ゼノン × カント

パラドクスについて


 カントの二律背反(アンチノミー)は、ゼノンの逆理(パラドクス)以上のものではない。エレア学派の弁証法の一般的帰結は、「真理的なものはただ一者のみであって、その他すべてのものは真実なものではない(みんな仮象だ)」というものである。これはカント哲学が「我々は現象しか認識しない(物自体は認識できない)」というのと、原理的には同じである。
 もちろん違いはある。ゼノン(エレア学派)にすれば、世界はそれ自体現象的であって、真実でない。悪いのは世界の方である。一方カントの二律背反(アンチノミー)が示すのは、経験から乖離した理性はかくも悪さをするということであり、つまるところ悪いのは我々の思考・精神の働きの方である。


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