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           読 書 猿   Reading Monkey
            第2号 (狩人のきまぐれ号)
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■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。  姉妹品に、『読書鼠』『読書牛』『読書虎』『読書兎』『読書馬』『読書羊』  『読書龍』『読書蛇』『読書鳥』『読書犬』『読書猪』などがあります。 ■読書猿は、本についての投稿をお待ちしています。


■■中島義春『哲学者のいない国』(洋泉社)■■=============■amazon.co.jp

# 中島さんというのが、最近いっぱいでてる、「テツガクすること」みたいなの
書いてる人だけど、カント研究者でね。
@ (笑)
# ぜんぜん読んだことないけど(笑)、書評によると(笑)、要するに「哲学研
究者はいるけど、哲学している人はいない」とか、やっぱりそういうの書いてるら
しい。
@ (笑)それ、逆だ。
# そうそう。哲学研究者なんてどこにもいないじゃない(笑)。
@ 哲学してるやつなんか、うじゃうじゃいるしね(笑)。生物学者でも会社社長
でも(笑)、なんかちょっと「語ろう」としたら、みんなすぐにテツガクしちゃ
う。アルチュセールいうところの、「自然発生的哲学」(笑)。「それ」がテツガ
クなんだってば(笑)、だからお前はだめなんだよ(笑)、気付けよいいかげん。
# あと「難しいコトバをつかってやるのが哲学じゃなくて、日常のコトバで普通
のことを考えるのが哲学だ」とか、きっと書いてあるんだ。そんなこといっても仕
方ないじゃない(笑)。
@ 小田実がさ、奥さんの実家に挨拶にいくんだよ。で、顔が恐いから、奥さんの
お母さんがすごく恐がるの。「この人はヤクザにちがいない。娘を売り飛ばす気
だ」って(笑)。で、お父さんが「おまえの仕事はなんだ?」って聞くの。
# (笑)
@ 小田実は、ほんとはいやなんだけど、「自分は作家だ」っていうのね(笑)。
桑原武夫が、『第二芸術論』で「日本人は誰もが芸術家になれるとおもってやがる
トンチキだ、だから俳句なんて流行るんだ。フランスで、エクリヴァンっていや
あ、めちゃくちゃ尊敬されるんだ」って書いてるけど、まあそういうところを狙っ
たんだね(笑)。
# それで尊敬されたの(笑)?
@ そしたら、お父さんは「作家は女たらしだから、娘はやれない」っていうの
(笑)。で、奥さんのほうが困って、とうとう「この人は思想家です」っていうん
だ(笑)。そしたら、二つ返事でOKになるの。思想家って偉いんだよ(笑)。
「考える人」ってことなんだけど(笑)。
# しょうがないね(笑)。「自分で考えるためのテツガク」とか(笑)
@ ああいうの好きな人って、ヒーリングとかに行けばいいんだと思う(笑)。
# 「自分さがし」だもんね。
@ あのね、イタリアかどこかに、密かに穴を掘って(笑)、そのなかに700人
くらいヒーラーばっかりでつくってる秘密の国があるんだって(笑)
# (爆笑)
@ 700人も穴に入ってるくらいなら、さっさと世界のどこへでも、人を救いに
行けよ、っておもうんだけど(笑)。
# 考えるだけでいいなら、ナポレオンヒル・プログラムね(笑)。
@ 最近のことばでいうと(笑)、「脳内革命」だね(笑)。
# 「思考は実現する」(笑)。あれはどうですか?
@ 書こうとおもったんだけど(笑)、「努力すれば、成功する」っていうのと、
同じくらい無意味だね(笑)
# (笑)
@ あのね、「物を買うにはお金が必要だ」ってのが正しくても、「お金があれば
物が買える」ってのは間違いでしょ(笑)。
# つまり、逆は必ずしも正しくはない訳ね(笑)
@ そうそう(笑)。同じ事が「成功するには努力が必要だ」ってのと、「努力す
れば成功する」というのについても、言えるじゃない。
# うん(笑)。
@ 意志ってのはまずもって選択の原理な訳でしょ(笑)。世の中の事象のいずれ
かを「実現した」と言い張るためには、そいつを数多の事象の中から選ばないとい
けない訳ですよね、「これを実現したい」と。「実現するためには、それを意志
(思考)することが必要だ」(笑)。
# もういいよ、あとはいわなくても(笑)。
@ あと努力する人は、反証を受け付けない、というのもあるね(笑)。
# 信念あるからね(笑)
@ これは深刻な例だけど(笑)、「いい子でいたら、親が愛してくれる」と思っ
てる子はさ、いい子であろうと努力する。でも、少なくとも主観的には、まずあん
まり愛されてない訳だよ。
# でないと、そんな信念も努力も出て来ようがないよ。
@ 科学的認識(笑)ならさ、仮定に反する証拠が出てきたら、仮定が否定される
訳じゃない(反証される)。でも、この子は、努力の結果大して愛されなくても、
「いい子でいたら、親が愛してくれる」という仮定を否定しようとは思わない。
# 思わないね。
@ 思ったりしたら、いままでの苦労が水の泡だから(笑)。
# ひどいね(笑)
@ だから「まだ努力が足りない」と思う。
# こまったね。
@ でも、だいたい努力って「水の泡」になるべく運命づけられてると思わな
い(笑)?
# 思う(笑)
@ そして水中の酵素が分解してくれる(笑)。でないと、世の中に努力廃棄物が
ごろごろすることになるもの(笑)。


