PFIって、ほんとはどうなの?

政府の「PFI基本方針」では、PFI事業の「着実な実施」は、次のような成果をもたらすものと期待されている。
 

(1) 低廉かつ良質な公共サービスを住民に提供できる
 官民間のリスク管理が適切に分担され、施設の設計・建設・管理・運営が一体的になされることにより、事業コストの削減につながるとともに、民間事業者のノウハウが活かされ、良質な公共サービスが提供される。


(2) 民間の事業機会を創出することを通じて経済が活性化される

 PFI事業により民間事業者は「公共サービス」市場への参入という新たな事業機会を得ることができる。また、プロジェクト・ファイナンス等の新たな金融手法を取り入れることにより、金融環境が整備され新しい市場が創設されるなど、新分野での産業が生まれ、経済構造改革が推進される。


(3) 公共サービスの提供における公共の関わり方が改革される

 これまで公共部門が行っていた事業を、PFI事業により民間事業者にゆだねることで、公共部門は、サービスを提供する立場からサービスの提供者に対し住民ニーズを代弁する役割へと変わる。
 以下では、この3項目について、それぞれPFIのメリットの真偽を検討してみよう。
 

 1.低廉かつ良質な公共サービスを住民に提供できるのか?

■俗に言われるPFIによるコスト縮減要因

 そもそも、PFIではなぜ「低廉な公共サービス」が可能であると言われるのであろうか。よく取り上げられるPFIの特徴としては、つぎの二つがある。

(1)ライフサイクルコストの考慮

 ライフサイクルコストとは、施設の企画・設計から建設、維持管理、修繕、解体・撤去までにかかる総コストのことをいう。PFIではVFMの算出にあたり、このライフサイクルコストを考慮する。
 従来型公共事業では、「民間委託のぶつ切り」によって行われてきた。この背景には、次のような考え方がある。つまり設計、建設、運営に関する業務を別々に入札し、それぞれにおいて最も価格の安い業者を選ぶことで、ライフサイクル全般にわたるコストも最小化できるという考え方である。この発想はまた、運営費だけに限っても、長期間にわたって一括入札するよりも、単年度ごとに区切って競争入札を行い選抜する方がコストを抑えることができるという発想にもつながる。
 しかし全体は、必ずしも部分の総和ではない。ある事業が他の事業に関わる場合、単純な積み上げ換算は一般的には成り立たない。とくに施設運営を伴う事業の場合、運営方法(それにともなってコスト)は、施設のあり方(それにともなう設計・建設コスト)に大きく左右される。
 PFIでは一般に、設計・建設から管理・運営までを同一民間事業者にゆだねることにより、民間事業者の創意工夫で最も安いライフサイクルコストの組み合わせを選ばせることで、ライフサイクルコストを縮減することができるとされる。
 

注記(a) もっとも、公共事業は、単にコスト削減を目指してデザインされてきたのでなく、より多くの業者に仕事の機会を与えるという「再分配機能」を果たしてきた。地域業者の育成を名目に、地域の政治的統合に貢献してきた。事業効率の面からは「無駄づかい」でも、いわゆる「再分配政治」の手段としては有効だったといえる。

注記(b) もうひとつ、ライフサイクルコストに対する自治体の認識が「弱かった」理由は、国からの補助金・交付税など複雑な財政支援構造である。これはそもそも自治体の公共サービスの確実な実施をサポートするためのものであるが、一般に施設建設に厚く支援がなされ、施設の運営維持についての支援は限られている。一般に施設の規模が大きくなると、建設コストが高くなるとともに、施設運営コストも上昇する。補助金が得られるからと大きな施設を建設すると、補助金が得られぬ施設運営維持コストが自治体財政を圧迫することにつながりかねない。一般に、施設が提供するサービスよりも、施設の大きさ(事によると費やされた建設予算の大きさ=どれだけ金を引っ張ってきたか)が「成果」と見なされる地方政治の状況では、こうしたことが生じやすい。


(2)性能発注方式の採用

 従来型公共事業の契約とは、例えば建設工事であれば、定められた仕様に基づいて施設を建設する「請負契約」であり、業務委託であれば仕様書に定められたことを確実に履行することを求める内容であった。これは、どの業者が受注しても同じものができることを重視した発注方法であり、民間事業者のもっているノウハウを発揮させるということについては消極的な方法であった。
 PFI事業で地方自治体が民間事業者に求めるのは、施設や事業の「仕様」ではなく、施設・事業が満たすべき「性能」である。そして、その「性能」を発揮するための「仕様」の決定は民間事業者にゆだねることになる。性能発注方式では、民間事業者は自ら持っている能力を最大限活かすことが可能となり、事業の効率性が上昇し、事業コストの縮減を図ることができる。
 

