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人格を改造する

Gestalt
ゲシュタルト療法は、問題の焦点化、切り離し、自分の中の矛盾への直面、
再統合のプロセスを通じて、ゲシュタルトを新しく組替える。
このゲシュタルトの解体・再統合は、人格改造に応用可能である。
 


 すべてのものがそうであるように、あらゆる心理療法は悪用される可能性を持っている。ゲシュタルト療法もその例外 ではない。

 ゲシュタルト療法は、精神分析を学んだパールズによってはじめられた。
 ゲシュタルト療法は、現実を「気づいていること+現在」と捉え、「汝と我」「今、ここに」という基盤の上にのみ現れてくる経験の全貌(ゲシュタルト)を 発展させようとする。問題の原因はすでに適応できなくなった古いゲシュタルトにあると考え、問題の焦点化、切り離し、自分の中の矛盾への直面、再統合のプ ロセスを通じて、ゲシュタルトを新しく組え替えていく。
 そのために患者を操作したり、不満を起こさせたりして、クライエントが自己と対決するようにする。足をブラブラさせているといった仕草や、怒っているの に笑っている(内面とその現れの齟齬)を指摘したり、 また言葉に表れてこない行動や表情に注目する。

 グループ療法を大幅に取り入れたことも、ゲシュタルト療法の特徴である。ゲシュタルト療法は、グループの前で特定個人とのやりとりをセラピストが行う。 それを見ているメンバーも類似の問題を持っていることが多いので参考になる。グループワークを悪用する人たちは、もっと積極的に集団の力を利用することも できる。
 より早くグループ療法にとりくんでいたモレノは「どうせ盗むならもっとうまく盗んだらどうだ」とパールズを責めたが、パールズは取り合わなかった。グ ループワークの威力は、多くの要素から成り立っている。まず、(1)治療の場面で多人数による社会的証明が調達できること( 同じ悩みを持つ仲間たち/そして、つぎつぎと変化していく仲間たち)、(2)みんなのまえで自分の感情や悩みを告白=公然化しなければならず、強力なコ ミットメントの効果が得られること、(3) 仲間からの承認を得ることによる行動の強化、などなど。

 ゲシュタルトの完成が妨害されているのは、外界や内界(要求や感情など)に対するコンタクト‐回避がうまく機能せず、 未完結の経験が多くなりすぎているためと、ゲシュタルト療法家は考える。神経症の人は現実を生きないで、過去や未来に逃避している人たちなのだ。 さまざまな〈気づきの技法〉によってクライエントに「いま、ここ」の経験に着目させ、ゲシュタルトが完結することを目指す。クライアントは身体と心が 一体になることが要求され、いまこの瞬間に、たとえば、徹底した怒りの中に身を委ねてみる事が求められる。
 このために開発されたゲシュタルト療法の諸技法は、最小限の経験しかない者にも、クライエントの感情を表出させることが(しかも容易に)できるほどに強 力である。

ゲシュタルト療法の技法

0 問題の表明

 グループ内でひとりずつ「何が問題か」「何を変えたいか」を約束コミットメントするもの。これは同時に、この集団やプロセスへのコミットメントにもな る。
 大勢の前で自分の気持ちを発言する「share(分かち合い)」と呼ばれるもの。
 必ずしもゲシュタルト療法の技法ではなく、ゲシュタルト療法が育ったエサレン研究所を拠点に力を持ったヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントの心理療 法に共通する手法)
 

1 ホットシート

 万座の中で、ある人物に対して、全員が罵冨雑言を浴びせる方法である。
 ひとりの人を、他の人々は取り囲むように座り、ひとりずつ次々に欠点をあげつらっていく。
 当該人物はいやでも、見たくない自分を見ずにはおれなくなる。気付かなかった自分を認識せざるを得ない。強引にゲシュタルトを変えさせる方法である。急 激に変えさせられるので一時的に錯乱状態に陥る人が時々にいる。
 (こうした危険を避けるには、次のようにしてこの技法をマイルドにすることができる。たとえは「○○さんについて好きな点と改善してほしい点を言って下 さい」とテーマを指定する方法。あるいは本人が全員に教えてほしいことを頼むようにする。たとえは「私はもっと男っばくなりたいが、どこをどうしたらよい か、気付いたことをどんどん言って下さい」「とにかく俺の欠点だけを言ってくれ。ほめるのはよしてくれ」など)。
  自分を取り囲んだ人々から、次々に激しい言葉を浴びることで(浴びせかける側の人々も雰囲気に飲まれ(ここにも社会的証明の力が働いている)、普段なら行 わないほどの激しさで相手を罵倒するようになる)、多くの参加者は(人々の前で)泣き出すなど、感情を爆発させる。この感情の発露からカタルシスを得ると 同時に〈自分は変化した〉〈本来の自分を取り戻した〉と感じ、また普段は行わないような人前での感情発露から集団への一体感を感じるようになる。
 

