バークリー × ポパー

事実と言明


 「我々の認識は我々の表象より先へは達しない。真理とは観念相互の一致であって、観念と事物の一致ではない」
 これはそもそもロックのテーゼだったが、ロックはあと一歩のところで「回れ右」した。最後の一歩を踏み出したのはバークリーである。彼は観念が向かうべき「事物」が、実のところ「表象の束」にすぎず、つまるところ観念に他ならないと断じた。
 ポパーは、理論と突き合わされるべき「経験」が、実のところ理論にすぎないことを見て取っていた。経験(事実)が何らかの理論(言明)を証明したり反証したりすることは論理的に不可能である。理論(言明)に関わるものは、経験(事実)でなく、理論(言明)だけである。科学的理論に経験的基礎を与えるのは、「実験」そのものではなく、「実験の報告」である。
 あるいはこうも云えよう。ポパーの境界設定基準によれば、科学と非科学の境界は反証可能であるかどうかである。理論(言明)のうちで、「実験の報告」は経験と接しており、故に反証に経験的基礎を与えるのは「実験の報告」である。ところが科学的理論(言明)の一部である以上、「実験の報告」自身が反証可能でなければならないのである。
 経験(事実)が、理論(言明)を反駁するためには、我々は経験(事実)を受け入れなくてはならない。我々は理論(言明)を反駁するような経験(事実)を、今見た通り「そんな実験の報告は間違ってる」と拒否することができるからだ。どのような経験(事実)を受け入れるかということは、すでに我々の理論(言明)の一部である。


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