注記(a) 性能発注は、PFIに限ったものではなく、公設公営の事業でもあり得る(設計と建設を一括してまかせるデザイン・ビルド方式)。運営維持に関する専門性が行政と民間側で差がある事業では、デザインビルドとPFIでは差が生じる(運営維持コストの削減が、PFIの独自の部分である。)

注記(b) 運営維持がすでに商品化が確立している場合(普通のビル管理など)は、長期間を一括委託するよりも、中期的に区切って競争的に業務を調達した方が安い可能性がある。この場合(庁舎建設・管理など)は、PFIよりもデザインビルド+中期の維持管理委託の方が安上がりかもしれない。逆に、あまり管理ノウハウの確立していない/改善の可能性が大きい新しい施設管理は、経験を積むことで長期のうちに効率化が図られる場合があるので、PFIでコストダウンが図れる。


■実例に見るPFIによるコスト縮減要因

 すでにいくつかの公共事業がPFIで取り組まれている。従来の公共事業と比べて本当に「低廉」なのだろうか? 安上がりだとしたら、その理由は何なのだろうか?

(1) 人件費部分の節約
  • 管理運営コスト削減の主要因。公務員給与は(平均年齢が高いこともあって)、同種の民間給与より高くなる傾向にある。また職種によっては、パートタイム労働の活用による削減も大きい。またフレキシブルな人員配置による効率化も民間の方が優れている。
  • 上記のような人件費部分の削減は、アウトソーシング等でも行うことができ、必ずしもPFIだけのものではない。
  • (2) 公共仕様と民間仕様のコスト差
    (3) 公共事業一般の価格低下
    (4) 規模のメリット
    (5) 新規マーケットへの先行参入


    ■PFIによるコスト増加要因

     実はPFIはコスト削減ばかりにつながるわけではなく、様々な新たなコスト増要因も抱えている。
     

    (1) アドバイザー費用


    (2) 資金調達コスト


    (3) 中止されていた事業がPFIで復活


    (4) PFI事業者の利益


    (5) 入札コスト


    (6) PFI事業者のリスクプレミアム

    ■PFIによるコスト縮減とは(まとめ)
     
     
     

    2.民間の事業機会を創出することを通じて経済が活性化されるか?

    (1)PFIで潤うのは大企業だけ?

       PFIでは、入札コストなどの新たな固定費用がかさみ、また需要リスクをはじめ、これまでは行政が負っていた事業リスクの多くが、民間企業に移転されることになる。一般に、大きなリスクを受け入れられる事業者は、大きい利益を期待する。
       こうしたハイリスク・ハイリターンの事業構造を受け入れられるのは、需要予測などに自信を持ち、PFIの経験を積んだ大企業に限定されるだろう。
       中小企業でこのような大きなリスクを負って事業ができるような者は少ないので、ハイリスク・ハイリターン型のPFI事業に幅広い層の企業による応札は期待できない。
       経験を積むことのできる大企業だけがPFIに参加し続け、逆に経験を得られない中小企業はPFI市場から実質的に排除されるかもしれない。
    (2)長期契約となるPFIは、長期に見れば事業機会を減らす?
     公共サービスをまとめて民間企業に丸投げする手法は一部業者に対して既得権を与え、継続的なコストの削減やサービスの質の向上を難しくし、結果として原価積み上げ方式による地域独占型の事業体を造ることになる


    (3)経済政策からのPFIは、「箱もの」を増やすだけ?

     我が国のPFIでは、財政破綻や財政改革により削減された公共事業費を、民間資本の導入で「埋め合わせ」ようという経済対策の観点から検討が進められてきた。そのため、PFIの対象が、公共施設などの「箱モノ」(ハード)指向となり、資産取得の目的が強いものとなっている。
     PFIは、設計から運営まで民間のノウハウと技術革新を導入することで、VFMの向上を目指すものであることから、ソフト面のノウハウも取り込まなければ、その効果は十分に見込めない。  PFIの本家イギリスでは、広範なアウトソーイングによって民間企業に公共施設の運営維持がゆだねられ、そのノウハウが民間側に十分移転・蓄積した後に(10年の期間をあけて)PFIは導入された。いわば十分なソフト面での実績の上に、ハードも含むPFIが導入されたのである。
     しかし、前述したように、ただの「箱もの」では、PFIの良いところが生かせない。
     
    (1) 施設の稼働に特別なノウハウが必要な場合、設計・建設者と運営者が一体となる、一括発注は有効。 → 稼働・運営に特別なノウハウが必要でない場合は、一括発注しなくてもよい。たとえばデザインビルド+中期型の競争入札
    (2) 施設の機能を明確にすることができる場合は、性能発注が可能である。 → 求められる性能が安全性や快適性など、客観的指標であらわすのが困難な場合、性能発注は難しい。 
    (3) 施設の耐久年数が20年ほどの場合であれば、PFIの事業期間と施設の耐用年数が一致する。 → 普通の建造物は50年以上の耐久年数がある。PFIの事業期間は、施設の社会的寿命、需要予測、融資期間からして、建物の耐用年数(50年以上)に見合った設定は不可能。
    施設の耐久年数がPFIの事業機関を上回る場合は、PFI事業終了後の施設の質を確保するのに特別な工夫が必要となる。しかし供用しつつの質のチェックは難しい。またチェックできたとしても改善が困難な場合が多い。
    → 対策としては、スケルトンを公設、フィルインの設置+運用をPFIとする手もある。 


