結合通信 19:

会計学は、複式帳簿の仕組について。

複式帳簿の考えは、ちょうど解析力学の先駆になっています(実のところスケープゴート理論すら、「振替勘定」でまんま説明できるのです)。力学では、力が加速度を生み、物体を動かしますが、対象となっている物体が増えると、多数の物体がてんでばらばらに動き回るのを考えなければならないので、大変です。そこで、ある力には、それと同じ大きさで無期が正反対の「慣性力」という影の力が拮抗していることにします(これをダランベールの原理といいます)。あらゆる力は釣り合わせて、動力学を静力学に変換します。力学を、物体の運動の学ではなく、力の釣合の学にするわけです。これが解析力学で、実際の力学の問題は、ニュートンの仕方では手間がかかってやってられないので、このようにするわけです。
 たとえば家計簿は「現金」が今どれだけあるかを記録します。収入があれば「現金」が増え、例えば買物をしたりして支出があれば「現金」が減るわけです。ところがどこかから借りてくれば「現金」は増えるし、貸し出せば(手持ちの)「現金」は減ります。ある項目だけに注目していては、他の項目との関連があやしくなり、たとえば適当な資材の配分が必要なのに、「現金」だけが増えることを喜ぶことになります(それなら後先考えず「現金」を借りまくればいいわけです)。「現金」の増加(あるいは減少)は、お金をドブに捨てたりしない限り、他の項目(たとえば商品、預金、貸借)の減少(あるいは増加)と結び付いています。他の項目についても同じ事です。
 いかなる場合でも、ある項目の変化を、他の項目の正反対の変化でバランスさせるのが、複式帳簿です。資産の増加には、他の資産の減少か負債の増加か資本の増加か収益の発生が対応します。資産が増加するのに、負債や資本や収益が増加するのは、負債や資本や収益が、資産とは正反対の項目だからです。複式帳簿はダランベールの原理のように、勘定帳簿を静力学化します。
 「常にバランスさせる」からといって、一切の損得が消え去るわけではありません。解析力学だからといって、「現実の宇宙」が永遠に停止する訳ではないように。
 賃金労働者の収入は労働時間に比例する定率賃金なので、借金がその収入を増加させることはありませんが、企業家の収入は投資によって増加することがあります。とくに重工業の生産手段には企業家の収入だけでは賄いきれない多額の資金が必要です。企業活動は借金を必然的に組み入れなければなりません。「なるべく借金しない」ことをモットーにしておけば、現金の出し入れだけを記載する単式帳簿で事足りる賃金労働者と、借金が必然であるが故に他多くの項目(資本、収益、資産)すべてとのバランスにおいて勘定を把握する複式帳簿が必要な企業家との違いがここに存在します。








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