ライプニッツ × スピノザ

ブリダンのロバ


 ブリダンのロバという比喩がある。これは、あるロバがいて、そのロバから等距離に二つの食料が置かれたとすると、ロバはどうなる(どうする)かという問題である。等距離にある(条件が同じである、均衡状態にある)のだから、ロバはどちらを選ぶことも出来なくて、飢えて死んでしまうのではないか、というわけである。これはブリダンという中世の学者の考えたものだとされているが、ショーペンハウアーが調べたところでは、ブリダンの著作には見あたらないという。我々がこの比喩について具体的に知ることができる例はスピノザの『エチカ』にある。そこでは、二つの餌ではなく、飲み水と食料となっている。
 この問題は、人間の自由意志問題の比喩として語られる。もし、自由意志が存在するなら、ロバ(人間)は、外的条件が同じであっても、内的=自発的にどちらかの餌を選ぶだろうし、自由意志がなければ、どちらも選べないままに飢えてしまうだろうというのである。
 スピノザは後者だと考える。スピノザの考えでは、我々は外的な諸条件によって決定されているのだ、と言いたいわけである。これに対してライプニッツは、どちらの解答を選ぶのでもなく、そもそもこの問題そのものがおかしいと指摘している。つまり、世界には、そのような絶対的な均衡状態などないのだ、というわけである。実際、スピノザの場合でも、水と食料になっているのは不思議である。これなら二つの同じ食料が等距離にあるのだとする方が、均衡状態を描くには適している。しかし、これは比喩であって、スピノザもそうした均衡状態が起こり得ると述べているのではない。


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