認知行動療法・認知療法の道具箱（ナット＆ボルト）

行動療法、認知療法、認知行動療法の歴史と発展（年表）

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認知療法／認知行動療法　豆知識 （bits of knowledge）

• 論理療法（ＲＴ→ＲＥＴ→ＲＥＢＴ）
• 最古の認知療法／認知行動療法。わかりやすいＡＢＣ図式 （Activating event：出来事→Brief：信念→Consequences：結果（感情・行動））やABCDE図式（Dispute：論駁、Effective Philosophy：効果的な人生観）、どん欲に他療法の技法を取り込み療法の名前まで変えてしまうバイタリティ、創始者エリスのキャラクターと相まっ て、認知療法／認知行動療法だけでなく心理療法に与えた影響は大きい。「善悪を評 価せずに受け止め受け入れる」というマインドフルネスを認知行動療法の第 ３世代は禅の瞑想法から学んだが、どんな悲惨にも「最悪はない、ただ不便なだけだ」と言ってしまうエリスはすでにそこに達していたんじゃないか、と弁証法 的行動療法のリネハンは唸る。エリスは論理療法の遠い起源を、ストア派のエピクテトス「意思が自分自身を妨げたり、害したりするのでなければ、意思外のも のは、なにも意思を妨げたり、害したりすることはできない」に遠い起源をもとめるが、むしろエリスと同じく病いから耐えざる痛みを抱えながら「それでも人 生は生きるに値する」とする快楽主義者エピクロスかもしれない。
• 系統的脱感作法（Systematic Desensitization）
• 行動療法に内実をあたえた（実戦配備され大成功をおさめた）第一号機。不安に競合する（同時には起こせない）反応を使って、段階的に不安 刺激を高めながら不安を制止（抑制）することを繰り返し、段階的に不安をなくしていく方法。開発 者のウォルピは、ハルの学習理論、シェリントンの神経学的水準による逆制止、ジョーンズの人工恐怖症研究、ジェコブソンの漸進的リラクゼーションを巧みに 組み合わせて、系統的脱感作法をあみ出した。しかし行動療法の世界は世知辛く、次々におよそ２０ものアレンジが生まれ、また「実際に効果があるのはどの部 分だ？」とバラバラに分解され再構成されて、そこから多くの行動療法の技法が開発されていく。なおウォルピは筋弛緩反応を用いたが、不安を制止する反応に は、 他にも（１）主張反応、（２）性反応、（３）摂食反応、（４）運動反応、（５）呼吸反応、（６）解除反応（除反応）、（７）受動的注意集中などがある。 （１）は自己主張訓練、（６）は精神分析からトラウマ・セラピーまで、（７）は自律訓練法などに応用されているが、不安から（２）性反応や（３）摂食反応 へ走ると、なかなかに治しにくい治療対象（disorder）になってしまう。
• モデリング（modeling、Therapeutic Modeling）
• モデリングは「人の振り見て我が振り直す」こと。モデリングは、ほとんどの人が常日頃やっている。これなしには文化も社会も 成り立たない。バンデューラはこれを治療に用いました。きちんと行動している子の映像を見せると、それだけで見ていた子の行動が変わった。実 験的にもすぐに支持されたこのモデリングは、しかし単純なオペラント条件付け（それまでの行動療法の理論的核です）では説明しにくいので、行動療法に「認 知」の発想を持ち込むきっかけとなった。その他にもバンデューラの自己効力期待の理論や相互決定主義（それまでの行動療法は環境が行動を決める一方向 的な環境決定主義に傾きがちでだったので）は、行動療法を「認知」の世界へ開くことになった。
• カバラント・コントロール（Coverant Control）
• 望ましい行動を相手がしたときに相手が好きなものをあげると、その「望ましい行動」は増加する。 スキナー箱に入れられてバーとつつくと水が飲める鳩から、人間様まで（いやもっと単細胞な生物まで）通用する方法である（オペラント条件付けという）。カ バラント／カバートは表に現れないという形容詞、よってカバラント・オペラントとは、思考やイメージのような内的認知的出来事である。それまでの行動療法 の主役だったオペラント条件付けは、外の表れる（オバートという）行動を変えることにはとても効果があったが、これをカバラント／カバートな行動（思考やイメージ）を変えることにも応用したのが、カバラント・コントロールである。モデリング がその説明に「認知」を必要としたのに対して、カバラント・コントロールは行動療法を認知的出来事に直接適用した点で、行動療法を「認知」 の世界へ開くことになった。
