=== Reading Monkey =====================================================
           読 書 猿   Reading Monkey
            第71号 (意味と実在号)
========================================================================
■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。
  姉妹品に、『読書鼠』『読書牛』『読書虎』『読書兎』『読書馬』『読書羊』
  『読書龍』『読書蛇』『読書鳥』『読書犬』『読書猪』などがあります。
 ■読書猿は、本についての投稿をお待ちしています。


■■服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書)==========■amazon.co.jp

 別の本だが『カチン族の首カゴ』というのがある。陽気な人好きする性格の
日本兵が、カチン族といういわゆる人食い人種に迎えらえて王様になるという
ドキメンタリーで、王様になった本人が書いている。それもカチン族だけでな
く、戦争中だから戦争の邪魔になるとイギリス軍に見捨てられていったイギリ
ス女性や子供達もいて、彼らも日本兵の王様を慕う。彼は非常に善政を敷い
て、戦勝国のどこにも成立しなかったようなインターナショナルな共同体を
作ってしまう。最後に日本軍に見つかって帰還命令が出る。カチン族も他の人
たちも是非残ってくれというのだけれど、本人もこのまま帰って人殺しに荷担
するよりも、この人たちのために王様でいることの方が人間として尊い生き方
のような気がするのだけれど、結局泣く泣く帰っていく。やがて、日本軍とカ
チン族は敵となり、時は流れ、日本は敗戦を迎える。
 『ルワンダ中央銀行総裁日記』もまた中央銀行総裁となった本人の手になる
ものである。1964年、日本銀行にいた服部氏にIMF(国際通貨基金)か
ら、アフリカの小国ルワンダの中央銀行総裁になってくれないかとオファーが
来る。当時、ルワンダはまだできたばかりの、ひどく貧乏な国である。オラン
ダ人の初代総裁が病気で帰ってしまって、その穴埋め。行ってみると、外国人
の技術顧問がすべての大臣にくっつき、適当な事をふきこんで、自分たちと自
分たちを派遣している国のため、暴利をむさぼっている。一部商人も右に同
じ。しかも課題は山済み、すぐにでも通貨切り下げやら、二本立ての為替制度
の大改造やら、やらなくてはならない。いずれもこの貧窮の国に致命的打撃を
与えるかも知れない大手術であり、施術後の手当も考えなければならない。な
にしろ、中央銀行の金庫に金がない。スタッフも絶対的に不足している。一国
家をあずかる中央銀行の帳簿を、総裁自らつけなければならないほどである。
 それでも服部氏は奮戦する。大統領に筋の通った説明をし、経済計画を作
り、IMFを脅しなだめ、悪徳商人たちを牽制し、物資の輸入がとまらぬよう
に弱小商人の国境密輸に目をつぶる。あの手この手のオモテ技、ウラ技を駆使
してなんとか軌道に乗せ、次代を担う銀行スタッフの育成にも当たる。活躍は
すでに中央銀行総裁の域を越え、税制改革から民間銀行の設置、農業生産の増
強にもつとめる。悪徳商人が牛耳っていた流通面を改革するために、倉庫株式
会社からトラックの輸入、あげくの果てには公社をつくってバスまで通したり
する。
 やるべき以上のことをやり遂げ、やがて別れがやってくる。1972年に書
かれた、ドラマティックでエキサイティングなこのノンフィクションは、アフ
リカ小国の未来への希望で結ばれている。我々はその後、この国がどうなった
かを知っている。この本に登場するカイバンダ大統領に、1973年のクーデ
ターで、国防相のハビャリマナがとってかわり、その後もつづく、多数派フツ
族と少数派のツチ族との対立・紛争の中、ハビャリマナ大統領と隣国ブルンジ
のヌタリャミラ大統領の乗った飛行機が攻撃され、両者が死亡、その後、記憶
に新しい大虐殺が起こり、多数のルワンダ難民が生まれた。


■■山内雅夫『占星術の世界』(中公文庫)================■amazon.co.jp

 昔、よみうりテレビ制作の「EXテレビ」という番組があった。「イレブン
PM」の後番組として登場したもので、上岡龍太郎と島田紳介が司会である。
毎回のようにいろんな企画を出して、とりあえず何でもやってみるという形式
のやけくそな番組で、その中には、後に「何でも鑑定団」や「ダウンタウンD
X」、「発明大将軍」といった人気番組に発展する元になった企画もあったか
ら、いわば伝説の深夜番組である(無論、使えない企画も山ほどあった)。
 その中で、占いについて取り上げた回が何度かあった。ゲストとして呼ばれ
た占い師の中に、この本の著者山内雅夫もいたわけである。
 上岡龍太郎は占いが嫌いである。

