クーン × パトナム

共約不能テーゼ


 クーンによれば、パラダイム・チェンジが生じると、新しい体制下で旧来の科学用語が使われているとしても、その意味は変わってしまう。つまり新しいパラダイムの支持者と、古いパラダイムの支持者とでは、同じ言葉を使っているようでも、その意味が異なっており、したがって世界の見方そのものも異なっている。彼らは互いに「共約不可能」な観点から語っており、互いに相入れない言語共同体の住人なのである。
 パトナムによれば、「指示」は理論内部の概念でなく、超理論的な概念である。というのは、たとえば「水」がどんなパラダイム(あるいは可能世界)においても、また「水」にいかなる記述が付与されようともH2Oを指示するのであって、「水」が何を指示するかが理論(たとえば化学の理論)の交替とともに変化するのではない。つ6オそうでないなら、つまり「水」が理論の「進歩」(あるいは交替)とともにその指示対象を変えるのだとすると、水についての我々の理論、我々の知識が「進歩」したということが、さらにはパラダイムの異同がそもそも言えなくなる。ところが、クーン(やファイヤアーベント)が提唱した共約不能テーゼは、この指示の同一性という条件を全然満たさないとパトナムは批判するのである。


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