• カバート条件づけ（Covert Conditioning）
• カバート（covert）は、「覆われた、密かな、暗に示した、隠された」という意味。オバート（overt：表面に現れた）な行動の反 対で「外に現れない行動」のことで、ここではほとんど「イメージを描く」という意味で用いられている。つまり「カバート条件づけ」は、イメージを用いた条 件付けのこと。ここで目標は実際の行動を変えることだが（これがカバラント・コントロールとは正反対）、イメージだけを使ってそれが可能となるには、〈あ る行動〉と〈ある行動をイメージすること〉の間に、連続性か関連性があることが前提となる。条件付けには多くのバリエーションがあるから、カバート条件付 けも具体的には「カバート強化」「カバート負の強化」（この二つは標的となる行動を増やすのに用いる）「カバート感作」「カバート消去」「カバート・レス ポンスコスト」「セルフコントロール・トライアド」（この四つは標的行動を減らすのに用いる）「カバート・モデリング」（標的行動を増やすのにも減らすの にも用いる；イメージの中でモデルの行動を観察する）などの技法の総称である。ごく簡単に述べると「カバート強化」は標的行動（例：怖がらず飛行機に乗り こんでる）をイメージし、そのすぐ後に報酬となる〈快適な場面〉をイメージする。「カバート負の強化」は嫌悪刺激（例：上司に叱責される）をイメージし、 そのすぐ後に嫌悪イメージを止めて望ましい行動（圧倒されずに自己主張する自分）のイメージに切り替える。「カバート感作」は標的行動を実行した後まで （例：ヘロインを注射して、ボロボロになった自分）をイメージする。「カバート消去」は標的行動（例：ほらを吹く→）をイメージし、その後その行動を維持 させている強化子（好子）が存在しないところ（例：→でも、誰も注目しない）をイメージする。「カバート・レスポンスコスト」は標的行動をイメージし、そ のすぐ後自分の好きなものを奪われるところをイメージする。「セルフコントロール・トライアド」は、標的行動が起きた時、クライエント自身が「ストップ」 と叫び、ついて深呼吸して快適な場面をイメージする（問題行動を止めたことにイメージで報酬を出す）。
• 暴露ー反応妨害法（Exposure & Respose Prevention）
• 暴露（エクスポージャ）法は、不適応的な行動や情動反応を引き起こす刺激に人をさらす方法であり、ほとんどあらゆる不快な反応、不都合な 行動や感情の治療に適用できる。たとえばクモ恐怖という問題に対して、クモを刺激として人に直面させる（想像させる、実際に見せる、触らせる等）のがそう である。かつては、こうしたエクスポージャはクライエントに強い不快感を呼び起こすので、不快な感情を鎮めるどころか、かえってひどくしてしまうのではな いか、と考えられていた。クライエントがまだ不快感を感じている最中に、エクスポージャが中止されるなら、そうしたこともあり得るだろう。しかし、エクス ポージャ中、不快感は次第に弱まっていく。不快感がおさまるまでエクスポージャを続けた場合、症状のぶり返しなどは起こらないことが分かっている。刺激を 回避せず、不快な刺激（エクスポージャ）の中にとどまることで、その刺激（たとえばクモ）が不快感を引き起こすことが克服されるのであるが、完全に「回 避」をしないことは、かなり難しい。たとえばクライエントはアタマの中で別のことを考えて注意をそらしたりするかもしれない（それは外からの観察ではわか らない）。こうした「回避」をもさせないように工夫が反応妨害法であるが（普通、強迫性障害の回避儀礼を妨害することをいう）、この組み合わせ、暴露ー反 応妨害法は、数多い認知行動療法の技法の中でも最強であると言われる（どれほど重篤で何年も続いている強迫性障害も、 暴露ー反応妨害法をすべての強迫行動について行なえば２週間ほどで治ってしまうほどである）。ただし「最強」だけあって、認知行動療法の 技法のなかでは珍しく顕著な“副作用”が存在する。それはクライエントが「そんなことをしたら大変なことになってしまう！」という恐怖のために、治療をう けることをしばしば嫌がることである。古い技法であり、確かな効果を臨床家が実感していたのに、効果研究が行なわれたのが遅かったのは、効果研究に足るだ けの「受けてもいいよというクライエント」を集めるのが難しかったからだ、というフォークロアさえあるほどである。非常に効果がある方法なので、セラピス トがクライエントをどう動機付けできるか（病気の苦しみやコストと治療の恐怖を比較考量してもらう、やり方をいくつかからクライエント自身に選んでもら う、等等）が腕の見せどころである。
