クラチュロス × プラトン

川の流れ


 アリストテレスの伝えるところによれば、プラトンはピタゴラス派の影響を受けて独自の思想を抱く前にはヘラクレイトス主義者に接近していた。
 ヘラクレイトスはプレ・ソクラティカーの中でもパルメニデスと並ぶ大立て物であり、パルメニデスが不動の存在を主張したのに対して、存在そのものが生成だと説いて、「戦いは万物の親である」とか、「パンタ・レイ(全ては流転する)」の言葉を残した人である。その万物流転説を説明するために、「同じ川の流れの中には二度と足を踏み入れることはできない」と述べたと伝えられている。
 プラトン独自の思想とは、勿論イデア論であり、それによってプラトンは変転流転するああ無常の世界にあって、不変なものを見出したのだった。だから、プラトンが不変なものに至る以前には、それとは全く正反対の思想に近付いていたということになる。
しかも、その際の先生は、ヘラクレイトス派の中でも極端な相対主義者、クラチュロスだった。アリストテレスは次のように言っている。
「この人に至っては、ついになにごとも語るべきではないと考えられ、わずかに指の先を動かせるだけだった。そして彼は、ヘラクレイトスが「二度と同じ川に足を踏み入れることはできない」と言ったのを遺憾とした。というのは、彼自身は、一度もできないと思ったからである。」(Metaph.1010a10)


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