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           読 書 猿   Reading Monkey
            第106号 (安らぎ華やぎ号)
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■■内藤朝雄『いじめの社会理論』(柏書房)==============■amazon.co.jp

 Le suicide: e'tude de sociologie という風変わりなタイトルの本がある。
「自殺:社会学のエチュード(研究)」とでも訳すしかないタイトルを持つこ
の書は、一般に『自殺論』と訳され、デュルケムの手になる社会学の一大古典
として知られている。
 「自殺に関する社会学的研究」ではなく、二重の焦点を持つ----「自殺
(論)」であり「社会学のエチュード」でもある----このタイトルの意味は、
すなわち次のようなこの書の性格を反映している。すなわち『自殺論』は、そ
れまでの容認しがたい憶測、一般化に満ちていた自殺研究に批判的検討を加え
た上でそれらを棄却し、個人の病理性の現れと見なされてきた自殺を社会にお
いて捉え返すという新たな自殺研究の書であると同時に、社会学なるものが
いった何であり何を捉え解き明かすことができ、また何をなし得るかの具体的
証明、ないしそれを通じての「社会学」の確立をなそうとする書であった。
 自殺という事象は、19世紀末の社会不安を象徴するものとして、多くの人
の口に上ったが、その原因については、個人の身体的または心理的要因に求め
るか、一種の/若干の精神疾患にもとめるか、模倣や物理的環境に求める見解
----デュルケムはこれらを逐一論駁していく:その過程で「自殺」を社会学的
対象として掴み取るのだが----などに取り囲まれていた。一方で、流行しつつ
あった、しかしまだ内実の備えていない、この新しい社会についての知は、
「絢爛たる一般論」を競い合い「問題をなにひとつはっきり限定して取り扱お
うとしない」。そもそも検証など受け付けない一般命題や「社会思想」、社会
に関する一般的−形而上学的思弁の横行。対してデュルケムは「限定の精神」
を発揮し、経験科学としての「この新しい社会についての知」を確立せんとす
る。そうして彼は、この自殺に関するモノグラムに、問題の提起から理論の構
成を経て実践的提言にいたる、「社会についての知」が備うべきすべてを装備
した。
 あら、いいたいことはほとんど書いてしまった。各自、「自殺」を「いじ
め」に読み替えて、もう一度読んでみて。
 社会批評のあほらしさや偏見・思いこみの垂れ流しや、大上段な社会思想の
シャーゴン(内輪ことば)やディレッタンティズムに辟易し、「結局、リクツ
じゃないんだよ」と社会についての知を大変低く扱うはめに陥った人に、それ
から個人の身体的または心理的要因に求めるか、一種の/若干の精神疾患にも
とめるか、模倣や物理的環境に求める見解(「子供が荒れる間取り」なんて本
まであるのだ)にまみれた「いじめ解説」に不審を持ってる人に、この本を。
最上のいじめ論がついに本になった、と同時に、いじめに絞り込むことで「人
間関係こけると人生棒に振る」生き苦しい日本社会のしくみを解き明かし、実
践的な政策提言へまで至る、真っ当な「社会の知」の登場である。


■■マイケル・リプスキー『行政サービスのディレンマ』(木鐸社)=====■amazon.co.jp

1.市民応対に立つ(サービスを提供する)行政マン−ストリート・レベルの
官僚が主人公。
2.行政サービスは、機械的にはできないので人間=ストリート・レベルの官
僚が必要だ。
3.そのため彼らには、意外と多くの「権限・裁量」が与えられている(そう
せざるを得ない)
4.一方で、彼らは慢性的・構造的な資源の不足に制限されている。
5.なにしろ無料の行政サービスには無限の需要が見込まれ、一方供給サイド
の行政資源は有限である。
6.この矛盾を解決しようとして、ストリート・レベルの官僚は、対象者(市
民)を制限し、定型的にあつかわざるを得ない。
7.それで市民からは、お役所仕事だ、官僚的だ、といわれる。
8.行政サービスは人間サービスなので、労働集約的・お給料の割合が高い。
9.従って、市民からはもっとなんとかしろという圧力が加わる。
10.管理者は、目標設定やなにやらでストリート・レベルの官僚を管理を強
化しようとする。
11.そうすると、くだんの矛盾がますますはげしくなってしまう。
12.場合によっては、ストリート・レベルの官僚はやめるか、やめさせられ
る(人員削減)。
13.するとますますくだんの矛盾は激しくなる。


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