• 自己監視法（Self-monitoring）
• セルフ・モニタリングと呼んだ方がしっくりくる。セルフ・モニタリングは（１）顕現的な反応（たとえば喫煙、罵り、鼻を鳴らす、など表に 表れる行動なら何でもいい）や非顕現的な反応（思考、空腹感、幻聴など、外から見て分からないもの）が起こった時、自分でそれを弁別すること、（２）その 反応を系統的に記録すること（記録紙が使われるので、それに従いもれなく記録していけばいい）、 （３）そうして自己観察の結果集められたデータを自分で吟味したり評価したりすること、の３つのステップから構成される。セルフ・モニタリングは個人につ いてのほとんどあらゆる行動（表に現れるもの／現れないものの両方）についての情報を与えてくれ、多くの行動変容技法の中で要の部分を構成する。しかも使 用が容易（子供から大人、老人まで、外来患者、入院患者、夫婦までおよそ誰でも、適切な指示があれば実行可能である）でなおかつ経済的。セルフ・モニタリ ングは行動療法の時代から（１）標的行動の先行刺激や随伴刺激を明らかにするために（このあとの行動的介入のためのデータ集め）に用いられ、（２）標的行 動に対する治療効果の評価に用いられ、（３）行動変容を促進するためにも用いられてきた。たとえば増加させたい行動をセルフ・モニタリングするとその行動 は増加し、逆に減少させたい行動をセルフ・モニタリングするとその行動は減少するのである。
• 問題解決訓練（療法）（Problem-Solving Training (Therapy)）
• 問題に対するコーピング（対処）能力を上げることで、症状や問題のある状況を改善するための訓練。問題解決の能力は、子供から青年、青 年、老人に至るまで、社会適応と深い関係がある。逆に言えば、問題解決能力の欠如は、社会的不適応から物質依存、抑うつ、様々な不安、非行や行動障害、結 婚・子育てにおける障害、対人関係についての心理的機能障害などにつながる。問題解決訓練（療法）は単独で、上記の障害以外に、単極性のうつや高齢者のう つ、がん患者の心理的問題などに効果を上げている。それだけでなく、問題解決訓練は、他の治療技法と組み合わせて使うことができ、その治療技法の効果を促 進するというメリットを持ち、体重減量プログラムから統合失調症の認知行動療法や境界性人格障害の弁証法的行動療法な どにも組み入れられている。問題解決 訓練（療法）は、次の５つのプロセスから構成される。（１）問題の捉え方（問題に圧倒されない、ひとつずつ取り組む、悪感情を問題解決を開始するシグナル として捉えるなど）を身に付ける（Problem Orientation）、（２）問題に関する情報収集し問題の本質を明らかにする（Problem Definition）、（３）ブレインストーミングによって多様な解決案をつくりだす（Generation of Alternatives）、（４）解決案の選択肢の中から最良の解決方法を選択する（Decision Making）、（５）解決方法を実施し、その効果を検証する（Solution Implementation and Verification）。問 題解決訓練（療法）は、クライエントにある程度の知的能力が必要だと思われるため、対象者は限定されると思われがちだが、実際には就学前児や精神遅滞 の患者にも用いることができ、知的機能のレベルに関わらず、適応的な行動を増加させ、精神症状を低減させることができる。問題解決訓練は、クライエント一 人一人のニーズにあわせて必要とするスキルを獲得でき、そのまま日常生活で生かすことができる技法である。
• 自己教示訓練（Self- instructional Training）
• 自己教示訓練では、クライエントが不適応な行動を止めて、状況に適合した方策や行動をとれるように自己教示する（自分に声をかける、指示 を出す）ことを身に付けるトレーニングである。自己教示訓練は５つのステップからなる。（１）認知的モデリング（訓練者トレーナーが大きな声で行動してい ることを話しながら見本を見せる）、（２）認知的参加モデリング（クライエントは、訓練者の指示に従いながら課題を行う。指示はモデルとして訓練者自身が 声に出して話していた言葉で行われる）、（３）オバート（顕在的）自己教示（クライエントは、自分自身に大きな声で指示を与えながら課題を行う）、（４） オバート（顕在的）自己教示を少なくしていく（クライエントは、自分自身への指示をささやき声で行いながら課題を実施する）、（５）カバート（潜在的）自 己教示（クライエントは自分への指示を心の中でつぶやきながら課題を行う）。自己教示訓練は、その課題に関連する不適切な 自己教示（自分への指示、セルフトーク）によって維持されているような問題について効果を発揮する。逆に、不適切な 自己教示（自分への指示、セルフトーク）や単なる認知的な欠損だけで維持されている訳ではない問題については効果が劣る。自己教示訓練と関係が深い技法と して、メタ認知訓練やＳＳＴ（ソーシャル・スキル・トレーニング）がある。
