ・カクテル」は包囲戦だけでなく、対戦車戦(ゲリラが活動するジャングルでは、戦車は大した脅威ではありませんでした)にも大変効果があります。作り方は、瓶の中に自動車用ガソリンと灯油を1:3の割合で混ぜたものを入れて、ぼろぎれを瓶に巻き付けます。これに火をつけて直接投げれば火炎瓶ですが、散弾を抜いて火薬だけにした弾丸に棒を取り付け、その先に瓶を取り付ければ、散弾銃からボトルを発射することができます。これは100mかそれ以上の射程距離とかなりの精度があって、ゲリラが使う理想的な武器のひとつです。





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