結合通信(2回生配当)12:

 今日は「ヒルシュ管」という不思議なものをつくりました。T字に金属のパイプを繋いだだけのものですが、垂直に取り付けられたパイプから空気を吹き込むと、水平になったパイプの片方からは熱い空気、もう片方からは冷たい空気が出るという代物です。何故こんなことが出来るかというと、この装置は、運動量の大きい分子(つまり熱い空気)と運動量の小さい分子(つまり冷たい空気)を選り分けることが出来るからです。まるで「マクスウェルの悪魔」の仕業です。マクスウェル先生の(もしもうまくいった時の)超能力みたいです。
 作り方はいたって簡単。工夫は圧縮空気を吹き込んでやる部分をうず型のチェンバー(chamber)にすることです。2本のパイプは、この継目の両方に繋がれて、一方は熱い空気が出る「熱いパイプ」、その反対側が冷たい空気が出る「冷たいパイプ」になります。太さは両方とも1.2センチ、長さは「熱いパイプ」が38センチ、「冷たいパイプ」が10センチ。「熱いパイプ」の端には調整用のコックをつけます。これで、「熱いパイプ」からは最高180℃、「冷たいパイプ」からは最低-60℃の空気が得られるのです!!
 なぜこんなことができるのか、本当の理由は分かっていません。多分、吹き込まれた圧縮空気がチェンバーの中で渦になって回転するのが原因だといわれています。その渦の中で、ゆっくり動く空気は渦の中心に集まり、速く動く空気は渦の周辺に集まります(というか回転の中では、外側ほど速度が高いはずです)。渦の周辺の速く動く空気(つまり運動量の大きい分子たち)は、ワッシャーのために「冷たいパイプ」の方へは流れず、「熱いパイプ」へ行きます。この時、どの程度熱い空気が流れるかは、「熱いパイプ」の端についたコックで調整される(パイプ内の圧力による)のです。逆に、取り残された方のゆっくり動いてる空気(運動量の低い空気)は、しかたなく「冷たいパイプ」に導かれますが、狭いチェンバーの中から広いパイプ→外の世界へと出て行くので、圧力が急に下がって、なおさら温度が下がるという訳です。
 残念ながら、「ヒルシュ管」はマクスウェルの悪魔ほどは効率がよくありません。温度差もなにもないところから(エントロピーが高い状態から)、温度差を生み出すマクスウェルの魔は、永久機関のエンジンになれますが、「ヒルシュ管」は勢いよく圧縮空気を吹き込まないと作動しません。その分、外から仕事を与えてやらなくてはいけないのです。その作動効率は普通の冷蔵庫よりも劣ります(でもマクスウェル先生よりはずっとまし)。でも、そんなことはどうだっていいんです。私たちが何にこんなに興奮してるかわかりますか?そうです、冷蔵庫はおろかドライアイスだって手に入らなかった私たちが、この不思議なパイプのお蔭で、とうとう本当にアイスクリームを作ることが出来たんです!(同じ圧縮空気を使うのでも、ベンチュリー管から空気を吹き出させて膨張させるより20倍も冷たい温度が作れるんですから)。おじさまにも食べさせて上げたいです。お送りできないのが本当に残念。


追伸:万年雪を求めて出発した探検隊はまだ帰ってきてません。もし万が一(世界中に顔が広いっていうおじさまのことですから)、彼らを見かけたら、このニュースを伝言してください。





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