• 行動的家族療法（Behavioral Family Therapy）
• 　行動療法は問題の原因をターゲットにするのではなく、問題を維持させているものをターゲットにする。だから子供が家庭内で暴力を振るう といった問題について、子供が診察に来なくても、親が診察室にやってくればなんとかなるかもしれない。というのは、家族は互いにつよく影響し合っており、 子供の行動（暴力を振るう事）も、家族の互いの行動によって強化し合い・維持されていると考えられるからである。原因究明型セラピーでは、こうはいかな い。
  　家族行動療法に似たものに、親訓練があるが、これは子供の問題を親が取り扱えるようになることを目指し、親に行動療法的手法（たとえば増えて欲しい行動 にだけ親が注目をすることや行動を減らすために小さな罰として使えるタイムアウトといった手法）を教えるものである。親訓練は広範な子供の問題に適応可能 だが、親自身が心理的問題を抱えている場合は、そちらを先に治療すべきである。逆に家族行動療法は、更に多くの問題（親の認知、心理的要因、夫婦の問題、 社会的要因）を最初から治療的枠組みの中に入れており、これらの行動評価を行った後に、適切な行動的介入が選択される。
• 不安管理訓練（Anxiety- Management Training）
• 弛緩することによって不安のはじまりに対処することができるようにする訓練。クライエントが、不安のはじまり（生理的、感情的、思考的な 手がかり）に気付くことができるように練習させ、最初は診察室で練習し、次第に実生活でも不安に対処できるように持っていく。治療では、最初に筋弛緩（セ ラピストの指示によるものからはじめ、クライエント自身がコントロールできるようにする）からはじめ、イメージ・リハーサルや不安を呼び起こす想像をあえ てしてみて（クライエントには、この時におこる生理的変化や悪感情や破局的思考に気付かせる）、身に付けた弛緩スキルでそれに対処してみる練習を積み、実 生活での不安の対処とその記録が宿題（ホームワーク）として出される。不安階層表がつくりにくい漠然とした不安などにも適応することができ、おかげで広範 な不安に用いることができる。試験不安から恐怖症、その他不安が重要な影響を与える身体疾患（高血圧、月経困難、十二指腸潰瘍など）にも効果がある。また 〈不安〉のかわりに〈怒り〉や〈衝動〉についても、ＡＭＴをアレンジしたマネジメント訓練が応用されている（怒り管理訓練Anger- Management Training、衝動管理訓練 Impulse-Management Training）。
• 多面的行動療法（Multimodal Behavior Therapy）
• または多次元様式行動療法は、“人格”と精神障害とを、7次元の様式（modal）からとらえる系統的で総括的な評価ー治療法である。7 次元の様式とは、BASIC IDと頭文字がまとめられている、B=Behavior（行動）、A=Affect（感情）、S=Sensation（感覚）、I=Imagery（想 像、イメージ）、 C=Cognition（認知）、I=Interpersonal relationship（対人関係）、 D=Drag/Biological factors（薬物／生物学的要素）である。多面的行動療法／多次元様式行動療法がよって立つところは行動的（行動療法）であるが、伝統的な行動療法よ りも、感覚、想像、認知、対人関係の要素を重視する。単なる折衷的評価法や治療法と異なるのは、クライエントの過剰や欠落を系統的かつ総括的に評価する点 である。BASIC IDに従ってクライエント同士（たとえば夫婦）が自己評価し両者の食い違いをセラピストとともに確認したり、ひとりのクライエントの問題がどの様式 （modal）から順に“点火”していくかを評価するトラッキングという方法もある（例えば、あるクライエントは不快な想像（Imagery）を嘆き、つ づいて破局的な考え（認知：Cognition）が起こり、嫌悪感（Affect）を感じる。それは胸の動機や震え（Sensation）の引き金とな り、最終的に引きこもりBehaviorに至る）。またブリッジングという方法は、セラピストが得意な介入にこだわるのでなく、またいたずらにクライエン トに挑戦するのでなく、まずクライエントに合った様式（modal）から入り、その後もっと効果的な様式（modal）の介入に進む方法である（ひとつの 様式（modal）から入ることができれば、ほかの様式（modal）での介入もずっと容易になる）。多面的行動療法／多次元様式行動療法は、認知行動療 法（CBT）や論理情動行動療法（RＥBT）と似ているが、開発者のラザルスによれば、それらよりもさらに包括的である。