上岡龍太郎:それなら僕が今からあなたを殴るか殴らないか分かりますか?
山内雅夫:あなたは常識のある人だから殴らないと思います。
上岡龍太郎:それやったら殴る(ボカっ)。

 上岡龍太郎は他の番組でも、占い師を苛めて泣かしたり、顔に油性マジック
で落書きしたりという前科者である。山内雅夫は勉強が足りなかったと云えよ
うが、ま、いずれにせよ始めから勝負は付いている。


■■永山則夫『無知の涙』(河出文庫)==================■amazon.co.jp
 
 今日は永山則夫が死刑になって一周忌とかで、テレビでも永山則夫(の母
親)のドラマ(大竹しのぶ主演)をやっていた(8/1のことである)。永山則
夫は、四人だったかを殺した殺人犯で、獄中ではヘーゲルやマルクスを読み
(膨大なノートがあるらしい)、自分の犯罪が、自らの無知によるものだった
というようなことを考えたらしい(みんな無知が悪いんだと思って、ヘーゲル
やマルクスを読み始めたのだったかもしれない)。

 先輩の土田さん(仮名)が二か月ほど入院していたことがあった。私がお見
舞に行くと、そこに別の先輩柴田さん(本名)がやって来た。

柴田:来ました。
土田:うん。
柴田:金田さん(仮名)に頼まれてお見舞の品をもって来ました。カセットテ
ープね。これなら寝ていても聞けるっていうんで、般若心経だそうです。
私:……[うぷぷ]……
柴田:ぼくも見舞もってきました。本ですけど。これ。
土田:ありがとう。

 その本というのが永山則夫『無知の涙』だった(うぷぷ)。
 因に私は、吾妻ひでおの『やけくそ天使』第二巻(のみ)と、久保キリコ
『シニカル・ヒステリー・アワー』の第五巻(のみ)だったが、後で土田さん
に聞くと、私のが一番まともだったらしい。


■■ディック=ブルーナ『こぐまのボリス』(講談社)===========■amazon.co.jp

 小型の絵本である。お話の全文を引用する。

  「ああ,さむい。
  たいへん もう すぐ ふゆが くる。
  まきを つくらなくちゃ。」
  こぐまの ボリスは いいました。

  「まきを つくるには きを みつける こと,
  きを みつけるには もりに ゆく こと。
  じゃ,しゅっぱーつ。」

  「まきに ちょうど いい きは ないかな。」
  あっちに いったり こっちに いったり,
  ボリスは さがしました。

  「あった あった,
  おおきい まるたんぼう。
  よーし,もって かえろう。」

  よいしょ,よいしょ。
  ボリスは はこびます。
  とっても おもいけど,
  ボリスは ちからもちだから
  だいじょうぶ。

  ボリスは きを きります。
  ぎーこ ぎーこ いっぽん,
  ぎーこ ぎーこ にほん,さんぼん,よんほん。
  たくさん まきを つくりました。

  ボリスは まきをつみます。
  きちんと ならべて
  たかく たかーく つんで,
  ボリスは とっても じょうず。

  これが ボリスの うち。
  ちょっと ふるいけど
  あったかい うちです。

  「きょう,ぼく たくさん はたらいたよ。
  おふろに はいって
  さっぱり しよーっと。」

  「それから おいしい ものを つくるんだ。
  ぼくの すきなもの,
  それはね,
  おひさまいろ した トマトスープさ。」

  「ああ,おなかが いっぱい。
  だんろに ひを もやそう。
  これも ぼくが つくった まきだよ。
  あったかーい。」

  おへやは ぽかぽか
  いい きもち。
  ボリスは ほんを よみました。
  おやすみなさいの じかんまで。

 やりがいのある労働、満足の行く食事に、燃えさかる暖炉、そして学習。
 ああ、ボリスよ。
 君の生活はまるで模範的共産党員のようだ。


↑目次    ←前の号    次の号→







inserted by FC2 system