■■北杜夫『さびしい王様』(新潮社)=================■amazon.co.jp

 北杜夫に『さびしい王様』というのがあって、主人公の王様はバカである
(だからこそ教養小説になるのだが)。それはいいのだが、バカだから家来の
いいなり、しきたりの命じるままである。食事は豪華だが毒味役が付く。何人
も何人も付く。毒味役が特異体質で特定の毒に耐性があるかもしれないからで
ある。
 何分何十秒と(栄養吸収のために最良であるとの根拠で)ゆでる時間の決め
られたゆで玉子は、次々と毒味役に毒味され、しかもその毒味役がこの玉子は
5秒ゆですぎだとか3秒ゆでたりないとか言うので下げられるし、たまに味が変
わっていればすぐに検査室に廻され、しかも検査室では続々と新発見の毒が発
見されるので、最初大量にある玉子が、王様の口に入る頃には黄身のひとしず
く、白身のひとたらしくらいになっている。むろんほかの食べ物も同じだ。
 だから王様の夢は、ああ、あのカリカリのベーコンの一切れでもいいからそ
のまま食べてみたい!ということなのである。
 が、王様は肥っている。一種類につき少しずつでも、その種類が多ければ総
合して栄養は足りるし、「何よりも、たらふく御馳走を食べてきた先祖たちの
血筋が王様に肥ることを命じたから」(書庫まで行くのが面倒なので適当な引
用である)である(昔はいい加減だったので窮屈な規則なんかなかった)。


■■深沢七郎『深沢七郎滅亡対談』(ちくま文庫)==============■amazon.co.jp

 読書ざる創刊おめでとうございます。それでは少し書いてみることにしま
しょうかどうしようかということで、深沢七郎の筑摩文庫のやつにしました。
深沢七郎が筑摩文庫の対談のやつで太宰治について書いている部分があって三
島由紀夫が「あんな敬語ないよ」といった悪口を言った「斜陽」の奥さまの敬
語というのはじつはわざと敬語を誇張しているんだということを深沢七郎が
言っていておまえそんなことわかるのかおいという内容でした。それで同じよ
うなことが村上龍と坂本龍一が鼎談するおもしろいやつにもあってそれでは中
上健次の「水の女」というのがわざと変な方言をつかっているんだということ
で、これは村上龍が九州出身だから知っているかもしれないという説得力があ
り、深沢七郎は名家の出ではなくてたしか文房具屋のむすこなので、説得力が
ありませんでした。
さてここで悪口という悪口はないんですけど、せっかく悪口を書けと言われた
のだから(そんなことは言われていない)少し書こうかと思ったんですが、最
近みないい人ばかりなので僕には何か悪口を言うことができなくなってしまい
ました。創刊おめでとう。
深沢七郎ヒロポンねたとか、ゼットリン文学の話は次回にまわすとして、今回
僕がのべたかったことは「あんな敬語ないよ」といったのは三島由紀夫と志賀
直哉を代表するそのた多くの人で「あれはわざとだろう」とか言ったのはおそ
らく深沢七郎と村上龍の二名だけで、現代語を代表するひとたちのこれは数の
はなしです。