• 系統的合理的再体制化法 （Systematic Rational Restructuring）
• Systematic Rational Restructuring（以下「ＳＲＲ」）は、提唱者となったMarvin Goldfriedが系統的脱感作法（Systematic Desensitization）を解釈しなおしたところから生まれた。系統的脱感作法の開発者Wolpeは、それを恐怖や不安を生み出す誤った条件付け に対する「逆条件付け」と考えたが、Goldfriedはより一般的なmeditation（瞑想）modelを使って再解釈し、系統的脱感作法はつまる ところ、セルフ・リラクゼーションを教える方法だと考えた。それならば、さらに不安に対する対処スキルを教えることにすれば、より効果的であろうとして、 ＳＲＲの初期バージョンを開発した。その後、Goldfriedは社会的学習理論やDollard & Millerのシンボリック思考過程理論を吸収し、不安を喚起する認知を再構成することを通じて、クライエントはより多くの不安対処のレパートリーを学ぶ ことができると考え、次のような認知行動的な治療パッケージを構築した。（１）ロールプレイやイメージによる不安を喚起する場面へのエクスポージャ（２） 不安レベルの自己評価（３）不安を生み出す認知のモニタリング（４）非適応的認知の再構成（５）再構成後の不安レベルの変化を自己評価。これが現行の ＳＲＲである。ＳＲＲの目標は、将来の生活ストレスに対して、独力で対処できるレパートリーをクライエントの中に作り出すことである。
• 合理行動療法（Rational Behavior Therapy）
• Maultsbyが創唱した合理行動療法（Rational Behavior Therapy、以下「ＲＢＴ」）は、ＲＥＢＴ（論理療法；合理情動行動療法）とよく比較される（また似ていると言われる）。ＲＢＴがターゲットとするの は、非合理的、情動的ないし身体的習慣の原因を生み出している非合理的な信念や態度であり、これらを取り除くのが治療目的となる。ＲＢＴはＲＥＢＴと同様 に、説明のためにABC図式をつかい、治療技法として合理的情動的イメージ法（Rational Emotinal Imagrey：REI）を用いる が、ＲＥＢＴよりも書くことによる自己分析（合理的自己分析（Rational self analysis： RSA）と呼ばれる）を協調し、一方で行動的手法を使うことは少ない。分析によって、思考／信念の非合理性が発見されたら、クライエントはそれを合理的な ものに変えることを勧められる。しかしそれだけで長年続いている非合理的な信念や態度が変わる訳ではない。ＲＢＴでは、変化は十分な時間を与えて心身の訓 練を行って初めて得られると考え、また変化はセッション中ではなく、セッションの間で生じると考える。逆に十分な訓練なしには早期に挫折してしまう恐れが あり、したがってクライエントはＲＳＡとＲＥＩを毎日練習することが勧められる。ＲＢＴは、多文化カウンセリングやグループ・セラピーで用いられて、よい 結果を得ている。
• 行動活性化法（Behavioral Activation）
•  うつ病には多くの心理療法があり、未だ甲乙が付いていない。これは多分、うつ病にいくつかのタイプがあるからだろう（ウォル ピは少なくとも４つを数えてる）。Lewinsohnたちは、人をうつ病に導くのは、快事象の減少もしくは不快事象の増加であるとの仮説に従い、クライエ ントに活動スケジュールを用いさせることで、快事象を数えさせたり、快事象を増加させることを狙った治療法を開発した（Lewinsohnは娯楽の一覧表 をつくってクライエントに選ばしたりもした）。行動活性化法である。うつ病を取り扱うのにLewinsohnたちのように、認知的側面を無視し行動的側面 だけに注 目する人たちはほとんどいなくなったが（認知療法の勝利のためである／行動療法はいっせいに認知行動 療法と看板を付け替えた）、Lewinsohnたちの 手法（たとえば行動記録表）は、当の認知療法に取り 入れられた。とくに（思考が止まって るほどの）重篤なうつ病のクライエントには、行動記録表は欠かせな い。
