ボルツマン × ツェルメロ

エントロピー増大則


 ボルツマンは、エントロピー増大の法則に対して確率論的・統計力学的解釈を与え、ボルツマンのH定理を生み出した。この定理は、熱力学の第2法則にみられる非可逆的プロセスを原子論(アトミスティーク)と可逆的な運動法則から説明することを可能にする。
 気体、液体、固体などのマクロな物質は非常に多数の原子や分子からできていて、ミクロに見ればその中の分子が乱雑に運動し、状態は絶えず移り変わっている。このように一つのマクロの状態には一般に多数のミクロの状態が対応しているが、その乱雑さを示す尺度がエントロピーである。机の上に置いた多数のサイコロを分子にたとえるとその目が全部(たとえば1に)そろっている状態ではエントロピーは0である。それに対し各サイコロに勝手な目がでている状態ではエントロピーは大きな値をもつ。目が全部そろっているサイコロをかきまぜると目はバラバラになるが、その逆は現実には起こらない。すなわちエントロピーが減少する現象は起き得ない。これが熱力学第二法則の確率論的解釈である。
 だがその確率はゼロではない。ツェルメロは、系の運動についてある種の条件が満たされた場合、その系は任意の初期条件に有限時間内に再帰するというポアンカレの定理に基づいて、ボルツマンが思考実験したような宇宙は、実質的にサイクリック(周期的)であり、エントロピーが一方的に増大することはあり得ず、任意のエントロピーの状態に、有限時間内に再帰する(もとに戻る)ことを証明した〔再帰性のパラドックス〕。
 その周期:ポアンカレ・サイクルは、宇宙の実年齢のおよそ10の23乗倍である。
ただしポアンカレ・サイクルは「平均」周期であって、宇宙のある状態が再起してくるのは、それより遅れるかもしれないし、それより早まるかもしれない。ある状態よりも遅れて生起した状態が、今度はより早く再起することだってあり得る。
 つまり宇宙のあらゆる瞬間は、それぞれが恐ろしくかすかな「確率」に薄められながらも、やはりいずれかの瞬間に再起するように、ほとんど久遠の時間の中にばらまかれている。


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