■■コリャード『懺悔録』(岩波文庫)==================■amazon.co.jp

 1619年に来日し、日本各地で布教に従事したスペイン人宣教師コリャー
ドが、宣教師達の日本語学習のため、ローマ字表記の日本口語(つまり日本語
を「音」で拾ってる)とそのラテン語対訳を付けて出版したもので、日本人キ
リシタンの懺悔を「記録」したもの。コリャード自身の日本滞在期間は3年で
あり、また上方京阪地方での話が少なくない(コリャードが活躍したのは島原
を中心とした九州地方だった)、実は宣教師を物怖じしないよう鍛えるための
創作だ、など、成立についてはうじゃうじゃがあるそうだが(ああ、めんどく
さい)、1600年代の日本人はこんな風にしゃべっていたのだ、と思った方
が面白い。
 『懺悔録』は、いわゆる十戒ごとに編集してある。すなわち
 一、御一体のデウスを敬ひ貴び奉るべし
 二、貴き御名に掛けて空しき誓ひすべからず
 三、ドミンゴ祝ひ日を勤め守るべし
 四、汝の父母に孝行すべし
 五、人を害すべからず
 六、邪淫を犯すべからず
 七、偸盗すべからず
 八、人に讒言を掛くべからず
 九、他の妻を恋すべからず
 十、他の宝をみだりに望むべからず
に対応するよう、各章が組まれている。例えば、「六番の御掟について」(邪
淫を犯すべからず)の日本人キリシタンの懺悔。

| 「某(それがし)、女房を持ちながら、近付き〔関係〕も持ちまらした。そ
|の妾(てかけ)も夫のある者でおじゃる。そうござれば、二様の妨げがあっ
|て、望みのままにそれと科(とが)に落ちまらせいで、ただ調備次第に至しま
|らした。数はえ覚えねども、一月には二・三度もあり、一度もあり、ないこと
|もござる。また、主(ぬし)の夫留守でござる時は、日を続けて細々(さいさ
|い)犯しまらする。とかく仕合せ〔機会〕に会い寄りまらした。さりながら、
|若輩の時からその女(おなご)を見知ったところで、気があまりそれに付きま
|らして遥々〔長いこと〕のことなれば、コンヘンション〔懺悔〕の時分に、パ
|テレ様〔神父様〕よりとかく「それを止(や)めい、くっと閣(さしお)け」
|と仰せられて、味方〔自分〕からも随分力の及び、もう早かつてあるまいと定
|めたれども、弱い者なれば、その後重ね重ねに落ちまらした。これはもう七・
|八年のことでござるによって、御推量めされよ。この中に、契りのよい仕合せ
|がない時は、それに〔欲望に〕随って、なり次第、その五体に手を掛け、口を
|吸い、抱き、恥〔恥部〕を探ること等(とう)は思うままにしまらする。とか
|く余(み)に任せていらるると、心得させられよ。また、夫婦の契り〔性交〕
|の時分にも、あの女〔浮気相手の女〕に念を掛けて泣いたことは度々ござっ
|た。また、惣別〔だいたいは〕生得の道よりでござったれども、二・三度は後
|〔臀〕から*落しまらした。その上、その女事をば思い出(いだ)すごとに勇
|み悦び、その名残惜しさで自(おのずか)らも淫が漏れ、手ずからも漏らしま
|らした。これは前のコンヘンションの以後、七・八十度でござろうまで。

 もう、めちゃくちゃである。


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