• 認知行動的催眠療法 （Cognitive-behavioral Hypnotherapy）
• 行動療法の時代から、催眠との関係は近しいものがある。たとえばウォルピは、系統的脱感作のために筋弛緩を用いる前は催眠を用いていた。
  認知行動療法は、比較的クライエントに努力を要求するが、催眠は、その部分でクライエントをサポートできるかもしれない（たとえば辛い場面に直面する場合 など）。
  　認知行動療法の中心をなす認知を変容することも、しばしばクライエントに苦痛をもたらす。ここでも催眠はクライエントの苦痛を緩和する。たとえばセラピ ストが、問題に直結する否定的な考え方（認知）と、それに対応する現実適応的な考え（認知）を、催眠中のクライアントに話して聞かせることなどが行われ た。これを何度か繰り返したら、今度はセラピストが否定的な考え方（認知）を読み上げ、クライアントにそれに対応する現実適応的な考え（認知）を言っても らう（最初は、セラピストが口添えしてサポートする）。これを何度か繰り返したら、今度はセラピストだけで、否定的な考え方（認知）を現実適応的な考え （認知）に置き換えるように（大声で）話してもらう。これを何度か繰り返したら、否定的な考え方（認知）が浮かんだ出来事をイメージしてもらい、そこで （声を出さずに）現実適応的な考え（認知）に置き換えるられるか、イメージリハーサルする。その後、催眠を解く。そして後の面接で、現実の場面でも現実適 応的な考え（認知）に置き換えることができたかを確認する。
  　しかし催眠は認知行動療法の観点からは、適切な介入とはみなされない。なぜなら、催眠の中では、クライエントが認知を自ら検討する訳でも、自ら認知を再 編成する訳ではない。また催眠を用いることで、認知の変容が容易である印象をクライエントに与えてしまう可能性もあり、面接場面以外での努力や取組み（宿 題）を妨げる恐れもある。また認知行動療法が合理的思考を基礎に置くのに対して、催眠はクライエントの魔術的思考を増長させる可能性があるからである。
• 構成的学習療法（Structured Learning Therapy）
• Arnold P. Goldsteinは労働者階級出身で、当時隆盛だった精神分析が、労働者階級の人々にとっては効果が現れるまでに時間がかかり過ぎ、お金ばかりかかって 結局治療を中断しなければならないことを見て、もっと実用的で短期間に効果が上がる心理療法が必要だと考え、構成的学習療法（Structured Learning Therapy、あるいはSkillStreamingとも呼ばれる）をはじめた。これは、クライエントに欠けていたり、身につけることでクライエントの 生活を向上させると期待できるスキル（技能）について、モデリングやロール・プレイング、スキルの習得具合のフィードバックを通じて身につけること、そし て訓練したスキルがクライエントの日常で使えるようにすること（そのための宿題ホームワークが重視される）などからなる一連のトレーニング。ソーシャルス キル・トレーニングに似ているが、それよりも先発である。他のソーシャルスキル・トレーニングと同様の効果があるとされている。
• 社会的スキル訓練（Social Skills Training）
  
• Social Skills Training （ＳＳＴ）は、最初子供たちのためのSocial Skills のトレーニングとして始まった。Social Skillsは、生活技能だとか社会生活技能だとか訳されているが、その中身は対人関係のスキルを含む、かなり広い種類の要素からなる：表現要素（適切な 話の内容、声の出し方、その高さや調子やスピードを適切にコントロールすることや、姿勢や動作、視線や表情のコントロール等）、受容要素（社会的知覚、注 意を正しく相手に向けること、相手の話やボディ・ランゲージを解読すること、そして解読のために現在行われている交流が前提としている文脈や社会的慣習に ついての知識と、理解にそれらを活用すること等）、相互作用のバランスをとること（反応を返すタイミング、話題の転換、相づち等の社会的強化子を適度に用 いること等）。多くの人はこうした無数の技能群を成長の段階で自然に学んでいくが、ＳＳＴは病気や心身のハンディキャップ、不適切な養育歴その他の理由で 《自然には学べなかった》子供たちに、これら社会生活技能を学ぶべき場とトレーニングの機会を提供した。