2 未完の行為(の完結)

 ゲシュタルトの完成が妨害されているのは、 未完結の経験が多くなりすぎているためと、ゲシュタルト療法家は考える。
 たとえば幼少期に父を失い、まだ一度も「お父さん」と呼んだことがない人がいる。呼びたいけれど呼んだことがない。それが未完の行為である。そこで身の まわりの誰かに父の役割を依頼し、その男性に向かって「お父さん」と何回も叫ぶ。あるいは誰も座っていない椅子に父親が座っているかのように、「お父さ ん」と何回も叫ぶ。あるいは親に一度も反抗したことの無い人が、新聞紙を丸めた棒で、誰かを(あるいは、何かを)「親」に見立てて何度もなぐりつける。こ れらが未完の行為の完成である。
 未完である限りいつまでも「お父さん」「親への反抗」が「図」であり続け、それ以外は目に入らない。しかし何度も叫んで(殴りつけて)気が晴々したとき (欲求充足) 「図」が「地」になる。ゲシュタルトを作るときの原理は「図と地」である。「図」とは目立つ方、「地」は目立たない方。ルビンの盃が有名。 ゲシュタルトを作るときには,必ず図と地が作られている。図と地が定まらない,図と地が凝り固まっているというのが問題になる。ひとつの欲求が「図(ゲ シュタルト)」となって心の前面に現れ、その欲求が満たされるとそれは背景(地)となって退く。そして、また別の欲求が「図」となって現れる。こうして、 欲求が満たされることで、図と地が次々に変化していくことが、パールズの考える健康な人の在り方である。
 

3 句の繰り返し

 クライエントの発言の中で、感情表現的な句を取り上げ、それを大声で何回も繰り返させる。声を出すことによって感情が鮮明になってくる。今までリアルに は感じなかった感情が切迫感をもってこみあげてくる。その感情にひたることが「覚知」であり、「感情体験」である。疎外していた自分との出会いである。地 が図になるのである。

4 ことばにジェスチャーを合わせる

 「ぼくはうれしいのです」と言うときには意識してうれしい顔をさせる。「私はくやしいのです」というときは、こぶしをにぎってふるわせるなど身体でくや しさを感じさせるのである。ことばは抽象的であるから、ことばで語るとは、自分を他人事のように離れて眺めることになる。これでは自分自身との出会いがな い、とゲシュタルト療法では考える。自分はうれしいのですと自分について語るのではなく、自分自身がうれしさになり切るのでなければ「覚知」したことにな らない。地が図になるとは知的洞察だけのことではない。感情を説明するのでなく、感情を表現するのである。

5 発言内容と正反対のことを言わせる

 逆に「私は憶病です」というクライエントに「私は勇敢です」「私は勇敢です」と何回も言わせる。言うことによって、今まで焦点を向けなかった自分の陰の 部分(「地」)がクローズアップしてくる。人間は誰でも反対の傾向をもっており、それをも含めてトータルな人間なのであるとの考えである。平和を求める人 間にも攻撃性があり、攻撃的な人間にも弱気な点があり、理屈っばい人間にも情にほだされるところがある。100%の憶病、100%理屈っぽいということは ない。仮に100%理屈っぽいとしてもそれは多分、情にほだされやすい傾向への安全弁として、逆の極端に走っているのである。反動形成である。

6 できないことをさせる

 人前では話せないと思っている人がいる。「今からあなたは人前でも平気でしゃべる人間になって人前で話す場面を演じて下さい」とロ−ルプレイさせる。芝 居であるからできるはずだと、強要する。あるいはグループワークでは、集団の圧力ができない人の背を押す。最低5人の人をこの会場につれて来い、など無理 な課題が出されて追いつめられることもある。
 お人好しでいつも人に利用されてあとで後悔する人間がいる。「君は今から煮ても焼いても食えない人間になって下さい。ぼくがノートを貸してくれと言うか ら、口から出まかせの理屈を言って拒否するんですよ、せめて五回は拒否すること」。これは自己主張訓練などでも用られる方法である。自分もその気になれば 拒否できる人間であることに気付かせる。