    (4)公共アウトソーシングは、成長部門

     これまで一般的には公共部門のみが行ってきた公共事業の分野に民間事業者が参入できるようになり、新たな事業機会が創出される。また、PFIが公共部門の支出削減に寄与すれば、新たな行政需要にも応えることが可能になるため、別分野の新しい公共サービスを提供する事業機会が更に増えることも考えられる。
     しかし本来は、前述したように、アウトソーシングの経験を経てPFIが導入された方が、公共機関・民間機関ともに望ましい。
       
    3.公共サービスの提供における公共の関わり方が改革されるか?

      PFIは、よく言われることだが、諸刃の剣である。新たにかかるコストも多い。少なくないメリットのいくつかは、他の手法でも実現可能である。それでもPFIを導入する意義はあるのだろうか?最後に「実利」だけではない、PFI導入の意義についてまとめてみる。

    (1)実施主体と監視主体の明確な区別

     サービスの質を管理するためには、実施主体と管理主体を分離独立させることが重要である。誰しも、自らの行いを、自らきびしくチェックし改善することは難しい。現行の公共サービスは、マクロには議会等によってチェックされるとしても、個別事業については実施も監視も行政機関自体によって行われており、従来そのチェック機能の有効性は繰り返し疑問の声があがっていた。PFIでは、実施主体=民間業者と監視主体=行政との役割分担が明確になる。これだけで有効な監視機能が実現される訳ではないが、少なくともその必要条件を満たすことではある。


    (2)事業評価の確立への圧力


    (3)公共サービスに競争原理

     公共サービスの提供主体として、新たに民間事業者が加わることにより、これまで公共部門のみが独占的に供給していたサービスにも、競争による効率化や質の向上などが期待できるようになる。オルタナティブの登場に、従来型の公共サービスの実質的な改善圧力がかかることになる。
     
     
     ただし、PFI導入によって、本当に市場原理が導入されるか、それによって公共事業の外部効率性(いらないことはしない、必要なことはする)及び内部効率性(できるだけ少ないコスト・資源でやる)が改善されるかについては、疑問が残る。

    PFIには常に、住民のニーズを常に掴むインセンティブが制度的にビルトインされているとはいえない。
    PFIは料金制度にインセンティブが持ち込むと言われる。事業者は、料金収入によって、事業費を回収し利益を上げようとするならば、市場ニーズ(住民のニーズ)にあわせるための企業努力がなされる、すなわち外部効率性が追求されるだろう。
    しかし、事業設定(どんな事業を行うか)は行政が行うため、この点ではかならずしも、外部効率性が追求されるとはかぎらない(どの企業も儲からないと判断した事業が不調に終わるならば、まだしも)。
    また行政からの定額支払いによるサービス購入の形態もあり得るため、(この場合の顧客は、市民ではなく行政である)PFIだからといって企業努力がなされるとはいえない。

     競争状態であれば、各参加主体は内部効率性を最大化する努力を行うインセンティブが存在する可能性がある。つまりほかの主体に対して、内部効率性がより低い主体は、価格競争の下では、利益がより低くなり、退出させられる可能性が高いからだ。しかし、これはもちろん、産業保護などの利益移転がなく、談合や価格協定などがない(競争市場が有効に機能している)ことが前提条件になる。
     PFIが対象とする公共事業分野は、かならずしもこの条件が満たされているとは言えない。たとえば日本の建築業は、他の産業に対しても、また他国の同部門に対しても、相対的に生産性(内部効率性)が低いと言われる。ほかならぬ公共事業(税金の投下)によって、市場はいく重にも分割され(ある公共事業に参加する企業は規模や地域といった事情によって制限されてきた)、かつ需要をカサ増しされてきた、この業界が真に競争的であったとは言えないだろう。
     このような地域ごと・規模ごとに、分割・階層化(いわばカースト化)された市場・産業構造によって、地域の小規模な企業から大手ゼネコンまで多種多様な数多くの企業が存続してきた。こうした構造が、一面では、戦後の長期安定な政治体制をミクロレベルから国政レベルまでの再生産に寄与し、また一面では全体の4割にも及ぶ雇用需要を提供してきたのである。完全競争状態から見れば非効率的であるこの構造は、実現したはずの社会的余剰を、こうした政治・雇用構造の再生産に費やしてきたと見なすこともできる。


     
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