やがてＳＳＴは、米国UCLAのリバーマンらによ り慢性精神障害に対応した治療技法として発展するに至る。精神障害の人の陰性症状と呼ばれる対人関係のぎこちなさや生活障害の改善のためにあみだされた認 知行動療法の一つとして位置づけられ、わが国でもその効果が認められ、1994年4月には『入院生活技能訓練療法』として診療報酬にも組み込まれた、現在 日本で唯一保険の効く認 知行動療法でもある。具体的にはクライエント数人のグループとトレーニングを援助するリーダー、サブリーダーらによって、次のように行われ る。不適切もしくは、クライエントが悩んでいる行動を具体的な場面として、リーダー、サブリーダーの前で集団で行い、少しでも良いところを見つけてほめ る。決してけなさず、「ここをこうしたらもっと良くなりますね」とアドバイスをする。つづいて他のクライエントやサブリーダー等にも見本としてやってもら い、どこが良かったかと良いところを見つけ、拍手してほめる。課題を持ったクライエントに、もう一度今やったようにやってみましょうと、再びやってもら い、ほんのわずかでも改善したところを見つけて、拍手をしてほめる。こうして練習した行動を、実際の場面でどの程度うまくできるようになったかを宿題 （ホームワーク）として出し、次回のＳＳＴのミーティングで報告してもらうことにする。技法としては、ロールプレイング、正の強化子を含んだフィードバッ ク、モデリングなどが用いられるが、ＳＳＴは精神障害をもつ人たちの自己対処能力を高め（エンパワメント）、自立を支援するために、広く活用されることが 期待される。
• 認知的行動変容（Cognitive Behavior Modification）
•  マイケンバウムの認知的行動変容は、彼の自己教示訓練（Self- instructional Training）を統合している。すなわち、認知的行動変容は３つのステップからなる。（１）思考と感情の検討、（２）問 題解決、そして（３）自己教示である。最初のステップでは、クライエントはセラピストの援助を得て、自らの思考と感情をとらえ直し、状況にどのように反応 したかを検討する。分析の中心となるのはクライエントの思考であり、その思考が事実にもとづいたものか、それとも（裏付けとなる事実を欠いている）いまだ 仮説にすぎないものかが確認される。思考が検討された後は、問題解決のステップである。状況に対する少なくとも２つ以上の対応策が考えだされる。そしてそ れぞれの対応策が、問題となっている状況でどのような結果をもたらすかが検討され、評価される。とるべき対応策（行動）がこうして決定されれば、あとはそ の行動を行えるように、自分に話しかける言葉を考え、行動の最初に（そしてその途中で）、自己教示し行動をコントロールする。認知的行動変容の（１）思考 と感情の検討と（２）問題解決は、認知療法で言うネガティブな自動思考の同定と、合理的思考の創出に対応している。自己教示訓練は、こうしてセラピストか ら与えられた言葉を使う段階から、自らの行動を改善するのに必要な言葉を（セラピストの援助も得ながら）自ら見つけ出し使っていくものに進化した。
• セルフコントロール行動療法（Self- controI BehaviorTherapy）
• レームは、抑うつな人には自己コントロール行動に障害があると考え、これを３つの段階に分けて考えた。すなわち（１）自己モニタリングの 偏り＝a.抑うつな人は、自分のポジティブな面に注意を向けず、ネガティブな面に注意を向ける＋b.抑うつな人は自分の行動について、将来の結果に注意を 向けず、直後の結果だけに注意を向ける。（２）自己評価の偏り＝c.抑うつな人は、自分の行動を評価する基準が厳しい＋d.抑うつな人は、自分の行動につ いて、ネガティブな原因帰属をする（ポジティブな結果は外部に原因があり、ネガティブな結果は自分内部に原因があるとする）。（３）自己強化の不足＝e. 抑うつな人は、自分に対して報酬をあまり与えない＋f.抑うつな人は自分に対して自己処罰を多く与える。レームのこの理論は、これまでの抑うつについての 心理学的仮説を折衷する。すなわちベックのいう推論の誤りや、セリグマンらの改訂学習性無力感理論が指摘する帰属の偏り、レビンソンの抑うつの行動理論で ある。レームの自己コントロール行動障害理論に基づく、抑うつの治療プログラムが、セルフコントロール行動療法である。これらはレームの理論の３要素に対 応した技法から構成される。（１）自己モニタリング＝A.正解の中でポジティブな行動を、用紙に毎日記録する（その行動に伴う気分とセルフトークも記録） ＋B.今は不快でも、将来ポジティブな結果をもたらす行動に目を向ける。（２）自己評価＝C.実行しやすい小さな具体的目標をたてて、それを基準とする＋ D.原因帰属のあり方が自己評価に決定的であることを理解する。（３）自己強化＝E.自己報酬を増やす。簡単な目標を立てて達成の自信をつけ、次第に目標 の困難度を上げていく。目標を達成したら、ごほうびとなる行動を自分に許す。目標を達成したら、言葉（ポジティブなセルフトーク）で自分をほめる。このよ うに、セルフコントロール行動療法は、技法やプログラムにおいても、他の認知行動療法の諸技法を折衷しているように思える。