7 ドリームワーク

 夢を扱う際にも、ゲシュタルト療法では、夢の解釈はしない(したがって夢分析ではない)。
 クライエントに、夢の中の登場人物や事物になりきってその人物・事物の気持を語らせる。一種の心理劇である。人物・事物は自分の分身であるから、やがて 自分の気持(それまでは気付かなかった「地」)がこみあげてくる。
 たとえば山の夢を見たとする。自分が山になって山の気持を語るのである。「ぼくは山だ。毎日人がはくを踏んずけて登っていく。ぼくは人に踏みつけられる のがいやだ。ばくは人に屈服したくない」こう語っているうちに、ノーというべきときにノーと言えるほどの強さが湧きあがってくる自分を感じるのである。
 これは自分ひとりでできる方法である。しかも精神分析のようなさまざまの概念を知らなくてもできる。

8 臓器との対話

 「〜になりきる」という技法は、ゲシュタルト療法には多くある。
 問題が身体化された場合、その臓器を擬人化して、問題の原因を尋ねる。当然、その臓器になりきって、感情的に気持を語らせる。
 心身の間のアンビバレントを指摘し、直面させることで、問題を作り出している対立を解消させる。
 NLPのリフレーミングは、この技法をルーツのひとつとしている。

9 エンプティ・チェア(空椅子)

 問題が過去の体験に結びついたときは、事件の相手方がそこにいるように、話し掛け、対決する。
 アンビバレントを指摘し、直面させることで、問題を作り出している対立を解消させる。
 たとえば「ねばならぬ」(should)と「したい」(want〕の菖藤があると動きがとれない場合、同一人物が二つの椅子を交互に移動しながら、「ね はならぬ自分」と「したい自分」の対話をする(トップドック(勝ち犬)とアンダードック(負け犬)の対話)。対話し ながら協調点を見出していく。協調点とはそれまで「地」であった解決策である。NLPのリフレーミングは、この技法をルーツのひとつとしている。

10 サイコドラマ

 問題を擬人化し対峙したのち、その問題=擬人化されたものが、自分の一部に他ならないことに気付く(分離から再統合へ)。

11“I(私)”ランゲージ

 クライエントはしばしば、自分の感情(つらさ)や状況(苦境)を、「客観的」に、つまり「ひとごと」のように話す。
 こうした三人称(それが〜)の言い回しは、一人称(私が〜)で言い直すように求められる。
「〜できない」→「私が〜しないだけ」と言い換え
名詞化から脱名詞化(具体的に説明する)

12 悪感情の現在化

(1)問題と結びついている感情に焦点を合わせる
(2)問題の(感情を通じての)身体化
(3)問題の(感情を通じての)過去の再体験
(4)カタルシス

13 脚本の書き換え

 問題の過去について「もう一度、その場にいたら、今ならどう行動するか?」を尋ねる。
 自分で書き換え案を作ってもらう。
 書き換え案とおり、その通りに演じさせ、新しい追体験を行う。




ゲシュタルト療法の概要

    ・F.パールズによるゲシュタルト療法は精神分析療法とゲシュタルト心理学(理論)を融合して生まれた。パールズが著した1951年の「ゲシュタルト療 法」発刊を持って、ゲシュタルト療法がスタートした。
    ・実存的心理療法と呼ばれる「第三勢力」の心理療法一つ。第三勢力としては、ゲシュタルト療法以外に、ロゴセラピー、論理療法、交流分析などがある。
    ・1963年、エスリン研究所(エンカウンターグループのメッカ)において、ゲシュタルト療法ワークショップを開始。
 問題の原因はすでに適応できなくなった古いゲシュタルトにあると考え、問題の焦点化、切り離し、自分の中の矛盾への直面、再統合のプロセスを通じて、ゲ シュタルトを新しく組替える。
 このゲシュタルトの一時解体、矛盾への直面、再統合が、人格改造に用いられる。またグループワークによる感情発露も、集団による洗脳に利用される。


















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