結合通信(2回生配当)8:

 おじさまは入学試験なんて受けたことがありますか?
 ちっちゃいことからずっとエスカレータ式の学校だった?それとも、王様みたいにずっと家庭教師の先生に習ってて、学校なんて行ったことがない?
私(ううん、私たち)は、もちろん「入学試験」を受けました。そして今、授業で「入試問題」を作ってるんです。次の年度、学園に入学してくる新入生選抜のための!
 この授業は2回生必須です。つまり私たちが受けた試験も2年上の先輩が、その先輩たちが受けた試験もまた2年上の先輩が、学園の生徒及び元生徒(あの若先生とか)が受けた試験もすべて「2年上の先輩」が作ったんです。試験は無論とても大切です。それでどんな後輩が入ってくるか決まるのだもの(そして私たちが作った試験で、入学してきた人達が、次に作った試験でそのまた次の後輩が入ってくるのです)。
 もっとも今は、私たちが「試験の何たるか」を知らないらしいので(私たちが学園に入るまで何百回もテストを受けてきたのを御存知ないのかしら?)、「試験の何たるか」について講義を受ける立場なんですけど。

 本当はもうどんな問題を出題するかちゃんと考えてあるんです。それをここで書いてもいいのだけれど、試験問題の漏洩になっちゃうでしょ。だから私が受けた入学試験のことを書きます(実は「試験の何たるか」の講義を受けるのは、私たちがどうしても自分の受けた入学試験を手本にしてしまうからだそうです。お蔭で学園の「入試傾向」は1年毎に入れ替わります)。
 学園の入学試験は、筆記試験と口頭試験の二つです。元はこの二つは毎年どちらかひとつだけで、それが1年毎に「入れ替わって」いたのだそうです。今年は筆記試験の年、今年は口頭試験の年というぐあいにです。
 口頭試験は、先に渡してあったテーマについて受験者同士が公開討論をして、それを十人の試験官が採点します。試験官をやるのも2回生の役目で、それぞれ自分が作成に関わってないテーマの試験官を担当します。議論が白熱するように、試験官の他に討論に混じって相手をやりこめる役も(これはまるっきり受験生のふりをするのです)何人かが担当します(そして大抵の場合、とにかく討論で自説を守り切れた人が合格します)。昔は(といっても少し前まで)公開討論には、応援団を連れてくることができました。受験生は、郷里から親類縁者や友人を連れてきて、そして無事合格が決まると、そのまま故郷までみんなで行進して、応援団に大晩振る舞いの徹夜のお祝いパーティをするのです。もっともこれは年々エスカレートしてきて(全然役に立たない「応援団」が大挙してくるし)、冗談じゃなく破産する人まででてきたので、残念なことに最近禁止されたそうです。
 「年々エスカレート」といえば、筆記試験もそうです。もっともこれは、ありがたい講義によれば、歴史的に先例があるそうです。イギリスでニュートンという人が勤めていた大学で、そのニュートンさんの活躍により、大学のカリキュラムの中でも数学が一等重きを置かれるようになりました。ところが当時は今ほど数学が発達していなくて、その試験を公開討論でやるにはかなり無理がありました。そこで7世紀頃中国人が発明した筆記による試験がしぶしぶ行なわれるようになったのです。「しぶしぶ」というのは、当時のイギリス人はオランダ人と同じに中国人をバカにしていたからです。でも、中国で最初に筆記試験が発明されたのはしかたがないことです。当時ヨーロッパはもちろん中国以外の世界のどこにも、答案用紙、つまり紙(ペーパー)がなかったからです(だからしょうがないから、弁論で試験をするやり方が中心になったのです)。とにかくその大学ではトライポスという筆記試験が行なわれるようになりました。最初はそういう訳で数学だけでしたが(というか、当時の数学は、正誤がはっきりしていてとても筆記試験向きだったのです)、そのうち歴史や作詩についても同じように筆記試験が行なわれるようになりました。ところでニュートンさんが勤めていた大学は、たくさんのカレッジ(学寮)があって、さらにはイギリスは競馬が盛んでした。点数のはっきりしたテストが発明されたのに、どうして各寮ごとに競い合わないことがあるでしょう。各寮にはトライポスのコーチ(調教師)が現れ、特に優秀な生徒(サラブレット)が選ばれてあらゆるテクニックがたたき込まれました。そして学内1等をとるとシニア・ラングラーとして発表されて、それが寮の誉れとなったのです。おかげで問題の方も、それに合わせてどんどん難しくなり、やがてそれを解けるのは世界でも数人というものになりました。
 学園のペーパーテストは、本当に解けないか、それともとても込み入ってて解くのに際限ないほど時間がかかってしまうので実際には誰も解けないか、そのいずれかです(たとえば荷物をナップサックに一番効率良く詰め込むという問題は、簡単なようですが荷物がn個になるとn!の手間がかかってしまって、解けることも解き方も分かっているのに、実際に答えを見つけるには莫大な時間がかかります。この「ナップサック問題」が機械の小型化や整理整頓といったものが思ったよりずっと難しい理由です)。それがだいたい50~70問くらいあります。これくらいあると、中にはひとつくらい解ける問題があるように思ってしまいますが、実際はやっぱり解けないのです(ハンディつけて筆記試験はどんな物でも持ち込んで構わないのですが)。ところがどうしたことか、時々解いてしまう人がいるのです。そういう人は2つも3つも解いてしまいます。







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