• 行動的夫婦療法（Behavioral Marital Therapy）
• 
  
• 認知行動分析的システム精神療法（Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy）
• うつは治りやすい精神疾患とされているが、少なくない例が慢性化する。CBASP（cognitive behavioral analysis system of psychotherapy：認知行動分析システム精神療法）は、こうした慢性うつ病に正面から焦点をあてた精神療法として注目される。CBASPは McCullough博士により1980年ごろから徐々に形作られてきたが、 2000年に『New England Journal of Medicine』で実証的研究の成果が報告されて以来、世界的に注目を浴びている第三世代認知行動療法。CBASPは、「慢性うつ病は対人関係性—社会 性発達の障害である」ととらえ、人生早期の対人関係の学習が，現在の対人関係に不適応的に働き，自己主張できず受身的，服従的，無力で苦渋に満ちた人生状 況を，現在の治療者−患者関係の中で自己主張的な態度に修正していくことを目指す。この点では、対人関係療法に近い。中心になる技法は「状況分析」であ る。ある出来事を取り上げ，「それをどう考え，どうしたら，どんな結果が得られたか，どんな結果を望んだのか」を分析。次に不適応的な考え方，行動の修正 を行わせる作業を繰り返す。さらに将来起こりそうな出来事についての状況分析も行う。これは従来の認知行動療法に近い。また慢性うつ病者は特に重要な他者 との対人関係において，ホットスポットと呼ばれる問題パターンを繰り返す傾向があり、治療者との関係でもこれが出てくる。CBASPでは、これを見定め、 行動の修正にも活用する。この点は精神分析に似ている。
  
• 認知分析療法（Cognitive Analytic Therapy）
• 心理療法はいずれにせよ高くつく。開発費が莫大でも、量産がきく薬物（療法）に比べて、どんな短期療法も訓練期間や訓練に当たる専門家自 体を養成することなどを考えに入れれば決して安価なものにはならない。それでもすべての精神疾患に薬物療法が有効だとは言えない。むしろ薬物療法の医療経 済的な成功の裏では、薬物抵抗性の高い精神疾患が、たとえ有効な心理療法があったとしても「難病」かしてコストフルなものになる。アンソニー・ライルは、 ＮＨＳ（イギリスで国民健康保険を担当する省）に属するセント・トマス総合病院で、なんとか限定された国民保険制度の財源のなかで、効果的かつ時間もコス トもかかりすぎない心理療法＝現実的に提供できる心理療法を開発した。これが認知分析療法である。認知分析療法は、その名から予想されるように精神分析や 認知療法、それに発達心理学者であったヴィゴツキー派の考えも取り入れた統合的な心理療法として進化した。認知分析療法では、クライエントとの共同作業を 強調し、不適応行動のパターンを理解することに焦点があてられる。
  認知分析療法は大抵の場合１６セッションからなる。最初の４〜６セッ ションで、セラピストは関連するすべての情報を集める。その後、セラピストは「組替えの手紙（リフォーメーション・レター）をクライエントに出 す。この手紙には、セラピストが理解したクライエントの問題が要約されている。子供時代の行動パターンと、現在の生活への影響の関係を 理解することに特別な注意が充てられる。セラピーの目的は、クライエントが不適応行動のパターンを認知し、そしてその起源を理解し，最終的にはもっとよい 対処手段となる代替的な方法を学ぶことができるようにすることである。認知分析療法は、境界性人格障害や虐待を原因とするPTSDや解離性障害といった、 薬物療法だけでは治療が難しい、難しい精神疾患に対しても効果を上げている。

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